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Scratcha DVA: DRMTRK XIX

2023 / DRMTRK
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南アフリカ音楽とUKベース・ミュージックの混淆から生まれた“bounce”するサウンド

30 March 2023 | By Suimoku

「イギリスのポップ・ミュージックとアフリカ」というのは大きなテーマだ。30年代にはすでにアフリカからの移民がジャズ・プレイヤーとして英国内で活動していたといい、60年代後半からはジンジャー・ベイカーなどがそのサウンドに接近。また、ガーナ移民を中心としたロック・バンド、オシビサがアフロ・ロックとして人気を集めた。そしてその後、キング・サニー・アデ、ユッスー・ンドゥールといった世界的スターが登場する際にはピーター・ガブリエルやブライアン・イーノが深くかかわり、デーモン・アルバーンによるマリのミュージシャンの紹介なども比較的記憶に新しいところだ。こうした歴史の背景にはもちろん、大英帝国としてアフリカの多地域を支配した名残り――旧植民地とのパイプや、国内に集積された移民の存在――があったことは間違いないが、そんな明確な問題を抱えつつもUKの音楽は陰に陽にアフリカの影響下にあり、そして、そこから豊かな文化的成果が生まれたこともまた疑いようのない事実だといえる。

このつながりは2010年代以降においても重要であり続けた。最も大きなトピックは、ナイジェリア、アフロビーツのサウンドを取り入れたアフロスウィング/アフロバッシュメントの流行だろう。その代表がガンビア・ルーツのラッパー、J Husで、自らの出身地、イースト・ロンドンのギャングスタ・ラップにアフロビーツをかけ合わせたメロウなサウンドで一躍スターになった。そして興味深いのは、こうした流れと並行してUKのベース・ミュージックの作り手たちもまたアフリカに接近していったことである。その象徴が《Hyperdub》で、その近年のリリース――Lady Lykez『Woza』、Ikonika『Bubble Up EP』、そして主宰者であるKode9の『Escapology』――などを聴けば、そのサウンドが近年のアフリカのポップスおよびダンス・ミュージックの流れと密接に結びついていることに気づく。そんな《Hyperdub》にも深くかかわり、UKベース・ミュージックとアフリカの接近を推し進めたと思われるのが、ここで紹介するScratcha DVAである。

Scratcha DVA(Scratchclart、DVA名義も)は90年代末から活動するベテランDJだ。海賊ラジオに影響されてドラムンベースを作りはじめ、その後はWileyやFlowdanのトラックを制作してグライム黎明期にかかわる。そして、00年代後半にはUKガラージ/2ステップから派生したUKファンキーのシーンに深くかかわっていく。UKベース・ミュージック史を横断するような彼のキャリアにおいて大きな転機となったのは、00年代後半に南アフリカのハウス=クワイトを聴いたことだった。そのサウンドに惹きつけられた彼は2011年には自ら南アを訪れ、現地のプロデューサーやシンガーと交流する。そんななかヨハネスブルグでDJする機会を得るが、そこでプレイされたUKファンキーを聴いたダーバン出身のMC、OkMalumKoolKat(Smiso Zwane)は、そのサウンドが自分のホームタウンで作られている音楽と似ていることに驚いたという。オフビートなリズム、シンコペイトされた不均等なキック、執拗に打ち込まれるパーカッションや不穏なチャント…その音楽こそがのちにgqom(ゴム)として世界に紹介されるサウンドであり、OkMalumKoolKatから話を聞いたScratchaはその後何度もダーバンを訪れ、ゴム、そしてアマピアノという新たなダンス・ミュージックに魅了されていった。こうした南アの音楽の魅力を、彼は“bounce”という言葉を用いて説明している。「UKファンキーが廃れたあと、イギリスの音楽からはbounceが消えてしまった」「しかし、南アフリカを通してそれを取り戻したんだ。だから彼らのことは超リスペクトしてるよ」。

こうした経験を経て、ScratchaはKode9とともに南アのダンス・ミュージックを積極的に紹介し、また、《Hyperdub》や自レーベルの《DVA Music》からリリースを続ける。なかでも2018年に始まった「DRMTRK」シリーズは興味深く、Griffit VigoやCitizen Boy、Nan Kolèといった南アのプロデューサーを迎えてリスペクトを示すとともに、Lady Lykez、Mez、Jessy LenzaといったUKのミュージシャンを迎えて双方のサウンドをミックスしていった。そんな「DRMTRK」シリーズの最新作が今年1月にリリースされた『DRMTRK XIX』で、ダビーな音響のなかでチャントが鳴り響く「Russian」では、ロンドンのMC、Shade1がパトワを乗せ、「X Rated」では、ダブステップのオリジネイター、Skreamが参加。「Dark Tyms」には、Funkyama (*1) を標榜するロンドンのEuropean305が参加してゴム/アマピアノの中間を行くようなサウンドを展開する。ラストの「Afrotek」には、南アフリカ、ピーターマリッツバーグのMxshi Mo(Nkanyiso Shoba)が参加し、不穏なストリングスやシンセでゲットーな雰囲気を醸し出している。

グライム/UKファンキーとゴム/アマピアノの融合というテーマはおおむねこれまでの「DRMTRK」シリーズを受け継いでいるが、『DRMTRK XIX』ではダンスホールやフットワークを思わせる要素まで入り、さらにその混淆度は増しているように思える。その混沌に身を浸しているうちに『DRMTRK XIX』の聴き手はしだいに、これらの音楽的要素をどこまで厳密に区別できるか疑問を持つようになる (*2) のだが、個人的には、これを90年代からダンス・ミュージックを愛し続けるDJが“自らの体が動く”音楽を素直に制作した結果なのだと思いたい。たしかに多様なジャンルの要素を含んでいるが、一方で、そこにあるのはただ“bounce”するリズムにすぎない……と思わせるものがあるのだ。オーセンティシティの問題がつねに俎上に上がる昨今こうした言い方はやや不用意かもしれないが、果てしない文化的コンヴァージェンスのなかで搾取や“文化盗用”の問題を回避する鍵があるとすれば、それはこうした“bounce”への愛とリスペクトを共有することにおいてしかないのではないだろうか――と、Scratcha DVAのサウンドは聴く者にそんなことも思わせる。(吸い雲)



(*1)
UKファンキーとアマピアノをかけ合わせたスタイル(参照:https://note.com/audiot909/n/nd6126b923226

(*2)
たとえばグライム/ダブステップはサウンドシステム文化の延長線上にあるが、現行のアフリカ音楽においてもダンスホールの影響が非常に大きく、ゴムに関してはUKのベース・ミュージックの影響もある…など、相互の影響関係は入り組んでいる。

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