Review

Souled American: Sanctions

2026 / Jealous Butcher
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アメリカーナの深淵から響き渡る歌声。
再評価が進む“忘れられたバンド”による30年ぶりの新作

12 July 2026 | By Yasuo Murao

1986年にシカゴで結成されたソウルド・アメリカンは長らく忘れられたバンドだった。6枚目のアルバム『Notes Campfire』(1996年)以降、作品のリリースはなく、メディアに取り上げられることもほとんどなかった。でも、彼らのことを思い続けていたのが、同じくシカゴがホームグラウンドのジェフ・トゥイーディ(ウィルコ)だ。ジェフは《Pitchfork》の動画、『The One Song I Wish I’d Written(自分が書きたかった一曲)』でソウルド・アメリカンの「Before Tonight」を挙げ、著書『World Within a Song』でも彼らについて触れている。ジェフと同期のジェイホークスやジョン・ダーニエル(マウンテン・ゴーツ)もソウルド・アメリカンからの影響を受けているようだが、ソウルド・アメリカンが再評価されるようになったのは最近になってからのこと。そんななか、30年ぶりの新作『Sanctions』がリリースされた。

新作について触れる前に、日本ではアメリカ以上に無名の彼らのことを簡単に紹介しておきたい。ソウルド・アメリカンは同じスカ・バンドで活動していたジョー・アドゥッチ(ヴォーカル、ベース)、クリス・グリゴロフ(ヴォーカル、ギター)が中心となり、スコット・トゥマ(ギター)とジェイミー・バーナード(ドラム)が加わって活動をスタートした。《Rough Trade US》の栄えある第1弾アーティストとして1988年にデビュー・アルバム『Fe』を発表。アメリカン・ルーツ・ミュージックにレゲエの要素を取り入れたロックは、オルタナ・カントリーの先駆けといえるものだった。ウィルコ以前にジェフが在籍したアンクル・テュペロがデビューするのが1990年なので、ジェフはシカゴでソウルド・アメリカンのライヴを見て刺激を受けていたのだろう。

ソウルド・アメリカンが4枚のアルバムを発表したところで《Rough Trade US》が倒産。その後、ドイツのレーベルから2枚のアルバムを発表するが、作品を出すごとに作風は変化。スロウコアを思わせるミニマルな構成の曲が増えていく。アトモスフェリックな音作りが印象的な『Notes Campfire』はオルタナ・カントリーとポストロックが交差したような作品で、ジェフのお気に入りの「Before Tonight」は本作のオープニング曲だ。そうしたサウンドの変化に重要な役割を果たしていたのがトゥマだろう。

『Notes Campfire』を最後にバンドを脱退したトゥマは、マイケル・クラスナーのプロジェクト、ボックスヘッド・アンサンブルに参加する。ボックスヘッド・アンサンブルはガスター・デル・ソルやトータスのメンバーを始め、ポストロックやジャズ・シーンのアーティストが集ったプロジェクトで、ウィルコのグレン・コッツェも参加していた。トゥマはソロでアンビエントな作品をリリースしているが、近年、ソウルド・アメリカンはアンビエント・アメリカーナ(カントリー)の先駆的な存在としても再評価されている。

そんな彼らが『Notes Campfire』以来、30年ぶりに発表した新作が『Sanctions』だ。現在のメンバーはジョー・アドゥッチとクリス・グリゴロフの2人。レコーディングは1曲を除いて彼らだけで行われた。作品のリリースがなくても2人は曲を書き続けていたそうで、曲のクオリティや演奏にブランクは感じさせない。おそらく一発録りでレコーディングされた本作は、ギリギリまで音は削ぎ落とされ、静寂も楽器のひとつのようにギターやベースとアンサンブルを奏でている。エフェクトを加えず、楽器の生の音色を捉えたレコーディングのなかから、ゆっくりと立ち上がる2人のザラついた声。鼻にかかったようなアドゥイッチの声はやや高く、グリゴロフの声はゴロゴロと低く唸る。どちらもブルースやカントリーのスピリットを受け継いで、アメリカーナの深淵からやって来たような強烈な歌声だ。

曲はこれまで以上にルーツ・ミュージックに接近しているがレイドバックはしていない。枯れているようでアルバムの隅々まで力が漲っている。エレキ・ギターの反復するリフがリズムを刻み、そこにハーモニカが絡むブルース・ナンバー「Fractured Sun」。重いベースに溜息のようなコーラスが加わってグルーヴを生み出す「Boom Boom」など、どの曲もストイックなミニマルさと深いエモーションに貫かれている。かと思うと、アドゥッチが妻に捧げた「Living Love」のような安らぎに満ちた曲や、「Freeing Wheels」のようにスピリチュアルな美しさを感じさせる曲もある。曲はコロナのパンデミック期に書かれたそうだが、自分たちを取り巻く世界の重苦しさを受け止めながらも、光を求めている2人の心境がアルバムに反映されている。そして、ひとつひとつの音に確かな質感、重みを感じさせて、2人のミュージシャンのリアルな感情や肉体を通じて生み出された音楽であることがわかる。

本作を聴いて連想したのは、ボニー・プリンス・ビリーやビル・キャラハンなど、ルーツ・ミュージックをベースにしたオルタナ世代のシンガー・ソングライターたちだ。今や彼らはベテランとなって深みを増した歌を聴かせるなかで、彼らの先輩にあたるソウルド・アメリカンも歩みを止めず、自分たちの歌を大切に育ててきたことがアルバムから伝わってきた。今の彼らは森の中にひっそりと佇む巨木のようでもあり、アメリカン・ロックの歴史にしっかりと根をおろしている。(村尾泰郎)

 

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