引き延ばされる夕暮れ、思い出
ZAZEN BOYSのニューアルバムがリリースされた。前作から実に12年ぶりではあるが、ベースの吉田一郎からMIYAへのメンバー交代、ナンバーガールの再結成(と再解散)など、大きな動きを経たインターヴァルでもある。新たなメンバーの加入がバンドに新鮮な空気を取り込むことで連鎖反応を起こしたのか、本作はヴォーカルが際立つ曲が多いアルバムに感じられた。
もちろん、サウンド的に彩りが豊かなアルバムであることも間違いない。「バラクーダ」では変拍子と絡まって鳴らされるギターのカッティングにフェラ・クティ的なアフロビートを感じるのが新鮮であったり、「乱土」や「胸焼けうどんの作り方」ではハード・ロック風のリフの嵐に、当初バンドが標榜していたコンセプトにも登場するレッド・ツェッペリンを想起することもある。MIYAの骨太なプレイはさまざまな曲に対応しながら、直近の過去2作で要求されたであろう冷たくタイトなフレーズの質感と比較すれば、例えば「せーの」で音を鳴らすプリミティヴなバンドのドライヴ感を手繰り寄せるようであり、バンドの現在のモードを反映しているのが印象的だ(時折ナンバーガール時代を彷彿とさせる瞬間もある)。
先の読めない展開がもたらしてきた圧倒的緊張感は少しだけ穏み、シンセサイザーが減ったことは、リードトラックである「永遠少女」が戦争というテーマを真正面から捉える強度を備えているように、結果的に向井秀徳のヴォーカル(歌詞)へと集中力が向けられるような楽曲のデザイン、その変化を導いたのではないだろうか。
加えてもう一曲、「YAKIIMO」という曲が作品のピークの一翼を担っているのでは、と思うほど鮮烈な情景を描く。寂しさを捉えた夕焼けの風景は極めて写実的であり、そして同時に混濁した思い出のようでもある。反復するベースとギターのリフは、日が短くなるあの寂しさを何度でもリフレインさせ、逢魔時の夕陽に焼かれるような自意識が4分52秒の中で繰り返し引き延ばされる。棒立ちで呟く絵が浮かぶ向井秀徳のポエトリーリーディングもまた、異様な存在感を放つ。
「スピーカーの音は絶望的に歪んでいる」
「石焼きいも 焼きいも」
ユーモアのある歌詞として消費するにはあまりにおどろおどろしく、まさに夕暮れを浴びて伸びる濃い影と目が合うような気分になり、恐怖さえ感じる。そんなイメージに、過去に向井が映画『ヒッチャー』(1986年)にコメントを寄せたことを思い出す。沈む太陽とVHSの粗い画質。ひどく個別具体的なイメージの羅列が生むノスタルジアは、アルバムリリースに添えられた「乱土世界の夕焼けにとり憑かれ続けている」という、これもまた本作の質感を非常に的確に捉えたコメントと、延長線上でつながりを感じる。
これまで同様、そしてこれまで以上に、向井秀徳という人物の思い出への固執が滲み出した作品と言えるだろう。ZAZEN BOYSは今も、名づけ難い寂しさと焦燥に音と詩をぶつけ続けている。(寺尾錬)
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