Jeremy Ivey: The Dream And The Dreamer

2019 / ANTI-
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40歳からのNo Direction Home

19 September 2019 | By Sinpei Kido

所属レーベル《ANTI-》のサイトを覗くと、このジェレミー・アイヴィーについて、自身のこんな言葉から記載されている。

「I’m riding on a booger in the sneeze of space. That’s my bio,(これまでのボクの人生は、宇宙がくしゃみでだした鼻くその上を漂っているようなものだ)」

自身が影響を語るビートルズ、ニール・ヤング、レナード・コーエン、ボブ・ディランはもちろん、グラム・パーソンズやジェイムス・テイラー、J.J.ケイル、近い世代ではニール・カサールなど、多くのシンガーソングライターの影響を感じさせるナッシュビル拠点の40歳、遅咲きのデビュー・アルバムが本作だ。

冒頭の本人の言葉からも想像できるが、そうした先達のシンガー・ソングライターがそうであったように、ジェレミーの生き方そのものが音楽に直結しているようだ。気負わない自由気ままなスタイルで、カントリー、ブルース、R&Bをベースにしたミドル・テンポの曲中心でまとめられた全9曲32分。もともとBuffalo Cloverで活動していた人だが、そのメンバーであり今は公私ともにパートナーでもある、マーゴ・プライス(2018年グラミー賞の最優秀新人賞にノミネート)がプロデュースしており、コーラスでも参加している。ここでのマーゴのコーラスは、アルバムの世界……まさに気負わない自由気ままなスタイルや統一感を損なうことなく絶妙なサポートに徹していて、サウンド面では、ジェイムス・テイラーの『ワン・マン・ドッグ』(1972年)のような、暖かみと広がりのあるアナログな世界を作りあげている。

 ゲンズブールのように着崩したスーツ姿に身を包んでいて煙草を吸う姿は、洒脱で周囲の雑音にとらわれず、我道を突き進んできたような面がうかがえる一方で、1曲目の「Diamonds Back to Coal」が、ラスヴェガスの乱射事件やオルタナ右翼に触発された曲だと語るように(PVもそれがモチーフになっている)、分断への危機感と静かな怒りを感じさせ、今のアメリカの世情にアンチなメッセージ性をもつ側面もうかがわせる。もちろん、どちらもジェレミーの一部だと思うが、根底にあるのは、「生きていくことは、いつも自分の居場所を探し続ける旅である」、つまり“ノー ディレクション ホーム”であることを自らのアイデンティティと置くことによって他者への寛容さが保たれるのだという価値観が、彼の最もベースにあるのではないだろうか。それを、あえてステレオタイプとも捉えられかねないようなアメリカン・ルーツ・ロックに、限りないオマージュと現代の感覚を乗せて歌う姿に、やはり一筋縄ではいかない粋で洒落た男だなと惚れ惚れしてしまう。(キドウシンペイ)

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