Review

Roth Bart Baron: HEX

2018 / Felicity
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“蜂の巣の子供たち”の僕らの手にした希望の魔法

22 December 2018 | By Nami Igusa

 大地の胎動の底から、電子の声が聴こえる。今、世界中を見渡しても、そんなバンドは他に類を見ない。それが、ROTH BART BARONだ。彼らは、ありていな言葉を使うならば“フォーク・ロック・バンド”、ではある。アコースティック・ギターの美しく牧歌的な音色と壮大なそのバンド・サウンドを聴けば、たちまち目の前に雄大な草原や空、あるいは『化け物山と合唱団』(2012年)のジャケットのような山々が現れる。もちろん、その破格のスケール感だけとっても、彼らは稀有な存在だ。けれど、彼らは、ただ自然を礼賛するだけのバンドではないことに、あなたは気づいているだろうか?

 よく耳を澄まそう。例えば本作中で最もフォーキーな「Hollow」に。幾重にも重ねられた三船のヴォーカルの中には、ピッチを弄りデジタル加工された声が紛れている。このインタビューで三船雅也自身が、どの曲でもヴォーカルやピアノをコンピュータに取り込んで編集や処理を施したと明かしてくれているが、確かに本作では、至るところで不自然なデジタル・ノイズを聴き取ることができるのだ。

 だが、それは本当に“不自然”なのだろうか。“HEX”には、“Hexagon=六角形”という意味がある。自然界で六角形と言えば、蜂の巣。そしてそれは、面積を広くとるのに効率がよいため、人工の構造物にも多く用いられている。人工物やテクノロジーは、自然を模して、人間が生み出したものだ。そう、だからその中にだってきっとヒューマニティーは、ある。ノイズ、不均等なリズム、微妙にズレて重ねられたヴォーカル…あえてキレイに整えないがゆえの“揺らぎ”をたっぷりと含んだ本作は、この世界を必ずしも白か黒かで捉えることができないことに彼らが注意深く目を向け、それを受け止めていることの証しだ。

 シカゴでのミックスが施された「HEX」「SPEAK SILENCE」はその象徴でもあろう。ゴスペルやソウルを思わせるコーラスとダンス・ミュージック由来の分厚い低音のブレンド感覚は、チャンス・ザ・ラッパーを筆頭にした新世代のシカゴ・シーンのアンセム「Sunday Candy」(2015年)と肩を並べる楽曲と言っても過言ではないはずだ。

 <怪物になって / 君を飲み込んで / そうすればずっと / 一緒に居られるでしょ?>と歌う「JUMP」にはじまり、全体を通じて”僕”と”君”が入れ替わり主客が混線するような本作の歌詞にも、それは顕れている。中原のドラムをはじめ楽器の音はこれまでで最も力強く、厚みを増したヴォーカルは手を伸ばせば届きそうなほど近い。どこか神秘的な存在でさえあった彼らを、あたかも自分の中にいるかのように生々しく感じるのだ。つまり彼らは、私たち人間同士も、その一部は互いに相手の中にいるのではないか?  とも提示しているのではないだろうか。なんというイマジネーションの飛躍だろう!  つい相手と“向き合う”ことばかりを考えがちな私たちの世界の捉え方を、ROTH BART BARONは根本から鮮やかに覆してくれるのだ。

 ミツバチは、1匹1匹飛び回って、それぞれ部屋に帰っていく。それらが集まって巣が出来ている。私たちの生きる世界は、それだ。違うもの同士が集まってできているが、そこにはもうすでに共有しているものがあるかもしれない…そしてそこから生まれるものこそが、魔法=“HEX”なんじゃないだろうか? 『HEX』を聴いた私たちは、そんな世界のかたちを描けるかもしれない。そうこれは、希望のアルバムだ。(井草七海)

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