Review

Buck Meek: Haunted Mountain

2023 / 4AD / BEATINK
Back

“バック・ミーク”というコレクティヴが生み出した挑戦的な一作

26 August 2023 | By Yasuyuki Ono

現行インディー・ロックにおいて、最も急進的で、最も創造的で、最も影響力のあるバンドとなったビッグ・シーフのギタリスト、バック・ミークの“ソロ・ワーク”を単純にソロ作品と形容してしまうことにはためらいを覚える。なぜなら、バンドにおける自他が溶け合うような凝集性と綿密なコミュニケーションの連鎖がビッグ・シーフのクリエイティブとバンド・マジックの核心を成しているように、これまでバック・ミークが自らの名義でリリースしてきたいずれの作品も、周囲の仲間や環境、そして過去の音楽作品との関係性こそが作品のキー・ポイントであったからだ。その意味で、バック・ミークにとってソロ・アルバム三作目となる本作『Haunted Mountain』も、バック・ミークを主体とするバック・ミークと名付けられたコレクティヴによる作品とみなすべきだろう。

前作『Two Saviors』(2021年)は旧友たるアンドリュー・サルロをプロデューサーに招聘し、彼のアイデアで旧知の仲間たちと共にニューオリンズの一軒家に泊まり込み、7日間で一気に録音された作品であった。同作において、ミークをして「バンド・メンバー一人一人のアイデンティティの境界線が薄れ、ひとつに溶け込んでいくような環境」での作品制作を経験したというメンバーが本作にも参加している。ギターにアダム・ブリスビン、ドラムにオースティン・ヴォーン、ペダル・スティールにトワイン名義でも知られるマット・デヴィットソン、ピアノ/シンセサイザーに自身の弟であるディラン・ミークを迎え、プロデュースはデヴィットソンが手がけるといったようにバック・ミーク名義での作品制作にこれまでもずっと携わってきたメンバーが本作のサウンドを支えている(録音は、ボン・イヴェール『i,i』(2019年)、ビッグ・シーフ『Two Hands』(2020年)、ワクサハッチー『Saint Cloud』(2021年)などと同じテキサスの《Sonic Ranch》で行われた)。それに加え、本作のほぼ半数の楽曲がバック・ミークの友人であり、人生において最も影響を受けたというアルバム『Catalpa』(2003年)の作者でもあるカントリー・ミュージシャンのジョリー・ホランドとの共作となっており、バック・ミークが信頼と敬愛を向ける周辺人脈は彼の“ソロ・ワーク”全体の基底を成す条件であるといえるだろう。

フォーク/カントリー・テイストが色濃かった前作と比較して、フォーク・ロック・テイストのバンド・サウンドが主体となっている本作は、上述したように、バック・ミークの作品がひとつのコレクティヴ=バンド・プロジェクトとして存在している様子がはっきりと見て取れる。アルバム・タイトル楽曲「Haunted Mountain」を例にとれば、ウネウネと揺らぐバック・ミークのユニークなヴォーカル、輝くジャングリーなアコースティック・ギター、執拗に反復される軽快なスネア・ドラム、ビッグ・シーフのようなファズを施したフリーキーなギター・ソロ、空高く伸びていくようなペダル・スティール、それらのどれもが埋没することのない絶妙なバランス感覚で配置されたバンド・サウンドが、これまでのバック・ミークの“ソロ・ワーク”のどれよりも強調されている。

他の楽曲に注目すれば、深くひずませたリードのエレクトリック・ギターとモダンにバキッと形作られたドラムの絡み合いが抜群にクールなカントリー・ロック「Undae Dunes」や「Cyclades」、ゆったりとしたピアノとコーラス・ワークが美しい「Lagrimas」、スペーシーで壮大なモジュラーシンセの音色が楽曲を覆う「Mood Ring」など、バック・ミークのルーツたるフォーク/カントリーをベースとしながらも本作を構成する楽曲群は意外なほどに多彩だ。そのような本作を通して聴けば、エイドリアン・レンカーという絶対的で巨大な才能を支える役割に徹することも多いビッグ・シーフでの活動と比べて幾分軽やかに、バック・ミークがこの“バック・ミーク”というバンド・プロジェクトをもってその類まれな才能を開花させていることがはっきりと伝わってくる。

本作の最後を飾る「The Rainbow」は、ジュディ・シルのドキュメンタリー映画『Lost Angel: The Genius Of Judee Sill』(2022年)の制作陣から依頼を受け、ジュディ・シルが遺した未発表の歌詞と彼女の日記からインスピレーションを受けてバック・ミークが曲を書き上げたものである。ジュディ・シルの手記を手に取って読み、彼女の音楽をたくさん聴き、彼女であればどのようなメロディー、楽曲構成をとるかを考え、彼女がこの詩に込めた感情を想像しながらバック・ミークは曲を書き上げたという。それはある種、暴力的なことかもしれない。他者を“理解”し、他者と関係を持ち、他者の意志を受け継ごうするということは多かれ少なかれ相手と自分に痛みを伴う。バック・ミークはそのような痛みの存在を把握しながらも、完全に理解できないとは知りながら、可能な限り対話を重ね、他者と関わろうとする。

“音楽というのは、一つのバンドを強力なバンドにすることのほんのちょっとした一部分でしかないんです。重要なポイントになるのは、お互いを信じ正直でいること、互いのコミュニケーション・スタイルを学ぶこと、親切さと素直さをもって健全にコミュニケーションをする方法を学ぶこと、そしてお互いの話に耳を傾けるやり方を学ぶことです。(中略)互いに力を合わせ、お互いの考えや不安の妥協点を探り、歩み寄ることはとても難しいことだけども、それがバンドの力にもなるんです。”

このように、バック・ミークは本作についてのインタビューにて、自らのバンド哲学について語っている。この姿勢は恐らくバンドだけではなく上述したようなジュディ・シルの楽曲の再構築にもみられるように、彼が尊敬し、畏怖するカントリー/フォーク・ミュージックの先達たちへも向けられているだろう。前作リリース時のインタビューにて、自らのルーツともなる数多くのミュージシャンに言及しながら“僕はこれらのアーティストが産み出し、強い影響力を持って受け継がれてきたものに想いを巡らせ、僕自身の歌声もその共同体に寄与することができるよう、謙虚に音楽を作り続けているんだ”とバック・ミークは語ってくれた。彼は、自らがハブとなり、コミュニケーションを重ねて構築してきたバンド・メンバーやミュージシャンとの信頼に満ちたコレクティヴと、自らのルーツたるカントリー/フォーク・ミュージックの歴史を本作で交差させようと試みている。バック・ミークというプロジェクトの魅力はそのような挑戦的な側面にこそある。(尾野泰幸)



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