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Big Thief: Capacity

2017 / Saddle Creek / Big Nothing
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ビッグ・シーフが紡ぐ、ミニマル/トランスボーダーなコミュニティとバンドの物語

14 September 2017 | By Yasuyuki Ono

何よりも、このブルックリンを拠点とする、ビッグ・シーフというバンドの2作目を特徴づけるのは、私たちが持つ「物語(的想像力)」に焦点化したコンセプトであり、バンドが位置づくミニマル、だがトランスボーダーなコミュニティだ。

一人一人の人間が持つ、限りなき物語想像力の可能性こそが、本作の「Capacity」というアルバム/トラック・タイトルに込めた意味なのだと、バンドのフロント・ウーマンたるエイドリアン・レイカーは語る。アルバムを構成する一つ一つの物語を彩るのは、何よりもローファイで、耽美なリヴァーヴがかかったギター・サウンドと、それと併存するナチュラルなギター・サウンド。そして、抑揚を抑え気だるく漂いながらも、エモーショナルでさえあるエイドリアン・レンカーの歌声だ。

バンドのオーセンティックでさえあるフォーク・ロック・サウンドを支えるのは、前作からバンドのプロデュースを手掛け、バンドと交友もあるニック・ハキムの新作のプロデューサーたるアンドリュー・サルロの存在だろうか。ニック・ハキムの新作はソウル・R&B、ヒップ・ホップさらにはフォークをも昇華した作品だった。そこでのリヴァーブ・サウンドの導入に、アンドリュー・サルロの存在が大きく関わっていたように、ビッグ・シーフの本作でもリヴァーブが特徴的に用いられている。

さらに、本作は、バンドの出発点となったというマイケル・ハーレイやジョン・プラインといった70年代フォーク、カントリーから、レンカー自身がローファイ・サウンドへ向かうきっかけとなったというエリオット・スミスやアイアン&ワインのようなフォーク・ロック、そしてエンジェル・オルセン、ファーザー・ジョン・ミスティーらに至るまでのフォーク(・ロック)のに道上にある作品だ。自らに真摯に向き合い続けながら音を造り出す、レンカーの姿は在りし日のエリオット・スミスのようでさえある。繰り返すが、本作は確かに、正攻法なフォーク・ロック作品である。しかし、この作品がニック・ハキム、エイドリアン・レイカー、そしてアンドリュー・サルロらが、ブルックリンというエリアで形成したミニマルな、しかし「ジャンル」に内閉することのないようにみえる、トランスボーダーなコミュニティから、生み出されているという事実はこの作品を、単なるフォーク・ロック・コミュニティへ閉じ込めない可能性を示しているように思える。

バンドが紡ぐのは、哀しく、懐かしく、そして逞しくもある物語。ロックへの逆風が吹き荒れる2017年、エイドリアン・レンカーが、自ら鳴らした音の元に集った仲間たちと作り出すビッグ・シーフの音楽は、フォーク・ロックへと向き合うバンドそれ自体のみならず、バンドが位置づくミニマル/トランスボーダーなコミュニティという「生物」が、その逆風へ立ち向かっていく現在進行形の物語なのである。(尾野泰幸)

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