Khalid: Free Spirit

2019 / RCA / SMJ
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アメリカの恐るべき子、ハタチを迎えてさらに自由に

26 April 2019 | By Yuta Sakauchi

多くの曲が2分台や3分台。前作『アメリカン・ティーン』同様、各々の楽曲の内部のエレメントは極端に少なく、相変わらず(そこが魅力なのだが)シンプルなリフとビート、フックだけで成り立っているような曲も多い。カリードは同世代の中で圧倒的に優れたシンガーの一人であると同時に、優れたソングライターでもあるが、そんな彼の資質がさりげなく示された、素朴なソング・ブックのようなアルバムだ。

収録曲は、ディスクロージャーと共作したディープ・ハウス風の「Talk」や、ジョン・メイヤーが参加したブギー風の「Outta My Head」など、曲調の幅も広く、コンセプトを事前にがっちりと固めて臨んだというよりも、思いのままに曲を作り、それを後からまとめる形でのアルバム制作だったのであろうと想像できる。だが、そんな中でも、アコースティック・ギターをボロンと爪弾くような、ざらついたアレンジの魅力をはじめ、どこか煤けたようなアーシーなサウンドの色合いがアルバム全体に共通するムードをもたらしている。ビル・ウィザースやトレイシー・チャップマンをフェイバリットに挙げる、彼の音楽のフォーキー・ソウルな魅力が、モダンなR&Bのプロダクションの中でも光っている。

そうした彼の音楽との自由な関わりが、アルバム中で最も端的に現れているのが、ファーザー・ジョン・ミスティが作曲に携わり、ハクサン・クロークがプロデュースを手がけた「Heaven」だろう。深い霧がかかったようなディープな音像の中、原初的なドラムスのビートと、ピアノのコードを伴いながら、カリードは「陰鬱でソウルフル。でもどこか涼しげでもある」反語的な表現を歌声の響きの中に生み出している。そして、それはアーティスト的な心の奥底からの表現というより、自分の声の楽器としての特性を寸分違わずに把握できているからこそできる、職人的なスキルの賜物であるように思える。もちろん実際のところは分からない。だが、そんな風に思わせる振る舞いの真っ当さが、実のところ、この21歳のアンファンテリブルが空恐ろしく感じられる、一番の理由なのかも知れない。(坂内優太)

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