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Caroline: Caroline

2022 / Rough Trade / Beatink
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ただただそこに他者として存在する音楽

29 March 2022 | By Kenichi Ogura

向き合えば向き合うほどとらえどころがない。何故自分がキャロラインの音楽に惹かれるのか、繰り返し聴いてはそんな気持ちにさせられてしまう。あの《Rough Trade》のボス、ジェフ・トラヴィスが惚れたという触れ込みのもとデビューを果たしたこのバンドは、しかし現在の“シーン”と括られるどのバンドとも違っている。

それは1曲目の「Deep blue」から明らかだ。バンドのデビュー・シングルでもあるこの曲は、ミニマルなフレーズと演奏が有機的に絡み合いゆるやかな上昇をみせながらも、ピークらしいピークは迎えることなく何事もなかったかのように元の場所へと着地する。続く「Good morning (red)」は作中随一のポップ・ナンバーであるが、この曲を単純な3分間のポップ・ソングで終わらせないあたり、このバンドのとらえどころのなさを表しているようでもある。讃美歌のような小曲「desperately」を挟み、フォーク調の「IWR」、ギター・インストの「messen #7」と、ここまでがアルバムのA面にあたるが、B面に盤を返すとこのアルバムはまた別の顔を見せる。

後半の核といえる3曲「Engine (eavesdropping)」、「Skydiving onto the library roof」、そしてラストを飾る「Natural death」と、演奏は徐々にフリーキーさを増していき、曲間すらも曖昧になっていくような感覚を覚える。A面同様、合間に挟まれるシンプルな短い楽曲はそれらとの対比をより鮮明にし、その空白すら彼らの演奏の一部となっているようだ。

定型を避け、安易なカテゴライズを拒むキャロラインのサウンドは、これまでの主流のひとつである性急なポスト・パンク・サウンドへの反動とも言えるかもしれない(発足当初はそうした音楽をやっていたそうだ)。冒頭でも述べた通りいわゆる「シーン」からは外れた存在にも見えるキャロラインであるが、彼らとは現代的な感覚でもっての繋がりがみてとれる。

とりわけフォーク・ミュージックからの影響はキャロラインにおける重要な要素のひとつであることが伺えるが、バンドの中心人物のひとりジャスパー・ヒェウェリンは、「フォーク・ミュージックの祝福と永続化に取り組む」コレクティヴ=Broadside Hacksのメンバーにも名を連ねている。Sorryのメンバー、キャンベル・バウムによって立ち上げられたこのプロジェクトには、ケイティ・J・ピアソンやPixx、ゴート・ガールのナイマ・ボックをはじめ多くの面々が参加しているのだが、若い世代の彼らが揃って伝統的なフォーク・ミュージックへの好奇心を共有しているというのは興味深い。また、作中時折見せるデレク・ベイリーをも思わせる即興性には、今や孤高の存在となったダニエル・ブランバーグとの同時代性も指摘することができよう。

キャロラインの音楽は抽象的でこそあれど、そこに押し付けがましさはない。放課後の音楽室から聞こえてくる演奏、遠くで鳴るサイレン、あるいはどこからともなく聞こえる生活音のような、壁一枚隔てた距離感がある。干渉するでもなく、声高に何かを叫ぶでもなく、ただただそこに「他者」として存在している。それは諦めか希望か、いずれにせよ本作はこの時代のBGMにふさわしいアルバムと言えるだろう。(小倉健一)

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