Review

Yussef Dayes: Black Classical Music

Brownswood Recordings / Nonesuch
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21世紀の広義のフォーク・ミュージック

06 November 2023 | By Masaaki Hara

1993年生まれのユセフ・デイズは、いまやUKジャズ・シーンの中核を担うドラマーだ。10代で二人の兄らとユナイテッド・ヴァイブレーションズを結成するとアフロビートを叩いた。キーボード奏者のカマール・ウィリアムスとのユセフ・カマールが注目を集めた20代前半には、既にデイズのドラミングにトラディショナルなジャズも、ブロークン・ビーツやUKガラージ、グライムのビートも織り込まれていた。さらに、トム・ミッシュとのコラボレーション・アルバム『What Kinda Music』では、歌とも融和した多面的なビートを叩いた。

早熟で、才能のあるドラマーのデイズが、満を持してリリースしたソロ・デビュー・アルバムが『Black Classical Music』である。この堂々としたタイトルについて、最近のインタヴューで、マイルス・デイヴィスやラサーン・ローランド・カーク、ニーナ・シモンが、ジャズや自分たちの音楽を“ブラック・クラシカル・ミュージック”と呼んでいたことを引き合いに出している。そして、「ひとつでは定義できないニュアンスがたくさんある」と自分の経験から来るものが込められていると語った。

そのニュアンスとは、極めてパーソナルな音楽の記憶から生まれたものだ。音楽好きの両親のレコード・コレクションに夢中になり、ビリー・コブハムを発見したこと、8年前に亡くなった母が生徒を集めてヨガを教えていた時にも常に音楽が流れていたこと。ジャマイカにルーツを持つ父はベースを弾き、デイズの兄弟も皆楽器を演奏して、週末になると大勢の人とジャム・セッションをおこなっていたこと。10歳のとき大学のコブハムの講座に参加したこと。『Black Classical Music』のレコード・スリーブには、亡くなった母に捧げたアルバムであることがデイズの言葉で記されている。ジャケットの写真は、アフロ・ヘアーにしてグライムを聴いていた中学時代のデイズ本人だ。

デイズの“ブラック・クラシカル・ミュージック”とは、音楽と共にあった家族が育んだ記憶を丁寧に辿ると共に、サウス・ロンドンのシーンのシビアな環境で演奏してきた音楽を捉え直している。その音楽的な探求は、スピリチュアル・ジャズとハード・バップ、それにラテン・グルーヴも飲み込むアルバム・タイトル曲からスタートして、カリブ海、南米、アフリカへと向かう。ロッコ・パラディーノ(B)、チャーリー・ステイシー(P/Key)、ヴェンナ(Sax)、アレクサンダー・バート(Perc)がバンド・メンバーだ。シャバカ・ハッチングスやトム・ミッシュから、レオン・トーマス、マセーゴ、クロニクス、それに民族的マイノリティによって結成されたチネケ!オーケストラまで、多様なルーツを持つゲストが登場する。

このアルバムに心惹かれるのは、すべてがデイズの探究心からスタートし、個の視点が貫かれているからだ。それは結果として、音楽的な、そして文化的な系譜を辿ることになっているが、クロスカルチュラルなコンセプトを表明したアルバムではない。だから、コブハムのような激しいドラムに至る曲も、子供の頃のドラムの録音が挟まれた曲も自然にここには収められている。このアルバムはアメリカでは《Nonesuch》からリリースされた。サム・ゲンデルやマカヤ・マクレイヴン、トム・スキナーが《Nonesuch》から紹介されたように、『Black Classical Music』のユセフ・デイズもまた、21世紀の広義のフォーク・ミュージックを体現している。(原雅明)




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