Review

D.A.N.: Bend / Elephant

2019 / SSWB / BAYON PRODUCTUON
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会場限定シングルで切り取った、“バンド”としてのアンサンブルの進化と変化

20 June 2019 | By Nami Igusa

再生ボタンを押し、耳に流れ込んできたピアノの音の、あまりの素っ気なさ。飾り気がなく、ゆえに安っぽく媚びる様子もない。エモーショナルとは無縁ながら、聴き手の心の襞に触れてくるようなその音色の素朴さは、セカンド・アルバム『Sonatine』(2018年)でのサイバーパンクの世界と電子音の渦をくぐり抜けたその果てで、ゆっくりと目を醒ましていく生身の肉体の感覚のメタファー、かもしれない。このピアノのフレーズは、プリプロを行った《Red Bull Music Studios Tokyo》にあったアップライト・ピアノで演奏されたものから生まれたそうだ。これまでのD.A.N.には生のピアノを使った楽曲はなく、前述の『Sonatine』との対比で言っても、明らかに彼らはこの曲をもって新しいD.A.N.を始めようとしていることがうかがえる。

前作アルバムで推し進めたようなエレクトロニックなシンセのエフェクトのレイヤーは、この「Bend」では色を添えるにしても控えめな場面が多い。代わりに、ピアノを軸に、コードやメロディへも自在に変化するベース、シンプルなようで手数の多いパターンを確かに叩く硬派なドラムの三点をはっきりと聴かせることで、それ以外の余白を大きく感じ取らせるサウンド・スケープを作り上げている。原点回帰のようにも思えるが、大きく変化を感じさせるのが声のあり方だ。ファルセットを武器とする櫻木は、今回は地声に近いコーラスを左右に振り分けてかぶせるなど声そのものを楽器のように用い、曲にさらなる奥行きを与えている。また、エキゾチックでトロピカルなハウス・ビートを淡々と繰り返す、本シングルのもう1曲「Elephant」でも、ヴォーカルの輪郭をぼかしながら重ね、はっきりとは聴かせないというこれまでにない手法をとることで、現実感のない白昼夢のような空間に聴き手を怪しく誘う。この、空間をたっぷりと感じさせるアンサンサンブルが、彼らが今聴かせたかったと語る“余裕”なのだろう。

『Sonatine』発表前後の頃からサポート無しの3人体制でライブを行ってきたD.A.N.だが、ここ直近のライブでは小林うてながサポートに復帰、さらに絶賛開催中のツアー“BEND”からはキーボードを加えた5人体制になっているということだ。そういえば、最近筆者が観たライブでは、小林うてなを交えた4人で、ファースト・アルバムからの楽曲「Native Dancer」を演奏していたが、あの非オン・グリッドなループのフレーズをものともせず各パートの演奏がいつになくがっぷり四つにハマっており、いたく感激するとともにどこまでも深くその楽曲に没入する感覚を味わったのだった。アンサンブルに一層の磨きをかけているD.A.N.。その“バンド”としての在り方の進化と変化を、会場限定シングルである本作によっていち早くライブの現場で届けようというのが、また彼らの粋なところだ。(井草七海)

■商品情報
New single 『Bend / Elephant』
※ライブ会場限定販売
※初回プレス限定

■D.A.N. オフィシャルサイト
http://d-a-n-music.com/

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