Review

あだち麗三郎: アルビレオ

2019 / Magical Doughnuts Records
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果てしない宇宙の中でたった一人の個であることを謳歌するような生命力

15 July 2019 | By Dreamy Deka

片想い、Hei Tanakna、冬にわかれてのメンバーとして、またはスタジオ・ミュージシャン、プロデューサー、エンジニアとして関与してきた作品は数知れず。ここ10年ほどの日本の良質な音楽のほとんどに彼のイニシャルが刻まれてきたのではと思わせるほどの活躍を見せる鬼才、あだち麗三郎。『ぱぱぱぱ』以来実に4年ぶりのソロ・アルバム。冒頭を飾る「夏の化身」の配信リリースからもすでに2年以上が経っている。

しかしさすが満を持しまくっただけのことはあり、宮沢賢治がトパーズとサファイアになぞらえた、はくちょう座に輝く二重星“アルビレオ”というタイトルにふさわしい、時空を超えた一大グルーヴ絵巻となっている。1曲目の「夏の化身」から、裏山に掘ったトンネルを通ってアメリカ東海岸から西海岸まで駆け抜けたかと思えば、続く「野良犬たちは踊る」ではキューバでトロピカルダンディーに邂逅。さらに「考えごと」でジャマイカからアフリカまで北大西洋横断の航海へ…という具合に、数回聴いただけではとても全貌を捉えることができないほど奔放なアイデアに圧倒される。さらにそれを具現化する谷口雄、シンリズム、河合宏知といった気鋭のミュージシャンを擁するバンド“美味しい水”を中心とした演奏の卓越ぶりも聴きどころ。そして宇宙スケールのダイナミックさでサウンドが姿を変化させていく一方で、あだち麗三郎自身の歌は常にその真ん中で確固たる存在感を放つ。それは決して技巧的なものではないが、果てしない宇宙の中でたった一人の個であることを謳歌するような生命力を感じさせる。

それにしても本作は音楽を聴くという行為を強烈なエキゾ感を伴う体験へと昇華させているという点において、ceroやGUIRO、東郷清丸といった彼が深く関わってきたアーティストの最新作とも通じるところがある。果たしてこれは単なる偶然か、それとも鋭敏なセンスを持つ者だけが感じる時代の気配を反映したものなのか、とても興味深いところである。(ドリーミー刑事)

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