Review

Beach House: 7

2018 / Sub Pop
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"らしさ"を脱ぎ捨て、躍動感とみずみずしさを手にしたビーチ・ハウスの示す、
ドリーム・ポップのネクスト・フェーズ

31 May 2018 | By Nami Igusa

ビーチ・ハウス史上最高傑作、と言うだけでは物足りない。今作『7』は、“ビーチ・ハウス第二章”の始まりを宣言する作品だ。そして同時に、ドリーム・ポップが心地良いだけの単調な音楽で終わるものではなく、そのサウンドの“ひだ”を増やせば、ずっと表情豊かなものになり得ることを証明した、いわばドリーム・ポップのネクスト・フェーズを提示する作品とも言えるだろう。

まずアルバムの出だしから耳を疑った。「Dark Spring」での駆け回るようなドラムの躍動感に、長らくファンである筆者も思わず「今聴いているのはビーチ・ハウスだっけ?」と再確認してしまった。こんなにも生き生きとしたドラムを彼らの楽曲でかつて聴いたことがあっただろうか? デビュー当初はドラム・マシーンを用い、その後は生ドラムも取り入れていたが、いずれにしても彼らの楽曲でドラムの音が前面に聴こえることはあまりなかった。だが、今作では打って変わって、ドラムの扱いへの意識が高い。抜けるようなスネアの音や、細やかに変化をつけたリズムの譜割が、楽曲に瑞々しさをもたらしている。また、ドラム・トラックが中心からいつの間にか左にパンされているミックスの「L’Inconnue」などは特にトリッキーで面白い1曲だ。

音色のバリエーションが飛躍的に増えていることも、決定的な変化だ。これは、今作で彼らが新たにプロデューサーとして手を組んだソニック・ブームのアイディアによるところが大きいのだろう。代名詞であったオルガンはほとんど聴かれず、透明感のあるシンセ・サウンドにその主役の座が譲られている。また、スペーシーなエフェクトもアルバムを通じて散りばめられ、これまでのダークなイメージを覆す、キラキラとした明るさをも感じることができる。

オルガンやそれに近いシンセ・サウンド、爪弾かれるギター、控えめなドラム……それが、これまでの彼ら“らしさ”だった。そんなシンプルな編成を貫いてきた彼らにとって、こうした転換はかなり大胆だ。今作では、彼らは「ライブで再現できるかどうか」を意識しなかったそうだが、そこには、これまでのメソッドや定石をも疑ってかかろうという意志が感じ取れる。「自分たちの決めた枠に自ら囚われていたのではないか」という、それなりのキャリアがあるアーティストならばできれば避けたい事実から目を背けなかったこと、そんな自意識を脱ぎ捨て新たな姿へ生まれ変わったことを、称賛せずにはいられない。

その野心的な姿勢は、筆者にとっても昨年のベストの1枚でもあるスロウダイヴの22年越しの新作『スロウダイヴ』をも思わせるのだ。“ドリーム・ポップの旗手”であったビーチ・ハウスは、これから再びこのジャンルの新たなを一歩を導くのではないだろうか? 『7』を聴いて以来そんな期待感を抱いては、もうワクワクしっぱなしである。(井草七海)

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