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至宝は今日も至宝のままで
ヨ・ラ・テンゴ、コロナ禍の2020年を総括

11 December 2020 | By Yusuke Sawada

ソニック・ユース、ペイヴメント、ステレオラブ、ギャラクシー500(ルナ)、ダイナソーJr.など同時代を並走していたオルタナを代表するバンドが90年代後半から00年代にかけて解散(再結成しているバンドもいるけど)や活動休止などで終止符をうってしまったなか、結成から35年以上にわたり一度も歩みを止めずにコンスタントにクオリティの高い作品をリリースし続けていて、メンバーの平均年齢55歳を越えてもなおほぼ毎回3時間近いロングセットで、しかも毎晩1/3以上セットリストが入れ替わるライヴをこなしているヨ・ラ・テンゴの存在は本当にインディー・ロック界の至宝といっても過言ではないと思う。

周りを見渡しても同じくらいのキャリアのバンドで未だにこんなペースで精力的に活動しているバンドといえば、スタジオ・アルバムで様々な実験を取り入れつつ、ライヴでも突飛なアイディア(100人を超えるオーケストラと聖歌隊を迎えた再現ライヴも、バンドも観客もみんながそれぞれの個別の巨大バルーンに入ったコンサートもどちらも思わず目頭が熱くなった)を実現しているフレーミング・リップスか、一生涯ティーンエイジャーのような蒼さと疾走感を保ちながら堅実なレーベル運営も続けるスーパーチャンクくらいしか思い浮かばない。ティーンエイジ・ファンクラブは新作が来年3月にでるけれどジェラルド・ラヴが脱退してどうなってしまうのか。昔の大所帯から今はほとんどカート・ワグナーのソロ・プロジクトのようになっているラムチョップはどうなってしまうのか。メンバーのほとんどがシカゴを離れ、住んでいる場所もバラバラになって寡作になってきたトータス(SOMA STUDIOも今はシカゴからカルフォルニアに移転している)はどうなってしまうのか。マイペースにも程があるマイブラやパステルズの新作はいつになったら聴けるのか。

これまでのヨ・ラ・テンゴのリリースのインターバルは2年~3年ごとにオリジナル・アルバムをリリースしてその合間に企画もののアルバム(オフィシャルサイト限定)やリイシュー作品などが挟まれるというペースで他のバンドよりも遥かにハイペースだったけれど、コロナ禍においてもそのペースは鈍るどころかとどまることをしらない。今年に入ってからのヨ・ラ・テンゴのリリースと活動をたどってみたいと思う。

──5月 Netflix『サイケな世界 スターが語る幻覚体験』オリジナル・サウンドトラック

NET FLIXで5月に公開されたスティングやエイサップ・ロッキー、ビースティー・ボーイズ、グレイトフル・デッドなどのミュージシャンや、キャリー・フィッシャー(レイア姫)、ベン・スティーラーなど俳優やコメディアンなどの著名人のLSDやマジックマッシュルームの幻覚剤体験談を中心に構成されたドキュメンタリー映画。ドラッグとは無縁そうなヨ・ラ・テンゴがドラッグについてのドキュメンタリーに大々的にフィーチャーされているのはなんだか不思議な組み合わせだけれど、劇中に使われているのはほぼヨ・ラ・テンゴの曲(新旧満遍なく32曲も!)で「Moby Octopad」「Evanescent Psychic Pez Drop」「Here To Fall」などヨ・ラ・テンゴのなかでもサイケな雰囲気の曲は幻覚体験時の再現映像やアニメーションのシーンにぴったり。「ドラッグ絶対ダメ」でも「そろそろ合法化すべき」でもどちらに偏ることなくフラットな内容で映画自体の内容も面白い。

──7月 『We Have Amnesia Sometime』

ロックダウン中の4月下旬に地元ホーボーケンにある彼らのリハーサル・スタジオ(前作『There’s A Riot Going On』もここで録音された)で自分達だけで録音された音源で事前のアナウンス無しで突如新設されたBandcampにて7月13日から5日間に渡り毎日1曲が順次リリース。ポストロックやフリージャズ/実験音楽に接近した海洋生物ドキュメンタリー映画のサントラ『The Sounds Of The Sounds Of Science』に近い感触もあるけれど、もっと荒削りなドローン、インプロビゼーション色の強いサウンドスケープのようなインスト・アルバム。

リリースから数日後にはこの音源をベースにした無観客の有料ストリーミング・ライヴを2日間に分けて配信。ソフボーイの人形やビートルズのお面やがらくたみたいな置物が無造作に置かれている自身のリハーサル・スタジオでギターやキーボード、ベース、ドラムをそれぞれが持ち替えながらサウンドスケープを紡いでいくようなインプロヴィゼーションの演奏で、「ああ、こんな普通なところであの極上なサウンドは作られているのだな」と感慨にひたって観ていたけれど、ヨ・ラ・テンゴの曲はこういったサウンドスケッチを少しずつ蒸留させて浮かび上がったものを掬い上げて出来上がった楽曲も多いはず。今回の作品ではもっと煮詰めていつものアルバムの曲のように作ることもできただろうけど、コロナ禍のなかで今すぐリリースすることに意味があると考えて、敢えて曲として磨き上げる前のサウンドスケープの状態でリリースしたのだと思う。 コロナの影響もありフィジカル版のLPは製造が遅れており11月下旬に発送予定だそう。話はそれるけれど、コロナの影響でアメリカから日本への送料はしゃれにならないほどあがっていて、お店でレコードを仕入れるのもコストが高くなっているけれど、個人で海外のレーベルやサイトから直でレコードやTシャツを買おうとすると商品よりも送料のほうが高いことも多く、よっぽど好きなものでもなかなか手が出せない状況。今後もずっとこれが続くとツラい。

──8月 Socially-Distanced Concerts at MASS MoCA

本来なら6月に開催されるはずだったマック・デマルコやジョナサン・リッチマン、坂本慎太郎、金延幸子、ヴェティヴァー、メグ・ベアードというその筋が好きな人にとってたまらないラインナップが集うカルフォルニアで開催のフェス《HUICHICA MUSIC FESTIVAL》にヘッドライナーとして出演予定だったけれどコロナの影響で中止になってしまい、今年の1月に開催のウィルコ主催のフェス《WILCO’S BLUE SKY》以来、約半年ぶり、コロナ禍のなかでの観客有りのライブとしては初となるライヴ。

やはり以前のような通常のライヴではなく感染症対策をしっかりと講じて実施された野外ライヴで、マサチューセッツ州の現代美術館『MASS MoCA』にて二晩にわたって開催。ヨ・ラ・テンゴは美術館の2階の大きなバルコニーに作られた特設ステージで演奏し、観客は100名限定で中庭の白線でひかれた各々に割り当てられたスペースのなかで自身の持参した椅子に座って鑑賞するという変わったシチュエーションのライヴ。観に行った人のSNSやYouTubeをみると新旧の曲からウィルコやボブ・ディランのカバーまで織り交ぜたセットリストで、「For You Too」はアルバム・ヴァージョンからリアレンジされた新ヴァージョンで演奏されていたよう。

今年はこの後アナウンスされているものは今のところないけれど、年末のヨ・ラ・テンゴといえば、やはり彼らの年末の恒例行事、《HANNUKAH SHOW》(彼らの地元ライヴ・ハウスで8日間にわたり毎晩様々なゲストを迎えて開催されるスペシャル・ライヴ)を忘れてはならない。もちろん今年は通常のようには開催できないだろうけど、彼らのリハーサル・スタジオから配信で特別ヴァージョンをやってくれたらいいのに(編集部注:今年は12/18午後9時にニューヨークの《Greene Space》から配信中継で開催される。チケットはこちら)。

──9月 『Electr-O-Pura』25周年記念盤LP

《Matador》が今年に入ってから力をいれているリイシュー・シリーズ《Revisionist History》の一環としてリリースされた95年発表作品の25周年記念盤LP。オリジナル盤はLP1枚の仕様だったけれど今回の再発では高音質の2LP仕様のリイシューで日本限定のカラーヴァイナルもリリース。都会の喧騒から外れたアメリカの郊外都市の退屈だけど居心地のいい日常や、そんな日常のなかに潜む狂気みたいな当時のミニシアター系の映画を観た際の感覚に近いような雰囲気が好きで個人的にもお気に入りのアルバムだし、ヨ・ラ・テンゴ好きの人もこの頃のアルバムが一番好きだという人もいる一方、「Blue Line Swinger」や「Tom Courtenay」のヨ・ラ・テンゴのなかでも5本の指に入るくらいの人気曲が2曲も入っているのにもかかわらず、《Matador》移籍第1弾で現在に繋がるスタイルを築いた『Painful』と彼らの知名度を高め確固たる評価を決定づけた『I Can Hear The Heart Beating As One』の名盤の間に挟まれているせいか、世間的には今一つ評価されていないアルバムだった印象で、自分が働いているお店では今でも『I Can Hear~』と『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』は新品のアナログがコンスタントに売れるけどそれに比べるとちょっと負けていた感じは否めなかったけど、「Decora」や「Pablo and Andrea」、「Don’t Say A Word (Hot Chicken #2)」など名曲満載なので今回の再発で再評価されるとうれしい。

──10月 『Sleepless Night』 奈良美智とのコラボレーション

前回2018年の来日公演にライヴ中にステージ上のメンバーに電話がかかってくるというサプライズ演出でも共演していた日本を代表するアーティスト、奈良美智とのコラボレーション。元々はアメリカのLACMA(ロサンゼルス・カウンティ美術館)で4月から開催予定(コロナ禍の影響で中止)だった奈良美智の大規模な個展の図録の付録としてリリースされたアイテム。ジャケットのアートワークは奈良美智による本人の音楽遍歴を綴ったようなドローイングが使用されていて、A面には奈良美智と一緒に選曲したボブ・ディランやバーズのカヴァー曲と、新曲「Bleeding」の合計6曲を収録。B面にはジェームスによるジョイ・ディヴィジョンの『Unknown Pleasure』のジャケの図形のようなドローイングが刻印されたエッチング仕様。カヴァー曲中心の作品ということもあり初期のカヴァー集『Fakebook』(1990年)や前々作、『Stuff Like That There』(2015年)と連なる作品だけれども、陽だまりのようなあたたかさの『Fakebook』や夕暮れ時のノスタルジーを感じさせる『Stuff Like That There』と比べると、こちらは夜が明ける時間まで眠れずにおきていて空が白んできて朝の気配がし始めてきたようなシチュエーションにあいそうな静かな雰囲気の作品。奈良美智とヨ・ラ・テンゴの相乗効果は想像していたよりも凄くて12inchは自分が働くレコード店でも告知から数時間で予約完売していた。

──12月 日本限定紙ジャケCDリリース

コロナ禍のなかでもかなりのハイペースでリリースが続いていたけれど、今年を締めくくる最後のリリースとなるのはマタドールが取り組むリイシューシリーズ『Revisionist History』の日本独自企画となる紙ジャケ再発CD。今回再発されるのは『Electr-O-Pura』(1995年)、『I Can Hear The Heart Beating As One』(1997年)、『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』(2000年)、『Summer Sun』(2003年)の4タイトル。グランジが終わり、オルタナからポストロック、音響系、エレクトロニカ、フリーフォークといった音楽シーンの移り変わりのなかで当時のシーンとの絶妙な距離感を取りながら彼らにしか出せない独自のサウンドを進化させていった黄金時代ともいえる時期の名盤がデラックス版といってもいいほどのボリュームのボーナス・トラックを加えて再発となる。この時期の彼らはアルバム未収録のカヴァー曲や様々なアーティストによるリミックス音源が多数あってボーナス・トラックはほんとに聴きごたえ満点。相当なヨ・ラ・テンゴ好きでもこれまで曲名すら全く聞いたことのなかったインスト曲「Last Train to Oviedo」やイギリスの実験音楽雑誌『WIRE』の付録CDにのみ収録されていたソニック・ブームによる「Let’s Save Tony Orland House」のリミックスや、オフィシャルサイト限定7インチ・シングルに収録のフリージャズバンド、アザー・ディメンションズ・イン・ミュージックとのコラボ音源などかなりレアな音源も収録されているので、普段フィジカルを買うのはレコードだという人も、ストリーミング中心という人も、サブスクやYouTubeでも聴けない音源が多数収録されているので是非このCDを手に取ってもらいたい。

ここまで今年の彼らの活動をたどってみたが、『We Have Amnesia Sometime』以外のリリースは以前から計画されていたものだったのだろうと推測するけれど、コロナ禍のなかでここまで多くのリリースができたミュージシャンは殆どいないのでは。ロックダウンが解除されてからも海外の流通は不安定だったことや様々な要因(BLMも一つの要因だったよう)で発売延期になるタイトルも多かったし、そもそもリリース自体の計画が流れてしまったアーティストも少なくはなかったとのでは思う。ヨ・ラ・テンゴがここまで長年活動を続けていることや、コロナ禍のような厳しい状況においても活発に動き続けている秘訣やモティベーションを保つ方法を聞いても恐らくこれまでのインタビューのようにきっとはぐらかされてしまうと思う。彼らは3人とも示し合わせたように自分達の音楽の核心に触れるような質問には「リスナーに解釈を委ねる」とか、「自分達にもわからない」と、はぐらかすような回答が多い。以前のインタビューで「長く活動を続けるコツは何ですか?」という質問に「自分達が達成感を感じられることを皆で続けているだけ」と答えていたけれど、そうは言ってもなかなか簡単にできることではない。それを楽しみながらずっと活動を続ける姿はまさにUSインディの至宝といえる。もっと年を重ねてよぼよぼのおじいちゃんとおばあちゃんになってもきっと彼らは自分達も楽しみながら自分たちが満足できる音楽を作っているだろう。

いつものインターバルでいうと前作のリリースは2018年だったので来年あたりにはそろそろ新作のフルアルバムが聴けるのではと期待している。きっと次作も傑作を届けてくれるだろう。

最後に今回のリイシュー・シリーズに収録された膨大なボーナス・トラックの簡単な解説を。

『Electr-O-Pura』


■ Up to You

『Electr-O-Pura』録音時のアウトテイク。90年代初頭から中盤までにリリースされたシングルB面曲やレアトラック集をコンパイルした『Genius + Love = Yo La Tengo』に収録。『Painful』~『Electr-O-Pura』の時期のヨ・ラ・テンゴらしい郊外都市の日常の風景が浮かぶような佳曲。

■ Thin Blue Line Swinger

ヨ・ラ・テンゴの曲のなかでも屈指の人気曲の別ミックス/ショート・ヴァージョン。オリジナル版はエーストーンのオルガンのコード弾きにアイラのギターとジョージアのドラムが絡むインプロヴィゼーションから徐々に曲が構築されていくアレンジだけど、こちらはそのイントロがバッサリとカットされていきなりサビから始まるヴァージョン。エンディングにはコミカルなオルガンのアウトロがつけられている。

■ Can’t Seem to Make You Mine

アレックス・チルトンやジョニー・サンダース、ラモーンズ、ガービッジなど様々なアーティストもカバーしている60年代のガレージ・バンド、ザ・シーズのヒット曲のカヴァー。おそらく彼らが敬愛するアレックス・チルトンのカヴァー・バージョンに触発されたと思われるアレンジ。

■ Tom Courtenay (acoustic version)

こちらもヨ・ラ・テンゴのなかでも屈指の人気曲の別アレンジ・ヴァージョン。 オリジナル版はアイラがヴォーカルで、オルタナティヴなギターが全体を引っ張るようなアレンジ。こちらはジョージアがヴォーカルで、轟音ギターのかわりにアコギで、ドラムもブラシのスティックが使われている軽やかなアコースティック・ヴァージョン。本人たちも気に入っているようでいまでもライヴのアンコールで演奏されることも多い。

『I Can Hear The Heart Beating As One』


■ The Summer (live)

「Sugarcube」のCDシングルのB面に収録のライヴ音源。彼らの作品のなかでも人気の高いカヴァー集『Fakebook』(1990年)に収録されていたオリジナル曲でビート・ハプニングにも通じるジャングリーなギター・ポップ。録音はトータスのジョン・マッケンタイアが担当し、ゲスト・ミュージシャンとしてカクテルズのマーク・グリーンバーグがヴィブラフォンで参加。

■ Looney Toons

トゥイーティー、バッグス・バニー、ロード・ランナーなどのキャラクターが日本でも知られるワーナー・ブラザースの1930年代アニメーションの『Loony Tunes』主題歌のカヴァー。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「Run Run Run」のようなフレーズのベースと、徐々に微熱を帯びていく牧歌的なギターのフレーズと淡々としたドラムの絡みがヴェルヴェッツ・チルドレンらしい14分にもわたる長尺のインスト曲。

■ Deeper Into Movies (live)

2004年にリリースの《Matador》15周年記念コンピ『Matador At Fifteen』に収録。狂騒的なギターの不協和音が鳴り響くオリジナル版から3本のアコースティック・ギターで広がりのあるアレンジに編曲されたライヴ音源。

■ Autumn Sweater (remixed by Tortoise)

「Sugarcube」と並びヨ・ラ・テンゴの存在を広く知らしめるきっかけとなった名曲を3組のアーティストがリミックスしたEP「Autumn Sweater」に収録。トータスのメンバーのなかからバンディ・K・ブラウン、ジョン・ハードン、ダグ・マッカム、デヴィッド・パホが参加。トータスの名作『Millions Now Living Will Never Die』(1996年)に通じるサウンド・プロダクションが施されたミックス。

■ Autumn Sweater (remixed by µ-Ziq)

エイフェックス・ツインとの交流も深いPLANET Mu主催のマイク・パラディナスによるユニット、µ-Ziq。リミックスとは言ってもほとんど元素材は使われていない。寂寥感が漂うシンセの音色と無機質なリズムマシンによるエモーショナルなブレイクビーツ。このEPリリース時の同年にリリースされた彼のアルバム『Lunatic Harness』は今聴いてもなお色褪せないテクノの名盤。

■ Autumn Sweater (remixed by Kevin Shields)

『Loveless』(1991年)以降、ほとんど動きのなかったマイブラ本体だけど、ケヴィン・シールズは当時、ヨ・ラ・テンゴ以外にもパステルズやモグワイ、プライマル・スクリームなどインディー・ロック系のアーティストのリミックスを数多く手掛けていて、そのどれもが轟音ギター以外の可能性を模索した素晴らしいミックスになっている。

■ Sugarcube (live)

99年リリースの《Matador》10周年記念コンピ『Everything Is Nice – The Matador Records 10th Anniversary Anthology』に収録。彼らのなかでも屈指の人気曲の別アレンジのライヴ音源。アルバムに収録の轟音ギターとは真逆の『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』(2000年)の世界観に通ずる深いリヴァーブに包まれた静謐な雰囲気のアレンジ。

■ Be Thankful for What You Got

アーサー・リー&ラヴや、マッシヴ・アタックなど様々なアーティストによってカヴァーされているソウル系のSSW、ウィリアム・デヴォーンが1974年に発表したデビュー曲のカヴァー。

■ No Return

キンクスの67年リリースの『Something Else』に収録されていた名曲のカヴァー。アイラは大のキンクス・ファンでレイ・デイヴィスのツアーのバック・バンドをヨ・ラ・テンゴとしても務めたこともあり、レイ・デイヴィスとアルバムを作るという話もあったけどお蔵入りになってしまったよう。

■ Black Hole

70年代後半にデビューのロサンゼルスのポスト・パンク・バンド、ユーリナルズのカヴァー。あまり一般的な知名度は高くないけれどオリジナル盤は高額で取引されていて入手困難。こんなマニアックな音源までカヴァーするとは選曲センスが幅広い彼らならでは。

■ How Much I’ve Lied

ペダルスティール・ギターがノスタルジックな雰囲気を演出。カントリー・ロックの創始者、グラム・パーソンズの73年の初ソロ作『GP』に収録曲のカヴァー。

■ By the Time It Gets Dark

アイラとジョージアの囁くようなハーモニーが極上。ブリティッシュ・フォークを代表する女性SSW、サンディー・デニーの存命時に正規リリースのなかったアルバム未収録音源のカヴァー曲。

■ Little Honda (live)

ビーチボーイズのカヴァーのライヴ・ヴァージョン。アルバムではジーザス&メリーチェイン風なアレンジだけど、ライヴではさらにマイブラの「You Made Me Realize」の間奏部分のようなノイズ・パートを加えている。

■ We Are The Champions (シークレットトラック)

「Little Honda EP」でもクレジット無しでひっそりと収録されているクイーンの「We Are The Champions」カヴァー・ライヴ音源。あらかじめ観客にリクエスト曲を書いてもらった紙を入れた箱からランダムに選んだ曲をどんな曲でも演奏するというライヴのアンコール時の企画で披露。アイラが曲紹介で「次の曲はWe Are The Campionsです」といった瞬間の観客の「オーマイガッ!」というため息交じりの声と笑い声も収録。初めて演奏する曲なので最後までコード進行も追えていないまま終わるけど観客は大喜びし、拍手喝采で終了する迷カヴァー。ヴォーカルを担当したのは彼らの長年のツアー・マネージャー、ジョー・プリオ(いつもライブで「I heard You Looking」を演奏する時にキーボードを弾いているあの人です)。



『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』


■ Let’s Save Tony Orlando’s House (Sonic Boom remix)

イギリスの実験音楽雑誌『WIRE』の付録としてリリースされたコンピのみに収録。リズム・トラックを極端に抜いて全体的にスペーシーな効果音を加えたソニック・ブームならではのヒプノティックなサウンドのミックス。

■ Ready-Mades

「You Can Have It All」のシングルのB面に収録。ペダルスティール・ギターやホーン、ヴィブラフォンなどの楽器が加えられたゴージャスなアレンジのボンゾ・ドッグ・バンドの名バラードのカヴァー。ヨ・ラ・テンゴと親交の深いナッシュヴィルの大所帯オルタナ音響カントリー・バンド、ラムチョップがバック・バンドを担当。

■ You Can Have It All (Sonic Boom remix)

「You Can Have It All」のCDシングルB面に収録。こちらもソニック・ブームによるリミックス。こちらも足し算ではなく引き算の美学が光るミックス。

■ Excalibur 2001
■ Now 2000

ヨ・ラ・テンゴのオフィシャルサイト限定リリースの2枚組7インチ「Some Other Dimensions In Yo La Tengo」に収録。のちの『Summer Sun』にも参加しているNYのフリージャズ・バンド、アザー・ディメンションズ・イン・ミュージックとのコラボ作。2002年のサン・ラのカヴァー「Nuclear War」に繋がる雰囲気のフリージャズ・チューン。オリジナルのリリースではそれぞれの曲がパート1とパート2と分かれていてA面とB面に分割して収録されていたけれど、今回収録版では合体された音源として収録。

■ Danelectro 3
■ Danelectro 2
■ Danelectro 1

『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』のリリース後に発表されたインスト曲とそのリミックスを収録した「Danelectro EP」。ほのぼのとした雰囲気のインスト曲の派生版3曲。ジェームズがこの頃購入したDANELECTRO社のベース(黒と白のモノトーンの色のコントラストと独特の丸みを帯びたフォルムがユニークなギターメーカー)がほぼ全編にわたって使用されている。

■ Danelectro 1 (Q-Unique remix)

《Matador》が契約した初のヒップホップ・グループ、アーソニスツのトラックメイカー、Q-ユニークによりリミックス。つんのめったようなチキチキしたビートとユーモラスなスクラッチが入ったインスト・ヒップホップ。

■ Danelectro 3 (Kit Clayton remix)

99年にリリースの名盤『Nek Sanalet』でエレクトロニカ・シーンでの評価を不動のものにした音楽ソフトウェアのプログラマーとしての顔も持つサンフランシスコの音響ミニマルダブの鬼才、キット・クレイトンによるミックス。ジョージアの叩いたドラムのフレーズを過剰なほどに細かく刻み、エフェクトをかけて、ワルター・デ・マリアの「Ocean Music」のような寄せては返す波の音のように仕上げた音響ダブ・ミックス。

■ Danelectro 2 (Nobukazu Takemura remix)

トータスやジム・オルークなどシカゴ音響シーンとも交流をもつ日本が誇る電子音楽家、竹村延和による夕焼けから満天の星空までの景色の変化が凝縮されたような10分を超える長尺のリミックス。アブストラクト・ヒップホップからはじまり、ドラムンベースからテリー・ライリーのようなミニマル・ミュージックまで目まぐるしくサウンドが変化する自身の音楽ボキャブラリーを駆使しまくった大作。

■ Almost True

ベスト盤『Prisoners Of Love (A Smattering Of Scintillating Senescent Songs 1985-2003) 』(2005年)に収録。『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』のアウトテイク曲。ヴェルヴェッツの「Famme Fatale」のような雰囲気の佳曲。

■ Last Train to Oviedo

今回のリイシュー・シリーズのなかでも最もレアな音源。スペインの音楽雑誌『ROCKDELUX』の付録CDに収録されていたアルバム未収録のインスト曲。海外の音楽雑誌だと『WIRE』は当時輸入盤店で取り扱っているところもあったけど、この雑誌はほとんど日本では流通してなかったのでは。リズムボックスとグルーヴィーなベースラインにスライドギターのフレーズが乗っかるセッション音源っぽいけどヨ・ラ・テンゴらしいインストの小品。後半のギターのフレーズは『I Can Hear the Heart Beating as One』に収録の「Green Arrow」が元になっていそう。

『Summer Sun』


■ Today Is The Day – EP Version

寂しげな波打ち際が似合いそうなメロウなアルバム・ヴァージョンから、一転、「Tom Courtenay」や「Sugarcube」のようなフィードバック・ギターとファズ・ベースがひっぱるサウンドにアレンジされたシングル・ヴァージョン。

■ Styles of The Times

メロウかつ透明度の高い雰囲気が全体を覆っていたアルバムのカラーに合わなかったのかアウトテイクとなった活きのいいロック・チューン。

■ The Needle of Death

2本のアコースティックギターの絡みとジョージアによる温かみのあるヴォーカルのアレンジが微睡を誘うブリティッシュ・フォークを代表するギタリスト、バート・ヤンシュ1965年のデビュー・アルバムからのカヴァー曲。ニール・ヤングも同曲を2014年にカヴァー。

(文/澤田裕介<ディスクユニオン新宿インディ・オルタナティヴロック館>)



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Yo La Tengo

『Electr-O-Pura』(1995年作品)

『I Can Hear The Heart Beating As One』(1997年作品)

『And Then Nothing Turned Itself Inside-Out』(2000年作品)

『Summer Sun』(2003年作品)

以上、紙ジャケ4タイトル再発

LABEL : Matador / Beatink
RELEASE DATE : 2020.12.11


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Beatink / disk union

Text By Yusuke Sawada

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