Back

フジロック出演決定!
ザ・エックス・エックス『アイ・シー・ユー』に対する、ティコからの回答

12 July 2019 | By Tetsuya Sakamoto

エレクトロニクスとバンド・サウンドの融合、もとい、エレクトロニック・ミュージックのプロデューサーによる有機的なバンド・サウンドの可能性の探求ーーサンフランシスコを拠点にするスコット・ハンセンのソロ・プロジェクトであるティコは、近年、特に3作目の3ピース・バンド編成で完成させた『アウェイク』(2014)以降、そんなアプローチの傾向を強めているように思う。とはいえ、彼が耳目を集めるきっかけとなった2作目の『ダイヴ』(2011)までにおいても、シンセと生楽器のサンプリングを中心にボーズ・オブ・カナダを彷彿とさせる夢見心地でヒプノティックなビートを展開しており、とりわけ生楽器のサンプリングを、実際に目の前で楽器を演奏しているように生々しく響かせていたことを考えれば、彼がバンド・サウンドを取り入れ、追求するのは何ら不思議ではない。彼はその追求を通して、内向的で聴き手をリラックスさせるようなベッドルーム・ミュージックを生み出すことだけに終始することなく、その外の領域へと踏み出し、身体性を帯びたバンド・ミュージックを展開しているのだ。そのサウンドの生命線は、美しいメロディとしなやかなベースラインにある。

そんな彼がボノボやシネマティック・オーケストラ、アモン・トビン、アクトレスなど多種多様なアーティストの作品を送り出してきたニンジャ・チューンに移籍して初の作品である『ウェザー』をリリースする。そして、はじめて大々的にヴォーカリストをフィーチャーした今作は、もしかするとそのブループリントの一つがザ・エックス・エックス『アイ・シー・ユー』ではないかと想像させるほど、音数の少ないメランコリックなポップ・ソング集に仕上がっているのだ。そう想像させるにはやはりヴォーカルの存在が大きい。今回ゲスト・ヴォーカリストとしてフィーチャーされたのはセイント・シナーことハンナ・コットレルだが、ハンセンが「初めてのセッションで彼女の歌声がティコの音楽にフィットすることを確信した」(発言はレーベル資料から)というように、彼女の透明感のある、ほのかに官能性を醸し出す歌声は、ティコの作り上げてきたオーガニックなサウンドに自然に溶け込んでいる。つまり、ヴォーカルの導入には決して無理がないということだ。例えば、リード・シングルの「ピンク・アンド・ブルー」は、どこか憂いを帯びつつも透き通るような彼女の歌声が印象的だけど、それとゆっくり混ざり合っていくかのように、音数を少なくすることで一層疾走感が増したベース・ラインと叙情性を感じさせるシンセによるサウンドが展開されている。あるいは、ティコ流のR&B解釈といってもいい「ジャパン」にしても、音数を絞ったシンプルなトラックに絡み合うコットレルのヴォーカルにはまるで違和感がない。そして、音数を絞ったといっても、それによってティコらしさは失われるどころか、ティコというバンドの生命線でもあるメロディとベースラインの存在が際立っているのだ。そんな引き算の美学を実践したようなサウンド・プロダクションによって、タイトル曲の「ウェザー」のような今までのティコを思わせるインストゥルメンタルも、サウンドに立体性と奥行きが生まれている。

このようにティコの新作からは、ヴォーカルという新機軸を導入してはいるが、それによって今のティコの軸となっている、エレクトロニック・ミュージックの視点からの有機的なバンド・サウンドの構築にはまったくブレがないどころか、それをさらに更新していこうとする静かな意思を感じ取ることができる。そんなわずか30分弱のメランコリックなこの新作は、『アイ・シー・ユー』に対する、過去を決して美化せず、現在を見つめ続けるスコット・ハンセンからの回答といえるのではないだろうか。(坂本哲哉)

■Tycho Official Site
https://tychomusic.com

■ビートインク内アーティスト情報
https://www.beatink.com/artists/detail.php?artist_id=2438

Text By Tetsuya Sakamoto


FUJI ROCK FESTIVAL’19

2019/07/26(金)〜28(日) ※ティコは26日(金)出演
新潟県湯沢町苗場スキー場
https://www.fujirockfestival.com/

MMM

FUJI​|​|​|​|​|​||​|​|​|​|​TA

1 2 3 70