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フジロック出演! 一歩先の未来を描くトロ・イ・モワ、信じるオフラインの可能性

16 July 2019 | By Koki Kato

朗らかな笑顔を浮かべながら演奏するトロ・イ・モワの姿が印象的だった2013年フジロック《ホワイトステージ》。彼自身はボーカルとキーボードを弾き、サポートにベース、ドラム、ギターを擁した音数の少ないバンドの演奏に気付けば体を揺らしていた。元々、チルウェイブにカテゴライズされ話題になったトロ・イ・モワだが、そんなことは一瞬であったかのように、今日まで彼の音楽は様々に変化をしてきた。彼自身がワーカホリックであるからこそ成しえるリリース・ペースと、80年代のダンス・ミュージックからの影響を感じさせ、けれど一つのジャンルや様式にとらわれないサウンドが今も私たちを魅了し続けている。

トロ・イ・モワこと(チャズ・バンディック改め)チャズ・ベアは、2010年にトロ・イ・モワとして活動をはじめ、今年の1月にリリースされた新作『Outer Peace』までアルバムが8作、EPが3作、ミックステープが2作、その他にも2014年にLes Sind名義の『Michael』、Chaz Bandick名義で双子のジャズ・デュオ=The Mattoson 2と共作した『Star Stuff』(2017年)…と9年の間に15以上もの作品をリリースしている。また並行してライブやDJ、他アーティストへのフィーチャリング、グラフィック・デザイナーとしても活動しているが、多作で活動の幅が広いだけでなく、作品によってはカラーを変えながら、ときには別名義でトロ・イ・モア以外でのアプローチも行うなどそのヴァリエーションの豊かさは、探求に貪欲でワーカホリックなアーティストだとも思える。

そんな彼の原点は学生時代に始めたパンク・バンド、The Heist and the Accompliceの『Connections Work』(2008年)だ。ちなみに、当時ベースを務めたPatrick Jeffordsは現在でもトロ・イ・モワのバンドでベーシストとして演奏している。ソロ・ワークを始めてからは宅録を中心に、一人であらゆる楽器を演奏しながら制作し、ファースト『Causers Of This』(2010年)、セカンド『Underneath The Pine』(2011年)、サード『Anything In Retrun』(2013年)ではサンプリングした音源やシンセサイザー、TR-808のようなリズムマシンを使ったトラックメイクを行い、アンビエント、テクノ、ディスコ、ハウスなどを交錯させながらダンス・ミュージックを軸とした作品を発表してきた。同時に「New Beat」(『Underneath The Pine』収録)に代表されるようなリフが特徴的な楽曲も多く、バンドで再現することを意識したようなアルバム構成も彼の作品の特徴だ。また、The Heist and the Acoompliceからファースト『Causers Of This』までの間に起きた変化の過程は、2009年に制作され2012年にリリースされた『June 2009』を聴くことで辿ることができる。The Heist and the Accompliceのパンク・サウンドを残しながら、シンセサイザーのフレーズが所々で際立ち始め、よりダンサブルになったベースとドラムのリズムがディスコやときにレゲエすら感じさせるビートが、まさにトロ・イ・モワ前夜といった重要作だ。

宅録のミュージシャンでありながら、そのダンス・トラックをバンドで再現することを意識していたトロ・イ・モワだが、彼のそういったバンド志向が突如として顕著となった『What For』(2015年)には驚かされた。それまでの宅録/自演中心の制作スタイルとは違って、それぞれ楽器のパートに自身以外のメンバーを積極的に迎え入れて録音されたこの作品は、それまでの内省的なトラックともダンス・ミュージックとも異なり、清々しさを感じる美しいメロディが、まるでビートルズやマイケル・ジャクソンといったミュージシャンを想像させる素晴らしいポップ・アルバムになっていたのだ。本作を締めくくる「Yeah Right」にジャクソン5「Never Can Say Goodbye」を思わせるメロディとリリックがあるように、サンプリング的なアプローチをバンドに落とし込む彼ならではの自由でユニークな発想も特徴的だ。

ここまではトラックメイクとバンドを行き来する彼のスタイルについてフォーカスしてきたが、つづく『Boo Boo』(2017年)と最新作『Outer Peace』(2019年)では、トラックメイクに注力し、けれど毛色の違う1枚のビート・ミュージックになっている。そこが近年のトロ・イ・モアの最も魅力的なところだろう。特に、アンビエント、ニューエイジに対する再評価の流れを先取りするかのようにリリースされたのが2017年の『Boo Boo』。冨田勲、清水靖晃、そうした日本人アーティストによるアーカイヴを集めた《Light in The Attic》からの『Kankyo Ongaku』(2019年)など、ニューエイジ、ジャパニーズアンビエントとも質感の近いサウンドで、BPMを落としたゆったりとシンプルなビートは、確かに80年代からの引用も多い彼の音楽性にぴったりなサウンドだが、そういった音楽にも早くから注目し自身の表現に取り入れる周到さも彼の音楽を聴いて驚くことの一つだ。また、シティ・ポップをはじめ近年注目を集める日本のダンス/ビート・ミュージックにも関心を寄せていたことが『Boo Boo』と時期を近くして発表されたミックス「現A実SはI何AもBあOりIまZせZん」にも表れている。シティ・ポップのリストに挿入されたニューエイジ風なシンセのトラックと日本の古いCMの音声をサンプリングしたこのミックスは、ノスタルジックな日本を現代に再解釈したような作品で、もしかしたら少し先の未来を知っていたのではと思うほど、今の私たちの耳にスッと入り込んでくるのだ。

そして最新作『Outer Peace』(2019年)は、『Boo Boo』同様トラックメイクに注力しつつ前作のアンビエンスを引き継ぎながら、しかし比べるとBPMの早いアッパーなディスコ/ハウスの楽曲の多いダンス・アルバムだ。トロ・イ・モワのソロ名義のアルバムでは、おそらく初めて複数のフィーチャリング(ABRA、Wet、Instudendo)を迎えた作品になっている。そんな本作には、情報がありふれ過ぎたインターネット、ソーシャル・メディア時代の喧騒への疲弊に対するメッセージがあるようだ。彼が本作のインタビューで「現代社会で文化が消耗品になっている」「“Freelance”は仕事の内容に関係なくクリエイティブであろうとする人へのメッセージ」と答えているように、彼自身一人の労働者として今の社会で体感する目まぐるしいスピード感へ問題意識があるのかもしれない。けれど『Outer Peace』はそんなメッセージを懇々と説法するようなサウンドではない、そこが本作のアイロニーを強調するのだ。現代社会ではなぜ文化が消耗されてしまうのか、それは過剰なまでの情報に翻弄されてしまうからだろう。そうであれば、むしろ体を動かして何も考えず踊ってしまう時間があったっていい、そんなメッセージにも思えるのだ。また、ダンス・チューンの多い本作の中でABRA、Wet、Instudendoをフィーチャリングした「Miss Me」「Monte Carlo」「50-50」がどれもBPMを落としたアンビエントなサウンドであることも彼のアイロニカルな一面のようで、他者との関りを遮断するのではなく、本作でフィーチャリングにゲストを迎えたように、ネット上の不特定多数の情報ではない誰かとの直接的な関わりこそ安寧だと言うようでもある。ダンス・ミュージックの躍動感と彼自身の思考が邂逅した本作は、『Boo Boo』同様、現在から見れば一歩先の、私たちが近い未来に求めるようになる音楽かもしれない。

トロ・イ・モワというミュージシャンは多くの物事を様々な角度から観察、吸収しながらハイペースで表現を行なっている。この春に話題を集めたフライング・ロータス『Flamagra』や、リリースされたばかりのブラッド・オレンジ『Angel’s Pulse』に参加したこともサウンドを拡張させることに非凡な二人のミュージシャンからの引力が働いたからだろう。宅録でのトラックメイクを先行させながら、ライヴではあえてバンドに落とし込み別の角度からサウンドを変化させることも、音楽を構成する要素をできるだけ顕在化したバンドというかたちでパフォーマンスすることも、彼が『Outer Peace』でこだわった「消耗品にならない」ということに繋がっているだろう。そんな本作をリリースした直後の彼はフジロックでどんな演奏をするのか。実はすでにYoutube上で『Outer Peace』収録のいくつかの楽曲のライヴの様子は観ることができてしまうのだが、このトラックメイクに振り切ったアルバムだからこそ彼のこだわるバンドサウンドで、オンラインではなくオフラインで、直接体感してみたいのだ。(加藤孔紀)

■Toro y Moi Official Site
https://toroymoi.com/

Text By Koki Kato


FUJI ROCK FESTIVAL’19

2019/07/26(金)〜28(日) ※トロ・イ・モワは26日(金)出演
新潟県湯沢町苗場スキー場
https://www.fujirockfestival.com/

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