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ノスタルジーの先に生まれた、ミステリアスで未来的なR&B。
上半期のK-POP最重要作を紐解く!

18 June 2019 | By Daichi Yamamoto

ナマ音を強調したオーガニックなR&Bサウンド。その心地よいグルーヴは日本のシティ・ポップにも近くてどこか懐かしいのに、例えるならフランク・オーシャン『blonde』を聴いた時のような「今まで聴いたことのない新しさ」も感じさせる。

韓国のポップ・デュオ、15&のペク・イェリンのソロでのセカンド・アルバム『Our Love Is Great』は、”夢幻的”と形容されるカバーアートよろしく、ミステリアスな作品だ。いろんなジャンルの音が混じっているし、独特のゴージャスなプロダクションも印象的。K-POPと聴いてイメージしやすいダンス・ポップのハードさ、忙しなさや喧騒もない。前回紹介したジャンナビの「for lovers who hesitate(ためらう恋人たちへ)」とともに、今年上半期の韓国でのヒット曲の中では明らかに浮いている。けれど、ポップスとしての強度も十分で、リード曲「Maybe It’s Not Our Fault(それはたぶん私たちの過ちではないはず)」はチャート1位を記録した。今回はそんな興味深いポップ・アルバム、『Our Love Is Great』の魅力と謎に迫りたい。

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まず、この作品には韓国におけるシティポップとローファイ・ヒップホップの流行という二つの文脈との繋がりを感じた。「See You Again」は前者の最もわかりやすい例で、ディスコやジャズのフレーバーのある軽やかなグルーヴ、肩の力の抜けたペクの歌唱を聴いていると、竹内まりやの「Plastic Love」や松原みきの「真夜中のドア/Stay With Me」といった近年再評価される80年代の日本のポップスを直ぐに思い出してしまった。

実は韓国は、海外でのシティポップの再評価の中心地の一つだ。「Plastic Love」のフューチャー・ファンク・リミックスでこの動きを加速させたDJ・プロデューサーのNight Tempoや、80年代の日本のアイドル風コンセプトでソロ・デビューした元ワンダー・ガールズのユビンなど、上げていけばキリがない(この動きについてはまた別の機会に深く取り上げたい)が、昨年、久保田利伸「La La La Love Song」のシティポップ調カバーを公開したペクもまたその一人だった。日本語での歌唱は完璧というべきだし、ライブのセットリストにも度々入れられている様子からは、シティポップ、あるいは80年代〜90年代の日本のポップスへの愛が伺える。

一方で『Our Love Is Great』のレイドバック気味でチルなビートは、大ヒット曲「Instagram」やペクも参加した「Come Over」などローファイ・ビートの曲を多く持つDEANや、このアルバムでも「I Don’t Know」で共演したCar, the GardenといったR&Bシンガーたちともリンクする。

また先述の「La La La Love Song」のカバーが当初は「Mellowbeat Seeker」というローファイ・ヒップホップを始めとした韓国のアンダーグラウンド・ミュージックをストリームするYouTubeのチャンネルで公開されていた(現在は削除済み)ことも示唆に富む。ローファイ・ヒップホップといえば、日本のスタジオ・ジブリを始めとしたアニメーションのループと共に楽曲をストリームするYouTubeのチャンネルたちがブームのきっかけを作ったとされているが、この『Our Love Is Great』のオープニングを飾る曲こそ、米林宏昌監督を始めジブリ出身のスタッフを動員して作られた同名アニメ映画をモチーフにした「夜間飛行(魔女の花)」だ。「La La La Love Song」のカバーを「Mellowbeat Seeker」で公開することを提案したのは、ペクのソロ作品のパートナーであり、インディ・バンドBye Bye Badmanのメンバーでもある(以前はCHEEZEにも参加)プロデューサー、Cloudだというエピソードまで聞けば、このジャンルもまた近年のペク作品のバックに切り離せないものだったとわかってくる。つまり『Our Love Is Great』はそうしたK-POPの裏のトレンドをメインストリームのポップ・シンガーであるペクがCloudと共にハイライトした作品ともいえるのだ。

(Mellowbeat Seekerがペクの「La La La Lovesong」のカバーを公開した時のツイート)

ただ、これらの要素を並べただけでは、「今まで聴いたことのない新しさ」までは説明出来ない。それはシティポップが持つノスタルジーやローファイ・ヒップホップの空虚さを乗り越える、進歩的で未来的な感覚のことなのだ。

もう一度サウンドに注目したい。ほとんどの曲がBPM80〜90台、「Dear My Blue」に至ってはビートレスだし、ムード・チェンジする「Our Love Is Great」も”ゆるいビート”の象徴的なジャンル=レゲエを取り入れている。また、ベースラインのグルーヴやギターのカッティングが心地良さも印象的で、力の抜けたペクの歌い方とマッチしている。徹底して肩の力を抜くことで、このアルバムにはフランク・オーシャン『blonde』やソランジュ『A Seat at The Table』以降の新しいR&Bの感覚が宿っているのだ。

そしてもっと効果的なのが、全曲通して聴ける、トライアングル、エレクトリック・ピアノを基調にした、ゴージャスなエフェクトだ。R&Bではあまり聴いたことのないサイケデリックな音色が立体的な空間を作り出していて、ヘッドフォンを当てれば、目の前には、幻想的な音の海が広がる。その眩さは、K-POPを牽引するアイドル・グループたちのビビットな華やかさではなく、繊細でとても微かなもの。まだ誰も知らない、未来のどこかの景色だ。

過去と現在と未来がシームレスに繋がった『Our Love Is Great』はエクレクティックであり、実験的だ。こうして書いてみても「未来的な」音については正直まだ謎が解けたとは思えない。メインストリームとアンダーグラウンド、過去と未来…。無邪気に壁を取っ払ったからこそ、不思議なアルバムが出来たのだろう、ということはいえる。

ペクは昨年、CloudをはじめBye Bye Badmanのメンバーと共にThe Volunteersなるバンドを結成しており、公開されていたいくつかの曲ではシューゲイザーやグランジ的なノイジーなギターを鳴らしていた。だが、それもアルバムくらいのボリュームの作品が発表される頃には、誰も知らない新しい音へと変化しているのでは、と期待させる。そんなワクワクを届けてくれることこそ、ポップの醍醐味なのだと教えてくれる。(山本大地)

【MAP OF THE K-POP】
第1回 JANNABI
BTSやBLACKPINKとも肩を並べる人気バンドが聴かせる、現代に寄り添うレトロ・ポップ
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Text By Daichi Yamamoto

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