MAP OF THE K-POP : 15 May 2019

Jannabi

MAP OF THE K-POP : #1 JANNABI

By Daichi Yamamoto

MAP OF THE K-POP : 15 May 2019

Jannabi

MAP OF THE K-POP : #1 JANNABI

By Daichi Yamamoto

BTSやBLACKPINKとも肩を並べる人気バンドが聴かせる、現代に寄り添うレトロ・ポップ

「K-POP」という言葉は私たちに何をイメージさせるだろう。北米や北欧のソングライターとタッグを組んだ激しいダンス・ミュージック?歌や踊りを何年も鍛え上げる厳しい訓練生活やオーディションといったアイドル・カルチャー?ドラマの挿入歌などで聴ける壮大なバラード?K-POPは特定の音楽様式を指す言葉ではないし、一方で伝統的な歌謡音楽を歌う歌手や、インディ・ミュージック、アンダー・グラウンドなヒップホップ・ミュージックはK-POPには含まれない、という考え方もある。その言葉が意味するところはあまりにも曖昧だが、だからこそ多様で、カラフルではないか。

本連載では、日本でも名の知れたアイドル・グループから、アメリカや《88rising》を始めとするアジアのシーンと同時進行するヒップホップ、ローカルなインディ・ミュージックまで、毎回韓国の一つのアーティストやシーンにフォーカスする。BTSやBLACKPINKが世界を席巻するいまだからこそ、その背後にある、オルタナティブで、多様なK-POPのアーティストたち、そこへ到るまでに重ねられた韓国ポップ音楽の長い歴史について知る場所を広げたい。(山本大地)


「現代と違って、温かみ、人間らしさがあり、仕事を得るのに不安がないかのようにリラックスしている」。「レトロは新たなモダン」と題した今年3月のKorean Timesの記事にあった、いまの韓国の20代が持つ80年代の韓国へのポジティブなイメージだ。ソウル・オリンピックの年の韓国を舞台にしたドラマ『応答せよ1988』をNetflixで見た私も、日本の映画『ALWAYS 3丁目の夕日』のような世界に、まさに同じような気持ちを抱いていた。韓国ではその『応答せよ』シリーズ(同じタイトルで94年版、97年版も放送された)や同じく80年代後半を舞台にした映画『サニー』のヒットなどをきっかけに、2012年ごろからずっとレトロ・ブームが続いているという。ソウル近郊で育った92年生まれの5人組によるインディ・ロック・バンド、ジャンナビ(JANNNABI)はその象徴となっている。

ジャンナビ「for lovers who hesitate(ためらう恋人たちへ)」

オーディション番組『Superstat K』への挑戦を経て、2014年にEP『See Your Eyes』でデビューしたジャンナビ。ドラマ挿入歌もいくつかこなすなど着実に人気を上げたが、特に今年3月に発表したセカンド・アルバム『LEGEND』以降の勢いはまさに「現象」だ。アルバムはチャート7位を記録すると、リード・シングル「for lovers who hesitate(ためらう恋人たちへ)」は一ヶ月かけてチャートを上昇しBTSの最新シングルに次ぐ2位の位置を2週連続でキープ。新作だけでなく、過去のシングル2曲もトップ20まで上昇したし、初の全国ツアーは2分で完売、BTSのTwitterアカウントでも紹介されるなど、いま韓国中がジャンナビに夢中なのだ。だが、BTSやTWICE、BLACKPINKらK-POPの最前線のグループに混じってヒットを飛ばすジャンナビは、それらのグループとは違った景色が広がる場所へのドアを、そっと優しく開けてくれる。

ジャンナビ「Good Boy Twist」

ビートルズを意識して選んだ64年モデルのエピフォン・カジノのギターを中心としたレトロな音色に、EDMやトラップの影さえもないシンプルな楽曲の構造やプロダクション。メロディには、サイモン&ガーファンクルあるいは「グループ・サウンズ」なんて言葉もハマりそうな60~70年代のフォーク・ミュージック的な人懐っこさがある。時にこぶしを効かせて歌うチェ・ジョンフンのボーカルはトロットのような韓国歌謡にも近い。つまり、ジャンナビの音楽はK-POPという言葉も生まれる前の時代と地続きなのだ。

ジャンナビのレトロへのこだわりは徹底的で、例えば「for lovers who hesitate」のミュージック・ビデオはファッションや街並み、サヌリム(Sanullim)のレコードまで、80年代の韓国を思わせる要素が散りばめられているし、自分たちのファッションも音楽性に合うようにとヴィンテージものが中心だ。インタビューでも韓国で80年代ごろまでのバンド音楽に対して使われていた「グループ・サウンド」という言葉を使って自分たちを紹介するし、キム・グァンソク、ユ・ジェハ、サヌリムといった70~80年代に活躍したフォーク・シンガーやロック・バンドの名前を挙げながら「彼らの後に続くようなアーティストになりたい」と野心を明かしたり、その愛情はとても深いことがわかる。

70年代後半~80年代に活躍したバンド、サヌリム「Long Lost Memoriies Loom Beyond the Window (창문 너머 어렴풋이 옛생각이 나겠지요)」をカバーするジャンナビ

だがそんな時代錯誤にも思えるジャンナビの音楽こそが、現代の私たちのことを歌ってくれていると思うのだ。アルバム『LEGEND』を各曲聴いてみれば、鏡に映る自分を見て孤独や不安を感じる子どものことを歌った「Mirror」は「誰もが強くなる必要ない」と言っているようだし、「どうやって僕らは大人になったのだろう。毎日が重荷で / “少年よ大使を抱け”などと無責任な格言」と歌う「Dreams, Books, Power and Walls」は、あまりにも早く過ぎていく毎日に取り残された人たちの背中に優しく語りかける。韓国で今年1月から3月に放送されたドラマ『ロマンスはボーナストラック』では、離婚を経験し職も失ったヒロインの女性カン・ダニが、涙を流しながら幸せな結婚生活や夫との別れを回想するシーンのバックでジャンナビの「Take My Hand」が使われていた。そこでは優しく爪弾くギター乗せて「僕は見ることの出来なかった話 / もうその話をしておくれ」と歌うチェの歌声はセラピーのように響いていた。貧困、高い自殺率など、韓国の若者と似たような社会問題を抱える私たちにだって、「レトロ」という言葉を超えたタイムレスな輝きを聞かせてくれる。

ジャンナビ「Take My Hand」

ジャンナビの音楽を前にすると、「アイドル・グループを中心とした激しいダンス・ポップやラップ・ミュージック」というK-POPの主たるイメージに隠れた韓国のポップ音楽の長い時間の連なりが見えてくる。それは冒頭の言葉を借りれば、現代により、温かみ、人間らしさ、リラックスした心地を与えているのだ。


MORE FEATURES

  • FISHING THE BESTS : 18 September 2019

    youheyhey

    Fishing the Bests #3 〜Another Perspective〜

    By Daiki Takaku

    「音楽の聴き方を変えているのは間違いなくインターネット」先日TURNで行ったインタビューでYoung-Gもこう語っていたように、実際インターネット上で音楽を聴く、あるいはクラウドで音楽を管理することは

  • INTERVIEWS : 17 September 2019

    川本真琴&山本精一

    対談:川本真琴 × 山本精一
    「いろいろな曲がたくさん聴ける雑誌のようなアルバムにしたかった」

    By Shino Okamura

    悪いけど私はデビューした時から川本真琴のファンだ。だからわかる。彼女は決して衝動だけのアーティストなんかじゃないってことが。 それに気づいたのは、もう今から20年くらい前、彼女の正式なライヴとしてはお

  • INTERVIEWS : 16 September 2019

    Give me little more / MARKING RECORDS

    感度の高いショップが密集する城下町・松本のインディー文化
    カギを握る2軒の人気ショップ店主に訊く

    By Dreamy Deka

    サブスクリプション・サービスの普及と巨大フェスの定着によって、ぱっと見では隆盛を極めているようにも見える音楽シーン。洋楽・邦楽のメインストリームが盛り上がるのはもちろん素晴らしいことだけど、クラウドサ

  • FEATURES : 13 September 2019

    Belle And Sebastian

    映画と漫画と音楽から届いた手紙、私たちが過去を物語る理由

    By Koki Kato

    2020年公開予定の映画『Days Of The Bagnold Summer』のサウンドトラックがベル・アンド・セバスチャンの新作だという。誰かの過去について描くことで完成した新作、というべきだろう

  • BEST TRACKS OF THE MONTH : 08 September 2019

    Foals / Thom Yorke / Flea / Tohji / Alessia Cara / DIIV / The 1975 / South Penguin / Spinning Coin / First Aid Kit / Konradsen / 折坂悠太 / Oliver Tree

    BEST TRACKS OF THE MONTH – August, 2019

    By Hitoshi Abe / Si_Aerts / Sayuki Yoshida / Dreamy Deka / Shino Okamura / Kei Sugiyama / Daiki Takaku / Koki Kato / Hiroko Aizawa / Eri Mokutani

    The 1975 – 「People」 スタイリッシュでポップ、現代社会をクールに、かつ痛烈に切り裂くメッセージ性の強い歌詞、どこをとっても今最強で最高のロック・バントの一つであるThe

  • BRINGING THE PAST TO THE FUTURE : 06 September 2019

    Music From Temple

    〈プログレッシヴ〉の捨象したものが蘇る
    83年福岡産自主制作プログレを聴く

    By Yuji Shibasaki

    これまで一般にというと、テクニカルな演奏、複雑な楽曲構成、壮大で主情的なメロディーといった要素ばかりが取り沙汰されてきたきらいがある。それを抽出することをもってとして(一部カンタベリー系やジャーマン・

  • FEATURES : 04 September 2019

    Bon Iver

    バラバラになった何かをつなぐ最後の希望
    ROTH BART BARON三船雅也が綴る『i, i』に向けられたどうしようもなく美しい物語

    By Masaya Mifune

    ボン・イヴェール『i, i』に寄せて—— “これは1人のアメリカ人の男が絶望と孤独の淵から回復し、戻ってくる物語だった” 美しい自然と、黒く清んだ川がある。ウィスコンシン、オークレア。ジョン・プライン

  • FEATURES : 03 September 2019

    Jay Som

    Jay Som『Anak Ko』から考える、アジアン・アメリカン女性による”私たちの音楽”としてのギター・ミュージック

    By Nami Igusa

    90年代のオルタナ・ロックというのはある種、サウンドの荒っぽさゆえ、雄々しいイメージとは不可分であることは否定できない。いや、もちろん、ピクシーズのキム・ディールやソニック・ユースのキム・ゴードンとい