第4回
みんな、元気にしてる?
コロナ禍に楽しむ菅原慎一流定番アジア・ポップ10選
「現地にいかない限りは書けない」
そんな気持ちでこの連載をスタートさせた。実際に自分の頭と手足をつかって、感じ、学ぶ。自分の実体験として伝える。それがポリシーだった。
最後に台湾へ行ったのは2020年の2月、もう1年半以上も前なのか。ウイルスの猛威は止まらず、僕たちはなればなれになったまま、孤独な時間を過ごしている。アジアへ行って得ることのできた新しい価値観が、元へと戻ってしまいそうだ。
そんななか、僕はひたすら過去の音楽を遡って聴くという作業に没頭している。この現実から逃げるように、いや、さらなるあたらしさを求めるように。過去といっても、東アジア各国で都市性を帯びたポップミュージックが展開されはじめた、1970年代以降のもの。近過去といえばいいのかな。
インターネットがあることが、希望を繋ぎ止めていることを認めよう。古本やCD、カセット、もちろんレコードも。当時の証言をブログに残してくれている人へも、感謝の気持ちを伝えたい。
●Sheila Majid
Sinaran
シーラ・マジッドはアジアポップシンガーの頂点の一人だが(だからこそ)、日本国内で比較的安くCDを手に入れることができる。80年代後期は鉄壁のサウンド。
●Ella Del Rosario
Mr. Disco
マニラのスター、Hotdogのボーカルがソロとして吹き込んだ「Mr. Disco」。希望に満ちた時代だなぁ。なんだか涙が出てきそうになる。
●เต๊ะ โชคดี พักภู่
อยู่ว่าง ๆ มันเซ็ง
タイの著名な音楽家Chokdee Pakphu。この曲が収録されたレコードのカバー(卵の殻が割れて本人が顔出してる)が最高にユーモラスで、そこから彼にハマった。
●วงทัวร์
ชิดทรวง
วงทัวร์(TOUR ON TWO)は、トムトム・クラブ好きにもおすすめしたいシンセポップ。Discogsには無いが、当時人気で枚数が出ているようで、インターネットを介して入手することはできる。
●林憶蓮
夜生活
この一年、もっとも聴いたシンガーの一人、Sandy Lam。これはKaryn Whiteの88年作「The Way You Love Me」カヴァー。広東語でニュージャック・スウィング。当時の香港でのBabyface人気は日本以上かしら。
●Paul Mauriat
You don’t know me
あのポール・モーリアが、台湾でこんな作品をリリースしていた。ニューエイジ再評価を通過した耳で今こそ聞きたい、理想的なオーケストレーション(編曲)。
●Dick Lee
Rasa Sayang
運が良ければ100円で手に入るディック・リー黄金期。できれば日本語解説付きのCDを買ってみて。彼から元ネタを探れば、シンガポールの複雑性やアジアの古典をくまなく学ぶことができる。
●林依輪
愛在2000
北京や上海の若者の動きを追っているうちに、彼ら彼女らの親世代がいかに挑戦的だったかを知ることになった。リン・イールンは、かつて「マンドポップ」と呼ばれた音楽ファンにとってはお馴染みの存在かもしれないが、自分にとっては「スタンフォード・リンのお父さん」。
●Stanford Lin
Promises Prelude
中国のことはWeiboで知る、という時代はとうに過ぎた気がしている。インスタでの彼のポストはいつもクール。
●黃韻玲
做我的朋友
もはや自分のまわりでは定番化しつつあるレジェンド。《UNLIRICE》でのインタビュー、面白かった!
今回はただのプレイリストの羅列になってしまったけど、時間と場所の制約がなくなった今だからこその、フラットな視点がおりこまれていることに、ちょっとしたおもしろさを見出してくれたらうれしい。
フリーランスのミュージシャンという職種上、2週間後の予定もうまく立てられないなか、千葉県在住30代という事情もあいまって、未だにワクチンを接種できていない。これを読んでいるみなさんは、もう打ちましたか? そもそも打たない判断をした方もいるでしょうね。あらゆる価値観を見下さず、尊重したい。自分まわりの「流れ」を感じとると、年内は積極的にステージに立つことはできないなと思う。残念ながら。今は映画の劇伴制作を2つ併走させながら、より裏方的な仕事に意識的に取り組んでいる。大きいこというと、この機会に凝り固まったアーティスト像や音楽家像を変えちゃいたい!
次回は1ヶ月後の更新をめざす。常に心くばりをしてくれる編集部のみなさんに感謝。(菅原慎一)
Text By Shinichi Sugawara
菅原慎一 連載【魅惑のアジアポップ通信】
過去記事(画像をクリックすると一覧ページに飛べます)