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「音楽の世界にあるスノッブさのようなものはどんどんエリミネートしていきたい」
mouse on the keysの最新作『midnight』に参加し来日も決定!
ロレイン・ジェイムス インタヴュー

01 November 2024 | By Daiki Takaku

現在最も評価されるロンドンのプロデューサーの一人、ロレイン・ジェイムスは、影響を受けたというDNTELやテレフォン・テル・アヴィヴ、アメリカン・フットボール、ティンバランドなど幅広い音楽を独自に再解釈した先鋭的なエレクトロニック・ミュージックで世界を驚かせながら、同時に自身の過去に向き合ってきた。その作家性は、とりわけKode9率いる名門《Hyperdub》からリリースされた3つの作品を聴いてみるとわかりやすいだろう。2019年の『For You And I』では失われた景色に、2021年の『Reflection』ではパンデミックの最中で労働者階級出身のクィアな黒人女性という自らのアイデンティティに、2023年の最新作『Gentle Confrontation』では早くに亡くなった父親との記憶など、さらにプライヴェートな思い出に、ジェイムスは向き合い、音に変えてきた。そして、過去と向き合うことは、社会──ジェントリフィケーション、人種差別や偏見、トラウマなどの問題を含む──と向き合うことでもあると、その音楽は教えてくれる。

そんなロレイン・ジェイムスは『Gentle Confrontation』でも共作するmouse on the keysの4作目にして最新作『midnight』の2曲に参加。11月20日(水)に東京《EX THEATRE ROPPONGI》にて開催される『4th Full Album midnight Showcase -FRACTREGION Vol.3-』にも来日し参加することが発表された(チケットはこちらから:チケットぴあe+ローチケ)。TURNでは、このタイミングで前回の来日時(2024年5月)に収録したインタヴューをお届けする。ジェイムスは、いかなるスタンスで音楽と、表現と相対しているのか、ジェットラグで少し疲れの残る様子ではあったが、とても真摯に語ってくれている。“ロング・ジャーニー”と自ら表現するその音楽人生を垣間見て欲しい。
(インタヴュー・文・写真/高久大輝 通訳/染谷和美)

Interview with Loraine James

──タワーレコード渋谷店で購入したものの写真をXにポストしていましたね。あなたが敬愛しているであろうスクエアプッシャーやエイフェックス・ツイン以外にも宇多田ヒカルやレイ・ハラカミ、toe、DOUBLEといった日本人アーティストの作品のCDがあって驚きました。

Loraine James(以下、L):DOUBLEに関してはUKでは入手が困難なんです。オンラインで買うとすごく高いからね。それで昨日タワーレコードをウロウロしていたときにここならあるかもしれないと思い、「このCDありますか?」って聞いて。今年は彼女のアルバムをすごくよく聴いていて、(5月の来日の)2ヶ月前にヴァイナルをオンラインで購入したんだけど、CDでも欲しくなって買ったんです。

──日本のR&Bへの興味が増しているんですか?

L:これは本当に偶然なんだけど、去年の夏にベルリンに行ったとき、漠然とエレクトロ系の作品を探そうかなと思ってあるレコード店に入って、アリーヤのヴァイナルを見つけて買ったりしていたとき、シャイアン(Cheyenne)というアーティストの作品と出会って。「面白そう!」と思ったけど、とりあえずそのときは買わずに写真を撮っておいたんです。そのあとしばらく忘れていて、その写真が出てきたときに「そういえばこんなのあったな」とあらためて調べると日本のものだったんです。その辺りをきっかけにいろいろ聴いていたら日本のR&Bの沼にハマってしまって(笑)。

──オンラインで簡単に音楽を聴くことができる時代にCDを買って聴くのはあなたにとって自然なことですか?

L:15歳くらいの頃、ロンドンにHMVがあったからよくインディーバンドのCDを買っていたんです。フォールズとかね。いっときCDがなかなか出ない時代、CDが手に入らない時代もあったので、そういう時期は別として、この先SpotifyやApple Musicはどうなるかわからないし、ちゃんと現物がある方が私は好きなんです。今はヴァイナルがよくリリースされているから、ヴァイナルを買うことも多いですけどね。

──ストリーミングだといつ聴けなくなってしまうのか不安ですよね。では、ここからはあなたの音楽について話しましょう。あなたが住んでいたエンフィールドのアルマ団地はジェントリフィケーションの影響で無くなってしまったそうですね。特に『FOR YOU & I』は今はないその場所に捧げられた作品でもあると過去のインタヴューで話していました。そういった喪失の経験と向き合うことの価値を最新作である『Gentle Confrontation』からも感じます。

L:間違いなく繋がっています。あのエリアにいくと、昔そこにあった建物のほとんどが無くなってしまっていて、行くたびにすごく憂鬱な気持ちになってしまうんです。自分の育った思い出の場所が見る影もない。でも、子どもの頃はそんな気持ちを整理することができなかった。まさに『Gentle Confrontation』でもそういった感情に向き合おうとしているんです。『Gentle Confrontation』というタイトルはそういった意味で。子どもの頃はよくわからなかったことを大人になってから考えているような状態。その当時は完全に思いがけずにそうなってしまったけれど、それを経たからこそ私はどうなったのかということを考える、昔の気持ちを改めて整理する、『Gentle Confrontation』はそんな作品になっているんだと思います。



──実際「2003」では亡くなったお父様について言及しています。父の死など苦しい思い出と向き合う具体的なきっかけはあったんですか?

L:『Gentle Confrontation』はこういう作品にしようと思って作り始めたわけではなく、曲を書いているうちに段々見えてきたんです。あらかじめ自分の過去の感情と向き合おうと思って作ったわけではなかった。でも考えてみると、私の場合、例えば父がなくなったのは約20年前で、今は28歳になったわけですけど、その間にずっと音楽をやっていたわけではなかったから、音楽に本腰を入れるようになって音楽を通すことで、そういった過去を振り返ることができるようになったのかもしれません。父が亡くなったとき自分は子どもで、そのときの気持ちを自分で整理することはできなかったと思うからね。

14曲目の「Disjointed (Feeling Like A Kid Again)」という曲もそういう曲で。実は最初は父についての曲は母には聴かせなかったんです。やっぱり自分の気持ちをさらけ出している曲を母に聴かせるのは抵抗があったからね。でも結果的に母の耳にも届いて。私がそれを曲にして表現したことにすごく感動したと言ってくれたんです。



──子ども時代のことと冷静に向き合っているとはいえ、とてもエモーショナルですよね。感情的なことを音で表現する上で意識していることはありますか?

L:それができるようになるまですごく時間がかかったような気がします。アルバム毎により自分の感情や傷つきやすい部分をさらけ出すことができるようになってきたんじゃないかな。曲が“Song”として出来上がった段階で冷ややかな印象を受けたりする場合は曲と自分の関係性がまだ深まっていないからなんだろうと感じていて。そこから時間をかけて曲にいろんな要素を加えていく中で、自分と曲がどんどんコネクトしていく。その中で感情が音に表れていくんだと思います。

──つまりご自身で作曲していても、段階的に感情が表れていくと。

L:その通り。決して1回ではっきり出来上がることは無いんです。例えば「2003」という曲に関しても、最初の段階ではああいった温かみの感じる曲では全然なくて。ラップを入れてしまおうかと思ったくらいで、割と楽しい曲になるんじゃないかと思っていたけど、それが段階を踏んでこんな形にまとまったんです。

──いくつかの過去のインタヴューで影響元にアメリカン・フットボールの名前を挙げていたのが印象的で、さらに『Gentle Confrontation』には「One Way Ticket To The Midwest (Emo)」という曲もあり、ミッドウェスト・エモと呼ばれているジャンルを思い出しました。

L:やっぱりその辺の、自分が楽しんで聴いてきたものから受けた影響が、アルバムをいくつか作る中で段々正直に出せるようになっていっている気がします。その中にはもちろんミッドウェスト・エモと呼ばれるものも入っています。その曲にも参加してくれた私の友達のコーリー(Corey Mastrangelo、Vasudevaのギタリスト)もミッドウェスト・エモに詳しかったりして、彼と話したりして音楽を作ることも私にとってそういった影響を自分の曲に入れて表現する助けになりました。

私はエレクトロやR&B、ロックなど、たくさんのものに影響を受けいて、それをすべてひっくるめて自分の思うような形で、音楽の中で表現できるようになるにはやっぱり時間がかかるんじゃないかな。ロング・ジャーニーになると思うんです。

──『Gentle Confrontation』ではあなたの歌の印象も強いです。歌うことには慣れてきましたか?

L:もともとあまり歌うことに自信がなくて。シャイだし、サウンド・チェックで声を出したりしてもライヴで実際歌うのはやめておこうかなって思っちゃうタイプだったんです。でも『Gentle Confrontation』ではたしかに結構歌っていますよね。結果的にそうなった形なんだけれど、私の人生のことだからゲスト・ヴォーカリストに歌ってもらうよりも自分で歌う方が筋が通る、そんなアルバムになりましたね。

声を使うことに対してある程度慣れてきたのもあるのかもしれないし、自信が持てるようになったのかもしれないし……理由はいろいろあると思うけど、楽しめるようになったのは間違いないです。だけど、やっぱり自分をさらけ出しているような感覚は残っています。

──ライヴ(5月の来日公演)にXでメッセージをくれた人を招待するとポストしていました。日本でも経済的な格差は広がるばかりの中、そのような行動にとても感銘を受けました。あなたの労働者階級出身というアイデンティティとも関わりのある行動かと思います。

L:その通り。チケットは決して安いものじゃ無いし、チケット代だけでなく、その街まで行くのにもお金がかかりますよね。ロンドンでもそういった話はよく聞くんです。なにもかもがとにかく高いって。そういった状況に対して、全く無料とはいかなくとも、投げ銭のような形でライヴをやっている人もいます。

今こうやっていろんな国を回っていてもどこの国もインフレでいろんなものが高いから、楽しみたいけどお金がなくて難しい人がいることはわかっているので、大変だという人に対してはせめて自分のライヴに行くためのお金だけでも助けてあげられたらなって思うんです。私も昔は本当にお金がなくて、チケットが買えずにライヴに行けなかったことがあるしね。

──労働者階級出身というだけでなく、黒人として、クィアとして、マイノリティとしてあなたが音楽シーンで活躍することはリスナーにとても勇気を与えていると思います。周囲に起きた変化などは感じていますか?

L:あまり進んでいないように感じることもあるけど、すごくゆっくり変化しているんだと思う。特にダンス系のエレクトロニック・ミュージック・シーンに白人男性が圧倒的に多いこと云々も含めて、違った背景を持った人々にとってライヴはすごく行きにくい、そういった雰囲気的な問題があります。金銭的な問題も含め、私は様々な背景を持つ人々にどんどん来て欲しいから、さっき言ったようなこともしていて。それに今は音楽を聴くこと自体もすごくお金がかかってしまう。以前は自分も海賊版で聴いたりしていたくらいです。さすがに今はもうやらないけどね(笑)。とにかく、なんらかの形で音楽をより聴きやすいものにすることでサポートしていきたいと思っています。今、UKだとフィジカルが25ポンドくらいして、やっぱりそれは高いですよね。でもだからと言ってデジタルの配信で聴くのも決して安くはない。ということになるとみんなタダで聴ける方に行ってしまう。それは理解できるから、値段を抑えるために何かできることがあるのなら、という観点をいつも持つようにしています。

──このような状況でこれから音楽を始めようという若者たちにアドバイスできることはありますか?

L:今はスマホで使える音楽制作のアプリもあって、スティーヴ・レイシーのようにGarageBandで作ったりすることもできる。そういった形でお金をかけずに作る方法は今はいっぱいあると思うんです。この前Hikariというノイズ・ジャネレーターをブラックフライデーで買って導入したりもしたけど、私自身もお金はできるだけ掛けないで作ろうと本当に思っていて。例えば5,000ポンドつっこんで作ったようなアルバムがあったとしても、聴く側の立場で結局それがわかるかといったらわからないだろうし……もちろんわかる人もいるかもしれないけど、それって本質的な問題じゃない。「こんなに大勢のアーティストが参加している」とか、高いものを使った方が音は良くなるという考え方とか、たしかにそういう部分はあるかもしれないけど、私はそうじゃなくても良いものが作れるということを伝えたいんです。これ見よがしに「カッコいいことをやっています」という姿勢が一番嫌で、そういった音楽の世界にあるスノッブさのようなものはどんどんエリミネートしていきたいなと思っています。例えば生演奏したものを使わずラップトップだけで作っても十分良いものは作れるし、ラップトップで聴いても良いものは良い。

──では最後に、パンデミックが明けてからいろんな場所を訪れてライヴやDJを行ったと思うのですが、特に印象に残っている場所やエピソードなどあれば教えてください。

L:パンデミックが明けてまた外国に行けるようになったタイミングくらいでそれまでやっていた教員の仕事を辞めて。だから『Refrection』以降は結構ライヴをやるようになったんです。パンデミック明けで特に憶えているのは《Rewire》というオランダのフェス。この頃はまだパンデミックの影響下にあったから着席のライヴだったんですけど、お客さんにもやっと自由にコンサートに来られる!という雰囲気が漂っていたし、街も会場も素敵で、とても記憶に残るライヴになりました。『Refrection』はパンデミック中に家の中で1人で作ったアルバムで、嫌で嫌でたまらない状況の中で作ったアルバムだったから、パンデミック・アルバムっていう言い方はしたくなかったんだけど、ああやってライヴをやることで受け入れられるような気持ちになったんです。



<了>

Text By Daiki Takaku

Photo By Daiki Takaku

Interpretation By Kazumi Someya


Loraine James

『Gentle Confrontation』

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https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13437


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