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曽我部恵一や奇妙礼太郎からも愛されるリ・ファンデ
ソロ名義によるEPで再出発

04 December 2019 | By Dreamy Deka

サニーデイ・サービスの曽我部恵一にその才能を見出され、2017年1月にソロ・プロジェクト、Lee&Small Mountainsとしてアルバム『カーテン・ナイツ』でデビューしたリ・ファンデ。オーセンティックなソウルミュージックをベースに、ほのかに甘い炭酸水のようなポップセンスを思いっきり弾けさせたこの作品は、筆者にとってどこか懐かしく、しかし驚きに溢れた一枚だった。例えば80年代の佐野元春や、90年代の一時期に小沢健二が放っていた、心の底から放たれるまっすぐな光。音楽も社会も複雑さを増していく一方のこの時代に、そんな輝きと出会うことになるとは思ってもいなかったからだ。

ファーストアルバムのリリース後は在日ファンク、シアターブルック、SCOOBIE DOといったファンキーミュージックの大御所たちとの共演を重ねてきた彼だが、ついに満を持して新曲『熱風の急襲』を12月4日にリリース。小林直一(Mountain Mocha Kilimanjaro)、小口健太郎(Wanna-Gonna)、村上基(在日ファンク) 、田中優至(THE ZOOT16)といった手練・気鋭のバンドメンバーに加え、インディーシーンで注目を集めるSaToAのメンバーがコーラスで参加している。聴き手の内側に温かく触れるメロディセンスは前作と同じまま。しかし、日常の中で見過ごしてしまいそうな、ささやかだけど大切な心象風景を切り取る解像度がグッと上がった、確かな成長を感じる楽曲となっている。

今回のインタビューでは、ニューシングルについてはもちろん、リ・ファンデというミュージシャンの軌跡とこれからの展望について語ってもらった。(取材・文/ドリーミー刑事)

Interview with Lee Hwangdae

——2017年に《ローズ・レコーズ》からLee&Small Mountains名義でリリースした前作『カーテン・ナイツ』がキャリアのスタートですが、それまではどのような活動を?

Lee Hwangdae(以下、L):青学(青山学院大学)の軽音の友達と結成したバンドが最初です。当時、僕は地方から出てきたばかりで『ROCK IN JAPAN』フェスのヘッドライナーになるようなバンドを聴いてました。一方青学って付属高校から上がってきたシティボーイがいっぱいいるんですね。そういうやつらにブラック・ミュージックを教えてもらったことで、自分の中にソウルボーイっぽさが醸成されてきたんです(笑)。それで友達とLee&Small Mountainsという名前でバンドを始めてマーヴィン・ゲイのカバーしたり。

——オリジナル曲を演奏したのは?

L:大学3年生の秋くらいです。最初のセッションの時から『カーテン・ナイツ』にも入っている「タイムスリップ」や、「ダンスナンバー」はありましたね。すごく手応えもあったし、一生懸命やりたいという気持ちがあったんですけど、ライヴハウスのノルマとか色々な壁があってみんなの足並みがそろわずに、バンドは自然消滅してしまいました。

――振り出しに戻ったってことですね。

L:そうなんです。で、その後僕はイギリスに留学してプライマル・スクリームとかポール・ウェラーとか、現地で刺激を受けて、やっぱりまた俺もやりたいなと思って。もう就職していた解散前のメンバーや大学の後輩を誘って第二期Lee & Small Mountainsを始めるんですけど、やっぱり方向性に違いが出て、うまくいかず。自主企画やったり音源出したり、活動としては前に進んだんですけど、当時のゼロ年代、テン年代カルチャーみたいシーンに食いこんでいけなかったというか…。そこで2014年にいったんバンドとしての活動はもう止めよう、これからはソロプロジェクトとしてやろう、という結論になったんです。

――ソロプロジェクトとして再スタート後、ローズレコーズからデビューします

L:そうです。ソウル色の強い音楽をつくろうと思って、Mountain Mocha Kilimanjaroのボブさんとかに声をかけてデモテープを作りました。それを曽我部恵一さんが主宰する《ローズ・レコーズ》に送ったらすぐ返事が来て、アルバムをつくろうよという話になったんです。

――あのアルバムではレーベル・オーナーでもある曽我部恵一さんはプロデュースではなく「監修」というクレジットになってますよね?

L:実際はプロデュースに近いものだったと思います。アルバムに収録する曲も選んでくれたし、レコーディングにも立ち会ってくれたり、ヴォーカルの録音とかもやってくれたし。音数の多さに負けないようにエンジン全開で行け!ってアドバイスされてましたね。

――それにしても『カーテン・ナイツ』は本当に名盤でした。作り終えた時の手ごたえは?

L:いや、悔しい気持ちが強かったですね。一切妥協せずに、一生懸命やったんですけど、自分の思い描いていた理想とする音楽とは差があった。特にヴォーカルが。

――それはちょっと意外ですね。ちなみにその時に理想とするヴォーカルとして頭に置いていた人はいますか?

L:やっぱり曽我部さんとかライヴで共演してもらっていた奇妙礼太郎さんですね。歌詞をちゃんと届けて、聴く人の琴線に触れることができる人。そういう意味で『カーテン・ナイツ』を作った時は、一生懸命やる、というところまでしかいけなくて。超えられない壁を実感しました。

――でも、その壁を越えようと必死にジャンプしたりもがいたりしている姿こそが、あのアルバムに特別な輝きをもたらしていたような気がします。

L:音楽に対して情報量の少ない環境で育って東京に出てきた僕という人間が、曽我部さんや奇妙さんとぶつかり稽古をして、初めて彼らの感覚を知ったという感じです。実際、曽我部さんはちょうど同時期にサニーデイ・サービスの『DANCE TO YOU』をレコーディングしていて、言ってみれば同じ土俵で作品を作っていたわけで。それまでリスナー側だった自分が初めて表現者として、彼らが超えている基準のようなものを肌で感じた。

――一方、アルバムというものをリリースすることによって得られた反応や効果のようなものもあると思うのですが

L:やっぱりあの作品を作ったことで、ミュージシャンとの繋がりが広がりましたね。SCOOBIE DOやシアターブルック、東郷清丸君と共演させてもらうことができたのもあの作品があってこそだと思うし。あと、レコーディングを通じてバンド・メンバーとの関係も変わりました。「こいつちゃんと頑張れるやつだな」という信頼を得ることできたと思います。

――今回はほぼ3年ぶりのリリースですが、結構時間がかかりましたね。

L:ファーストを出した時点では、セカンド・アルバムは半年後に出す!という気持ちだったんですけど、思ったより曲を仕上げるのに時間がかかりました。あと、リリースしてくれるレーベルとの話も進まなくて。

――今回はレコード会社に頼らない自主リリース。不安はないですか?

L:そうですね。でも、そもそも僕はソロ・アーティストでありながら、他のミュージシャンとセッションして、話し合いながらじゃないと作品を作れないんです。良い作品をつくるための手段としてコラボレーションがあるんじゃなくて、誰かと一緒につくることが音楽をやる目的そのものでもあるんですね。なので自分がレーベルオーナーとして制作を含めたあらゆる場面で矢面に立っていろいろな話をしていくということは、すごくいいやり方なんじゃないかなと思ってます。

――アーティストとしての名義もLee&Small Mountainsという看板を下ろして本名になりました。

L:バンド時代からずっとキーボードで参加してくれていた子がLee&Small Mountainsの活動から完全に離れることになって、オリジナル・メンバーがいなくなっちゃったんです。今までは心のどこかでオリジナル・メンバーが帰ってくるんじゃないかという思いもあって名前を変えずにやってきたんですけど、もうそれもないな、と。ならばもう甘酸っぱいモラトリアムな気持ちは捨てて、一人のミュージシャンとしてもう一回やるぞ、という決意や覚悟を表してみたんです。

――でも、そういう甘酸っぱい感じが、今までのLee&Small Mountainsの表現の一部でしたよね?

L:そうですね。でも、これからのリ・ファンデの音楽は、今自分が感じていることや考えていること、今こういう音楽をつくったらおもしろいんじゃないか、という基準で音楽をつくろうと思っています。

――その門出を飾るのが今回のシングルですが、この2曲を選んだ理由は?

L:「熱風の急襲」はA面にしようって最初から決めてました。ここには今の自分が一番伝えたい気持ちが入っているから。

――一番伝えたい気持ちとは?

L:音楽でも買い物でも、情報やデータに基づいた誰かのレコメンドに基づいた行動を取らざるを得ないのが現代だと思うし、僕自身もその恩恵を受けて生きているんですけど、やっぱり人生の醍醐味とか生活の楽しさって、予期せぬ出会いとか過去のデータによらないところにこそあると思うんです。例えばロックを始めた時の衝動とか恋人との出会いって、急にやってくるものだし、大事な判断も結局は感覚とか直感が大きい。でも、「感覚で決めました」「ただ好きなんでやってます」って、大人になるとなかなか言えないですよね。

――確かに。

L:あと、ちょうどその頃、昔一緒にバンドをやってた奴が、ある女の子を好きになって、仕事の帰りに待ち伏せして告白した、という事件もあって。もう30歳過ぎてるんですけど。でもこれはまさに「熱風の急襲」だなと思って(笑)。そんなきっかけでできた曲です。

――熱風という単語はポジティブでもあるし災いという意味もある、ギリギリの感覚ですよね

L:そうなんです。夢中になったり好きになったりするものでも、最初のきっかけが訪れた段階では、誰でも急襲される側だと思うし、最初から全肯定できるわけではないと思うんです、音楽も恋愛も。「この異物感はなんだ?」とか「この人のことあまり知らないけどなんなの?」とか戸惑っているうちに、気が付いたらどっぷりつかったり好きになったりしてる。データ分析に基づくレコメンデーションの外側からやってくるもの、それが熱風なんじゃないかな。

――B面の「イントネーション」は?

L:今の世の中、断片的な情報で断定するという傾向が強くなっていると思うんですけど、やっぱり目に見えないものとかいくら調べてもわからないこととかってあると思うんですよね。例えばポール・マッカートニーやサム・クックが歌っていたことの真意や本心とか。でも、きっとこういうことを歌ってるんじゃないかな?ってつい想像してしまうところに、音楽の面白さとかロマンティックな部分があるし、日常の生活の中でそぎ落とされてしまうその感覚や大らかさを思い出すということも大切だなって。そういうメッセージです。

――今回の2曲は両方ともSaToAのSachikoさんとTomokoさん姉妹によるコーラスが印象的です。参加の経緯は?

L:まずとにかく僕が彼女たちの音楽が好きなんですよね。まったく予測ができない、ものすごくクリエイティヴでユニークなところが。なので今回の2曲は彼女たちのコーラスが入ることが前提に用意した感じです。コーラスのアレンジもみんなで歌いながら一緒に考えていきました。

――今回の楽曲にはリさんらしい瑞々しさもありながら、大らかさとか想像力を大切しようという思いが演奏やコーラスにも染み渡っているように感じます。

L:去年、武蔵小山でイ・ランのライブを観たのも大きかったかもしれません。それまで僕はサウンド至上主義というか、ちゃんと演奏してちゃんとかっこよくなきゃいけない、という思いが強かったんですけど、イ・ランさんは根本的に感覚が違う感じがしたんですよね。それを観て、やっぱり音楽は自由だし、歌い手に伝えたいことがある音楽っていうのは強いなと思ったんです。『カーテン・ナイツ』の時は、《ローズ・レコーズ》に声をかけてもらった期待に応えてちゃんとしたものをつくらなきゃ、ということでいっぱいいっぱいの部分があった。でも今は、自分が伝えたいものを歌に込めて、それを表現するということができたように思います。

――次はアルバム制作ですね。

L:2020年の春くらいに出したいなって思ってます。とにかくまっすぐに思いを込めて、目の前のことを全力でやって、その姿をみんなに見てもらう。それだけに集中したいと思います。<了>

Text By Dreamy Deka


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リ・ファンデ(Lee Hwangdae)

熱風の急襲

LABEL : Lee Hwangdae
RELEASE DATE : 2019.11.26(配信)、2019.12.04(7インチ・シングル)

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