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三宅唱 x Hi’Spec x OMSBが語る、共に過ごす日々が紡ぐ、尊敬と信頼のクリエイティブ~映画『きみの鳥はうたえる』Blu-ray&DVD発売記念インタビュー

12 May 2019 | By Daiki Takaku

ヒップホップの曲作りの過程を収めたドキュメンタリー『COCKPIT(2014年)』でも既にその音楽への熱を迸らせていた映画監督・三宅唱。そしてその出演者でもあり今や神奈川県は相模原を代表するヒップホップ・クルー、SIMI LABやGHPDなどのメンバーとして共に活動しているビートメイカー・Hi’Specとビートメイカー/MC・OMSB。映画『きみの鳥はうたえる』はそんな普段は映画と音楽、お互いが別のフィールドで活躍する彼らが共鳴し合い、惹かれ合ったひとつの結晶なのかもしれない。TURNではそのBlu-ray&DVDの発売を記念し行われたパーティー(レポートはこちら)の直前にインタビューを行った。和気藹々と語るその雰囲気にはMVや映画での共作のみならず様々な場面を共有してきた中で生まれた信頼感が滲んでいたように思う。同時にそれは彼らがこの“永遠に続くかのような夏”を描いた素晴らしい映画を作り上げたことと決して無関係ではないことを伝えているだろう。(取材・文/高久大輝 写真/服部健太郎)

ーーまず映画のBlu-ray&DVDが出るに当たってこういったリリース・パーティーをやるって試み自体が珍しいですよね。

三宅唱:「いずれパーティーができたらいいね」って話は結構前からしていて。ただ劇場公開中は、あくまで映画作品だから映画そのもので勝負したいと考えていたので、イベントはやりませんでした。あとでオマケ的にパーティーもできたらいいねと。それで今回はソフトリリースというタイミングだし、以前から縁のあった恵比寿《BATICA》さんの8周年というタイミングと合ったのと、個人的にはHi’Specが毎日映画コンクールで音楽賞を受賞したお祝いの意味が一番ですね。

OMSB・Hi’Spec:お祝いです。

ーー本当におめでとうございます。受賞されたHi’Specさんは現在公開中の映画『ワイルドツアー』でも音楽を担当されていますが、映画音楽を作るにあたって意識されていることなどはありますか?

Hi’Spec:作る音楽が変わった部分はありますね。それまで作ってきたものは“自分のトラック”で、それだけを聴かせますけど、映画の場合はもちろん映像ありきの状態からなので感覚が違っていて難しくて。その点は三宅さんにかなり相談しましたね。

三宅唱:Hi’Specの音楽をわかりやすく喩えると、天国みたいなトラックと地獄みたいなトラックがあって。どちらにせよ、死後感なんだけど。天国っぽいトラックのメロディがいつも、人類滅亡前後の世界をものすごくうっとりした気分で見つめているような感じで、それってすごく映画のエモーションと相性がいいよなあと前から思っていたんです。今回の映画は、人類滅亡ほど大きな話ではないから、そのニュアンスが難しかった。強すぎても鼻につくし、弱いと意味がないし。その辺りは言葉にできないね。

Hi’spec:うーん…色々考えはするけど、結局は感覚的に2人が気持ちいいところを探した感じで。

三宅唱:今までHi’Specとは『密使と番人』、『きみの鳥はうたえる』、『ワイルドツアー』の3本をいっしょにやってきて。まずは「柔らかめ」とか言葉からスタートして、だけどその感覚も少しずつ違っているので、徐々にすり合わせていって最終的に言葉はいらなくなるような。映画作りで面白いのは、OKテイクの瞬間って何がどうだからとか説明できないんですよ。言葉にできないから、OKなのかもしれない。それは自分の感覚を信じることでもあるし、相手を信じることでもあると思っていて。それをこの映画では撮影中には役者たちとも味わえたし、編集段階ではHi’Specとも味わうことができたと思っています。

Hi’Spec:味わうことができましたね。

ーー普段から共に活動しているOMSBさんから見て今回の受賞などについて思うことはあったりされますか?

OMSB:最高で、本当にすごく嬉しいなと思う反面、「色々うまくいってんな、超羨ましいな」と思ったり(笑)。ただ自分が今温めているコトが間違いないとわかってるから、覚悟しとけよ!って感じですね。

"この映画には、ただただ楽しんでいるシーンが絶対に必要だった"

ーーHi’Specさんの作る音楽に対しては感じることなどございますか?

OMSB:それはいつでも変わらずにお互い言い合ってますね。

Hi’Spec:話し合うとかではないけど、できたものを聴かせて「ヤバいね」とか「これはこうした方がいい」とか言い合うことはずっとあります。

ーー劇中はもちろん、Blu-ray特別版の特典映像でもお二方のライブを含むクラブでのシーンを楽しむことができますが、映画のシーンとして意識されたことや監督の方から演出した部分はありましたか?

三宅唱:僕は2人を呼べば間違いないシーンが撮れると思っていたのでそれ以上特に何も言った記憶はないですね。

OMSB:もうオファーを頂いた時点で「OMSB&Hi’Specのライブをやってくれ」という話だったので、(映画だからという理由で)特に何かすることも無くて。

三宅唱:音楽の要素がすごく重要な映画だと考えていたし、中途半端なライブシーンなんて撮りたくない。じゃあどうしようと作戦を立てるわけですが、僕の答えは単純で、自分が心から間違いないと思えるアーティストに来てもらえばそれは自ずと間違いない場面になるだろうと。彼らも忙しい中だったのですが、奇跡的にスケジュールも合って、1日で、それも3時間くらいで撮りましたね。

OMSB:函館からトンボ帰りで、だいぶヨレました(笑)

ーーハードでしたね。そのクラブでのシーンはすごく自然で、なおかつ全体を通して昼と夜の溶け合うような感覚になったのが印象的でした。

三宅唱:最近は全く夜遊びできていないんですが、朝まで遊んで昼間は働いて金稼いで、また映画を観に行くとか、音楽を聴きに行くっていうのがいいなと…生きていれば当然それぞれ大変なこともあるけど、例えば仕事や家庭を理由に好きなことを制限するのではなく、変わらずに好きな映画や音楽を大事にしている人たちって実際にいろんな街にいて。ちゃんと生きてるなあ、タフだなあ、かっこいいなあと思うんです。佐藤泰志さんが小説で描いた(僕、佐知子、静雄の)3人も、そういう意味でタフですよね。だらしないところもあるけど、生活も大変そうだけど、本や映画や音楽だとか、友達や恋人との時間を当たり前のように大切にしている。だからこの映画には、ただただ楽しんでいるシーンが絶対に必要だったんです。

OMSB:夜遊んで、昼金を稼いでってことに関して三宅さんはすごく説得力があるというか、この人は一番最初に潰れるんですよ(笑)。本当にそれをやってる人だからこそ信頼できて。最後までいるときとか…

三宅唱:最後までいるときは本当にヒドいよね(笑)。

ーー劇中で「Think Good」を演っているのもこの映画を象徴していますよね。

三宅唱:「Think Good」は僕自身すごく好きな曲で、ここ数年を支えてくれている大事な曲でもあったんです。だからこそ、この映画でやってもらうべきかどうか、かなり悩んだ。好きなのに告白できない男子みたいな感じ(笑)。撮影が始まって空気が良くなったのを確認してから初めてようやく、「やってくれませんか」ってハニカミながら伝えましたね。

ーーえ!初めからそのつもりではなかったんですか?

OMSB:「まあないでしょ」くらいに思っていましたね。

三宅唱:事前には依頼してなかったですね。映画の撮影現場ってやっぱりどこまでやっても普通のライブ現場とは違うわけで、どうなるかわからなかったし。自分にとって本当に大切な曲をもし映画が邪魔したらと思うとビビりましたね。でもいざ撮影が始まると、函館の皆さんのおかげで予想をはるかに超えていい空気になったので、「よし!」と勇気が湧きました。

OMSB:あんなことを歌っているけどまだまだ自分のクズなところもいっぱい出てくるから、次のフェイズに行ったというわけではないかもしれないけど、4年くらいずっとライブでやっている曲だから、自分の時間的には先に行っている感じで…もちろんオレの底にあるすごく好きな曲だけど、聴いた人がアガってくれたところで1度完結している部分もあるんです。だからこの映画の中で「Think Good」をやることに対しての抵抗は無かったですね。もちろんダサいものにされたら嫌だけど、三宅さんはそれをしない人だってわかっているから。

ーーこの映画をそしてBlu-ray&DVDの発売をきっかけにお二人の音楽に初めて触れる方も多いと思います。

三宅唱:OMSBの『Think Good』もHi’Specの『Zama City Making 35』もクラシックであることは間違いないけど、映画をきっかけに聴く人が増えるのは本当に嬉しいことだし、このリリース・パーティーもそういうきっかけになればと思っています。去年、山口のYCACMで自分のインスタレーション作品「ワールドツアー」に合わせて二人にビートライブをしてもらったときに、うちの母も来てたんですが、スピーカーの目の前にいて。ちょっと心配だったんですが、「超楽しかった!」って言ってたので、もう射程の幅広さはわかった(笑)。

ーー証明されていますね(笑)。ちなみに『きみの鳥はうたえる』と横に並べて観て欲しい、あるいは聴いて欲しい作品などあれば教えてください。

三宅唱:ザ・ヒップホップ映画から持ってくるなら『ハッスル&フロウ』かな。いいよね?

OMSB:ハッキリ言って「嘘じゃん」ていう瞬間もあるけどオチまで込みで「あ、こういうのいいよな」って思う。あとは映画にもなっているんですけど、(『きみの鳥はうたえる』の原作者である)佐藤泰志さんの『海炭市叙景』を小説で読んで、映像としてイメージできる色艶が近いなと思いましたね。

三宅唱:最近だと『A Ghost Story』っていう映画の音楽が好みだったので、そういうのを観ると一応Hi’Specに「観てみて!」と伝えますね。

Hi’Spec:観ましたよ。影響を受けたかと言われると特にはないですけど、映画自体が良かったですね。途中まで不安だったんですけど、最後まで観て救われる感じが良かったです。

三宅唱:3人で一緒に観た映画もあって。YCAMの爆音映画祭で…あ、これ爆音映画祭じゃないとダメなんですけど、『未知との遭遇』を3人でキャッキャ笑いながら観て。

Hi’Spec:最高でしたね(笑)

OMSB:途中から何に笑ってるのかもわからないくらい笑った。

三宅唱:あと同じ映画祭でバスター・キートンの『キートンのゼブン・チャンス』というサイレント映画に、2人にビートライブで伴奏してもらう、という企画もやったよね。映画音楽を一緒にやる前に、少しずつ映画のフィールドに2人に遊びに来てもらってました。

ーーそういったところからも感覚を共有をしていったんですね。

Hi’Spec:あとは俺らがライブやってるときに三宅さんにVJをやってもらったりもしていて。

三宅唱:今もあれ、たまに見直すよ。 

OMSB:「後ろ観たかったなー」みたいな(笑)あとから映像で観て「あそこヤバかったっすね」って共有したりしてましたね。

ーー映画の中でも僕と静雄と佐知子の3人のグルーヴ感というか、バンド感というか、3人の間の雰囲気がすごく良くて…同じではないですが、お三方からお話を聞いているとそんな関係性を感じます。

三宅唱:基本的にまずは僕から惚れているので、最初は一緒にどう仕事すればいいのか、難しかったですよ。役者相手でもそうですけど、好きな人に対して例えばNGを出す、「それは好きじゃない」っていうのは、信頼関係ができていないと言えないので。

Hi’Spec:そこがないと無理ですよね。

三宅唱:それがしっかり伝えられるのが本当のリスペストなんだろうなと、2人をはじめいろんな人と仕事していくうちに考えるようになりました。そこができるようになったときに「よし、いけるぞ」と思いますね。

ーーそれが理想的だと思います。最後に、映画『きみの鳥はうたえる』のBlu-ray&DVDの発売について、そして映画をこれから観る方に伝えたいことなど皆さんに一言ずつ頂きたいです。

OMSB:この映画の中で起きていることを経験している方もそうでない方もいると思うんですけど、まだこういった経験がない方には「こういう瞬間があっても悪くないよ」とは伝えたいですね。

Hi’Spec:音楽を作っているのもあって何度も観てることが影響していると思うんですけど、日常の中でセリフとかが勝手に出てきてしまうことがたくさんあって。なので観てくれた方も不意に映画のワンシーンを思い出してしまうような瞬間があったら最高ですね。

三宅唱:自分としては何年経っても、何か感じるところがある映画にできたと思っているので、とりあえず買っておいて、時間が経ってから観ても、楽しんでもらえるはずです。あと、クラブシーンの未公開カットなどを使用して、ほぼ新作短編のようなつもりで『シーン35』という映像特典などを作りました。特典好き人間としてもそういう特典を世に出せるのは嬉しいので、ぜひソフトで本編も特典も丸ごと楽しんでほしいです。

『きみの鳥はうたえる』未公開クラブシーン・ディレクターズカットの一部を公開!

Text By Daiki Takaku

Photo By Kentaro Hattori


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©HAKODATE CINEMA IRIS

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