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「僕たちこそが最初にシティポップを母国に持ち込んだと思っている。他のバンドもそう思ってるかもしれないけどね(笑)」
インドネシアのイックバルが2作目で聴かせるオリジネイターの自負

02 September 2020 | By Yuji Shibasaki

ジャパニーズ・シティポップへのオマージュを抜群のセンスで散りばめた2014年のデビュー・アルバム『Amusement Park』でここ日本の音楽ファンの心をまたたく間に掴み、度重なる来日ツアーも敢行してきたインドネシアのインディー・バンド、イックバル。

インターネット上を主軸としていた当初のファンダムを大きく超え出て、TWEEDEES、脇田もなり、RYUTist、フィロソフィーのダンスなど、多くの日本人アーティストとのコラボレーションを行うなど、フロントマンのムハンマド・イックバルを中心に、コンポーザー、サウンド・プロデューサーとしても高い評価を得つつある。

秀作EP『Brighter』(2015年)を経て、長らく待望されながらこの度登場したセカンド・アルバム『Chords & Melodies』(日本盤のみ企画盤楽曲やボーナス・トラック計5曲を収録)は、引き続きシティポップの成分が注入されているのはもちろんだが、それ以上に、このところのバンドの関心を反映した新たな局面を強く感じさせる作品となっている。これまで同様「80’s」というキーワードに彩られながらも、日々刷新される「新しいレトロ」の形を色濃く反映したその内容は、決して憧れやノスタルジーのみに支えられたものではなく、インドネシアという「場」の磁力と、そこで活動する音楽家としての実践的なパッションに溢れるものだ。

日本リリースに際し、リーダーのムハンマド・イックバルへメール・インタビューを行った。
(インタビュー・文/柴崎祐二)


Interview with Muhammad Iqbal

――RYUTistへの楽曲提供をはじめ、このところコラボレーションにもひっぱりだこですね。そういった仕事の魅力ってなんでしょう?

Muhanmmad Iqbal(以下M):最初は楽曲提供の仕事についてもイックバル・スタイルを貫きたかったけど、それぞれのスタイル、特にアイドル・グループのスタイルを考えるのもより一層楽しいかもって思ったんだ。ガーリーで、でもスタイリッシュで、もちろん80年代の雰囲気を持っているものを考えることがね。

過去の仕事でいうと、初期のEspeciaの「Abyss」のプロジェクトは思い出深いよ。僕が日本のアイドル・グループのために曲を提供するのは初めてだったし、僕のようなプロデューサー志向のミュージシャンにはそういう機会はずっと夢だったからね。

――tofubeats「水星」のカヴァーや、それをきっかけとした《Maltine Records》からのリリースなど、インターネット上での活動が皆さんのキャリアのターニング・ポイントになってきたと思います。そういった状況を今改めて振り返ってみていかがでしょう?

M:そうだね。tofubeatsのような多くのミュージシャンに出会っていろいろな音楽的なインスピレーションを得られただけでなく、インターネットを通じて音楽を伝えるということに対する考え方自体が変わった気がするね。

――インドネシアにおいても、様々なプラットフォーム上で音楽の情報が拡散されていくという傾向は強まりつつありますか?

M:そう思うよ。COVID-19が流行する前、特に数年前まではみんなお気に入りのミュージシャンのCDとか物理的な商品を購入していたけど、今は主にストリーミング・プラットフォームで好きな音楽を聴いている。その上、インドネシアの多くのミュージシャンはインターネットの音楽アグリゲーターを使って自分たちの曲を自分自身で発信できるから、最近では既存のレーベルの存在を必要としていなくなっているんだ。

――日本ではTik Tok発で大々的にヒットする曲なども出はじめています。インドネシアではどうでしょう?

M:こちらでも大ヒット曲が出ているよ。特にインドネシアの「dangdut」や「koplo」のようなジャンルとか、若いTikTokユーザーを踊らせるようなものに多いね。

――それこそ、今回のアルバムの2曲目はズバリ「Tik Tok」という曲名ですね。

M:そうだね。でも、この曲は同名のモバイル・アプリケーションとは関係ないんだ(笑)。英語でいうところの“Tick Tock”は、時計が時を刻む音を意味するけど、この歌は“時”に関するものでね。時間は上手に使わないと実に残酷なものになる、ということを表現した曲なんだ。

――今回の作品は、前作EPやファースト・アルバムにくらべると、生演奏のグルーヴを保ちつつも、よりシンセサイザーやリズムマシン等の電子音を多用しているように感じました。どうしてそうなったのでしょうか?

M:主な要因は制作コストを抑えるためかな(笑)。アルバムの70%は自宅で、30%はレンタルスタジオで作ったんだ。それに加えて、音の選択肢を広げて新しいものを探し出したいという理由もあった。もちろんオリジナルのイックバル・スタイルは捨てたくはないので、コード進行とメロディー・スタイルは保ったままでね。

――2曲目「Tik Tok」に加えて、1曲目「1986」や10曲目「Light」など、テクノポップやシンセウェイブ、時にハウスの香りも感じました。こうした変化は皆さんの最近の音楽嗜好が反映されているということなんでしょうか?

M:その通り。曲を作る前にはロシアのTesla BoyやThe Midnight、アメリカのFM-84をよく聴いていたな。今ネット上で人気のある、いわゆる「New Retro Wave」周辺の音楽だね。もちろん、コーネリアスや、YMOもね。

――4曲目「Hilang」には少しトラップ的なノリも感じました。これも新たな試みですね。

M:そうだね。一つのアルバムで自分たちのメロディー、ハーモニーのスタイルを保ちつつ、色々なジャンルを取り組んでみたいと思っていたんだ。その一つが、今回取り入れたトラップの要素だったんだ。

――そうかと思うと、6曲目「Evelyn」や9曲目「Let The Love」のようにギター・ポップやニューウェイブ的なアプローチの曲もありますね。

M:「Evelyn」は最初ソフトロック的なテイストにしようと思ったんだけど、イギリスのバンドのThe Diogenes Clubの「I Know You’ll Bring Us Back」と組み合わせてみたらソフトロックのようにはならなかったんだ(笑)。でも結果としては……そうだね、ギター・ロック的になった。「Let The Love」もThe Diogenes Clubと、さっき言ったロシアのTesla Boyに強く影響を受けているよ。

――ところどころ、プリファブ・スプラウトのようなテイストを感じたりも。

M:うんうん。それは8曲目「Silent」だね。あの曲ではかなり参考にしたからね。

――一方でジャパニーズ・シティポップ風の曲の完成度も更に高いものになったと感じました。このあたりは以前と変わらず熱心に聴いていますか?

M:以前ほど熱心ではないけど、ノスタルジーに浸りたい時や一人で歌いたいときにはいつでも聴いているよ。最近はめったに山下達郎のようなシティポップは聴かないけど、彼のメロディーとハーモニーの作り方は、これからも曲を書いたりプロデュースするときには役に立つからね。

――ここ数年、日本のライトユーザーや欧米も巻き込んでシティポップが広まった印象ですが、そういった状況をどう思いますか?

M:僕たちこそが最初にシティポップをインドネシアに持ち込んだと思っているので、とっても嬉しいよ! まあもっとも、他のインドネシアのシティポップ・バンドも同じように思っているかもしれないけどね……(笑)。

――インドネシア国内でのシティポップ人気は現在どんな状況なんでしょう?

M:ようやく最近になって、徐々にシティポップ・リスナーが表に現れてきている感じで、多くの地元のファンにイックバルを知ってもらえるようになって本当に嬉しい限りだよ。

――このところのインドネシアの音楽シーンで注目しているムーヴメントやアーティストを教えて下さい。

M:Blue House、CSCD、Olive Tree……たくさんの良いミュージシャンが活躍しているね。みんな大きな人気を集める可能性を秘めていると思う。

――そうした気鋭の存在から刺激を受けたりしますか?

M:そうだね。でも、僕たちへの明確な影響ということでいうと、昔から活動しているアーティスト、特にMaliq & D’essentials、Sore、Santamonicaあたりの存在が大きいかな。

――現在のCOVID-19禍おいて自由な移動が制限され、国内外でのライヴ公演が難しい状況かと思います。こうした中で、今後みなさんはどういったアクションを考えていますか?

M:インドネシアも日本と同じ状況で、政府が全国でのライブ演奏を許可するまでの間は、オンライン・コンサートやMVなどのデジタル・コンテンツを充実させて拡大していくしかないと思っている……。実際に、多くのミュージシャンがインターネットやソーシャル・メディアを介して音楽の流通やライブ配信を始めているよ。

――日本のファンへメッセージをお願いします。

M:日本の皆さん、こんにちは! イックバルへの応援、心より感謝しています。このパンデミックが終息し、また日本でお会いできること願ってるよ。頑張っていきましょう!
<了>


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ikkubaru

Chords & Melodies

LABEL : CA VA? Rrcords / Hayabusa Landings
RELEASE DATE : 2020.09.02


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Text By Yuji Shibasaki

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