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ジャパニーズ・コンシャス・ラップ最前線
「俺が間違った」でも「お前が間違った」でもなく「俺たちは間違った」
本田Qはヒップホップで分断に抵抗する
原島“ど真ん中”宙芳が迫る、最新作『ことほぎ』

01 June 2025 | By Daiki Takaku

ラッパーの本田Qが約13年ぶり(!)にアルバムをリリースした。タイトルは『ことほぎ』。A面とB面に分けられ、あえて言うならA面はポジティヴ、B面はシリアスな内容となっているが、全編を通してポリティカルな印象の強いラップ・アルバムである。ただ、ポリティカルとは言ってもそれは近しいイデオロギーの者を集めるためのアジテーションでもなければ、無論「政治なんてどうでもいい」というある種の政治的態度から発せられたものでもない。『ことほぎ』は、人間の不完全さに寄り添う優しさと知性、切実さ、ユーモア、確かなラップ・スキルでもって極めて純粋に「話をしよう」と訴えかける、この分断に満ちた時代に稀有な、極めて諦めの悪い作品なのだ。そして、だからこそ素晴らしい。

今回、TURNではそんな最新作『ことほぎ』について、長年本田Qの友人として彼を近くで見てきたDJ/ラッパーの原島“ど真ん中”宙芳をインタヴュアーに迎え、たっぷりと話を聞いてもらった。2人の気の置けない会話から本田Qというラッパーが『ことほぎ』に込めた並々ならぬ想いが滲んでいるはずだ。

念のためインタヴューの本編に入る前に簡単に説明しておくと、本田Qは降神のファースト・アルバム『降神』(2004年)にAQZという名義で参加していたり、WAQWADOMや東横マッシブといったグループでも活動していたりとかなりのキャリアを持つラッパーで、近年は京都に活動の拠点を移し、バンドでの制作など音楽的な幅も広げてきた。そんな音楽性の変化・進化もこの『ことほぎ』にはパッケージされている。
(インタヴュー/原島“ど真ん中”宙芳 文・構成/高久大輝 写真/横山純 Special Thanks/テツさん、RIOさん)

本田Q:Instagram / X
原島“ど真ん中”宙芳:Instagram / X

Interview with HonDa Q

──Qちゃんと初めて会ったのは俺が下北でやってたイベント《cafe de まぐま》だっけ? COBA5000とかCASPERR ACE(儚屋玲志)とかとライヴやってもらっていて。

本田Q:COBAにずっとくっついて行っていたから。でも仲良くなったのは渋谷のバイトのときだよね。

──ネット広告の入稿とかデータ入力みたいなバイトだよね。30歳くらいのときかな。まだ闇バイトのない時期だしやましいのじゃないけど、ちょうど出会い系のサクラがなくなった頃(笑)。だいたい昼くらいに行くって言って16時くらいに着くみたいな。

本田Q:それで俺が「原島さんは必ず来ます!大丈夫です!」ってフォローしてた。

──家の玄関出た瞬間に「今向かってます」って連絡して(笑)。女性の社長だったんだけど、その人も昔DJをやってて、DJ KAORIとかとやってたらしく、ちょっと理解があって。だから普通の日に仕事行かないのに、休みの日に社長と遊んだり、職場に行って社長にパソコンのDJのやり方を教えたりして(笑)。

本田Q:『釣りバカ日誌』のスーさんとハマちゃん! そのときの職場が渋谷だったから、そのとき俺が宙芳の出るイベントに行ったり、宙芳も俺の出るイベントにも来てくれて。

──帰りに飲みに行ったりもして。そんな感じで長い付き合いになるけど、さっそく本題に入ると今回の『ことほぎ』はアルバムでいうと2011年の『くしゃみ』以来?

本田Q:そうなるね。

──スタイルの移り変わりの話をすると、Qちゃんの初めてのアルバムの『くしゃみ』では、アンダーグラウンド・ヒップホップ的な曲と講談のようなコミカルな曲との乖離が激しいなと思っていて(笑)。別でやっていた東横マッシブはもろアンダーグラウンド・ヒップホップなグループで。でも今回の作品ではうまく混ざっているなって。それはEP『ぐうのね』(2023年)辺りから揉んでいったもの?

本田Q:きっかけは2019年末に京都に引っ越したことかな。違うジャンルの人をたくさん見て。極端なことやっている人が多いから(笑)。

──京都でバンドといっしょにライヴをやることも増えてるよね? あんまり行かないから観たことはないんだけど。セッション的に飛び込みでフリースタイル?

本田Q:最初はそう。「Qちゃんやりーや」って感じで言ってもらって。実はMAD FLOODってバンドでアルバムも1枚出したんだよね。

──ああ、俺が前に京都に行ったときくらいに出てたよね。

本田Q:そう、DMQってユニットで配信のEPとMAD FLOODのCDアルバムを1作品ずつ作っているんだけど、次々いろんなセッションやるから、ちゃんと自分の作品も作ろうと思って。それで『ぐうのね』を作って、今回のアルバムへっていう流れで。



──WAQWADOMで一緒だった(プロデューサーの)NaBTokが先に京都行っていて、後からそこに合流した感じ?

本田Q:いや、最初はKENSEIさんにスタジオをやっているKNDさんという人を紹介してもらって。SOFTってバンドをやったり、京都でPAをやっている人だったから、いろんなアーティストがそのスタジオに来て、そこで練習とかセッションをしているのに飛び入りしているうちに、まったくヒップホップ・イべントに縁のない生活になってしまった(笑)。

──DJ KENSEIさんと会ったのは青山《蜂》とか?

本田Q:いや、初めて会ったのは渋谷の《No Style》。『くしゃみ』を出したときにリリパに出て欲しくてCDを渡したの。でもそのときはタイミングが合わなくて。で、京都に行く直前にも《No Style》で会って。そしたら「アルバムもらったの憶えてます」って言ってくれて、で、曲を作るか作らないかってときに京都に引っ越すことになって、それをKENSEIさんに「仲良い人いるんです」ってそのKNDさんを紹介してもらったんだよね。コロナ禍だったからスタジオに行くしかなくて、KENSEIさんも2ヶ月に1度くらい仕事で京都に来ていたから、「KENSEIさん来てるんですね!俺も行きます!」って感じで、で朝方までKENSEIさんの作業を見学させてもらってた。

──なるほどね。バンドでアルバムを作ったりして、作り方は変わった? 「ねぇ」とか「不孤」とかは良い意味でポップになってるから。

本田Q:「不孤」で歌ってくれているfuyuco.ちゃんとはMAD FLOODでもいっしょにやっているんだけど、どっちかと言うと作った結果ポップ・チューンっぽくなっただけで。「不孤」の歌のリリックも全部俺が書いているんだけど、ちょっと恥ずかしいから他の人に歌ってもらおうと思って頼んだの。で、やったらポップっぽくなったから、ミキシングもSinkichiさんという普段アンビエントとか繊細な音を扱ってる人で、割と声にエフェクトをかけて欲しかったのでお願いした。

──曲の構成が聴きやすいしA面のこの位置にあるのがすごくいいなって。その次の曲「Stone』がCOBA5000プロデュース。

本田Q:B面の1曲目の「Wa-Yo」もね。「Stone」はもともと違うトラックでリリックを乗せたんだけど、こっちに差し替えてきた。実はこれ、宙芳に聴かせることをイメージした曲で(笑)。

──アンダーグラウンド・ヒップホップね(笑)。

本田Q:これはさっき「講談のような」って言ってくれた日本風の節回しみたいなことをやっていたときに、何の影響が自分の中にあるんだろうと思って考えて。寅さんとかの影響もあるんだけど、じいちゃんと昔よく観てた時代劇の影響もすごくあるなと思って。時代小説も好きだったしね。どうしてかそこでこうやって日本っぽい節回しをやっているんだったら、逆にヒップホップっぽい節回しを意識してやろうと思って「Stone」を作ったんだよね(笑)。

──「Stone」も含めて全体的に普遍的なことを言っていると思う表現が多いけど単語単語で物騒な言葉が出るから、反体制っぽく聞こえたりもするっていう。

本田Q:でもなるべく、アジテートする感じは出さないようにというか、あんまり「目覚めよ!」「立ち上がれ!」なんて言うのは自分の中ではしっくりこなかったから。

──でも歌詞にもあるけど文句はあるわけでしょ?

本田Q:まあ、俺から観た景色はこういうのなんだよみたいな意識っていうか。聴いた人の中で何か感じてくれればそれは嬉しいけど、「財務省解体!」とかそういうことが言いたいわけでは特にないっていう(笑)。

──押し付けではないけど、投げかけてはいる。

本田Q:そうだね。自分の中にあることを言ってはいる。

京都の左京区ってところには京大があって、ヒッピーのような人も多くて。実際に出るイベントも野外が多かったから、そういう山のフェスに行ったりすると、ヨガをやっていたり、トーク・イベントやっていたりもするし。畑をやりながら出店することも多かったから、オーガニック食品を作ってる人やタネの交換会をやってたりする人との交流も多かった。

──そういう哲学とかも散りばめられているよね。もちろん全部気付くのは無理な、難しい歌詞だなって(笑)。めちゃくちゃ文字数も多いし、聴き終えた時ヴォリューム的に75分くらいあるんじゃないかって思うけど、1時間切ってるんだもんね。

本田Q:それは狙っていて、30分30分でA面、B面で、テープを最終的には作りたくて。

──レコードだと入りきらない。

本田Q:2枚組になっちゃう。

──それでリミックスも入れてるってことだ。リミックスする曲を選んだ意図は?

本田Q:最初に「オトノナルホウヘ」のオリジナルが出来て、これをA面の1曲目にしようってのは決まっていて。でも「オトノナルホウヘ」をライヴでやっていくうちにバックDJが3人くらい──Livingdeadとジャッキーゲン、あともう1人レコードしか掛けないDJにもやってもらったりして。それでトラックもバリエーションが出てきて、1曲目がヒップホップっぽくないトラックだから、Livingdeadのブーンバップっぽいトラックのリミックスを入れてようって。

──奥多摩でやってくれたのは?

本田Q:あのときはオリジナルだね。

──アルバムにはライヴで聴いていた曲もあるし、ライヴでやってるのに入っていない曲もあるよね? いや、フリースタイルやってるだけなのか。

本田Q:フリースタイルもあると思う。セッションとかフリースタイルは東京にいたときよりすごいやる機会が増えたね、バンドと。

──音楽的に揉まれてる感じだ。

本田Q:そう、向こうはしかも歳上の人ばっかり。東京でクラブいくと歳下から「Qさん!」って言われるけど、バンド畑の人はさ、本当に50代60代の凄腕の現役がゴロゴロいる。

──京都って土地もあるのかな。音楽と生活を回せる環境というか。

本田Q:大きい音を出せる広い場所は少ないんだけど、小さいところはいっぱいあって。大箱が少ないんだよね。仕事しながら音楽やっている人も多いよ。KNDさんもお寺とかいろんなところでPAをやっていて。スタジオでミキシングもしながら現場でライヴもする感じで。

あと京都行くとスタジオ入っているだけで褒められるんだよね、「おお、音楽やってるんだ、いいね」って。モチベーションになるよね。「ああ、いいね!遊んでるね!」とか言ってくれて。音楽に対してポジティヴなんだよ。

──バンドのセッションに飛び入りとかしているとそれはなおさらありそうだよね。「他力本願」はバンドでやってるの?

本田Q:これはDachamboのEiji(Suzuki)くんって人が「どうでしょう?」とベースラインを送ってくれて、じゃあ乗せてみますって感じで。

──待って、乗せてみるっていうのはQちゃんがベースにラップを乗せるの?

本田Q:そう、打ち込みの仮のドラムもあったから。滋賀に行って、で、SIMIZさんのギターも入れて、ドラム変えた方がいいってことで、最終的にNaBTokにお願いして。

──フィーチャリングのRHYDAくんは東京からの付き合いでしょ?

本田Q:そう、東横マッシブをやっていたときにRHYDAくんと同じスタジオを使っていたから近しく感じていて。で、京都に来たときに話して「曲やりましょう!」って話をしたから。で、ちょうど「他力本願」を作っていたときにRHYDAくんはammonite2000っていうバンドもやっていて、それで「ちょうどいいかも」と思って。

──でもこの曲は面白おかし過ぎず、切実で赤裸々な(笑)。

本田Q:実はね(笑)。一番ありのまま。

──「ヤバいイベント誘って欲しい」よね(笑)。

本田Q:そうそう。とりあえず京都でも順調に失くし物する人って認知されてきてるから、よろしくお願いします!何卒!っていうのをそのまま出しましたね。

──「困っていたら助けてほしい」ってね。あ、Qちゃん、プレイリストの仕組みとかは知ってるの安心したよ(笑)。

本田Q:まあそれはね(笑)。割とメジャーな人が「プレイリストで君に会えること」みたいなことを歌っていて。「おしゃれだな、俺も使おう」って。リリックでは結構他人の言葉を引用してる。それこそ、本人には言っていないけど「肯定と抵抗」の肯定って部分は仙人掌のリリックからで。

──「ヒップホップが全て肯定に変える」(「BE SURE」)ね。韻じゃないけど「肯定と抵抗」で言葉遊びしてるのも面白い。

本田Q:仙人掌の良い歌詞だなと思って。

──今回の作品、ライムも固いし面白いよね。でも歌詞カード見てると文字数、情報量の多さでクラクラくる(笑)。『ことほぎ』ってアルバム・タイトルはどういう意図で?

本田Q:漢字で変換したら2種類出てきて。「呪言」と「言祝ぎ」。で、「呪」って言葉を調べたら、もともと「祝う」と同じ意味だったのが呪詛って言葉の詛の意味に引っ張られてネガティヴな意味になったらしくて。闇落ちした感じみたいだなって(笑)。

──「賣炭翁」とか読めない言葉も曲のタイトルにしていたりするのも含め知的だよな。A面B面分けたのは分数だけじゃなくテーマ的にもってこと?

本田Q:もともと「イデオロギスト」を作った時点で、こういうポリティカルな内容の曲ばっかりが書き溜まっていて。でもこれだけで作品化するのって、もちろん言いたいことの一部ではあるけど……。

──自分でも聴きたくもねえよなって(笑)。

本田Q:そうそう、そんな説教じみた音楽を俺も聴きたくないしなって。まあ、そもそも政治的なテーマって言われるものって必ずどこかに含まれている部分だと思うんだ。例えば「戦争」とか「争い」とか一言だけ入っていたりね。ただ、そういう曲を1曲歌っても全然伝わらないのを感じていたからまとめたいなと思っていて。でも一方でそれを主軸に置きたくないなと。だからB面に置いて。

セッションするときだってそんなポリティカルなテーマばかり歌ってもみんな聴いてくれない。多少はそういう要素を入れるけど、みんな楽しみに来ている中でバンドの途中で入って、「世の中おかしい!」とか言い出してもお客さんに刺さりづらい。そうすると多幸感のあるポジティヴな内容が必要になって。それでポジティヴな曲も溜まっていたからA面はポジティヴに、B面はネガティヴな感情を入れれるものにしようとはずっと考えていたかな。

──そうは言ってもすごくポリティカルだよね。聴き始めて1曲終わった辺りで、「楽な格好で聴いちゃいけないアルバムだな」と思って。部屋着じゃなくてネクタイ締めた方がいいかなって(笑)。THA BLUE HERBの『S.O.S.』(2002年)とか仙人掌の『Be One’s Element』(2013年)とか、最近だとオムスくん(OMSB)の『ALONE』(2022年)を聴いたときみたいな、ちょっと正座しないといけないようなね。「イデオロギスト」をこの並びでオリジナルで聴くのもすごい良かったし。

本田Q:曲順は割とすんなり決まって。イメージできてた。

──B面の「Chrono」は超アンダーグラウンドな鳴りのトラックだよね。Livingdeadプロデュース。

本田Q:そう、Livingdeadは大阪とか神戸とかでずっとやってた人で、いろんなジャンルのトラック作るんだけど、《TIGHTBOOTH PRODUCTION》っていうスケート・プロダクションが出した3枚組のLPにトラックを提供したりもしていて。でも名前で全然検索できない(笑)。Livingdeadの表記もバラバラで、だから最近いっしょにやるときは名前固定にしてもらってる。毎日のように曲を作ってる人だね。

──どういう意図でこのタイトルに?

本田Q:もともとトラック作ったLivingdeadとEarth Paletteが「Kurono」ってタイトルで曲を作ってて。まあ時間とか、結構そのままのテーマでリリックを書いて、京都って古い街だから、1,000年前に作ったものでまだ食いつないでいるようなところがあって。でもそれによって天気の良い日に逆に庭とかに行ってボケっとするだけで満足できる。結局、それだけでいいじゃんみたいな。良い文化が作れれば1,000年先まで人を食わせていけるのってすごく良いなと思って書いたかな。

──俺的には淡々と時代の出来事を歌っていて、THA BLUE HERBの「時代は変わるPt.2・3」みたいな印象で。出来事を自分の目から見て歌ってるというか。

本田Q:THA BLUE HERBほど具体的に人に訴えかけるようなところまで自分は意識していなくて。

──でも「俺たちは間違ったんだ」と歌っているのはQちゃんがそう思っているからだよね。

本田Q:間違いっていうか、ヒップホップとかだと成功者が成功体験を歌っていることが多いわけじゃない? フレックスとか、金を稼いだ、貧乏から抜け出した、俺はやったんだって。それは良いことだと思うけど自分はそうじゃないし、成功した人にも明らかに間違った選択をしたことがあるはずで。だって間違うことのない人はいないんだから、絶対誰しも間違いはあるはずなのに、歌ではっきり言っている人はいないと思って。

──だから、さっきからQちゃんはそこまで言ってないって言うけど、結果的にちゃんと言ってるよね。Qちゃんの目には「俺が間違った」でも「お前が間違った」でもなくて「俺たちは間違ったんだ」って見えているってことだよね。だからQちゃんの目から見たら、Qちゃん自身も俺も間違ったんだろうなって。ちなみにそれは具体的に何に対して思うの? 俺は兵庫県の現状だったりトランプの再選だったり世の中がおかしくなっているのは、Qちゃんのアルバムを聞かせる為に仕組まれたって陰謀論を唱えたいくらいなんだけど(笑)。

本田Q:例えばちょっと前の安倍さんの件でも、あのとき与党の支持者とそれ以外ですごく分断されていたけど、攻撃する側が強硬な態度というか「お前違うんだよ!」って言うと、言われた方はどうであれ絶対に反発するじゃないですか。やり方として、すでに相手を否定して議論を発展させていくようなことが通用しなくなってきているような気もしていて。反体制側のやり方も間違ったというか。もちろん体制側が間違ったというのもあるけど、間違ったのは全員なんじゃないかって。誰しもがいつも最善の手を打っているわけではない。どっちかっていうと体制側が間違ったというよりも反体制も体制も両方間違った、やり方をね。

──でも極端に言えばそもそも体制側が変なことしなければ文句を言う必要はないじゃない。体制側、権力を見張る必要はあると思うけども。

本田Q:それはそう。だけどコミュニケーションの仕方の話で。どこかでディスコミュニケーションが起きている時点で間違いが起きているってことだよね。

そういうやり方をしたからみんなマスコミを信用しなくなっちゃった。それが80年代以前までは成立していたと思うんだよね。三島由紀夫と東大で論争するとか。

自分と思想が逆の人を攻撃するような物言いは自分対大勢って状況ではアリだと思うけど、自分が何かしらの集団やイデオロギーの一部として物を言うと自分の背景に大勢いて、その代表みたいな形で声を出すことになるから、そうなると違和感があって。例えばそれを個人が受けた場合はすごく反発が出るだろうし、気分も悪くなると思うんだよね。そういうやり方にならないといいなと思いながら『ことほぎ』を作った。

──逆の意見も尊重しつつね。

本田Q:うんうん。「地球が平面に見えたっていいんじゃない?その人にとっては」と思うから。立場によって見え方は違うから。少なくとも自分の視点ではこういう不安があるんだよっていうのに気づいて欲しいなっていう気持ちはすごく強かった。

──「Wa-Yo」も人類のというか世界平和的なテーマだしね。

本田Q:そうそう。みんな平和になって、楽しく生きたいって共通認識があるわけだから、単純な話、仲良くしたいしね。

──Qちゃんの考え方に「奪ってまで幸せになろう」っていうのはあります?

本田Q:『ぐうのね』で言ったんだけど、宮沢賢治の詩で「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」(『農民芸術概論綱要』)っていう一節があるんだけど、それは本当にそうだと思っていて。みんなもちろん自分や自分の仲間だけで精一杯だから、ある程度の集団でまとまって、他と軋轢が起きるのは仕方ないと思うけど、結局のところ地球の裏側で生まれたばかりの赤ん坊がこんな姿でってニュースを観たらみんな「うわぁ」って思うでしょ。奪うことで生まれたカルマのようなものはいつかは自分の元に返ってくるんじゃないかな。でも人の善意を信じているのもあるけど、人の悪意もそれだけ信じている。

──奪わなくていいようにQちゃん畑やってるんでしょ?(笑)。

本田Q:まあ「貧すれば鈍する」じゃないけど、なるべく余裕がある状態じゃないと人のことまで心配できないっていうのはある。自分をあまり追い詰めないようにとは思ってるよ。

──「Wa-Yo」の客演のKOKORO STARさんとは歌詞を書くうえでどうすり合わせを?

本田Q:KOKORO STARさんには先に僕がリリックを書いてそれを渡して書いてもらったんですけど、もともと美山っていう京都の山奥で藍染と茅葺(かやぶき)をやっている人で。ナチュラルな人というか、俺よりももっとポジティヴで、善意を信じている人で。ヒッピーではないけど、藍染の服を着て、畑をやって、茅葺を葺き替える。美山には《かやぶきの里》っていう観光地もあって、葺き替えをやりながら生活していて。何度もセッションしているから、どういう感じで返ってくるかはわかっていたかな。まあ「Wa-Yo」はちょっと1曲目にしようと思ったけど暗すぎるって感じて。

──内容というより雰囲気だったり音的なところでね。

本田Q:だからNaBTokにリミックスを作ってもらったんだけど、俺のところはそのままでいいからKOKORO STARさんのところはもっとガラッと変えて、隠から陽にいくようなトラックにしてくれと。そう頼んだらイメージ通り作ってくれた。

──次の「落首」は京都の人のトラックだよね。

本田Q:もともとリリックはなんとなくできていて。猿吉くんっていう先輩がビートを作ってくれて、それ乗せたところに、ギタリストのSIMIZさんが入れたい音があるってことで、ギターをギュインギュインっていう昔の白黒映画の予告編みたいな、ぐるぐるぐるバシン!ってタイトルが出てくるようなイメージで音を入れてくれて。

──じゃあ生音も足してある?

本田Q:そうそう。テーマ的には「二条河原の落書(落首)」っていうのがあって、室町時代くらいかな。壁にその当時の世相を批判する落書きが書かれたのよ。嘘の訴訟をしたり、流言飛語が飛び交う世の中どうなってるんだ!みたいなことがね。今読んでも面白いんだけど、それが頭にあったから、じゃあちょっとそういう昔と変わらない現状を昔っぽい言い回しでやろうと思って。

──ちなみにKENSEIさんが作ってる「イデオロギスト」の全部のヴァージョンにイントロで「ケンセイ」って声が入っているけど。

本田Q:大隈重信の声かな。国会図書館アーカイヴに昔のレコードの言葉が結構残ってる。検索したら出てくるんだけど、それはフリーで使えて。昔の講談や落語、東条英機の檄文とかもあるんだけど。憲法の政治の「憲政」ね。

──そういえばKENSEIさんに初めて挨拶させてもらったとき「知ってるよ、渋谷《Roots》のハヤトの友達でしょ?」ってに言われて。ハヤトは面白い人だし、確かにそうなんだけど、「それならQちゃんの友達で」って(笑)。

本田Q:KENSEIさんは俺とはキャリアは比べものにならないけど、イベントのリハで「どうですか、この音は?」とか気さくに話してくれて。やりとりも噛み砕いた言葉で伝えてくれて。

──そういえばKENSEIさんとQちゃんのレコードあるよね?

本田Q:出てるけど俺も持ってない(笑)。《天狗食堂》(三軒茶屋のDJ BAR)に行けば売ってるはず。KENSEIさんが京都来たときに「日本語の節回しの感じで何か声を入れてみて」と言われて、それがいつの間にか東京で掛けられていたらしくて。それをYUIMA(ENYA)ちゃんかYUKKO!ちゃんが気に入って、「曲を作ろうとしているんです!」っていうのは聞いていた。そしたら、パッと2人の声が入った曲が送られてきて。「これに何か一言でもラップでもアイディアあれば入れてみてください」と言われて、それがあれよあれよというまに形になった感じ。

引っ越した直後にもomni sightっていうエレクトロのユニットがあって、それのリミックスをKENSEIさんが京都でやっていて。そのときも「フリースタイル入れてください」と言われて。一言二言使ってもらえればいいかなと思ってたんだけど、本当に一言二言だけでジャケにフィーチャリングで名前を書いてもらって。いつも不思議なやりとりで出来上がってるな、そう思うと。「イデオロギスト」もいつの間にか3パターンできて。どれも良くて選べなかった。

──B面の「警句」も驚いたな。何かの本でニーメラーの警句を読んだことがあって、アウトロでQちゃんがニーメラー構文的なものを使っていて。

本田Q:そのアウトロを入れずに一回COBAに聴かせたら「ちょっとな」と。「Qちゃんどっちなの?結論がもうちょっと欲しい」みたいなこと言われて。そのときCOBAに「何よりもどかしいと思うのが、こういう状況で何もできていないこと」って言われたのが印象に残ってるな。で、そのアウトロを書き足した。

──「フェイクがファクトをファックするポルノ」ってリリックもあるけど、ファクトチェックも今みんな大変だって言ってるよね。だって出てくるデマに対して全部ファクトを用意するのも追いつくわけない。テレビの報道特集でも言ってたけど。

本田Q:だからそこよりも自分はこう感じているんだけど、あなたはそう感じている、その違いはどういうところから生まれるんだろうっていうところに興味を持った方がいい気がしていて。どっちが正しいんだってなると軋轢が生まれるから。

──でも裁判ではそうはいかないじゃん。自分の思っていることを言葉で伝えるのはすごく大事だけど、それとは別で事実だというものを提示して、判断してもらわないといけないから。

本田Q:それはもちろんね。そういう話では今回デザインやってくれているToru(Kurihara)くんっていう人がいて。その人は犬式のマネージャーもやっていたんだけど、その人から三宅洋平さんの話とか聞くと、あの人すごい勉強家で、たくさん本を読んだ上で量子力学とかの話もしていて。それは面白いし興味はあるけど、そこを背骨にして自分の思想とか考え方を打ち出していくことはとてもじゃないけどできない。知識量の差みたいなものはすごく感じるから。そういう意味でもこのB面を作るときの曲は、音楽にしていいのかわかんないけど、できるだけ自分の主観でモノを言っていますよってことを意識していて。

──ヒップホップってことだよね。一番作るのが大変だったのはどれ?

本田Q:「不孤」だね。ミックスも悩んだし、時間が掛かった。

──想像通りに歌ってもらえないと納得できないだろうし。

本田Q:でもある程度こういう節回しで歌っていたって言ったら、上手な人だからできるんだけどね。

──ガイド(作者が仮で歌ったもの)は送ったんでしょ?

本田Q:送った。でもまあ逆にむしろそこから外れて欲しいなって。

──そのまんまでも面白くないなって。

本田Q:そう、もともと歌い手の人だから、歌い手の人にとっての歌いやすさだとか歌として気持ち良いところをいってほしくて、まあミックスやらなんやら最後まで時間が掛かって。リリックを生み出すこと自体はどの曲も同じくらいだったかな。「イデオロギスト」が一番時間が掛かったかもしれないけどね。

──それはもうできていた曲でしょ。あとはいつも通りCABA5000とNaBTokに怒られながら(笑)。

本田Q:NaBTokは最近怒ってくれない(笑)。こうした方がいいよくらい。COBAさんにはまとめて送ったら「こういう並びでB面として打ち出すならアリなんじゃない」とお言葉をいただきました(笑)。BLYYのDzluには最初送ったとき、「ふざけてるっしょ?」って言われて。まあふざけてる部分もたしかにあるんだけどね。「他力本願」とか。

──「他力本願」はふざけているけど本心でしょ?(笑)

本田Q:本心、超本心。切実。このアルバム自体をなんとかしてほしいという気持ちで作っているんで。

──俺は「ねぇ」とか新しいアプローチで、普遍的なものを創り出そうとしているなと勝手に思ったけど。

本田Q:そうだね。シンセサイザーを弾いているShoichi(Murakami)くんはKENSEIさんとKNDさんと3人でユニットをやっていて、最初にセッションをするとき、すごく音に対して繊細な人だから、ラップのリリックの内容よりも音としてこうしてほしいと言われて。1対1のセッションもこの人と一番よくやっていたかな。

──ドラムレスな曲だけど、今流行りのNYのウェストサイド・ガンとかとはまったく違う(笑)。

本田Q:まあ、ピアノって打楽器だから、そういう意味ではリズムが取れるからね。リズム感がすごく独特。年齢は50手前くらいかな。

──我々と似たような世代だね。

本田Q:だからRHYDAくんとfuyuko.ちゃん、KOKORO STARさん以外はほぼ歳上だな。

──alled(BLYY)のビートもかっこいいよね。alled、COBA5000、RHYDAくん以外は京都?

本田Q:そうかもしれない。京都では『ぐうのね』を掛けてくれるDJも多くて。ヒップホップのイベントじゃないから、ライヴの合間とか、バーのDJとかも周りに多くて。で、『ぐうのね』を混ぜながら違うトラックを流してくれていたりする。

──俺はDJで「Stone」と「Enough」、「警句」もたまにBPM速い流れで掛けたりしていて。

本田Q:まあ、ややこいから、「なんだこれ?」って感じになるだろうしね。『くしゃみ』もそうだったもんね。あんまりクラブで繋がれるような入りとかをしていないというか、作り方として。

──俺はちょいちょいDJで使わせてもらっているけど、俺以外に掛けているの聴いたことない(笑)。で、俺はこういう素晴らしい作品をQちゃんが今回作ったことによってどうしたいのかなって(笑)。みんなに聴いてもらう機会というか、リリース・パーティーみたいなものは現時点で準備してないでしょ? 俺はそういうところがバカだなって思うんだよね(笑)。歳上に向かって言葉を選ばず言うけど。

本田Q:なんならMVもどうしようって感じ。さっき話に出たToruくんは以前「イデオロギスト」のMVをやってくれたんだけど忙しすぎて。今回、宙芳には映像カメラマンを紹介してくれないかなと思っているんだけど。

──紹介できるけどお金はあるの?

本田Q:いくらくらい?

──今は30万じゃ全然足りないんじゃない? 用意できます?

本田Q:うーん、アナログ作るのが精一杯で。

──Qちゃん的にはどれを推していきたいの? 俺は「Stone」とか好きだけど。

本田Q:うーん、「ワンマイクでスピットしている曲の方がわかりやすいんじゃない?」と言われたりしたから、「落首」とかはやりやすいのかな。

──俺はアプローチで、3曲目の「不孤」とかで録った方がいい気も。

本田Q:ああ、割とわかりやすい映像で。

──はいはいはい。

本田Q:はいはいはいって(笑)。

──じゃあMVは3本用意してもらって。

本田Q:いやいや(笑)。せめてサポートしてくれている人には自分的にもトントンくらいに持っていきたいとは思ってるよ。作品を作ることによって。周りに、ありがとうございます、すみませんって。トラックメイカーにもちゃんと払いたいし、サポートしてくれている人たちにも本田Qっていうアーティストを推してよかったなと思えるような状況にしたいなって。

──それは僕らもそうですよ。このインタヴューにしてもこれだけ大人が動いているんだから(笑)。

本田Q:本当だよね。ありがとうございますって本当に思ってます。

──東京のヤバいイベントに誘ってあげたいけど、俺が主催でイベントやってるわけじゃないからなー(笑)。

本田Q:でもリリパってわけじゃないけど9月の20、21日に《水と木の祭り》っていう2年に1度のイベントと8月の《山水人》っていう両方野外のイベントなんだけど、そこではちゃんとリリースのライヴをさせてくれるってことになっていて。東京からはちょっと遠いんだけどね。

──それが終わったら東京でも何かね。

本田Q:その頃までにアナログができていればいいなって。

──いや、できないでしょ。それかもう2曲ずつくらいでいいかもしれないけどね。12インチ・シングルって最近ないじゃん。

本田Q:でも12インチ・シングルを2曲ずつだと何枚出せばいいの?って感じじゃん。

──全部出したいんだ(笑)。俺が言ってるのはレコード1枚にして、片面に2曲ずつだよ。

本田Q:本当はRIOくん(スニーカーショップ《WORM》のボス)に呼んでもらって6月7日に代官山の《ORD.》でやるときにはリリパみたいな感じでガツっとやりたいんだけど。

──ちゃんとリリースされてるかな?

本田Q:堂々とリリース・ライヴできるようにしたいですね。実は今年の3月にやったライヴでも「今回リリース・ライヴでいいですか?」って言われて。「ちょっと間に合わないかもしれないです」とか言っていて。

──去年の話では3月中に出てるはずが、もう5月も1週間経っちゃってるから。

本田Q:そうなんですよね、本当に。

<了>

Text By Daiki Takaku

Photo By Jun Yokoyama


本田Q

『ことほぎ』

RELEASE DATE : 2025.06.01
配信は以下から
https://linkco.re/3xx28Hbc

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