フジロックフェスティバル ’24
TURN編集スタッフによる“今年はこれを観ろ!”
苗場での開催としては今年で実に25回目となるフジロック。SZAのキャンセル〜ザ・キラーズのピンチヒッター発表などアクシデントもあったものの、いよいよあと20日ほどとなり、SNS上ではにわかに盛り上がりつつあります。
この前文を書いている筆者は、実のところほとんどリタイアしている一人で、昔のように毎年フルで参加することはほぼなくなっています。あまりに濃厚な体験をしてきたということもあり、次の世代にパスしたいという思いがあるからなのかもしれません。台風に襲われた第1回目を体験、みなステージ後方で雨宿りをしながら眺めていた中、ボアダムスのパフォーマンスで一人狂ったように踊っていた男の人の姿に心を打たれたり、東京の豊洲で開催された2回目にも足を運び、夕闇に漆黒の歌声が美しく響くニック・ケイヴの途中、隣のステージでベックが始まった途端に多くのオーディエンスが駆け足で移動していく風景を目の当たりにしたり。3日間開催の現在の形になってからも毎年習慣のように夏の苗場に向かい、日本における本格的野外フェスが定着していくプロセスに触れてきたことは一人の音楽ファンとして確かな財産です。
正直言って、最初にフジロックに参加した時、まさかそのあと四半世紀以上続くことになるとは全く想像していませんでした。今でこそ「世界一クリーンなフェス」と称賛され、海外アーティストから認知もされるようになっていますけれど、最初に参加した時はこの規模のフェスを継続させていくことなど到底ありえない、くらいに考えていました。でも、気がつけば30年近くです。これからどう変化し、どう歴史を重ねていくのか。SNS時代の今なら、叩かれ潰され、あるいは翌年の開催などあり得なかったかもしれないほど酷い有様だった第1回目とは、もう全く別のフェスになったと言えるほどに成熟した現在のフジロックを、筆者はなんだかんだでずっと応援しています。
思い出は尽きません。グリーン・ステージのニール・ヤングを断腸の思いで振り切ってホワイト・ステージまでニュー・オーダーを見に行ったものの、でもやっぱりニール・ヤングが捨てきれずに半分ほどで再びグリーンに戻ったらちょうど最高潮の場面だったとか(2001年)、ロス・ロボスが急遽ボードウォーク途中にある木道亭に登場したことで大渋滞になって、当然そのままついつい見てしまい、誰だったかは忘れてしまったがホワイトかグリーンのステージに間に合わなかったとか(2006年)、ステージ間の移動の思い出もたくさんあります。なお、個人的なフジの歴代ベスト・アクトは、ニック・ケイヴ(1998年)、イギー・ポップ(1998年)、ボブ・ディラン(2018年)、マッドネス(2006年)、ジョン・フォガティ(2010年)、スパークス(2008年)、ファーザー・ジョン・ミスティ(2017年)、ジョナサン・リッチマン(2007年)、台風クラブ(2018年)、本日休演(2018年)あたりです。普段は若手やインディーの新人アクトに刺激を受けることが多いのに、不思議なもので、フジでは中堅〜ベテランのアクトの方が印象に残ることが多いんですよね。
というわけで、今年はTURNの編集スタッフが今年2024年の各自おすすめのアクトをご紹介したいと思います。既に荷造りをしている気の早い方はもちろん、行くかどうかをまだ迷っている方、リタイア組の方も、心を苗場に飛ばしてみてください。(岡村詩野)
Kim Gordon(3日目/WHITE STAGE)
The Yusseff Dayes Experience(2日目/FIELD OF HEAVEN)
Rufus Wainwright(3日目/GREEN STAGE)
USインディー好きとしては、年々その枠が減っているような気がして残念なのですが、今年はなんと言ってもキム・ゴードン姉さまがいます。ボーイジーニアス出てほしかったとか、今ならクレア・ラウジーでしょ! みたいな思いも、この人がいるだけで全部チャラにしてくれることうけあいです。ジム・オルーク込みのソニック・ユースでグリーン・ステージに立ったあの時も、もうずっとキムの姿ばかりを観ていた、そんな人も少なくないのではないでしょうか。アルバム『Black Classical Music』が素晴らしかったユセフ・デイズがフィールド・オブ・ヘヴンの夜帯というのは粋なブッキングですね。ルーファスは今回も弾き語りなのかどうか……ですが、最終日のちょっと疲れた午後にまどろむにはピッタリだと思います。キティ・デイジー&ルイスのキティ・リヴ(2日目)、ルーキーの天国注射(3日目)もおすすめですよ。あとはやっぱりもち豚串と、新鮮なキュウリ、トマトを齧ること、です。(岡村詩野)
The Killers(1日目/GREEN STAGE)
Turnstile(3日目/WHITE STAGE)
No Party For Cao Dong(3日目/GREEN STAGE)
「Mr. Brightside」のギター・リフ・イントロが鳴った瞬間、唸るように湧き上がる歓声と、オーディエンスの大合唱をここ数年、何度も何度もYouTubeで見返しながら、来日公演を待ち望んでいたザ・キラーズが今年のフジロックの大きな(個人的)ハイライトのひとつなることは確定的でしょう。「Mr. Brightside」をグリーン・ステージに詰めかけたみんなで歌いたいっすね。また『Glow On』(2021年)で現行のハードコア・パンク・バンドとしては最大級の批評的成功を手中にしたターンスタイルや、極私的に2015~16年ごろ熱を上げて《iNDIEVOX》などで台湾インディーを探し回っていた頃から、同シーンのトップ・ランナーとして活躍していたNo Party For Cao Dongのライヴ・アクトも非常に楽しみ。今年は2018年以来6年ぶりに苗場へ行きます!(尾野泰幸)
7e(1日目/DAY DREAMING)
Hiroko Yamamura(2日目/PLANET GROOVE)
DJ KRUSH(3日目/SUNDAY SESSION)
フジロックの魅力の一つはいつでも踊れるアクトがどこかのステージにいるところじゃないでしょうか。それも、毎日朝まで。というわけで、DJから3アクト選んでみました。(いわゆるライヴ・アクトについては先日公開された「あなたの好きなドラマーは誰ですか?」という記事で少し触れているので覗いてみてください)。まず初日の昼帯にはクィアフレンドリーかつハードコアなレイブ《SLICK》のレジデントである7eがDAY DREAMINGに登場。タイムテーブルを見れば7eの次は(同じく《SLICK》レジデント)Mari Sakurai、そしてゆるふわギャングのNENEと1日目の昼間からめちゃくちゃ踊れること間違いなしです。そして2日目のレッドマーキーの深夜帯(TRIBAL CIRCUS)にはHiroko Yamamuraの名前が! 彼女の《Boiler Room》の映像に何度ダンス欲を煽られたことでしょう! そして最後は言わずと知れたDJ KRUSH。聴くたびにまず音響で圧倒してくれるイメージがある彼のプレイは3日間楽しんで疲れた身体を次の段階に覚醒させてくれる気がします!(高久大輝)
Friko(1日目/GREEN STAGE)
The Last Dinner Party(2日目/GREEN STAGE)
Fontaines D.C.(3日目/RED MARQUEE)
シカゴの3人組としてデビュー・アルバム『Where we’ve been, Where we go from here』をリリースしたフリコは、現在はベーシストが脱退しデュオに。2000年代のUSインディーにも似たアマチュアリズムと祝祭感、そして繊細な「静」と騒々しい「動」が同居した作曲は、きっと生演奏でこそ真価を発揮するもの。レディオヘッドから「Weird Fishes / Arpeggi」をカヴァーの題材に選んだことさえ、かれらが強力なライヴ・バンドたらんとする宣言に思える。一方のザ・ラスト・ディナー・パーティーは、アルバム『Prelude to Ecstasy』の曲目から「Nothing Matters」と「Sinner」のライヴ・テイクをシングル・カットしているのをご存じだろうか。同バンドのスタジオ音源はグラム・ロック然としたゴージャスな音響とウェルメイドなプロダクションが良くも悪くも目についた。しかしこれらのライヴ録音では、2010年代後半のザ・ビッグ・ムーンやマリカ・ハックマンあたりを引き合いに出したくなるオルタナ・サウンドに。8月23日リリース予定のフォンテインズD.C.の新作『Romance』は、ヴァンパイア・ウィークエンドにも並ぶだろう2024年ロック有望株。ヒップホップ〜トリップ・ホップに急接近した先行曲「Starburster」のキマりきったサウンド&フロウからしてもう最高! すでに明らかになっているアートワークの怒張と悲哀を同時にたたえたような表情も、以前から両義的なリリックや不明瞭な音像を描いてきた彼ららしい。でもやっぱりライヴが観たいでしょ!(髙橋翔哉)
Remi Wolf(1日目/WHITE STAGE)
girl in red(2日目/WHITE STAGE)
The Jesus and Mary Chain(3日目/WHITE STAGE)
「フジロックに行って嫌な思いをしたことがない」友人が帰りの道中で話した言葉を覚えている。筆者は2005年~2011年まで毎年フジロックに行っていたので、雨の重なる季節は「フジロックみたいだな」と感じつつ、この言葉を思い出す。こういうことをSNSに書けば揶揄されるのだろうか。2024年のフジロックにサマーソニック、いや昨今は、ラインナップの発表に限らず期待と羨望の視線が過剰になった気がする。そんなにフェスティバルを楽しむことは希少になってしまったのか? いやいや一年の内のわずかな時間を自然の中で、音楽・音楽を愛する人と過ごすのはスペシャルだけど難しいことじゃない。フジロックの会場は予想以上の自由が溢れている。筆者の挙げた、レミ・ウルフ、ガール・イン・レッド、ジーザス&メリー・チェインは偶然にもホワイト・ステージに出演するが、時間帯によって表情の変わる環境と共に観てほしい。あと何と言っても、ザ・キラーズの発表に悶絶。SZA出演キャンセルからの驚きだけじゃなく、長年オーディエンスが望んでいた期待を組むこと、ただ良いフェスティバルにしたい、そんな情熱を感じて熱くなってしまった。今年のフジロックは粋、この言葉に尽きる。(吉澤奈々)
Text By Shoya TakahashiNana YoshizawaShino OkamuraDaiki TakakuYasuyuki Ono