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テキサス、カントリーという自身のルーツと伝統/共同体への貢献
ビッグ・シーフのギタリスト、バック・ミークが語る制約が生み出したセカンド・ソロ・アルバム

15 January 2021 | By Yasuyuki Ono

『U.F.O.F』(2019年)、『Two Hands』(2019年)の二連作を携え、2020年にビッグ・シーフは2月からワールド・ツアーを展開するはずだった。しかしながら、同時的に世界中へ拡大した新型コロナウィルス感染症を受け、2月のイタリア・ボローニャ公演を最後にバンドはツアーを休止。2021年までのスケジュールは白紙となった。

しかし、その見えないウィルスが蔓延る中でバンドも、それぞれのメンバーも音楽を止めることはしなかった。4月には《Bandcamp》でバンドによるデモ音源がリリースされた。同音源の全収益はツアー休止により収入にダメージを受けたツアー・クルーのサポートにあてられた。6月にジェイムズ・クリヴチュニアは数年来制作を行っていたという、インターネット上に打ち捨てられた動画や音源、フィールド・レコーディング、ドローン、ソーキング・ミュージックなどを断片的に組み合わせたエクスペリメンタル・アルバム『A New Found Relaxation』をリリース。エイドリアン・レンカーはマサチューセッツ州西部の山小屋にこもり、限られた録音環境を生かし、過剰なまでに生々しい歌声と演奏を収めた『Songs』と『Instrulmentals』の二連作を制作。9月にリリースとなった同作は2020年の各誌年間ベストに軒並みノミネートされた。さらに、バンドの5作目となるニュー・アルバム制作の話も出ているという。

もちろん、ビッグ・シーフのメンバーがそれぞれのソロ活動を行ってきたのは今に始まったことではない。しかしながらこれまでと何もかもが変わってしまった2020年にあって、それぞれのメンバーが自身のクリエイティビティの流れと行く先をコントロールし、今や誰しもが次の一手を待ち望むスター・バンドとなったビッグ・シーフでできること以外の表現方法を模索し、実現してきた一年だったともいえるだろう。

そのようなバンドをめぐる状況を背景とし、この度リリースされるのが、バンドでギターを担うバック・ミークによるセカンド・ソロ・アルバム『Two Saviors』である。ビッグ・シーフのプロデューサーとしてお馴染み、近年ではボン・イヴェール『i、 i』(2019年)などにも参加するアンドリュー・サルロを今作もプロデューサーに招聘。自身の弟や旧知の仲間たちと共にニューオリンズの一軒家に泊まり込み、8トラックのテープ・レコーダーを使用して7日間という短期間で本作は制作された。実はコロナ・ウィルス感染症拡大の前に制作が進んでいたという本作であるが、「制約がもたらすクリエイティビティ」という思想において、本作は上述したエイドリアン・レンカーの二連作とも繋がりうるだろう。ビッグ・シーフでの成功を経験し、前作『BUCK MEEK』(2018年)から2年を経た彼が歌い、演奏するカントリー、フォーク・ミュージックがどのように歴史と接続し、何を表現しようとしているのか。多くのミュージシャン、土地、仲間の名を挙げながら、バック・ミークは語った。

(インタビュー・文/尾野泰幸 通訳/相澤宏子)

Interview with Buck Meek

――新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受けて、ここ日本にも訪れるはずだったビッグ・シーフのワールド・ツアーは中止となりました。多忙な毎日から少し離れることを望んでいた、というあなたの発言も目にしました。半ば強制的な形で訪れたその孤独は、本作の制作にどのような影響をもたらしましたか?

Buck Meek(以下、B):実はこのアルバムはコロナ・ウイルスが直撃する前に曲を書いてレコーディングしていたんだよね。だけど、ここ10ヶ月間のパンデミックがもたらした孤独の中で、自分のネクスト・アルバムのために新曲をたくさん書いたんだ。それから、毎日ほとんどの時間を海で過ごしたり、トパンガ州立公園でチュマッシュ族やトングヴァ族が持つ野生のハーブや花の薬事使用について勉強したりしていたかな。自然は僕のライティングに強いインパクトを与えてくれる。人間の全ての経験は自然界からの反響を通じてより良く理解することができるようにね。

――環境という側面に注目すると、本作はニューオリンズの一軒家で一週間で制作されたと聞いています。

B:それはプロデューサーのアンドリュー・サルロの発案でもあったんだ。彼は、本作に参加したバンド・メンバー一人一人のアイデンティティの境界線が薄れ、ひとつに溶け込んでいくような環境に僕たちを置きたかったんだ。それは暑くて、幽霊すら出そうな植物が生い茂った環境だった。ニュー・オリンズというのは、エントロピーが一定の状態、つまりワニが自分の尻尾を食べているような状態で存在していたんだ。それは何かを創造するプロセスの反映であり、創造のプロセスが生じていることから完全に気を逸らしてくれるものでもあった。その円環が真の創造的プロセスを可能にしてくれたということだね。

――さらに、本作はダイナミック・マイクのみがついた8トラックのテープ・マシーンを使用して、すべてライブ録音でレコーディング・テイクはバンドには最終日まで聞かせないなど、7日間という期間も含め様々な制限・制約のもとでの制作となったんですよね。その設計の意図はどのようなものだったのでしょうか?

B:これらの制約は、僕たちの本能を刺激するように大きく働きかけること、全注意力をもった反応を引き出すこと、互いに耳を傾け最初に心の中でその声を再生してみることを目的としていたんだ。注意力はパワーだからね。これまで体験してきたレコーディングのすべてで、最初か2番目のテイクが独特のバイタリティを帯びて鳴ることが多かった。1週間を通して、その感覚を呼び起こするために制約を作ったんだ。

――本作のプロデューサーは、あなたのソロ作品はもちろんビッグ・シーフの作品にも携わってきたアンドリュー・サルロ、バンド・メンバーも前作同様にあなたの兄弟のディラン・ミークも参加し、アダム・ブリズビンやあなたの友人であるトワインも名を連ねています。「Second Sight」の多層的で弾みのあるサウンドとコーラス・ワークは、本作のバンド・サウンドを象徴するような一曲になっているとも思いますが、これらのメンバーはどのようにして選ばれたのでしょうか?

B:アダム・ブリズビンはバンシー(スコットランドやアイルランドで伝承される妖精。死を予見するという。:筆者注)。この地球上で、彼ほどゾッとするギタリストはいないよ。彼は楽器を手にするたびにトランス状態になるんだ。アンドリュー・サルロは、僕らの世代の偉大なコメディアンの一人であり、スタジオで即興でキャラクターや斜め上の戦略を練ることで、皆を生き生きとした気分にさてくれる。オースティン・ヴォーンはレオナルド・ダ・ヴィンチのようにドラムを叩く。マット・デイヴィッドソンは絶対的な存在感で彼の音楽を通して祈りを捧げている。僕の兄弟であるディランは水夫のようにスウィングし、ハーレム、ヒューストン、メンフィス、ニューオーリンズ、デトロイトを世界で最もソフトな2つの手で操っているね。

――本作全体の基調となるのは、以前のソロ・ワーク同様に弾き語りとバンドサウンドがバランスよく配置されたカントリー・サウンドだと感じています。あなたのソロ・ワークを貫く軸とはいかなるものなのでしょうか?

B:ルイ・アームストロングの言葉を借りるなら「すべての音楽はフォーク・ミュージックだ。それが馬の音楽でない限り」ということに尽きるかな。

――あなたのソロ・ワークは自身のテキサスという出自と結びつくカントリー、ブルース、ウェスタン・スウィングといった音楽的ルーツが顕著に反映されているとも感じます。ただし2020年にリリースし、本作に収められなかった「Roll Back Your Clocks」はアコースティック・ギターを主としつつ、電子音とホーンが緩やかに絡みあう展開から生まれる繊細でアンビエントな質感がありました。一見すると、あなた「らしくない」とも思えるこのようなサウンドはどのような意図、背景のもと録音されたのでしょうか?

B:テキサスは鋭利で殺伐とした場所。だけれども、白い石灰石で作られた小川の湧水に、空の下に低く垂れ下がった太陽がナラの木やラクウショウの葉を通して万華鏡のように紫色を映し出す。その時、心を溶かすような柔らかさがそこにある。そんなことを「Roll Back Your Clocks」のサウンドは示しているんだと思うね。

――最近、あなたは60~70年代からカントリー・ミュージックにおける歴史を探究していたとも聞いています。そこから本作に影響を与えたレコードや制作方法があったりするのでしょうか?

B:マイケル・ハーレー『Armchair Boogie』はこのアルバムを作るのに一つの暗号になったね。できることなら、すべてのレコーディング・セッションそれぞれに、1匹の犬がいるべきだね。豆を鍋で弱火で煮ることも必要条件。南向きの窓は開けてあるべきだし、タバコは室内で吸えないとダメだね。

――少し話を広げると、あなたがインスタグラムでBLMについて発言されていたのを目にしました。エスニシティやダイバーシティについての議論はアクチュアルであり続ける社会的イシューだと思います。あなたのルーツであり、本作のサウンドの基調ともなっているだろうカントリー・ミュージックは保守的な白人による男性主義的な音楽であるという従来的なステレオタイプの見方がなされてきた歴史もあると思います。あなたは、どのような意識をもってその音楽を受容し、音楽制作をしてきたといえるでしょうか?

B:1970年代以降、音楽の歴史に革命をもたらしたと僕が考えている多くの作家たちを活かしてきた革新的でもある拠点のテキサス、オースティンで、カントリーと共に育った僕の体験は最初に確立されたんだ。僕が最初に聴いたローカルなアーティストは、タウンズ・ヴァン・ザント、 ガイ・クラーク、 ブレイズ・フォーリー、 レイ・ワイリー・ハバード、 ブッチ・ハンコックといった人たちだった。彼らはあらゆる問題をめぐる政治的、社会的に訴えかける多くの曲を残してきたし、シルヴィア・プラスやシェイクスピアなどと同じぐらい詩的な深みもあるんだ。

これらのアーティストはたくさんのアーティストへと導いてくれた。カーター・ファミリー、 ウディ・ガスリー、 キティ・ウェルズ、 パッツィー・クライン、 ドリー・パートン、 ロレッタ・リン、 タミー・ワイネット、 ルシンダ・ウィリアムス、 エミルー・ハリス、アイリス・ディメント、 グラム・パーソンズ、 ジョン・ハートフォード、 テリー・アレン、 ロドニー・クロウェル、 マイケル・ハーレー、ヴィクトリア・ウィリアムス、アンクル・テュペロ、 ウィルコ、 シルヴァー・ジューズ、 ラムチョップ、 スモッグ、 ボニー・プリンス・ビリー、 ジョリー・ホランド、 ギリアン・ウェルチ、 トワイン、 キキ・カヴァゾス、もっともっとたくさんのアーティストがいる。僕はこれらのアーティストが産み出し、強い影響力を持って受け継がれてきたものに想いを巡らせ、僕自身の歌声もその共同体に寄与することができるよう、謙虚に音楽を作り続けているんだ。

――音楽共同体への貢献という側面からいえば、別の日にはインスタグラムでZoomを利用したギター・レッスンの告知もしていましたね。あなたは子供のころ、テキサスで、そこに暮らし訪れるミュージシャンたちとの出会いや教育から多くのインスパイアを受けた経験もあるようですが、上述したようなレッスンの開催はあなたも新たなプレイヤーに対する教育、技術の伝達という意識があるからこその行動なのでしょうか?

B:そうだね。僕の友人であるスティーブン・ヴァン・ベッテンが最近《The School of Song》というWebサイトを立ち上げて、この春から僕がグループ・ギターとソング・ライティングのレッスンをすることになったんだ。子供の頃、僕を支えてくれたミュージシャンたちーーブルース・ギタリストのブランドン・ギスト、マヌーシュ・ギタリストのジャンゴ・ポーター、スウィング・ギタリストのスリム・リッチー、そしてスライド・ギタリストのデイヴィット・トロンゾらは、僕に大きな影響を与えてくれた。特に、表現を通して成長し、喜びを得ることには無限の可能性があるという信念を持たせてくれたんだ。この感情を他の人たちにも伝えたい。そんな気持ちで活動しているよ。

<了>


Buck Meek

Two Saviors

LABEL : Keeled Scales / Inpartment
RELEASE DATE : 2021.01.15


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