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「斬新で実験的だけど意味のある歌でもあることが可能なんだ」
テイラー・スウィフトを手がけたアーロン・デスナーとジャスティン・ヴァーノンが共有する実験場としてのビッグ・レッド・マシーン

26 August 2021 | By Shino Okamura

いつのまにかそこで何かが育まれ、いつか発火点となる。まさかと思っていたことが起こり、よもやの方向へと発展する。ビッグ・レッド・マシーン……ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンとザ・ナショナルのアーロン・デスナー周辺を追いかけていると、そんなハッピー・サプライズに遭遇することが多い。逆に言うと、興味深い、面白いという作品やアーティストを辿っていけば、不思議とジャスティンやアーロン界隈にぶつかるということでもある。ジャスティンとアーロンは、もちろんそんな人脈の広がりを最終的な目的としているわけではなく、ただただ共鳴しあえる仲間たちとともに浮上していく、サポートし合うことをライフワークにしている懐の大きなアーティストだ。彼らが主催するアーティスト集団《PEOPLE》、あるいはレーベル《37d03d》、イベントやフェスの主催や企画などはそんな活動の成果、あるいはプロセスと言っていい。

二人を中心とするそうした連携、サポートの姿勢を象徴するのが昨年リリースされたテイラー・スウィフトの2枚のアルバム『folklore』と『evermore』だろう。テイラーの方からアーロンにメールでコンタクトをとってプロデュースを依頼した、というのは既に知られたエピソードだが、それは決して一過性の出来事に終わらなかった。ビッグ・レッド・マシーンとしての新作にしてセカンド・アルバム『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』は、サウンド面でも作業面でも、確実にテイラーとの邂逅が継続していることを伝えるものであり、こうしたやり方、姿勢こそが、昨年来のコロナ関係なく、世界規模で思想や生き方、民族や肌の色での分断化に歯止めがかからない今、そこにフラットな意識をもたらす唯一の有効手段だと静かに訴えるような大傑作だ。華やかさよりソングライティング力の高さにフォーカスされた昨年のテイラーの2作品さながらのフォーキーでオーセンティックな歌ものアルバムとなったビッグ・レッド・マシーンの『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』。ファースト『Big Red Machine』(2018年)が近年のR&B、ヒップホップとシンクロしたボン・イヴェールらしいビート感を主とする内容だったのに対して、今回はアーロンの持つヒューマンでオーガニックなメロディ指向が前面に出た格好だ。テイラー・スウィフトはもちろん、アナイス・ミッチェル、ロビン・ペックノールド(フリート・フォクシーズ)、ナイーム(スパンク・ロック)、ベン・ハワード、ケイト・ステイブルズ(ディス・イズ・ザ・キット)、シャロン・ヴァン・エッテン、リサ・ハニガン、マイ・ブライテスト・ダイヤモンド……と実に多くのゲストが参加しているのも象徴的だろう。

というわけで、今回、このビッグ・レッド・マシーンの新作についてアーロン・デスナーに取材が実現したのでお届けしよう。なお、このアーロンとの対話は、このTURNとMikikiにて同時公開となっているが、それぞれ違う話が展開されていて、両方を読んで初めて一つの取材記事を読み切ることになるような、言わば両A面のシングルのごとく読んでいただける内容になっているのでぜひ行き来しながら楽しんでもらいたい。ここまでガッツリとアーロンの発言記事がネット・メディアに掲載されるのも日本では滅多にないこと。まぎれもなく現在のアメリカの……いや世界規模で見ても最重要人物の貴重なロング・インタビューである。
(インタビュー・文/岡村詩野 通訳/伴野由里子 協力/Mikiki)

Interview with Aaron Dessner

──昨2020年はあなたがプロデュースしたテイラー・スウィフトの2作品『folklore』『evermore』が大きな意味を持った年でした。ビッグ・レッド・マシーンとしての新作の話を伺う前に、あらためて、そのテイラーとの作業を振り返っていただきたいのですが、テイラーとのやりとりを重ねる中で、彼女はあなたのプロデュース力、ソングライティング力、ディレクション力などについて、どのような部分で頼ってきていたと言えますか? 彼女があなたの仕事のどういうところに力を貸してほしがっていたか、何か彼女との会話ややりとりの中で聞いたり感じたりしたことがあれば教えてください。

Aaron Dessner(以下、A):いや、むしろ彼女から学ぶことのほうが多かったよ。自分が書いたものに対して戻ってくる彼女のメロディーの乗せ方だったり、アイディアの組み立て方、ストーリーテリング、流れの作り方だったり、そのどれもが刺激に満ちていた。特に話し合って進めたわけじゃない。僕が作ったものに対して、彼女が何か反応してくれて、それをさらに僕のほうでも膨らませて、彼女が納得するまでやる。もちろん、誰だろうと、これまで一緒に仕事をした人からは何かしら学ぶものがあった。でも、彼女の場合は、言うならば、リオネル・メッシとサッカーをしているようなもので、史上最高の選手とパス回しをしてるわけで、そりゃあ、楽しくないわけないよね。

──では、テイラーがあなたと組んだ去年の2枚のアルバム作業を経て、彼女がソングライターとして、シンガーとして、表現者として変わったのはどのような部分にあったと考えますか?

A:実際彼女がどう思っているかはわからないけど、彼女も自分自身についてより深く知ることができたんじゃないかな。あるいは少なくとも、新しいサウンドや曲作りの方法を知るきっかけになったと思う。実際、それまでと違って、第三者の視点で書いていることが多かった。つまり、自伝的要素がそれまでと比べて少ないんだ。あとは、彼女自身も驚いたところがあったんじゃないかな。それまでも凄い作品をたくさん出してきた人ではあるけど、あれだけ多くの曲を、あれだけの質の高さで、短時間で書けたのは、普段よりも感覚が研ぎ澄まされた別次元にいたからじゃないかって彼女自身も思ったと思う。もともと曲を自然に書ける人なんだけど、何か触発されるアイディアが浮かんで、そこから書くような流れだったんだろうな。むりやり絞り出すような感じじゃなくてね。

──あなたはジャスティン・ヴァーノンらとアーティスト集団《PEOPLE》やレーベル《37d03d》の運営、フェスや配信などの積極的な企画や発信を行っていますが、これで、リオネル・メッシさながらのスターであるテイラー・スウィフトという圧倒的なポップ・イコンがその“一員”に加わったような格好です。結果として、実際に彼女との交流がコミュニティ・ミュージックたる意識・哲学をどのように広げたり、変えたと思いますか?

A:変えたというよりも、その真逆で、「自分の信念に従って創れば、絶対にいいものが生まれる」という考えが確信に変わったかな。どんなものになるかわからず心のまま音楽を作ることが、何よりも特別なことだって。ビッグ・レッド・マシーンの曲にも言えることなんだけど、例えば「テイラーのために曲を書く」という意識で書いたわけじゃなくて、自分が好きな音楽を作っただけで、それに彼女が反応してくれた結果できた。あと、頑張って途中で投げ出さずにやり続けることで、思ってもみないことが起こり得ることを、再確認することもできた。テイラーに関して、彼女の成功を少しも疑問に思ったことはない。彼女の成功は、納得しかない。彼女は音楽に真摯に取り組むし、卓越しているし、人にも親切に接し、相手への感謝の気持ちも忘れない。それって、僕もそうでありたいと思うことばかりだ。ジャスティンもそう。僕がこれまで会った成功したミュージシャンのほとんどに言える。人に対して無礼だったり、優しさが欠けてたり、感謝を忘れると、次第に誰も一緒に仕事をしてくれなくなる。そういう人間性の部分もだし、音楽、コミュニティ、コラボレーションや共有(sharing)への意識を再確認できたよ。

──さて、今回のニュー・アルバムについてですが、最初の1週間で、「Reese」、「8:22am」、そして最終的にアルバムのオープニングとなる「Latter Days」などの曲が生まれたそうですね。今回の作品の多くが、あなたがたの子供時代の思い、感情を表現したような曲になっている印象もあります。つまり、無邪気さの喪失と、大人になる前の微妙な世代の時に、人を傷つけたり、失ったり、過ちを犯したりする、そんな若き日の姿が投影されているような。ジャスティンとはこうしたテーマについて話し合ったり、共有したりもしたのでしょうか? なぜこのような方向にフォーカスされたのだと思いますか?

A:ジャスティンとはそういう内容については特に話さなかったんだ。最初は意識もしてなかったんだけど、いつのまにか、できてくる曲に共通する何かがあることに気づいた。初期段階でジャスティンが即興で歌った歌詞のいくつかに既にあらわれていた。【It’s that time of the morning when I was born】とかね。あと、「Latter Days」や「New Auburn」といった曲でも、歌詞を書いたのはアナイスなんだけど、彼女が歌詞を書く前に、ジャスティンが仮歌でのせていた中に、彼が子供時代について歌っているように聞こえるものがあった。あと僕自身も「Brycie」を書いてて。あの曲は自分の子供時代と兄弟のBryceとの関係について書いた曲で、高校時代に彼に救われた経験をもとにしている。当時深刻なうつ病に苦しんでいる僕を、彼は絶対に見捨てようとしなかった。ずっと支えてくれて、僕を立ち直らせてくれたんだ。彼がいなかったら自分がどうなっていたかはわからない。もちろん、いずれは回復していたとは思うけど、でも、ドラッグだろうと何だろうと、彼は僕に道を外れるようなことは断固としてさせなかったんだ。

──その時、ブライスとともに音楽の存在はどのようにあなたに寄り添っていたのでしょうか?

A:ちょうどその頃にピアノを真剣に弾くようになったんだ。シンプルだけど、エモーショナルで、反復の多い、僕流の弾き方でね。よく家からこっそり抜け出して、学校に潜り込んで弾いていた。家にはピアノがなかったから。学校のピアノで、独学で覚えていった。たくさん成長した時期でもあったんだよね。精神的に調子は決して良くなかったけど、新しいことを学んで、ソングライターになり始めた時期だったとも言えるよ。あの頃のそうした経験をもとに、この曲「Brycie」を書いたわけで、あの時彼が支えてくれたことへの感謝と、彼が今も側にいてくれていることの喜びも込めている。おそらくアナイスとジャスティンはそれを聴いたんだと思う。若い頃を振り返って、必死に救いや未来を探していた頃を思い出すのは誰もが共感できることじゃないかな。それでアナイスは「Latter Days」と「New Auburn」という、無邪気さを失う前の子供時代を振り返って懐かしむ思いを綴った曲を書いた。大人になるにつれて、不安や恐怖や心配ごとが増えて、人間関係も崩壊する。間違いを犯して、人を傷つけてしまうこともある。きちんと向き合うのは難しいけど、アルバムにすることならできるかもって。初めから決めてたことではなかったけど、そもそも自分が音楽を作る理由がそこにあることに気づいた。音楽は自分を癒して、救ってくれるものだから。僕が作る音楽は、赤ちゃんを優しく揺らしてあげているような、美しい、反復するギターとピアノの旋律を核に曲にする。それでピンときた。音楽はエモーショナルで瞑想的なもので、これらの曲は子供時代を振り返り、答えを探している、あるいは大人になる前の無邪気だった頃を懐かしんでいるのかもしれない。それに、音楽との触れ合いにおいても、音楽を演奏する楽しさを初めて知ったのも子供の頃で、汚れのない、本当に純粋な感覚だ。音楽を通して人と繋がる不思議な感覚にただ無我夢中になって、他に余計な動機はない。今作の曲を書き進めていく中で、そういうことを歌った曲が多いことに気づいた。そういう意味でも特別な作品になったと思っているよ。

──アルバムの中ではとりわけ、テイラーが参加した「Renegade」の歌詞も象徴的ですね。
Is it insensitive for me to say
Get your shit together
So I can love you
Is it really your anxiety
That stops you from giving me everything
Or do you just not want to?

この箇所などは、焦燥感と恐れが深い言葉の中に見事に描かれていて素晴らしいと思いました。一見、ラブソングですが、思春期の葛藤のようにも読めます。これはテイラーとの作業の中でどのように進められたのでしょうか?

A:僕が作った音楽のトラックに彼女が歌を被せるという、『folklore』と『evermore』と同じ作業のやり方だったけど、何度か行ったり来たりのやりとりがあった。彼女が一部を書いて、僕が曲の構成を少し変えて、ジャスティンが自分のパートを歌ってくれて、それを僕が最終的に組み合わせていった、という。彼女は、不安や恐れが、人を愛することだったり、愛されることの障壁になってしまうことを考えて書いたんだと思う。不安を抱えて、愛することができない人も傷ついているんだろうけど、同時に相手も傷つけているわけで、それが問題になる。よくある話だよね。「Birch」でも、テイラーとジャスティンが一緒に歌っているんだけど、どちらの曲も、恋人たちが、別れるか関係を続けるかそれぞれの観点から正直な気持ちを伝えようとしている。これもまた、純粋さや無邪気さを失った後、生きることの現実を突きつけられる、というアルバムのテーマにつながっていると思う。

──あなた自身、10代のその頃を振り返ってみて、シンシナティにいた頃、ニューヨークに出ていったあと……そのはざまの揺れ動くような時期がもたらしたものはどういうものだと考えていますか?

A:自分にとっていろいろなことがあった時期でもあった。両親のことだったり、家族内でのトラウマや喪失があったのもシンシナティにまだいた頃で。僕の子供時代は、決して恵まれてなかったわけじゃない。いい子供時代だった。それがある時期突然悲しみに飲み込まれるようになった。なぜだかは全然わからない。その後、大学に進むと、生活のペースがぐっと速まるわけだけど、今でも同じ兆候を抱えていて、気をつけないと簡単に落ち込んでしまうから、毎日走るようにするなど対策をしている。人を傷つけてしまったりしたこともある。子供から大人になる時期というのは、いい人間になれるかどうかを、必死で学ぼうとしている。シンシナティにいた頃のことを今でもよく考えるよ。自分をニューヨーカーだと思ったことはなくて、今でも自分はオハイオ州ののんびりした中西部の人間だと思っているんだ。ジャスティンも同じみたいだよ。オハイオ州にはもう住んでないのに、今でも住んでいるような不思議な感覚だ。

インタビューに答えてくれたアーロン・デスナー



──あなたの近くにはザ・ナショナルでの盟友マット・バーニンガー、テイラー、ジャスティン、あるいは今回のアルバムに参加しているロビン・ペックノールド、シャロン・ヴァン・エッテン、ケイト・ステイブルズ(ディス・イズ・ザ・キット)など素晴らしいシンガーがいますが、「Brycie」や「Magnolia」といったあなた自身がリード・ヴォーカルをとる曲を聴くと、いっそすべてあなた自身のヴォーカルで聴いてみたいとさえ思いました。自分の声で自分の言葉を歌にすることの醍醐味と、歌を表現力のある人に任せることの面白さ、その違いはどういうところにあるのでしょうか。

A:実は自分で歌うことについては今回大きな前進だったという感覚はあるんだ。主にジャスティンに背中を押されたんだけど、「Brycie」を僕が歌ったら、「ほら、何かが起きているだろ。歌うという新境地を見つけただろ」と言ってくれたよ。彼自身はずっと前にその新境地を見つけたわけで、当然僕は彼のような神から授かったような素晴らしい歌声を持っているわけではないけど、彼が言ったことにも一理あって。というのも、音楽をプレイする時は前からいつも歌ってて、こうして曲を形にする上で、自分自身のアイディアを声に出して表現することで、新しい感覚が目覚めたんだ。自信ではないんだけど、自己肯定というのか。鏡で自分の姿を見るのは大嫌いなんだけど、自分の歌声を楽しんで聴けるようにはなった。なぜか恥ずかしくないんだよ(笑)。なぜ、この歳までかかったのかはわからないけどね。でも、君が言うように、これまで素晴らしいシンガーたちと組んでしまうとなかなか難しいものがあるよね。マットなんかは、朗々とした見事な歌声で、書く歌詞も素晴らしいから、「自分が歌ってもしょうがないや」と思ってしまう。でも、もしかしたら彼にはない何かが自分にあるのかもしれないということに気づいた。今後はもっとやるかもしれない。そういう気づきあったという点で、大事なプロセスだったことは間違いないね。

──自分で綴った言葉を歌うことで、感情を吐き出す、浄化作用のような部分もありますか。

A:音楽を作ることの摩訶不思議な感覚に新しい側面が加わった感じで、トラックの上にメロディーや言葉を自分でのせることで、そこに意味合いが生まれる。さらにそこに、自分の経験とは違うものとして新しい命が宿るというのは、特別な感覚だ。その感覚って、これまでザ・ナショナルや他のプロジェクトでも感じていたんだけど、今回、自分一人で完結できるとわかったのは嬉しかったよ。でも、それが自分のやるべき本職かはわからない。今後またやるかは、その時になってみないとわからないなあ。

──ただ、多くのプロジェクトやプロデュースなどを行っていると相互作用で新しい道筋が見えてくることは多いのではないでしょうか。特にビッグ・レッド・マシーンはあなたにとってもジャスティンにとってもそうしたきっかけとなる重要な場なのかもしれませんね。

A:そう、ビッグ・レッド・マシーンは僕にとって実験室のようなものだ。実験して、学んで、成長する場所だと思っている。そこで成し遂げたものが、他のプロジェクトのまた糧になる。テイラーの『folklore』にしても、ビッグ・レッド・マシーンの1作目を作ってなければ、あれを作ることはできてなかった。というのは、ドラムマシーンの使い方や、サウンド面での実験や、曲作りのアプローチといったビッグ・レッド・マシーンで培ったテクニックを『folklore』で使っているからなんだよね。ザ・ナショナルにも同じことが言える。ザ・ナショナルで学んできたことが、テイラーと仕事をする上で役に立っている。全てがつながっている。また、コミュニティーという点からも、いい意味で、同じ仲間がいつも関わっている。音楽は僕にとってコミュニティーであり、アイディアを共有すること。誰かに声をかけてもらったらほぼ断らずに引き受けるようにしている。何かを貢献する感覚が好きで。覚えているのは、ディス・イズ・ザ・キットのケイト・ステイブルズから彼女の作品(昨年の『Off Off On』)に1曲参加してほしいという連絡がきた時、ちょうどそれが『folklore』の仕上げをしている最中でね。時間の余裕が全くなかった。でもある日、夜中に目が覚めて、「これは絶対にやらないと」と思って、午前3時にスタジオに行って、何を弾いたかはほとんど覚えていないんだけど、自分のパートを弾いて送った。結果的には、自分にとってその月やった一番大事なことだったってくらいに、いい演奏ができたと思っている。きっとケイトも僕にお願いされたら同じことをしてくれただろう。それくらい互いに協力することは大事だ。ビッグ・レッド・マシーンはザ・ナショナルと他のいろいろなプロジェクトの架け橋のようなものだと思っているよ。

──一方、あなた自身は基本的にとても情熱的な音楽家で、メロディも演奏も曲作りそのものも、すごくエモーショナルに結実させ、最終的にヒューマンなタッチをしっかり表出させていきます。あなたの作品に触れていると人間賛歌という言葉も浮かんでくるほどですが、近年、急速なオートメーション化やIT化によって人間らしさが失われています。あなたはそうした現代社会の状況において、自身の作品や活動でどのように対峙していきたいと思っていますか?

A:いい質問だね。今作は、最先端の技術と昔ながらのサウンドが共存している。僕が使っているものの中にはほとんどAIかというソフトもあって、リズム・トラックやサンプリングやシーケンスに使っている。その一方で、1971年と変わらない形で部屋で演奏したままのサウンドを使っているものもある。ポップ・ミュージックに限らず、どの音楽も、勢力の移動があって、今はオーガニックや音作りやサウンド、楽器などに振れているように感じる。僕が聴いてきた音楽に近い。でも同時にミュージシャンとして、人工的な最先端の技術やテクニックにも興味がある。一番大事なのは、作り手が、自分の中で感じたままに音楽を作っているかであって、商業的に勝算があるからといって数式に当て嵌めてるだけじゃない、ということ。世の中にはラジオやヒットの数式を満たすためだけに書かれたと思える音楽も多い。《Today’s Top Hits》のプレイリストを見ると、一人のアーティストが伝えたいことを表現しているというよりは、20人の人が関わっていて、「このBPMで、これは絶対に入れて、ここにこんなブリッジがきて、あとはこうで」って決めて作ったみたいに聴こえる。ビッグ・レッド・マシーンに貢献できることがあるとするなら、若い人が聴いて、「斬新で実験的だけど、意味のある歌でもあるってことが可能なんだ」って思ってくれるかもしれないってこと。そこから何か学べて、成長できて、不可能を可能にすることができる、というお手本になれればいい。ビッグ・レッド・マシーンのこのアルバムは、僕自身も聴きたくなる作品で、それがそもそも作る動機でもある。「自分が好きな音楽を作る」という。他の人も好きかどうかは、わからないけどね(笑)。

──その最先端の技術とオーガニックを上手く昇華しているお手本、目標、リスペクトの対象になっている先達のアーティストやコンポーザー、活動家などがいたら教えてください。

A:言い出したらキリがないけど、例えばジョン・ホプキンスのように、クラシカルのピアニストという側面を持ちながらも、ソフトを使ってサウンドを思い切り加工したりもして、でも、すごくリアルに聴こえるよね。他にも素晴らしい女性ソングライターたちが今活躍しているけど、ビッグ・シーフのエイドリアン・レンカーなんかは、昔ながらのミュージシャンで、ギタリストとしてもソングライターとしても素晴らしいけど、ハーモニーの付け方とかが斬新だし、バンドも常に実験的だと思うよ。

──ところで、アルバム・タイトルの『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』は「Latter Days」の歌詞に登場する一節ですが、テイラーがこれがタイトルにはいいんじゃない? と言ったそうですね。このタイトルが意味するものは何でしょうか? 何が「続いていく」としているのでしょうか?

A:『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』は、確かにテイラーがアルバムのいろいろなテーマに通じると思って提案してくれたんだ。「この関係はあとどれくらい続くの?」「いつまで子供のままでいられるの?」「この結婚はいつまで続くの?」「このパンデミックはいつまで続くの?」「この湧き出る創造性はいつまで続くの?」「この好調さはいつまで続くの?」という感じで、アルバムを通して多くの疑問が投げかけられている。彼女から「アルバムのタイトルはどうするの?」と聞かれて、「何も決めていないんだ」と答えたら、「じゃあ、これはどう?」と言ってくれた。彼女は言葉のセンスが凄くある人だし、言われて本当に「その通りだ」と思ったんだよ。

──人々とのコミュニケーション、コミットメント……《PEOPLE》のポリシーそのものがずっと続いていけばいい……そのようにも感じたのですが、一方で、そこには一抹の不安も感じられますね。

A:確かに、特に創造の泉がいつまで出続けるかという部分でいいところを突いているね。ずっと出続けてほしいという理想主義的視点で、友情も同じだけど、永遠に続くという保証はない。こじれたり、煮詰まる時だってあるわけで。ある意味、悲しいアルバム・タイトルではあるよね。でも、希望も含んでいると思う。疑念を言葉にして発することはいいことだと思っている。そうすることで、ちゃんと努力をするから。

──最後に、どうしてもこのことを聞かねばなりません。ザ・ナショナルのこれからの活動です。去年はそれぞれのソロやソロ・プロジェクトで多忙にしていましたが、『I Am Easy To Find』に続くアルバムの準備はどのような状況でしょうか? 

A:実は既に作業は始めていて、アイディアは出てきているけど、いつアルバムが完成するかはわからないんだ。できたら絶対にいいものになるのだけは確信している。いいアイディアがたくさん出てるから、上手く形にできればと思っているよ。

<了>

 

Text By Shino Okamura

Photo By Graham Tolbert (Big Red Machine) / Josh Goleman (Aaron Dessner)

Interpretation By Yuriko Banno


Big Red Machine

How Long Do You Think It’s Gonna Last?

LABEL : Jagjaguwar / 37d03d / BIG NOTHING
RELEASE DATE : 2021.08.27


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Tower Records / HMV / Amazon / iTunes


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