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BEST TRACKS OF THE MONTH特別編
-TURNスタッフ/ライター陣が2023年を振り返る-

Editor’s Choices
まずはTURN編集部のピックアップとコメントからどうぞ!


岡村詩野

・Ava Mirzadegan「Book Song」
・Joanna Sternberg「I’ve Got Me」
・Heyden Pedigo「Elsewhere」
・坂本龍一「20220302」
・Laurel Halo「You Burn Me」

個人のベスト・アルバムについては毎年『MUSIC MAGAZINE』1月号で発表させていただいているのですが、そこのコメントでも書いたように、難解に音楽を批評、重たくるしく論評……という行為に年々抵抗を感じるようになっています。もちろん、社会学的な観点で音楽文化を捉えることはとても大事なことで、私自身、そういう文章も好きですし、書籍としてもよく読むのですが、こんな時代でももう少し軽快にいきたい、こんな時代だからこそ、厳しい現実と向き合いつつ、ある種の楽観的なスタンスを心のどこかに携えていたい、と思ったりする毎日です。そしてなんといっても向き合う相手はポピュラー・ミュージックです。より良い明日のために音楽は何を表現するのか? より良い明日のために私たちはどのようにしてそのポピュラー・ミュージックの底力を伝えるのか? 私はもっと夢中になってただ、ただ音楽を楽しんでいたいんです。その果てにより良い明日、より良い社会があるのだと信じています。もっと軽やかに!(岡村詩野)

尾野泰幸

・Jeff Rosenstock「LIKED U BETTER」
・Mali Velasquez「Tore」
・MJ Lenderman「Rudolph」
・家主「オープンエンド」
・Short Fictions「Reno Nevada, January 2020」

もはや誰からも言及されず、何かをしても周囲の反応も(恐らく)少なく、ただ隅にひっそりと佇んでいる。そんな音楽に執拗に惹かれた一年でした。この音を今、世界で聴いているのは自分だけかもしれない。そんな思い込みのもと、偶然と必然の分水嶺で一瞬だけ輝く光を求めてあてどなく音楽を探し続けていました。もはや10年来改訂されていないぼろぼろの地図と、先人たちが残した正しいか間違っているかもわからない地図の断片的な下書きを手元に置きながら90年代後半から00年代にかけてのギター・ロックや、パワー・ポップの森をのそのそと歩き回る経験は、多くの徒労と少しの喜びを与えてくれました。2024年もこの出口のない森と戯れながら、僅かでも手元にある破れかけた地図を補修していきたいと思います。(尾野泰幸)

高久大輝

・こしのかんばい, SPRA「シラフのうちに」
・仙人掌&S-kaine「残党2023 (feat. MC Spirytus) Prod By Juda」
・ゆるふわギャング「I can’t belive it」
・FPCD「incomplete」
・Meta Flower, Miru Shinoda, Tsukasa Shirase「Extreme Love from Northen Tokyo」

目の前を価値が次々に通り過ぎていきます。ドンドンと太鼓を叩いてゆくものもあれば、音を立てずにゆくものもあります。遠く離れた場所で起きた戦争や災害をきっかけに都合良く感じているものだってあるかもしれません。虚しさで舗装された道の上で、目についたほとんどを見送って歩き、惹かれたものに少しだけ立ち止まる、そんなことをただ繰り返している気もします。でも、まだ音楽を聴くのが楽しくて、文章を読むのも書くのも面白くて、飛び上がりたいくらい嬉しいです。悲しいことや寂しいことがたくさんあるけれど、こればかりは絶対的勝利! スピーカーの前で、今日もささやかな祝杯を。楽観主義と快楽主義に敗北はないのです。目の前を通り過ぎていったすべてに、生きていれば、また、どこかで。(高久大輝)

髙橋翔哉

・LE SSERAFIM「Eve, Psyche & The Bluebeard’s wife」
・Lil Durk「All My Life (feat. J. Cole)」
・Jam City「Touch Me (feat. Clara La San & Aidan)」
・nyamura「you are my curse」
・ZWE1HVNDXR, yatashigang「LOVELY BASTARDS」

今年もめげずに頑張ります。野心を絶やさないで、夢よ潰えないで。自分の狭量さと臆病さと脆弱さに辟易しながら、苦痛を伴わぬマイルドな自傷と過食を繰り返す。こんなはずじゃなかったのにな、もっとスローに、でも豊かでいられるはずだったのにな(んなわけないだろ)と、『PERFECT DAYS』のこぎれいな清貧描写を観ながら思いました。地元にできたラーメン屋はスタートアップ気質すぎて食欲下がるし、昔好きだったTikTokerも今じゃオンラインサロンを開いてる。ますますダウナーにもなるけど、おれもポッドキャストみたいに1.5倍速再生できたら、もっと快活とした喋り方や態度にも見えるだろう。とにかく2024年は、負のエネルギーを文章にもよりよい方法で昇華させるし、苦手な人にもたまに心を開きつつ、自意識と劣等感と名声欲につぶされない一年にしような。(髙橋翔哉)

吉澤奈々

・Sweeping Promises 「Eraser」
・Hotline TNT「I Thought You’d Change」
・Kitba「Tell Me What I Am」
・Beach Fossils「Don’t Fade Away」
・Yumi Zouma「KPR」

刺激、刺激、刺激。いまだにSNSに翻弄されることが多く、自分を見失いそうでした。イズムや正論が膨張していくブルーライト越しの世界は、少なくとも私には個の自由を飲み込んでしまうように思えて、なんとも言えない気持ちになっていました。そのたびにヘッドホンで好きな音楽を聴き、何かを思い出したくなります。ここに挙げた5曲をよく聴いたのはどれもパーソナルな楽曲だからでしょうか。はじめて聴いたときにアーティストの個性を感じつつ、圧倒されると同時に安心感を覚えました。なかでも、Sweeping Promises「Eraser」は痛快。2023年の《Sub Pop》から飛び出すガレージ・パンクったらクールだよ。Hotline TNTの新作は胸が空くギター・ロックで音量を上げずにはいられないし、ビーチ・フォッシルズの楽曲の色褪せない蒼さに何度も救われた。変化しないことなんてないけれど、自分の今やることを一つずつやっていきます。(吉澤奈々)


Writer’s Choices
続いてTURNレギュラー・ライター陣(50音順)がそれぞれの専門分野から2023年のベスト・ソングを選出!

風間一慶

・Khaki「萌芽」
・電球「夕立」
・aruga「Provocative of Awe」
・乙女絵画「軛」
・Texas 3000「Here」

そんなことよりディアハンター聞こうぜ。2023年の春頃に定めた、個人的なポリシーだ。バンド名はなんだっていい。トレンドにもリバイバルにも引っかからない、ただの私的な宝物を捨てないで置いておけるだけのスペースを保ちたかった。それだけのことだ。保守的な反動ではあるが、アテンションの洪水から心身を守るにはこうするしかなかったのだ。その点、いざ振り返ってみると、2023年の自分は東京のインディーズばかり聞いていた。Khakiという鮮烈な存在に導かれ、色々なバンドと出会った。誰かが美しいと信じてやまないものだけが、ライヴハウスの爆音の中で飛び散ってくる。そのカタルシスが訪れた時にだけ、一人になれて、心地よかった。慢性的な虚脱感に覆われた年だからこそ、それらはより一層体に鳴り響いた。一人のまま、一人を肯定する在り方の重要性を、私くらいは声高に叫んでいたい。(風間一慶)

駒井憲嗣

・claire rousay「Sigh In My Ear」
・untitled (halo)「spiral」
・Freak Heat Waves「In a Moment Divine (with Cindy Lee)」
・Everything But The Girl「Run A Red Light」
・Róisín Murphy「Fader」

紫陽花が咲きこぼれる6月の鎌倉で「吉村 弘 風景の音 音の風景」(@神奈川県立近代美術館 鎌倉別館)を体験してからというもの、身の回りの音に耳をそばだてることとポップ・ソングに熱狂することは矛盾しないのだということに、あらためて思いを巡らせた年だった。フジロック最終日にヘッドライナーの真裏で、キャンドルが灯るなか数十人のオーディエンスと味わったエディ・チャコンの幽玄なファルセットとクルーンも忘れがたい。〈EMO AMBIENT〉というTシャツまで作ったクレア・ラウジーは、以前インタヴューで「ポーチに座って裏庭の音に耳を傾けるときもあれば、毎週金曜の23時過ぎに酔っ払ってフォール・アウト・ボーイを鳴らすこともある」と自らの音楽と生活について語った(彼女は2021年にその自宅を襲われ破壊と略奪行為によって機材などをすべて失っている)。この恐ろしい時代に厭世的にならずに表現し続けるアーティストたちに感謝したい。(駒井憲嗣)

佐藤遥

・ROSALÍA「LLYLM」
・Maika Loubté「Ice Age」
・Overmono「Feelings Plain」
・Skrillex, Fred again.. & Flowdan「Rumble」
・Loraine James「I DM U」

実際に身体を動かして、知らないことを知ろうとしたり不得手なことに挑戦した2023年でした。それゆえか他人の生活やそこから立ち上がる言葉に興味があることに気が付きました。パーティーではバイレで踊るのが楽しかったです。「Rumble」もパーティーで何度も聴いて、そのたびに最高に楽しかった記憶があります。疲れたときはMemphis LKやyunè pinkuのEPといった、かつてのplanet raveの延長線上にあるような、ポップで甘くて孤独なダンス・ミュージックに癒されました。なぜロザリアの「LLYLM」を気に入っていたのかよくわからないのですが、もしかしたらそういう類の楽曲として聴いていたのかもしれないです。挙げた楽曲に共通点を見つけるとしたら、聴いているとじわじわあがることでしょうか…? 読んだ本にさらっと書いてあった「本質は直感と情熱」という言葉を胸に2024年を過ごせたらいいなと思います。(佐藤遥)

杉山慧

・choco cake house「love in your sunshine (feat. RIPLEY)」
・KURO「you are my sunshine (feat. Ji Chanel)」
・The Japanese House「Sunshine Baby」
・Troye Sivan「Rush (feat. PinkPantheress & Hyunjin of Stray Kids)」
・8:59 eight five nine, WOONIE「DA RA DA」

昨年に私が勝手に始めたこの企画、誰からも求められていませんが今回もやります。題してBest of You Are My Sunshine 2023!(定義や歴史的背景などは、「『You Are My Sunshine』90年の歴史」をご参照ください。) 上記の楽曲の中から、文字数の都合上3曲をご紹介。まずKUROの楽曲は、2分過ぎからのドージャ・キャット「Kiss Me More (feat. SZA)」を思わせるギターリフが入ることで、同曲に対するアンサー・ソングと取れる構造になっている。この構造は、ユアマイ楽曲のルーツである常軌を逸した片思いの雰囲気も感じさせる。choco cake houseの楽曲のここまで徹底した陶酔感は、ノスタルジーが持つ快い気分と喪失感の両面を見事に表現していると思う。トロイ・シヴァンの楽曲は、ピンクパンサレスがユアマイの一節を加えることで物語に奥行きを持たせた見事なリミックス!(杉山慧)

ドリーミー刑事

・佐藤優介「反時代ゲーム」
・SAMOEDO「I’m crazy about you」
・Cornelius「霧中夢」
・Sparks「The Girl Is Crying In Her Latte」
・カーネーション「ここから – Into the Light」

毎月のベストトラックを選ぶ時は新しさと若さを一つの基準にしている。一方2023年に足を運んだライヴを振り返ってみると「観れるうちに観ておく」という気持ちが強く働いていて、実際多くのアーティストとの別れを経た今はその重みがぐっと増してしまった。しかしスパークス、佐野元春、小西康陽、カーネーション、コーネリアスといった今なお最高を更新し続ける、かつて音楽で私を大人にしてくれた先達たちのパフォーマンスは私の中の若者性を叩き起こし、今は16歳に引き戻してくれる。つまり音楽には時間が持つ絶対的な漸進性や不可逆性を覆す力があるのだ。だからポップ・ミュージックを追い続ける限り俺は永遠に若い。死んじゃった人にだっていつでも会えるし。それが値札に白目を剥きながらレコードを買ってその感動を書き散らし、自分でライヴを企画してフリーペーパーまで作った2023年、45歳にしてたどり着いた都合のいい結論です。(ドリーミー刑事)

西村紬

・Tō Yō「Soaring」
・Noname「gospel? (feat. $ilkMoney, billy woods, & STOUT)」
・OMSB「喜哀」
・maya ongaku「Something In Morning Rain」
・Angelo De Augustine「Another Universe」

今年をゆく中で、2つの別れとたくさんの出会いがありました。大きな別れの悲しみは、出会いで凌ぐことができると言われるとそうでもなく、出会いの喜びは別れにせき止められる訳もないことに気づきました。それぞれが、ただそこに起こった出来事としてなんとか過ごしてゆく訳ですが、音楽はどこにでもいた気がします。様々な局面に連れ立ってくれる音楽が大好きです。自分自身はというと、大学終了を間近にして、もがきまくりました。入学時はコロナ流行で多くのワクワクを禁止されていましたので、面白いことをしたい! と動き出したのは最近で、その集大成を2023年にどっと迎えるべく、忙しなく忙しなく。そんな時に聴きたかった、鋭角で、ギラギラで、挑戦心を秘めたtracksをセレクトしました。 これらは社会を睨んでみたり、自然発生に委ねてみたり、異なる角度で尖っているように思います。そんな強かった2023年を来年に持ち越したい。ぜひ、「強」に靭やかさを併せ持って、生きていきたいです。今後ともどうぞよろしくお願いします。(西村紬)

前田理子

・Wilco「Infinite Surprise」
・Masami Takashima「Kotoba」
・くまちゃんシール「狼の庭」
・Emahoy Tsege Mariam Gebru「Quand La Mer Furieuse」
・BUCK-TICK「さよならシェルター destroy and regenerate-Mix」

過去の痕跡や記録を辿りながら、歩みを進めたい。より良い未来を目指すための前向きな想像力は必要だけれど、同時に後ろを振り返ることもしなければ、大事なものを見落とすかもしれない。コロナ禍で再び炙り出された忌まわしい「村八分」の風習(こと地方都市に暮らす私の周りでは当たり前のように目にした)を無かったことにして前に進もうとする社会の空気を感じながら、あるいはパレスチナで続く非人道的な虐殺行為の背景にある占領の歴史に日本の歴史修正主義者たちの存在を重ねながら、辿々しく考えていた年だった。

そんなマインドだったゆえか、長い年月をかけて、それぞれのやり方で試行と思考を繰り返してきた音楽家とその表現の変遷に心動かされることが多かったように思う。ここに挙げたのは、すべてを過去にしていくような時間の激流に対して、ある種のカウンターを感じさせる楽曲たちだ。2023年はプロデュース・ワークで確かな存在を示したケイト・ル・ボン。その仕事の中でも、ウィルコの新作で彼女が再び呼び覚ましたバンドの実験性に胸が高鳴った。くまちゃんシールやMasami Takashimaの楽曲にみられた、点と点を回り道をしながら繋いでゆくような音と言葉のアプローチは、未知という豊かな余白を味わせてくれた。そして、エマフォイ・ツェゲ・マリアム・ゲブルとBUCK-TICKの櫻井敦司。この場を借りて、今年この世を去った両者が残した孤独と慈愛に満ちた作品群に敬意を示したい。ずっと聴き続けます。(前田理子)


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BEST TRACKS OF THE MONTH特別編 -TURNスタッフ/ライター陣が2022年を振り返る-

http://turntokyo.com/features/best-tracks-of-2022/

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BEST TRACKS OF THE MONTH特別編 -TURNスタッフ/ライター陣が2021年を振り返る-

http://turntokyo.com/features/best-tracks-of-2021/

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BEST TRACKS OF THE MONTH特別編 -TURNスタッフ/ライター陣が2020年を振り返る-

http://turntokyo.com/features/best-tracks-of-2020/

Text By Haruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiRiko MaedaNana YoshizawaIkkei KazamaTsumugi NishimuraDreamy DekaShino OkamuraKei SugiyamaDaiki TakakuYasuyuki Ono

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