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Editor’s Choices
まずはTURN編集部のピックアップとコメントからどうぞ!



岡村詩野

・Decisive Pink「Haffmish Holiday」
・Claire Rousay「it feels foolish to care」
・Charlotte Adigery & Bolis Pupul 「Cliche(Soulwax Remix)」
・Maral「Mari’s Groove」
・Bernice「Personal Bubble(Sam Gendel Remix)」

ロシアがウクライナを攻撃してからもうすぐ1年になります。そしてまだ終結の見通しは全然立っていません。去年春、ウクライナの若いヴァイオリニストと遠隔で共演した曲をすぐさま発表した坂本龍一は、暮れに闘病中の厳しい状況下で収録したピアノ・ソロ・ライヴを配信しました。その間、プッシー・ライオットは休む間なく反戦を訴え続けニューヨークでもライヴを行い、モスクワ在住のケイトNVはエンジェル・デラドゥーリアン(元ダーティー・プロジェクターズ)とユニット=Decisive Pinkを組み、鬱屈した社会の空気からの解放を目指しています。ウクライナの出場を願った(でもかなわなかった)サッカーのワールドカップの各国の試合を眺めながら、手で口を覆ったり、国歌を歌わなかったりする選手たちにとって、音楽はどういう存在なのだろう? なんてことを考えながら、坂本龍一の配信ライヴを観た年の瀬……。そんな2022年であったことを、きっと私はずっと忘れないでしょう。(岡村詩野)

尾野泰幸

・Bartees Strange 「Heavy Heart」
・Tomberlin 「Stoned」
・Joyce Manor 「Gotta Let It Go」
・Titus Andronicus 「Give Me Grief」
・Ethel Cain 「American Teenager」

何らかの事象や出来事が“終わった”と言及された際、その“終わった”とされるところに取り残されてしまった、留まらざるを得なかった人やものについて考えることが多かった一年でした。もちろん対象への“終わった”という言明は物事をよりポジティヴな方向へと前進させるために使用されている場合もあるのでしょうし、過ぎ去ったことばかりに目を向けてばかりではいけないこともまたある程度正しいのでしょうが、それでも何かに手を伸ばし、つかんだ際に指の隙間からするりと零れ落ち、地面に転がってしまったものがもつ美しさや思想、逞しさに対してより一層の興味や魅力を感じていました。一方で私自身のそのような対象への視線は当事者からしてみれば的外れやお節介でしかない可能性も十分にあるのですから、何かに対して言及するにあたっては、行っては引き返し、引き返してはまた行きを繰り返していました。もちろん最終的には決断を下し、対象に対する自分自身の語りを作り上げることになるのですが、上述したような逡巡に対して、開き直るのではなく時間がかかってもきちんと付き合いながら思考を巡らせ、ものを書く一年に、2023年にしたいと思います。(尾野泰幸)

高久大輝

・Rimzee「5am In Clapton ft Frogzy, Raph Racks」
・ISSUGI, DJ SCRATCH NICE「from Scratch」
・A-Thug「BOYS.. DON’T CRY (REMIX) [feat. CHIYORI & Peedog]」
・Lunv Loyal「Outside feat. ゆるふわギャング」

2022年は少々の仕事も含め、比較的たくさんのライヴやクラブイベントに遊びに行くことができました。知り合いや友人のいるパーティーで遊ぶ安心感、繋がりのない場所で遊ぶ孤独感とどこか解放されたような気分。どちらも楽しみつつ(ときどき迷惑をかけつつ)、可能な限り一箇所に留まらないようにしながら、何かを探していたような気がします。形のあるものが手元に残ったわけではないかもしれませんが、やってきたことの中に緩やかな繋がりを与えてくれたのではないかと今になって感じています。ちなみにベストYouTubeチャンネルはDJ MUNARIさんによるこちら。カメラに映るA-THUGさんの言葉や仕草、表情が何度もわたしに大切なことを思い出させてくれました。短いですが最後に、この一年、関わってくださった皆さんに感謝を。皆さんとの他愛もない会話ややりとりに支えられていました。しばらく会えていない友人たち、どうか元気で。もしまた会えたら、美味しいご飯を食べたり、嬉しかったことを照れながら話したりしましょう。(高久大輝)

髙橋翔哉

・TOROZEBU「Ox」
・ROSALÍA「BIZCOCHITO」
・Dxrk ダーク「RAVE」
・DAMINI「DOG」
・霊臨「バッド入るKoenji2」

2022年はなによりラッパーの霊臨に夢中になった年でした。それからVTuberの「金美館通りの藤村さん」。さらにこの両者をつなぐのが佐々木チワワの『「ぴえん」という病』です。地方に住みながら、TOKYOの夜の街に想いを馳せつづけていました。ホストクラブ、カジュアルドラッグ、セックスワーカー、リストカット。世間や“いい人”が見てみぬふりする、若者の暴力的なリアリティ。誤ったwoke解釈と政治によって抑圧された、性のリアリティ。蓋をして押さえつけられ、地下にビル街にラブホテルにアメ横に踊り場にドロドロと溜まっていく生のにおい。そこから生まれる表現の批評性の鋭さにわたしは期待してやまないし、いつかそうした憤怒がオーバーグラウンドな場に噴出するとおもっています。

10代後半の、不安と恐怖と孤独と焦りとポルノと広告とドラッグと強迫観念にすべての思考を吸いとられる病は、疲労と不眠という増大装置を以て、何度でもわたしたちを悩ませるのでしょうか。視野は狭窄し、耳は強炭酸・高カフェインでビートとフロウに先鋭化したものをより求めた気がします。知識欲はあれど体力や集中力が伴わないのも事実で、4小節ごとに次々にビートが変化する「drift phonk」がバイラルヒットしているのも納得です。

一年前はこの場で、今年は積極的に好きなものについて発信するぞ!と意気込んでいたものの、結局ほんとうに告知しかしていませんでした。最近は訳あって知らない土地に滞在してとんでもなく沈んだきもちの毎日ですが、霊臨と江戸マリーと柑橘めたるに支えられながら何とか生活をこなしています。ありがとうございます。(髙橋翔哉)

吉澤奈々

・Jacques Greene「Taurus」
・Emil Rottmayer「Recall」
・Big Thief 「Little Things」
・NewDad「Thinking Too Much」
・GirlHouse「Atlantis is a Movie」

誰にでも落ち着く暗さってあると思うんです。わたしの場合、朝5時台のうっすらとした青白さがそれで、いわゆるBlue Hour(ブルーアワー)と呼ばれる暗さです。日の出前のわずかな合間に、空も部屋の壁も青く染まるときは、必要不可欠な静けさと孤独の時間でもあります。2022年は住む環境が変わったり、TURNに加入させていただいたりと、有難いことにあれよあれよと過ぎていきました。どんなに環境が変わっても、この時間帯に音楽を聴くことで落ち着けた気がしています。そんな早朝によく聴いた5曲を選びました。

個人的に2022年のベストEPでもある、Jacques Greeneの『Fantasy』から「Taurus」。レーベルが《Lucky Me》だとあとから知って妙に納得。IDMなんですけど、靄のような淡いシンセの音色がとくに朝に合う。そして90年代のハウス・ミュージックに通じるであろうビートの軽快さに引かれました。Daniel AveryやAphex Twinの初期アンビエント作品が好きな方は、ぜひ聴いてみてください。

どうしても切なくて陰りのある音楽にフラフラ行ってしまいがちですが、2023年は意識して新しい音楽を探していきます。今後ともどうぞよろしくお願いします。(吉澤奈々)


Writer’s Choices
続いてTURN・レギュラー・ライター陣(50音順)がそれぞれの専門分野から2022年のベスト・ソングを選出!

阿部仁知

・The Smile「Thin Thing (Live at Montreux Jazz Festival)」
・Big Thief「Red Moon」
・Black Country, New Road「Dancers」
・The Big Moon「Magic」
・Alex G「Runner」

今年を振り返ってみると、一貫して「肩の力を抜いて楽しくやっていく」だとか、もっと言えば「自分を赦す」といったことが僕のテーマだったように思うが、それはトム・ヨークがそうだったからに他ならない。彼に倣って人生の大半でしかめっ面を続けていた僕にとって、ザ・スマイルで何か解放されたように振る舞う彼の存在はどんな批評的意義より大きなことだった。

延期に次ぐ延期の末やっと足を運んだビッグ・シーフの来日公演や、新たな一歩に立ち会ったブラック・カントリー・ニュー・ロードのライヴも、どこまでも楽しそうに演奏していた姿がとても印象的だった。そして出産を経て復帰したジュリエット・ジャクソンの「もし何か少しでも可能性があるのなら、それは願うに値するから」という一節が今も頭の中でリフレインしている。これは開き直った楽観主義とは似て非なるもので、どこまでも誠実に社会や自分自身に向き合った末の、楽しさや喜びの表現に絶えず鼓舞されてきた。

相変わらず気を揉むことばかりのご時世でヘラヘラなんてしていられないが、なんとか自分なりに向き合いながら朗らかに楽しくやっていこうと思えた一年だった。悲しみを携えながらもどこか吹っ切れたように「僕はいくつかの間違いを犯してきた」と歌うアレックスにも何度勇気づけられたことか。

来年もそれほどいい年になるとは思えない。理想の自分にもまだまだ程遠い。だけど悲観的な考えに支配されず来年に希望を託せる僕がいるのは、トムやジュリエット、そしてアレックスといった“My Runner”がともにいて、恥じない僕でありたいと思えたからだ。来年も様々なことに向き合いながらなんとか楽しくやっていこう。(阿部仁知)

アボかど

・Hitkidd & GloRilla「F.N.F (Let’s Go)」
・Lil’ Keke「Street Dreams Feat. Z-Ro & Coline Creuzot」
・Mozzy「Open Arms」
・Arin Ray「Nothing’s Forever Feat. Ty Dolla $ign & Rose Gold」
・Le$「Sunday Night」

2022年はとにかく音楽を追うのが楽しくて仕方がない年でした。いや、もちろん毎年楽しいのですが、例年以上だったように思います。それはいわゆる「豊作」みたいな話ではなく、自分の好みをきちんと把握してうまくキャッチできた、自分好みの音楽が流行りつつある…などが理由です。

というわけで、大好きなGラップを中心に5曲選びました。メンフィスのHitkiddとGloRillaによる「F.N.F. (Let’s Go)」は、同郷のDuke Deuceが「クランクは死んでいない」と宣言してから3年、ついに出たクランクの大ヒット曲です。2022年はメンフィスの年だったと思います。GloRillaと同じくCMG The Labelに新加入したベイのMozzyは、新天地での作品でもいつも通りでファンとしては嬉しかったです。Mozzyの場合は客演にラッパーを入れない哀愁メロウが特に好きなのでこの曲をセレクト。Gラップの中でも一番好きなテキサスGは2曲入れました。Lil’ Keke「Street Dreams」はZ-Roの歌いっぷりも素晴らしく、オヤGの方はソファに泣き崩れると思います。Le$「Sunday Night」を手掛けたTavaras Jordanは2022年のベストプロデューサーの一人で、2023年もきっと凄まじい手腕を聴かせてくれるでしょう。唯一GラップではないArin Rayは、ネオソウルのようでUsherやTrey Songzみたいに甘くて華があるバランスが印象的でした。ゴスペルっぽい匂いがするこの曲が特にお気に入りです。2023年も楽しさの最高を更新していきたいと思います。(アボかど)

井草七海

・Big Thief「Change」
・Mitski「The Only Heart Breaker」
・Tim Bernardes「Fases」
・Reveena「Secret (feat. Vince Staples)」
・Florence & The Machine「King」

年の序盤にリリースされた作品はその年のベストに挙がりづらいのが必定なので、個人ベストではその「隙間」に落ちてしまった作品からなるべく拾ってみようかと、急に思い立ちました(笑)。2月リリースのMistkiの新譜は個人的に気になった1枚。今作ではそこまで大胆な変化はなかったこともあってあまり話題にならなかったが、80年代ライクなアレンジを下敷きにポップ・センスに磨きのかかった良作だったかと。ただ今回面白いと感じたのは、「The Only Heartbreaker」(a-haオーマジュなトラックが中毒性大)のMVで、本人曰く日本の暗黒舞踏からインスパイアされたというダンスを見せている点。海外での評価を受けて、日本に逆輸入された文化である舞踏を彼女が取り入れたことと、彼女のルーツやブレイクの経緯は無関係ではないようにも感じた。確かにジャケットのポーズ、あのアントニー&ザ・ジョンソンズの『クライング・ライト』(2009年)のジャケットの大野一雄に似てはいないだろうか? また両親がインド国内でのシーク教徒への迫害を機にアメリカに移住してきたラヴェーナは、「パンジャブ人のスペース・プリンセス」を自称して、“パンジャブ・フューチャリズム”などとも呼べそうな作品をリリースしていたのが印象的で、彼女らアジアン・ディアスポラから生まれる表現に、より関心を抱いた2022年の前半だった。ベストは、ただただシンプルな演奏と強靭な言葉でもって流転や輪廻を歌ったBig Thiefの「Change」で。表面的に前進しているようで根本的には何も変わっていない2022年の空気に風穴を開けてくれた、彼らのライヴにも救われました。(井草七海)

市川タツキ

・SZA「Open Arms (feat. Travis Scott)」
・EARTHGANG & Musiq Soulchild「AMEN」
・Oll Korrect「Forgiveness」
・Kehlani「any given sunday(feat. Blxst)」
・Drake「Sticky」

個人的なことを言うのであれば、2022年は自分にとって変化の多い年だった。大学を卒業し、環境が、生活が、人間関係が、何もかもガラッと変わり、目まぐるしく全てがあっという間に過ぎ去った。言い換えれば落ち着かない年である。昨年観たテレビシリーズで、『The Bear』(FX)に最も夢中にさせられたのも、この作品が焦燥とケアについての作品だったからかもしれない。

ベストソングは、そんな今の自分にとって印象に残ったものと、シンプルによく聴いたものを混ぜながら、あまり他でアウトプットしていない楽曲をセレクトしたつもりだ。激しい鼓動とラップで“今”を捉える「Sticky」の苛烈さは忘れがたく、「any given sunday」のフラットでラフな魅力も心地よかった。「Forgiveness」の自己肯定には救われたし、「Amen」は、良作だったEARTHGANGによるアルバム中でも素晴らしい出来で、自分にとって惚れ惚れするような音楽だった。そして、各メディアやリスナーが締めくくりを始めたギリギリのタイミングでリリースされたSZAによるアルバム『SOS』、および収録の「Open Arms」の寛容さには心の底からグッときた。

忙しない今を捉えながら、優しさや希望があること。またはこの時代だからこそ、その自由でクールな態度に惹かれることもあるかもしれない。一方で、癒しを常に求めながらも、まだ今の所はどこかで落ち着きたいとも思っていない、そんな自分もいる。何はともあれ、2023年も、自分なりの感覚と気分を信じて生き抜きたい。あくまで正直さと謙虚さを大切にしながら。(市川タツキ)

奧田翔

・Kendrick Lamar「Die Hard」
・UMI「bird’s eye view」
・Steve Lacy「Bad Habit」
・Hidetada Yamagishi「No Limits」
・得田真祐「silent snow」

毎週金曜日の習慣だったいわゆる新譜チェックを、2022年はやめてみた。こんな体たらくなのに図々しくも年間個人ベストについて書かせてもらえるTURNさんの懐の深さに感謝しつつ、自分の身に起きた変化をまとめてみる。

・瞑想を深めた
数えてみたら365日中347日は瞑想していた。インタビューを瞑想のセッションで始めるほどの生粋のメディテイター=UMIのアルバム『Forest in the City』がしっくりきたのも頷けるというものだ。

・筋トレにハマった
筋トレに要する時間なんて知れているのだけれども、頭の中の結構な割合を筋トレが占めるようになってしまった。レジェンド級の日本人ボディビルダー=山岸秀匡氏が楽曲をリリースしたとなれば、もうありがたく聴くしかない。One more rep! だけれども、ゴールドジム原宿東京で最もよく耳にしたのはスティーヴ・レイシーの「Bad Habit」。

・日本のドラマにハマった
一人暮らしを始めてから10年以上、まったくと言っていいほどテレビを見る習慣の無かった私が、諸事情で観始めた『silent』にどっぷりハマってしまった。この歳で昔の習慣を取り戻すのも新鮮で悪くないもんだ。

最後に。5月には嬉しいことにケンドリック・ラマー『Mr. Morale & The Big Steppers』のライナーノーツを担当できた。曲調としてはチャラい部類に入る「Die Hard」が、聴けば聴くほど、瞑想などを通じて己の内面と向き合う自分の気分にぴったりに感じられた。それはそれとして、2023年はもう少しアウトプットを増やしていこうかなと思ってます。(奧田翔)

風間一慶

・Dawes 「Someone Else’s Cafe / Doomscroller Tries To Relax」
・Big Thief「Simulation Swarm」
・Yves Jarvis「Thrust」
・SOYUZ「Song With No Words」
・David Enhco「Waltz #1」

どうやら自分には「ドラムが限りなくデッドなバンドアンサンブル」に執着してしまう癖があるらしい。滅多にシングル単位で音楽を聞かない僕だが、リストアップしてみると見事にそういう曲ばかりをリピートしている。現に、2022年のアルバムを聞いて最も興奮した瞬間は、ドーズの最新作での冒頭のタム回しを聞いた瞬間だ。この偏愛は到底治りそうにもないし、無論治す気もない。

月並みな表現だが、2022年は激流のように過ぎ去っていった。ただ僕の場合、はるか河上から轟々と水流が迫ってくるというよりも、むしろ幾つもの支流からジョロジョロと溢れ出てくる水が一つに合流した上で襲ってくるような一年だった。自分の時間を、どう社会の中に当てはめていくのかを考えるだけの毎日。あんなに好きだった街歩きさえも、気づけば作業をするためのドトールを探すだけの時間に変わっていた。大学3年生が大学3年生してただけと言えば、それまでではあるのだが。

だからこそ、2022年は音楽の「効用」に着目する機会が多かったように感じる。まるで新しいカイロを袋から取り出すように、好きな曲をカジュアルにリピートする。その暖かみに染み入ること以外の全てを忘れさせてくれるものを、ただひたすら探していた。とりわけ、ダヴィッド・エンコによるエリオット・スミスのカバーには暖められた記憶がある。

加速度的に忙しくなっていく未来に備えて、自分に効く芸術をいくつ手元に抱えておけるだろうか。とりあえず5曲はそういうものに出会えた、それだけでも2022年は素晴らしい年だったと個人的には言える。(風間一慶)

加藤孔紀

・エマーソン北村「船窓」
・Lucrecia Dalt「Bochinche」
・Hyd「So Clear」
・森脇ひとみ「Adventure」
・Yendry「KI-KI」

ロシアがウクライナへ侵攻した2月末、《Resident Advisor》が素早くウクライナへの寄付先をまとめて記事にしていました。かなり早かったんじゃないかと思います。このメディアのラディカルな行動を見たことで、ダンス・ミュージックや電子音楽について改めて考えたいという意識が2022年にはあった気がします。そんな折、日本では参院選の公示があった6月に、エマーソン北村が「エマーソン北村は戦争に反対し、日本国憲法を誇りに思います」という一文と共に新曲「船窓」(読みは「せんそう」)を(bandcampで先行)リリース。ソフトな音色を用いつつも指のタッチによって伝えられるイントロの緊張感。ひりひりとしたシンセサイザーの反復から、レゲエを思わせる曲調に大きく変化する展開。その音楽の中に言葉はないけれど、まるで今の緊張と変化について曲が語っているようでした。惣田紗希さんが手掛けた、足元がぐらつくようなイラストから感じる不安も相まって。中南米の音楽が、Lucrecia Daltのような《RVNG》周辺の音楽家から、跳ねるビートで歌うYendryの歌から、様々な場所から聴こえてきたことも気になりました。それぞれが自身のルーツに向き合うことで、欧米的な価値観から脱するような気配なのかもと。また、 Hayden DunhamのHyd名義のデビュー作から、文字通りクリアな楽曲が良かったです。自立を表明するシンプルな歌詞がすっと入ってきた。そして、音楽のみならず様々な表現によって、その冒険心を体現している森脇ひとみの作品を見聞きしていたら、今住んでいる私自身のルーツ、日本を改めて探求し、向き合いたいという気持ちが後押しされました。(加藤孔紀)

キドウシンペイ

・林正樹「Venus」
・Aaron dessner Bryce dessner「Here They All Come」
・Big Thief「Little Things」
・Beth Orton「Weather Alive」
・Neil young「Chevrolet」

様々な場所で行動制限が緩和され、美術館、映画館、来日ライヴなどが以前と同じように戻りつつ、自身も音楽以外のカルチャーに多く触れる機会があった一年。映画からは、日常風景の尊さや人物の心の揺れなどにそっと寄り添う劇伴の魅力に惹かれ、外に出て景色をぼんやりと眺めることが多かった今年は特に、映像と音楽が共存した時にしか現れないパースペクティヴに心が引き寄せられた。
劇伴でいえば、三宅唱監督の最新作「ケイコ、目を澄ませて」は、聴覚障がいを持った女性プロボクサーのストーリーで、こちらは劇伴が一切なし。しかし、際立つボクシングのミット打ちやロープ、フットワーク、生活音に自然と目も耳も研ぎ澄まされると、意識せずに聞き流していた音に光がさしこみ、ビートが生まれ、いつしか紛れもない映画音楽だということに気づく。
一方、組み合わせという点では、爆発的なエネルギーを放出していた大竹伸朗展が圧巻。膨大な数の作品を展示し、普段気にも留めない何気ない物質、あるいは音を組み合わせて変容させ、過去の記憶と繋がり、新しい生命を吹き込む作品群に文字通り没入。それは、Big Thiefの新作と初来日公演にも同様の印象を受けた。歴史を継承し再解釈し再構築してジャンルの壁をいつの間にか超えてなお、今に真摯に向き合う音楽は、「不安や閉塞感も、突然生まれたのでなく、きっと過去から既にそこにあったのだろうから、ひとつずつちょっとずつケアしいこう」と、寛容でいることへの勇気を与えてくれるものに感じた。23年もそんな空気が少しでも広がることを願いたいし、そうありたい。(キドウシンペイ)

駒井憲嗣

・Braxe + Falcon「Step By Step (feat. Panda Bear)」
・Empath「80s (SPIRIT OF THE BEEHIVE Remix)」
・Michelle「My Friends」
・the hutch「In September」
・Big Thief「Time Escaping」

エマ・ジーン・サックレイが2022年9月の初来日公演の1ヵ月後、ワールドツアーによる数万ポンドの赤字と肉体的・精神的なストレスによりUKでのライヴ延期を発表した。この年は同じく来日したリトル・シムズとアーロ・パークス、他にもアニマル・コレクティブがツアーをキャンセルしている。2021年と比較して海外アーティストの来日公演は復活したものの、コロナ禍におけるライヴをとりまくメンタルヘルスと経済的持続可能性の問題に向き合わず無自覚に享受したままでいいのか、自問自答を繰り返していた。

『ザ・レインコーツ 普通の女たちの静かなポスト・パンク革命』で知られる《ピッチフォーク》のジェン・ペリーも2022年12月に(主にアメリカの)ミュージシャンのためのセーフティネットについて長文の取材記事を発表。専属セラピストを起用しメンタルヘルスの部署を設けているレーベル《LVRN》、DIIVのザカリー・コール・スミスが設立に関わったミュージシャンがレーベルとロイヤリティ受取などで良好な関係を築けるようにするための組合UMAW、そしてツアー費用に対する政府の補助金をレーベル経由で受け取れるカナダやノルウェーの例を挙げながら、解決の糸口を見出そうとしている。なかでも、「レーベルは黒人のトラウマで利益を得ている」というデンゼル・カリーの言葉がことのほか重い。

日本でもセルフケアのため、音楽を続けるためにライヴを中止/延期するサックレイらの選択をもっと多くのアーティストができるようになってほしいし、ストリーミング契約や政府の支援をめぐる制度改革については少なからず話題になるものの、メンタルヘルスに対してのサポートと対策が早急に必要だと思う。(駒井憲嗣)

坂本哲哉

・rRoxymore「Water Stains」
・Anja Lauvdal「Fantasie for Agathe Backer Grøndahl」
・Carmen Villain「Future Memory」
・Deathprod「VI O」
・Arve Henriksen & Kjetil Husebø「Sequential Stream」

音楽を聴いていると、ときどき「このサウンドはどこへ向かっていくのだろう」と思うことがあります。一聴しただけではわからない、というよりも聴くたびに違う風景をみせてくれると言ったらいいでしょうか。そんな心地良い違和感、あるいはミステリアスな異物感を感じるために音楽を聴いているところが少なからずあるのですが、2022年にそんなことを最も感じさせてくれたレーベルが、ノルウェーはオスロを拠点に置く《Smalltown Supersound》でした。1993年に設立された同レーベルの作品は、不均衡、不安定、非対称を含みつつも、そこから未知のニュアンスを掘り起こそうとする意思を持ったものが多く、ずっと追い続けていきたいレーベルの一つです。そんなレーベルから2022年に届けられた作品は、まるでAIやインターネットの世界からかけ離れたところで、人間と機械の新たな共生関係を模索しているような趣があり、《Smalltown Supersound》が新たな領域へ踏み込んだことを強く印象付けてくれました。というわけで、上記の5曲は2022年に同レーベルがリリースしたアルバムの中から選びました。ちなみに、アルバムを一つだけピックアップするとしたら、Deathprodの『Sow Your Gold In The White Foliated Earth』が素晴らしかったです。(坂本哲哉)



佐藤遥

・Ela Minus & DJ Python「Pájaros en Verano」
・Solomon Fesshaye「Star City」
・Kabanagu「いつもより」
・HAAi, Jon Hopkins「Baby, We’re Ascending」
・MINAKEKKE, Cwondo「Memorabilia [Cwondo Remix]」

夏頃、たまたま訪れたギャラリーで工藤麻紀子の絵を目にしたとき、その一瞬で自分の生活を自分で受け入れることができた気がしました。そのあと彼女のことを調べると「結局は光を描いているのかもしれない」という本人のことばが出てきて、数日前の日記で「光を求めているのかも?」と書いたわたしにとって、これまでになく点と点がまっすぐつながった出来事でした。このことが昨年の自分のムードに大きく影響していたのではないかと思っています。振り返るとほかには、身近な札幌の音楽シーンをリサーチする準備やzine制作など放置していたことをちまちまと進めたり、友人たちについて、みんなできるだけ嫌な思いをせず健やかな生活が送れますように、と思うことが増えたりした一年でした。

選曲は迷った挙句よく聴いていた楽曲になったので、そういった出来事をなんとなく反映していると思います。きらめいて反射するようなマリンバやシンセ、ピッチの揺れを含んだリズミカルなメロディ、やわらかく重なるコーラスなど。

光というぼんやりとしたものを探しながらも、そしてそれを続けていくためにも、地に足をつけ、本を読み音楽を聴き、今年は自分ができる最善の方法で音楽と共にすごせたらいいなと思っています。(佐藤遥)

佐藤優介

・坂本龍一「Improvisation on Little Buddha Theme」
・Wire「Stepping Off Too Quick」
・Beyoncé「BREAK MY SOUL」
・Whitney「MEMORY」
・Perfume Genius「Hellbent」

番外編で、ベストMVを選ぶならThe Mars Volta「Blacklight Shine」https://youtu.be/rYAR6bpf85Q、The 1975「Part Of The Band」https://youtu.be/87nG3LuabUs、kiss the gambler「台風のあとで」https://youtu.be/LHXszcdGohU
映画ではポール・トーマス・アンダーソン『リコリス・ピザ』、ジョーダンピール『NOPE』、デヴィッド・ロウリー『グリーン・ナイト』、そして音楽以上に音楽を想起させられた、鬼頭莫宏の初期漫画作品集『ヴァンデミエールのぐぜり』をもって2022年を記憶したいと思います。(佐藤優介)

佐藤優太

・Kendrick Lamar, Baby Keem & Sam Dew「Savior」
・PinkPantheress「Do you miss me?」
・Beyoncé「BREAK MY SOUL」
・宇多田ヒカル「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」
・SZA「Forgiveless (feat. Ol’ Dirty Bastard) 」

曲順は順不同だが、ちょっとしたプレイリストとして並べてある。ケンドリック・ラマーの「Savior」は、グラストンベリーの配信で、セットリストの最後に演奏された曲。同パフォーマンスは、米国内の女性の中絶権の合憲性を揺るがす2022年6月の最高裁判決への抗議として、「Godspeed for women’s rights」のチャントで締め括られたことも話題となったが、筆者はこの曲の優雅なアフロ感を纏ったサウンドそのものにも、とても魅了された。ピンクパンサレスがケイトラナダらとコラボした「Do you miss me?」以降の3曲は、2022年の大トレンドであった“ハウス・ミュージック”に対して、それぞれ独自のアプローチを見せる曲群。そして最後のシザは、12月にリリースされた大傑作アルバムの最後の最後で、故オール・ダーティー・バスタードとビョークとを同時に召喚した往時のヒップホップ感溢れる1曲だ。

こうして改めて並べてみると、(ヒーリングの感覚を伴った)ダンス感覚や、そこから生じるエレガンスのようなもの、を無意識レベルで積極的に感受していた1年だったと言えそうだ。年初のコロナ感染にはじまり、夏過ぎにロンドンから帰国。そして後半は、大学院の最後の課題と子育てに追われながら過ごした2022年は、しかしやはり、とても楽しかった。2023年は、様々な面で大きく環境の変わる年になるが、その変化の中でも、音楽リスナーとしての感性や情報へのアンテナを通して自然に培われてきた(いく)センスのようなものを、大切にして過ごしていきたい。(佐藤優太)

島岡奈央

・SiR「Life is Good」
・Kendrick Lamar「Die Hard」
・Vince Staples「PAPERCUTS」
・Toro Y Moi「Last Year」
・NewJeans「Attention」

2022年はポッドキャストばかりを聞いていた1年だったが、そんな中でも好きでリピートしていた楽曲を5曲選んでみた。まずは、イングルウッド出身のR&Bアーティスト、SiRの「Life is Good」で、この楽曲のリリックにも様々な地名が出てくるように、なんだか旅行中の不思議な気持ちや、土地の香りや情景を彷彿させてくれる。続いては、レーベルメイトであったケンドリック・ラマーの待望の最新アルバムより、「Die Hard」だ。いくら私がOGケンドリックファンだったとしても、正直アルバム自体はそこまで好きではなかったが、この曲は何度も何度も聞いてしまう曲だった。個人的には、『DAMN.』の「LOVE.」と重なるようなラブソングだと思っている。

そして昨年は、中学生振りにKポップにのめり込んだ年でもあった。第4世代と言われる様々なグループが世界で目まぐるしい活躍を見せ、中でも韓国のインディとアイドル文化を上手く融合させたようなグループ=ニュージーンズの音楽にハマった。

こうやって振り返って見ると、反抗的な音楽ばかりを聞いていた過去に比べて、聞きやすい音楽を好むようになってきたのかと思えてきた。挙げた楽曲の共通点はメロディラインの気持ちよさだろうか。去年購入したミニベロに乗りながら熱唱するにはちょうど良かったのかもしれない。安定思考に走らずに、今年はもっと外に出て、ライブに行ったり、快適な空間から抜け出すような年にしたい。(島岡奈央)

吸い雲

・uku kasai & Cwondo「Lookblue」
・TSVI & Loraine James「Awaiting」
・Nia Archives「Baianá」
・DJ Travella「Crazy Beat Music Umeme 1」
・大石晴子「まつげ」

「ハイパーポップ以降のエレクトロニカ新時代」という言葉はたしかOli XL来日告知記事のアオリに書かれていたのですが、2022年はそんな言葉がしっくりくるような、定型にとらわれないミュータント的なサウンドが吹き上がった年だと思います。そんななかで、かつてなくたくさんの新譜を聴き漁りました。日本では《K/A/T/O MASSACRE》周辺で若い音楽家たちが盛り上がっているのを興味深く見ていましたが、なかでもuku kasaiの『coldsmokestar』には撃ち抜かれました。とくにCwondo(アルバム、リミックス、各種客演と、年間ベスト級の活躍!)との共作曲「Lookblue」が好きなので、ここに選んでいます。ロンドンのレーベル、AD93のリリースはCoby Seyの『Conduit』はじめ面白いものばかりでしたが、TSVI & Loraine James「Awaiting」のリリカルさには泣きました。Nia Archivesはジャングルのかっこよさを再認識させてくれたニュー・スターで、DJ含めファンになりました。ウガンダの《Nyege Nyege》/《Hakuna Kulala》は今年も面白く、なかでもタンザニアのDJ Travellaはまだ十代ということで、こういう人がどんどん出てくるなら今後10年ぐらいはアフリカが世界を先導していくんだろうな…と思いました。こうしたエッジーな電子音楽が存在感を示すいっぽうで、大石晴子の「まつげ」は歌とことばだけですべてをブチ抜いた感があって痛快でした。と、こうして曲を挙げていくと10年代後半~今年にデビューした人たち、そして非メジャーの楽曲ばかりが並ぶことに気づくのですが、これは必ずしもわたしの気分だけでもないはず(そう思いたい!)。TURNさんはこうした新しい動きを捉えてきた稀有なメディアだと思うので、今後もガンガン突き進んでほしいです。(吸い雲)

杉山慧

・Kep1er「Daisy」
・桑田佳祐「なぎさホテル」
・三宅健「SUNSHINE」
・NineBoy9「carnation (feat.IPI)」
・Steve Lacy「Sunshine (feat.Fousheé)」

昨年の私にとっての一番の出来事は、“You Are My Sunshine”と歌う楽曲の歴史を遡り体系的にまとめることができるのではないだろうかという発見です。私の調査では今のところ、レイ・チャールズのカヴァーで有名なJimmie DavisとCharles Mitchellによって作られたとされる「You Are My Sunshine」(1939年)が中心となっており、これを「1939年史観」と名付けました。そんな私の個人的ベストという事で、誰かを太陽に見立てている楽曲の中から選んでみました。題してMy Best “You’re My Shinine” Songs 2022!

桑田佳祐「なぎさホテル」は、ストレートに1939年史観を踏まえ湘南を舞台に書き換えたような楽曲、夢から醒めてなどシチュエーションまで同じ。Steve Lacy「Sunshine」は、You’re My Shinineという決めゼリフを使わずに、1939年史観を匂わせるその手腕に脱帽。MVの吊り下げはFousheéを太陽と見立てているのではと推測される。三宅健「SUNSHINE」(作詞:土岐麻子)は、ボサノヴァ・テイストを現行R&Bに取り込んだ、まさに掘り出しモノ的名曲。土岐麻子自身が「You Are My Sunshine」をカバーしていることなどを踏まえた上で、終わった恋を引きずっている様を考えると、この曲も1939年史観を意識して作られたと思われる。あとの2曲は文字数の関係から割愛しますが、少し趣向の違った作品を選びました。この系譜の曲を探すだけでも楽しいので、ぜひ試してみてください。(杉山慧)

tt

・Ela Minus & DJ Python「Pájaros en Verano」
・工藤晴香「君へのMHZ [tofubeats Remix]」
・Charles Stepney「Step On Step」
・Rian Treanor「Bunga Blue」
・Lana Del Rey「Did you know that there’s a tunnel under Ocean Bvld」

レゲトンやラテン、《Nyege Nyege Tapes》や《Hakuna Kulala》といったアフリカのアンダーグラウンド、アフロビーツなど世界中から届けられた多様なリズムやビート、サウンドに特に惹かれた一年でした。《Analog Africa》や《Habibi Funk》、《Numero》、《Light In The Attic》を始めとするリイシュー/発掘レーベルによるバラエティに富んだリリースもそんな1年に彩りを加えるほど充実していたと思います。一方で、特にインディ・ロックなどは追い切れていないものも多々あり、情報とコンテンツで溢れる今の時代に俯瞰でシーンの全容を掴むことの困難さを改めて感じたりもしています(それをする必要があるのかはさておき)。

一方で日本国内の音楽は、続々とストリーミングで解禁される、昔聴いていたJ-POP/J-ROCKをひたすら聴いていました。ビーイング、小室ファミリー、V系、浜崎あゆみといった、あの時代に隆盛を極めた音楽ジャンルが、規模の大小はあれども、再評価されたり新たな価値を付与されたりすることに何とも不思議な感慨を抱くことが多かった気がします(その点では、音楽家/ライターのTOMC氏による日本のポップ・ミュージックに関する一連の仕事は本当にリスペクトしています)。ほかに良かったのは、岡田拓郎、優河、柴田聡子、ROTH BART BARONなど。

2023年はラナ・デル・レイの新作に期待しています。また凄まじいものを引っ提げて帰ってくることでしょう。色々と世知辛い世の中ですが、2023年こそは良い1年になるといいですね。(tt)

ドリーミー刑事

・ムーンライダーズ「S.A.D.」
・佐野元春「さよならメランコリア」
・浅井直樹「Wedding Bell」
・Mei ehara「ゲームオーバー」
・沼澤成毅「結晶」

2022年の日本のシーンを振り返って最初に思い出すのは、キャリアの長いアーティストが次々と充実した作品を届けてくれたこと。中でもムーンライダーズと佐野元春、そして浅井直樹の傑作には、創造性と情熱があればいくつになっても自己記録を更新できるという希望と同時に、オマエも年齢を言い訳にするなよという忠告をもらった気持ちにさせられた。そしてコロナ禍によって停滞していたライブ活動が活発化し、特にmei eharaのバンドセット、家主の演奏を三年越しで観ることができたのは個人的にも嬉しい思い出。もちろんコーネリアスの復活も。またこうした多くの名盤やライブをサポートするミュージシャンの活躍も目立った。中でも最高のデビュー作をリリースしたSAMOEDOのメンバーでもある沼澤成毅の仕事ぶりは、すでに確たる評価を得ている佐藤優介や岡田拓郎と並ぶものがあったように思う。

2023年も変容した社会における音楽の意味を問われる時代が続くと思うけど、そんな時だからこそ放つ音楽の輝きがあり、それを私は手放せないことをこの3年間で思い知っている。目と耳を逸らさず生きていくしかないなと思っています。(ドリーミー刑事)

hiwatt

・NewJeans「Ditto」
・Blackhaine「Prayer (feat. Iceboy Violet & Blood Orange)」
・Ela Minus & DJ Python「Pájaros en Verano」
・Beyoncé「I’M THAT GIRL」
・ROSALÍA「SAOKO」

私が今、このように愛する音楽についてメディアで文章を書いているとは、半年前まで想像していませんでした。
それと同時に、K-POP沼にハマるとも想像していませんでした。文化自体は勿論、その音楽の深みが色眼鏡のせいで見えずにいたのです。そんな色眼鏡を引っぺがした極め付けが、先日NewJeansがリリースした「Ditto」でした。ボルチモアクラブ?なに?ブレイクビートにこんな可能性が…ウワモノも強い…250凄っ… このようにビートとジャンルや文化との融合に驚かされた一年でした。
今年はマンチェスターのアンダーグラウンドに最大の関心があり、私と同じシチズン(マンチェスターシティFCのファン)であるラッパーのBlackhaineが盟友たちと作った、マンチェ流グリッチとUKドリルが絡み合う「Prayer」に大興奮。
グリッチや音響など00年代エレクトロニカのリバイバルの気配がある、そんな中でEla MinusとDJ Pythonによる「Pájaros en Verano」は、エレクトロニカ×レゲトンという異色のサウンドながら、謎の中毒性を持つ今年最高のポップソング。
DJ PythonとSangre Nuevaを組むKelman Duranは、Beyoncéによる今年を代表する最新作のオープニングトラックに大抜擢。Beyoncéが最強であると再認識させられ、アンダーグラウンドシーンの存在感を誇示する「I’M THAT GIRL」は今年のハイライト。
メジャー、インディ、「外国語」等、あらゆる期待を背負いきってみせたROSALÍAによる“SAOKO”にはただただ力を貰った。TikTokにアップされた本人による解説動画も必見。(hiwatt)

橋口史人

・The A’s「He Needs Me」
・Kazufumi Kodama & Undefined「New Silent Days」
・Yoshiharu Takeda「Before the Blessing」
・Ernest Hood「Bedroom of the Absent Child」
・Brian Eno「Making Gardens Out of Silence」

なんだか自分にとって記名性の高いものばかりになってしまい、若干のつまらなさも感じつつ、かといって外すのも難しかった5曲。2023年はもっと自分の頭の中から出て行きたいです。

①かつてロバート・アルトマンの映画『ポパイ』のためにニルソンが書き、ヴァン・ダイク・パークスが仕立て上げ、シェリー・デュヴァルがキュート極まりなく歌った、個人的にとても思い入れのある楽曲の素晴らしいカヴァー。完全なるノックアウト物件。

②衝撃的だった2018年の10インチの、さらに奥のドアが開くような感覚にゾクゾク。ミュート・ビートのラストアルバムの宣伝コピー「音に優しく音に厳しい」の「優しさ」をばっさりと切り捨てた世界。そして、それが今の耳にとても馴染んで聞こえてくる。

③気長に待つ時間もまた音楽の一部だったと思わせてくれた待望の新作から。前作同様ひとりの作り手により非常に精緻に作りこまれた作家性の強い作品でありつつ、同程度に自意識のマスキングも為されていてるところに音楽への強い愛情や信頼を感じる。

④初めて世に出た1970年代半ばの楽曲。素晴らしい曲名そのままの、どこまでもイノセントな美しさ。一音一音のすべてが愛おしい。未来から来たような顔をして突然現れた見知らぬ過去が、驚くほど今にフィットするという、もはやおなじみの聴取体験のひとつ。

⑤2022年の夏は自宅から20分ちょっとの所で開催されたBRIAN ENO AMBIENT KYOTO展に、夏休みの小学生がラジオ体操に通うように何度も足を運び、数時間ぼんやりと音と光と部屋を眺めてばかりいた。後にリリースされたこの曲は、ほぼ同時期にロンドンで開催されていた展覧会用のもの。(橋口史人)

MINORI

・OMSB「大衆」
・BOYCOLD, DUT2, msftz「DAFT LOVE(feat. DUT2 & msftz)」
・NewJeans「Attention」
・ゆるふわギャング「E-CAN-Z」
・Flat Line Classics, DJ SCRATCH NICE「FLAT LINE CLASSICS」

やっと自分の周りの世界が、というか自分が重い腰を上げて動き出したのが2022年だった。コロナ禍の2年間家に籠りがちだった反動もあり、とにかく沢山のイベントに足を運び、沢山の曲を聴き、新しい友達も多くできた。そうなってくると、一人でいる時間と友達と一緒にいる時間のギャップにどうしたら良いのか分からなくなる瞬間が増え、総じて躁鬱ぎみな1年間だったように思う。今回は、そんな自分の孤独な時間と楽しい時間に寄り添ってくれた曲たちを選んだ。OMSBの『大衆』は、特に周りの目を気にするタイプで、なにかしたいのに目立ちすぎたくはない自分にはすごく刺さった。「誰にもなれないし自分の普通をやる毎日」というリリックには心底救われた。韓国の音楽を掘るようになった年でもあった2022年は、鬱々とした気分を爽やかに吹き飛ばしてくれるようなNewJeansやBOYCOLDの作品をとにかく聴いた。主語が大きすぎるかもしれないが、韓国のR&BやHIPHOPは、より“個”で楽しめるものが多いように思う。というよりも、私があえて手の届かない世界の音楽を聴くことで自分のアイデンティティを模索しようとしていたのかもしれない、とも今気づいた。とにかくハイで無敵になりたい時は『E-CAN-Z』を聴いた。OMSBとゆるふわギャングのアルバムを行き来して精神のバランスを保つという不思議な一年だった。最後に選んだのは今年一番ライブを見に行った東京のヒップホップクルー・Flat Line Classicsの一曲。この先もこの曲を聴いたら、2022年の毎週のように渋谷や恵比寿に遊びに行った毎日を思い出すだろう。(MINORI)

油納将志

・Nia Archives「So Tell Me…」
・Braxe + Falcon「Step By Step (ft Panda Bear) 」
・Gabriels「One and Only」
・Romy & Fred again..「Strong」
・Billy Nomates「Blue Bones」

Spotifyのお気に入りの曲を1年分振り返ってみたら、そのほとんどがヴィンテージ感のあるソウル、ファンクだったので、現行のシーンに沿った5曲を選んでみた。1位のニア・アーカイヴスはBBCのSound of 2023の3位に選出されたリーズ出身のシンガー/プロデューサー。ここ数年、オーヴァーグラウンドな動きになりそうでならなかったジャングルのリヴァイヴァルだが、昨年11月に南ロンドンを訪れた際も、深夜のパブでジャングルが爆音でかかっていたりと、彼女のブレイクによって水面下でうごめていたグルーヴがオーヴァーグラウンドへと広がっていきそうだ。聴いた回数では2位のブラックス+ファルコンが多かったが、世界的な活躍を見せている12歳の日本人スケーター、小野寺吟雲の映像をフィーチャーしたMVも新たに制作されていて、また耳にする機会が増えることだろう。そして今年は、21年ぶりに復活するエヴリシング・バット・ザ・ガールを追いかける1年にもなりそうだ。(油納将志)

Yo Kurokawa

・Alec Orachi「Posey Vs Clever」
・O3ohn「RunRun」
・The Crane「拉麵公子 Ramen Boy」
・LÜCY「EYE(S)」
・moon tang「i hate u」

Night Tempoの12月頭のツイートが私の中の話題をさらっている。ここ数年アジアのシティポップ・ブームど真ん中にいる彼だが「世界のブームの流れはもう変わりました」とごくあっさり書いていて、個人的にも確かにその潮目の変化は感じる。ツイート内では続けて「自分が好きなシーンをただ素直に楽しむ」ことにも触れているけれど、私がまさにその数日来ハマっていたVIBERの新曲「愛的叢林法則Love In The Jungle」は、実に無邪気な手つきで80年代日本のポップスを下敷きにした1曲で、この直球ぐあいが本当に微笑ましいなと思って聴いていた。流行ってるとか遅れてるとか、世界的ブームとかぶっ飛ばして、好きな音をやる、という衒いの無さには、どうしても好感を抱いてしまう。「新しい」あるいは「流行っている」サウンドかどうかという視点からは零れ落ちる音楽でも、好きは好きなのだ。今年は台湾以外のアジア圏にも緩やかに射程が広がって韓国やタイの音楽、特に8BallTown(韓国)やnewechoes(タイ)といったレーベルの作品をよく聴いた。特にタイのアーティスト、Alec Orachiのデビューアルバム『FREE 2 GO』は圧倒的な才能に打ちのめされる快さを久しぶりに思い出した。また数年来の念願の台湾渡航も叶ってLÜCYやThe Crane、Robot Swingなど新世代アーティストのライブを間近で観られたことも忘れられない思い出だ。台南のライブ会場の前で飲んだ500mlの缶ビールは間違いなく今年一番美味しかった。(Yo Kurokawa)

渡邉誠

・Dawes「Someone’s Else`Cafe / Doomscroller Tries To Relax」
・Jockstrap「Concrete Over Water」
・The Backseat Lovers「Growing/Dying」
・すばらしか「旅路」
・Cola「Fulton Park」

2022年、父の突然の死から1ヶ月後、例年通り夏の苗場を訪れた。一昨年は友人や他人への新型コロナ感染を恐れて(抗原検査は陰性)、直前に行くのを取り止めたフジロックへである。みなさんならどう思い、どう行動しただろう。ふと聴いてみたくなった。「四十九日も終わってないのに不謹慎」なのか「ライブになんか行く気になれない」なのか「いい気晴らしになるんじゃない?」なのか。当たり前のことではあるが、生前の故人との関係性や距離感、個人の死生観や宗教、亡くなった時の年齢や状況によって全く異なる回答があるだろう。半年以上経った今でも立ち直れずにいる姉のように「死」について考えることすら苦痛に思う人も当然いるだろう。私は違った。数秒後に終わるか30年後に終わるかわからないが、誰にでもいつかは訪れる終着に人は何を思うか、その時音楽はどう鳴っていたのかもしくは鳴らなかったのか知りたい。そこに自身にとっての音楽とはどんなものかを理解するヒントのようなものがある気がするから。

政治や宗教や死生観など日本社会ではタブー視されがちな会話も日頃から活発に交わせるような1年になったらいいなと思いながら、昨年多く聴いた曲の中から選曲した。(渡邉誠)


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BEST TRACKS OF THE MONTH特別編 -TURNスタッフ/ライター陣が2021年を振り返る-

http://turntokyo.com/features/best-tracks-of-2021/

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BEST TRACKS OF THE MONTH特別編 -TURNスタッフ/ライター陣が2020年を振り返る-

http://turntokyo.com/features/best-tracks-of-2020/


Text By Sho OkudaMakoto WatanabeHitoshi AbeYo KurokawaHaruka SatoYusuke SatoKenji KomaiShoya TakahashiYuta SatoNana YoshizawaTatsuki IchikawaIkkei KazamaSuimokuFumito HashiguchiabocadoNao ShimaokahiwattttMINORIDreamy DekaShino OkamuraMasashi YunoKei SugiyamaNami IgusaDaiki TakakuKoki KatoTetsuya SakamotoYasuyuki OnoSinpei Kido

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