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緊急リポート
ベルリン新型コロナウイルス危機 Part 1

01 April 2020 | By Noriko Shinjo

新型コロナウイルスの世界的感染拡大により音楽シーンや現場も大きな皺寄せを受けている。ライヴやイベントがことごとく中止・延期になっていることから、動画でライヴ生配信をするようになったアーティストも多いが、そもそも、CDやアナログ・レコードの生産ラインの多くが混乱していることによりリリース・スケジュールに遅れが生じるようにもなった。日本では営業自粛を余儀なくされているライブ・ハウス関係者、DJ、音楽家らが、3日間で約30万ものの署名を集め、3/31にインターネット会見を開き、文化施設に対する国からの補償、助成を求めた。ウイルス終息の目処が立たない中、音楽シーンの今後も全く見通しが立たなくなっている。
しかしながら、海外……例えばドイツでは文化大臣が3月上旬の段階でフリーランスの芸術家への無制限の支援を表明(https://jazztokyo.org/news/post-50875/)。芸術の重要性を尊ぶ国からのサポートが得られているという。そこで、そんなドイツはベルリンに暮らし、ライヴやイベントにも足を運ぶことが多いという新庄範子さんに、今ベルリンがおかれてる状況をリポートしてもらった。今回はその第一回目。今後、状況次第で断続的に報告してもらう予定だ。なお、外出制限があるため写真は新庄さんがあくまで日常の買い物の際に簡単に撮影したものであることを付記しておきたい。(編集部)


トップ写真はドイツの有名ドラッグストア《dm》のレジ前。“並ぶときは距離を保ってください”のメッセージ。このお店ではショッピングカートで店内の人数管理をしている。
(文・写真・キャプション/新庄範子)




みなさまはじめまして。私はドイツのベルリンに5年程前から住んでいる日本人で、普段はファッション業界で働いています。若い頃からアートやカルチャーが好きで、日本に暮らしている頃、社会人になってからも仕事の合間にライヴや映画館に足を運び、転職期間中には展示や舞台のお手伝いをしたりと好奇心の赴くままに暮らしていました。ベルリンではビザの制限があるので、カルチャーに対しては主に観客として楽しんでいます。あまり社交的な性格ではないので用事がないと出掛ける事も少なく、クラブは友達がプレイする時くらいしか行きませんが、それでもミュージシャンの多い街なので音楽業界に関わっている友人も何人かいます。

そんな在住者から見た今のベルリンの新型コロナウイルス危機にまつわる様々な状況をお伝えしたいと思います。

ドイツ国内での最初の新型コロナウイルスの感染者は1月27日にバイエルン州で報告されました。1月と2月は仕事場のひとつでラジオを聴く機会が多かったので珍しく定期的に情報を得ていたのですが、この頃はまだこんなに強いウイルスだとわかっていなかったようで、ドイツでのリスクは低いと報道されていました。

そしてベルリンで最初に感染者が報告されたのが3月1日。そこからは連日感染者が増えていき、日本大使館から個人宛在住者に届くメールも頻繁に届くようになって街の様子も少しずつ変わっていきました。

3月10日、翌11日から4月19日まで、ベルリンにある全ての公立演劇場、オペラ劇場、コンサートホールの閉鎖が発表され、その11日には1000人以上が集まるイベント全てが禁止になりました。15日には50人以上が集まる事は公私に関わらず禁止になり、美術館も映画館も閉まりました。

18日、メルケル首相のスピーチがあり、これを機に今までどことなく楽観的な雰囲気の人が多かったこの街も大幅に変わったように感じました。そして22日には外出制限が始まり、飲食店も持ち帰りと配達以外は禁止になりました。4月19日まで、というのは、ベルリン州は4月17日までオスター休暇に加え18-19日が土日なので、区切りの日になっているからです。



地下鉄 U8-Gesundbrunnen 駅構内。地上を走るSバーンやICEも止まる駅と繋がっている大きな駅。ドイツは改札がないので普段なら電車に乗るわけでもない人もいて混んでいるが、日曜日の昼過ぎにも関わらずほとんど人がいない。



【ライヴ・ハウスやクラブなどの状況】


ベルリンといえばクラブ、クラブといえばベルリンですが、3月13日からベルリンの全てのクラブは閉鎖しており、ベルリンの有名なクラブ《Berghain》(https://www.berghain.berlin/en/)は最短でも4月20日まで閉めることを告知しています。ここまで影響の規模が大きいと皺寄せを食らう人数も膨大で、ベルリンのクラブやイベント会社が所属する協会《Clubcommission》(https://www.clubcommission.de/)の声明によると、9000人以上の従業員と1万人以上のアーティストが仕事を失うと言っています。

そこで彼らは3月18日に《United We Stream》 (https://unitedwestream.berlin)というデジタル・クラブを立ち上げました。毎日19時から24時まで(健康的!)日替わりでベルリンのクラブからライヴ・ストリームをして、寄付もできるようになっています。様々なミュージシャンの中でも、クラブDJほどオーディエンスや入場者の盛り上がりが意欲を左右する音楽家もないと思うのですが、それでもここでは連日たくさんのDJがプロの姿をみせています。

また、3月22日には《Berlin (a)live》 (https://www.berlinalive.de/) というサイトが立ち上がりました。こちらはベルリンの文化庁も関わっているようです。音楽や舞台関係はもともとストリーム対応できる設備を持っているところが多かったのが功を奏しているのだと思いますが、アーティストが個々でやるよりも効率がよさそうだし、このスピード感はベルリンらしいところだと思います。

クラブ・ミュージック以外では、大きな会場は続々と新しい日程がアナウンスされており、チケットの払い戻しを極力せずに済みそうな公演も多そうです。でも、主催者側はチケット代による収入が増えるわけでもないし、観客側も新しい日程が合わずに悲しんでいる人も少なくありません。私もその1人で、4月20日に観に行こうと思っていたボン・イヴェールのライブが2021年1月20日に延期となってしまい、先すぎてその時自分がどこで何をしているのかすらわかりません。オープニングアクトがBig 37d03d Machine(ザ・ナショナルのアーロン・デスナーのユニット)だったのに!……とても残念です。他にも行こうと思っていた4月17日のサンダーキャットは振替日程はまだ発表されておらず、秋に延期とだけ伝えられています。FKAツィッグス目当てで行こうと思っていたヨーロッパ内の夏のフェスティバルもまだどうなるかわかりません。日野浩志郎さんのYPYもベルリン公演がキャンセルになったようです。

シアターに関しては、クラブのようにハコとアーティストと関係職種の人たちが一緒になっているわけではなさそうですが、寄付を募ったり回数券を買ってくれると目先の援助になると表明している映画館も多いようです。カルチャー・マガジンではどうすれば自分の好きなシーン(ジャンル)を援助できるかという記事も盛んに掲載されています。どの業界でも報酬の未払いが横行しているベルリンですが、今回集まったお金はちゃんと受け取るべき人に支払われてほしいと切に願っています。

【飲食店とその衛生状況】


私はアレルギーを沢山持っている上に、ファッション業界で働いているためほこりが避けられず、年中くしゃみと鼻水を垂らしているのですが、そもそもドイツでは日本でいうドラッグストアにはマスクが売っていません。今まで何人かの知り合いに、どこで買えるか聞いてはみたものの、“たぶんApotheke(薬局)で買えるんじゃない?”といったあいまいな返事しか返ってきたことがないくらい普及していませんでした。しかし、このコロナ危機で街でもマスクを着けている人をちらほらみかけるようになりました。

また、この1ヶ月だけでドイツ国内での石鹸の売り上げが2倍以上になっているのも特筆すべきことです。毎年インフルエンザで大量の死者が出ているドイツ、ここ数年はとても酷く国内で毎年1000人前後亡くなっていて、2017〜18年の冬などは約1700人も亡くなり記録が更新されてしまっていただけに、このまま手洗いとマスクが習慣づくことを願っています。あと、できれば飲食店のトイレの手洗い石鹸とペーパータオルの定期補充と、さらに欲を言えばおしぼりも普及してほしい。もう慣れた自分も怖いですが、こちらでは食事前に手を洗う習慣がありません。

ベルリンも既に、同じようなショッピング・モールがたくさんある街になってしまいましたが、それでも飲食店は特にチェーンストアの人気があまりなく、まだまだ個人経営のお店も多いのが魅力。飲食に限らず私が普段行くのも小さなお店がほとんどです。お散歩やおしゃべりが大好きな人が多いので、天気のいい日は公園もカフェも人がいっぱいですが、外出制限が出る前の週くらいから、閉めているお店も増えていました。ただでさえ恐ろしい家賃の上昇で廃業や移転が多かったのに、そこにきてのコロナ……追い打ちです。



Mitte地区にあるソーセージ屋さん。入り口には、上段は店内に入れるのは2名まで、下段は支払いはカードのみをお願いする内容のメッセージが。



【行政、国の措置は?】


しかし、そんな資金難に直面した市民や企業に対して行政は即座に救済措置をとり始めました(尤も、この措置は全ての賃貸契約に有効で、大企業まで賃料を払わないということになり、今はそれが非難の的になっていますが)。ドイツは法律で2ヶ月家賃を滞納した場合は貸主が強制退去させることができるのですが、ドイツ連邦は4月1日から6月30日の間に滞納した場合に24ヶ月後の2022年6月30日までこの権利を無効にしたのです。水道、電気、ガスも同様です。無効期間が延びる可能性も示唆してあるので、失業したり仕事が減った人にとってはとてもありがたい措置。ここ数年、特にベルリンは人口の急増で不動産の不足と高騰が激しく、新しく見つけるのは至難の業なのです。

また、被雇用者の方はと言えば、コロナが原因で短時間勤務を余儀なくされた場合は雇用主の申請によって収入に応じた保証が受けられるようになりました。ドイツでは雇用関係にある従業員の権利がとても強いので、倒産でもされない限り無収入になる事はほぼありません。

さらに、ここは首都なのに貧乏な街ベルリンです。自営業やフリーランサーがとても多い街でもあります。誰しもが1度は報酬未払いを経験しているのか、払って貰えてなくて…とポロっと誰かにこぼそうものなら、どうやって払わせることに成功したかのエピソードと共に督促状の見本がスルっと出てくる街です。そんなフリーランスのベルリナーを救うべく、個人事業主、フリーランサー、芸術家、10人までの中小企業は申請すれば現金での援助が決まりました。このニュースは驚きをもって伝えられています。

具体的には、ベルリン市から一律5000ユーロ、フルタイムの従業員がいる場合はドイツ連邦から追加で従業員数に応じて9000から15000ユーロが申請3日後には口座に振り込まれるそうです。この措置の決定が早かったこともそうですが、それよりも、書類の提出もない上にオンラインで完結できることがなによりの驚きのようです。“(un)bürokratisch/官僚的(ではない)”というのは、今回のコロナ危機のおかげで覚えたドイツ語の一つ。住めばすぐにわかりますが、ドイツは日本に負けないくらいの書類社会かつお役所仕事が得意なのです。

とはいえ、オンライン・ニュースの記事についているコメントやツイッターを見る限りでは市民はこの援助をあまり信用していないようで、案の定27日12時から開始した申請受付を、サーバーダウンを経て翌28日には既に受付自体を一旦中止したそうです。

税金は湧いて出てくるものではなく予算も公表されていましたし、実は使途が限られるような但し書きがあったりもしています。けれど、これでとりあえず廃業せずにすむかもしれない人がいるのなら素早い援助の提案があったのは決してネガティブな事ではないのではないでしょうか。

いずれにせよ、アート関係者も含め、公的援助は確かに受けられるようになりました。けれど、前述したようにクラブDJやアーティストたちは積極的に発信する場所を作っています。国からの支援を待つだけではなく、直接リスナーに援助してもらえるプラットフォームを作り居場所を用意する。それがベルリナーの心意気。尊敬できるところです。

いつもは満員の地下鉄もガラガラ。



【日々の暮らしの行方】


さて、前述のように3月22日からはベルリンでは外出制限がかかり、理由のない外出はNG、家族やパートナー、同居人以外では公私に関わらず人に会う事もできなくなっていますが、予想通りルールを守らない人が続出で大量の逮捕者も出ています。私が仕事で外出した時も、3人以上で出歩いている人がそれなりにいてびっくりしましたし、普段と同じ距離で談笑しているグループもたくさん見かけました。スーパーでくだらない喧嘩も起きているようです。ルールを守らない…というのはベルリンの好きなところでもあり嫌なところでもあるのですが、さすがに命が掛かっているときくらいは大人しくしてほしいものです。

その一方で、最近はオンライン・ニュースで“鬱にならないために”というテーマの記事がたくさん上がっています。冬の日照時間が短いドイツでは、太陽光への情熱にあふれている人が多く、ちょっと晴れれば人がどこからともなく湧いて出てきてお散歩や日光浴に出かけます。ドイツの冬は鬱病になる人が増える季節なので、やっと春が来てとてもいいお天気が続いているのに、コロナが流行ってしまい…とても悲しいのでしょう。

また、連日近隣諸国の悲惨な状況が報道され、亡くなった方の弔いもできていない事や、今まではリスクが低いと言われていたグループである健康な若者が症状もあまり出ないまま亡くなっている事にみな衝撃を受けています。まして、医療従事者が受けるショックは想像もつきません。人生に年齢はあまり関係ありませんが、やはり自分より若い人が避けられたかもしれない理由で本人の意思に反して人生を奪われるのは心を削られます。そうなると負の連鎖で、外出制限が始まってからドイツでは今度は家庭内暴力も増えてきました…。

【何ができるのか? 何をすべきなのか?】


そもそも私が中国でコロナウィルスが流行っているという情報を知ったのが1月後半のことでした。ただ、その頃はまだ遠い東アジアでの出来事という感じで報道もトップ・ニュース扱いではありませんでした。ダイヤモンドプリンセス号で集団感染が起こった頃からドイツでも報道が増えた印象です。

そしてイタリアで最初の感染。その時にはさすがにドイツでも大きく報じられました。しかしイタリアの状況が深刻になりつつあっても、ドイツはまだまだほとんど他人事。自分たちはイタリアより真面目で秩序もあるので同じ轍は踏まないという自負もあったのかもしれません。けれど、ドイツに感染者が出て、さらにベルリンに出て、ベルリンの感染者数がものすごいスピードで増えていき、ついにはベルリンでコロナによる死者が出て……そこからはもう大混乱。集団がパニックに陥る様を垣間見た気がします。もちろん現場は初期から状況の説明と行動指針を出してくれていましたが、その一次情報にアクセスする人が圧倒的に少なかったのだと思います。私も、《Robert Koch-Institut》(ロベルト・コッホ研究所)が出す情報を直接見るようになったのはずいぶん経ってからです。差別的発言をする人、必要以上に買いだめや買い占めをする人、感染症をなめ切っている人……。スーパーには商品がほとんどなく、普段は需要の低いお米すらなかった店舗もあったようです。ドイツ国内に大量の感染者が出たその時期、そうした状況に混乱させられた人は多かったようですが、友人も少ない外国人の私は、幸いにも比較的冷静に情報に振り回される事なく生活できていたような気がします。

大手スーパー《REWE》のペットボトル返却機。他人と間隔を1.5m開けるように促す張り紙。



こうしたコロナに関するドイツでの感染拡大は、しかしながら、2週間後の日本でも起こりうることだと思います。ドイツは新型コロナに対してとても早い段階で医療側で対策ができたので致死率を抑えられているとも言われています。コロナ対策の中心にいる《Robert Koch-Institut》の感染症専門のドクターは、初期に感染経路が追えたことと、その間に準備ができたことがよかったと思うと述べています。ドイツで死者が感染者数に対して他国より少ない理由は、広く検査をした為と、ドイツ国内の初期感染者は若い世代が多く(感染者の平均年齢は48歳で世界的にとても若い)、その交流関係内での感染が続いたからではないかとのこと。もちろん今後はわからないし、現実に感染者の世代はあがってきています。このドクターはポッドキャストで医療ジャーナリストと共にほぼ毎日コロナ情報を配信していてとても助かります。マスコミが伝える情報だけを鵜呑みにしてはいけないということを思い知らされました。

そもそも文化も習慣も違う国の状況がどこまで参考になるかわかりませんが、知っていれば対応できる事もあるかもしれません。アートに対する意識的な行動をとることもできると思います。日本のみなさんも今ヨーロッパで起こっていることを少しだけ気に留めてみてください。(新庄範子)



Text By Noriko Shinjo

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