「リニア」から「拡散」へとうつろう時間感覚
アルバムのアートワークには、流木のようなものから布が垂れ、鮮やかな糸がほつれているとも、あるいは滴っているようにも見える。ブルー・レイク(Blue Lake=Jason Dungan)のパートナーがアーティストとして発表した作品が使用されており、本作もその影響を受けているようだ。公式の作品紹介で印象的だったコメントが一つある。意訳にはなるが、「楽器の弦の塊と織機の糸の塊の間には、明白な視覚的関係がある」と述べられている。
自作の改造ツィターをシグネチャーとして、フォークからドローンやアンビエントまで射程に収める『Sun Arcs』(2023年)におけるトーンを基本的に踏襲した小作品(ミキシングは引き続きララージやカート・ヴァイルとも仕事をしているJeff Zeigler)だが、惹かれるのは時間の流れる感覚、そのうつろいが感じられる点だ。
「Weft」からアコースティック・ギターはフェードインし、リフレインは円を描く。コードワークではなく、細かいフレーズが徐々に変化、肉付けされることで生まれるダイナミクス。そのレイヤーが繊細なのはもちろんだが、同時にルーパーで一つ一つ音を重ねるようなテンポ感も思い出させ、多重録音における素朴な感触がまず最初に感じとれる。
たおやかな変化は、流れゆく景色の経過、そのイメージともたやすく結びつくだろう。特に「The Forest」はその好例だ。一歩ずつ進んでいくようにフレーズは反復し、ちょうどベースが合流すれば、森の中をまっすぐ分け入り、木の枝葉から差し込む木漏れ日が揺れるような画が浮かぶ。なんて率直なタイトルと音なんだろうと思わずにはいられないように、その響きに小難しさは何もない。
ルーパーを想起したのは、ギターが軸となっている楽曲が多いことも無関係ではないだろう。アーシーかつ爽やかな質感の同居は、彼がかつてテキサスに住んでいた幼少期にブルースなども学んだという背景と、現在はデンマークに住んでいるという地理的な客観性によるものか。個人的な話ではあるがジム・オルークやジョン・フェイヒイなどUSのルーツ・ミュージックに(今更ながら)向き直そうとしていたタイミングだったから琴線に触れたのかもしれないが、重厚な文脈に足を取られすぎず、あくまで軽やかである。
メロディアスな一面も見せる「Oceans」を抜け、「Tatara」では、Jasonのツィターにサポート・メンバーを加えたヴィオラやコントラバス、バスクラリネットによるドローンと、さらには拾った金属や流木、自転車のタイヤ、自作の丸太を彫ったドラムなどが使われ、インプロヴィゼーションによって編み込まれる音が、フォークやカントリーといった形式の輪郭を淡くさせる。最後には「Strata」におけるツィターの独奏へと至る。極めて主観的かもしれないが、数年前より大ヒットしているChase Blissのエフェクター「Mood」のようなグリッチ系サウンドの偶然性をツィターに見出せるようで、雨音のようにとりとめもなく溢れ、前半からシームレスに意識をときほぐしていく。
5曲というコンパクトさ故か、冒頭のリニアなグルーヴから、最後には前後左右がぼやけるように拡散し、変化する時間感覚のグラデーション。弦楽器に限定するまでもなく、それぞれのサウンドが横糸として紡がれ、スピードアップに攫われようもない時間の流れに身を預けていた。(寺尾錬)
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【REVIEW】
Blue Lake『Sun Arcs』
https://turntokyo.com/reviews/sun-arcs-blue-lake/