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Blue Lake: Sun Arcs

2023 / Tonal Union
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「北欧のアメリカ人」によって作られた多重録音アメリカーナ

17 August 2023 | By Fumito Hashiguchi

ブルー・レイクはジェイソン・ダンガンによるインストゥルメンタル楽曲のためのソロ・プロジェクト。この『Sun Arcs』がアルバムとしてはおそらく4作目であり、過去作の一部でゲスト・ミュージシャンを招いた例もあるが、基本的には作曲・演奏のすべてをダンガンが1人で行っている。 今作には少なくとも3つの土地が深く関わっている。ダンガンの故郷である米国のテキサス。現在彼が生活し、活動の拠点としているデンマークのコペンハーゲン。そしてスウェーデンはウンナリッド郊外の森の中にある山小屋アンデルサボ。自身が運営するレジデンス・スペースであるこの山小屋に、ダンガンは愛犬と共に一週間ほど篭り、周囲を散策する中で作品の大半の構想が生まれたのだという。録音はアンデルサボとコペンハーゲンのスタジオの両方で行われており、クレジットには今回の使用楽器がこう明記されている。

48弦ツィター
アコースティック・ギター
キーボード
ポンプ・オルガン
チェロ
クラリネット
アルト・リコーダー
ドラムス
スモール・パーカッション
ローランド606ドラム・マシーン

ブルー・レイクの音楽を最も特徴づけているのはリストの最初に挙げられている48弦ツィターだろう。これはダンガンによる自作楽器で、ほぼ全編で使用されているが、ツィター・ソロに近い形の楽曲がいくつかあり、「Green-Yellow Field」ではハープやダルシマーのようにも聞こえる響きを、「Writing」や「Sun Arcs」ではカスケード状の連鎖的な音の連なりやミストのように降り注ぐ音の粒を聴くことができる。この美しい響きは、ララージやメアリー・ラティモア、スティーヴ・ガンらとの仕事で知られるジェフ・ジーグラーによるミックスとカリ・マローンやフェリシア・アトキンソンらを手掛けるステファン・マシューによるマスタリングの貢献も大きいかもしれない。

アルバムを特徴づける他の要素として挙げられるのはドローンだろうか。「Rain Cycle」ではオルガンによるドローンが基調となり、ハイハットがリズムを刻む中、チェロやツィター、ギターが慎ましい即興演奏を繰り広げている。最終曲「Wavelength」でもドローンがとても印象的だ。曲はツィターのソロで始まり、中盤になると、オルガンのドローンが現れる。ツィターが静まり、リコーダーの牧歌的な音色が何かの終わりを告げるように響き、ツィターがリコーダーに寄り添うように再び現れる。そしてリコーダーが去り、オルガンのドローンもまた去り、最後に残ったツィターのソロで曲は終わる。この曲は前衛映画作家のマイケル・スノウによる1967年の同名の映像作品にインスパイアされた楽曲だという。ジョナス・メカスがその上映を映画界における画期的な出来事であったと語る短編映画『Wavelength』は、45分をかけて画面が何かに向けてゆっくりとズームしていくのに合わせて、途中から現れる信号音のドローンの周波数も変化し、最終的に部屋の壁にかけられた波の写真にフォーカスしたところで画面はハレーションを起こしたように白くなり、信号音も可聴域を超えるほどの高音になり終わる。

今作を聴いて、すぐ具体的に連想した2枚のアルバムがある。ブルース・ラングホーンによる、1971年のピーター・フォンダ監督作品『さすらいのカウボーイ(The Hired Hand)』のサウンドトラックと、2022年にリリースされたアーネスト・フッドの主に1970年代の録音楽曲集『Backto the Woodland』だ。

特に意識していたわけではないが、ブルー・レイクも含めて皆米国人男性による一人多重録音作品である。今作は成り立ちからしても北欧の自然やランドスケープのミメーシスとしてのサウンドスケープ作品である側面が強いはずだが、「Dallas」や「Bloom」「Fur」といった曲における器楽演奏のある種の説得力にはアメリカーナ的なものを想起せずにはいられないものがある。パーソナルな体験が反映されたサウンドスケープであると同時に、「北欧のアメリカ人」によって作られたアメリカーナの変奏としても聴くことができる作品なのかもしれない。ダンガン自作の48弦ツィターの隅にこっそりと“This Machine Kills Fascists”といたずら書きしても、彼は笑って許してくれるのではないだろうか。(橋口史人)


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