Review

KOHH: UNTITLED

2019 / GUNSMITH PRODUCTION / 日本コロムビア
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自由への渇望が逆説的に映し出す俺たちを縛るロープ

08 February 2019 | By Daiki Takaku

君が自由でありたいと願うのなら、あるいは今自分が自由であると思っているのなら、このレコードは聴かないでおいた方がいい。

2019年2月1日、一切のプロモーションや予告なしにフィジカルをTシャツ等とのセット販売という形でプレ・リリースされたのがこの『UNTITLED』だ。本作で彼のスタイルに大きな変化はない。ただそこにある衝動的な叫びとオフ・ビートでのラップに宿る直感的に異質なフィーリングに我々は“芸術”という言葉を想起させられているということを改めて実感できる。またラップするトピックには命、死、成り上がり、金といったこれまでもKOHHが歌ってきたことに、有名になり金と名声を手にした現在の煩わしさが加わっている。しかし、荘厳なストリングスにビートは殆どないトラックの上でファルセットも交えて歌い上げる「ひとつ」、やり続ける覚悟をトラップのビートに乗せる「Imma Do It」、今や世界規模で活躍するバンドONE OK ROCKからTakaをフューチャーしロック・サウンドのダイナミズムとともに底無しの欲求を叫ぶ「I Want a Billion feat. Taka」、普段と異なる声色で歌う「Okachimachi」などその音楽性は不揃いではあるものの徹底的に“好きなことを好き勝手にやる”という自由を追求する姿勢が貫かれている点において地続きだ。中でも注目すべきは終盤3曲は近しいトーンで描かれていること。「Leave Me Alone」、「I’m Gone」というタイトルの通り「俺からもう離れた方がいいのかも」、「俺はもうそこにいない」と歌い、続く「ロープ」で壮大なストリングスに乗せて「見えないロープで縛られてる俺たちの首」とスピットする。そこには大きな成功の中にあっても(ここではないどこかへと)止まることのない巨大な探求をさらに包み込むような諦念と、それを振り払おうともがく度に暗闇の濃さが増すような徒労感が鎮座している。そう、宇多田ヒカルやフランク・オーシャンなど世界的ビックネームと呼応するこの圧倒的な自由への渇望は、圧倒的であるが故に猛烈なスピードで逆説的に人間が社会性や一貫性という名のロープで縛られていることを証明してしまうのだ。完全な自由など、存在しないと。

そうしてまた頭から再生すると、本作は等身大な響きさえ蓄えていることに気がつく。それは、ぬかるみから抜け出そうともがくことで足元の泥の重さを痛感するような感覚。だが、『UNTITLED』=“名前のない”場所を目指して足跡のない荒野をひとり、先頭を切って走る者に絡みつく泥はどれだけ重く、深いのか。王子の団地で育った少年が世界へ羽ばたき、想像を超えるであろうその境地で戦っていると思うと、今はただ涙がこぼれそうだ。(高久大輝)



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