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toulavi: sandplay

2023 / toulavi
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若き音楽家の新たな一面を垣間見せるニューEP

26 June 2023 | By Suimoku

toulaviの新たなEPがリリースされた…と聞いて興奮した人はどれぐらいいるだろうか。toulaviとは2002年生まれのプロデューサーで、2021年に発表した『プロセス』、そして2022年の『神殿』という2枚のEPによって音楽ファンをざわつかせた音楽家である。その全体数はけっして多くはなかったとは思うが、『神殿』発表時よりもこの『sandplay』発表時の方が広い範囲で反応があった(ような気がする)ことを思うと、その音楽に惹きつけられる人はじわじわ増えているのではないだろうか。最近は《K/A/T/O MASSACRE》などのイベントでも何度もライヴを行なっており、そうしたところからも注目が集まっているようである。

toulaviのアーティストとしての経歴および『神殿』については、過去にレヴューを寄せているのでそちらを参照していただきたいが、ゼロ年代エレクトロニカを思わせる柔らかなシンセ、センチメンタルなフレーズ……などを基調としつつ、それをぶち切るようなノイズやBPMの変化、細かい展開の変化などを伴う、自由な曲想が特徴のプロデューサーである。そのサウンドは英語圏のエレクトロニカ/IDMのリバイバルとどこか呼応しつつも、単なるリバイバリストの範疇を超えて独自の個性を印象付けるものだった。今回の3曲入りのEPでもそうした『神殿』から引き継がれた要素は見られるものの、これまでにはなかった新たな要素を含み、新境地を見せているように思う。

たとえば2曲目の「forget about me」などを聴くと、エレクトロニカ的な柔らかいシンセの下を性急なブレイクビーツが走っているのに耳を引かれる。それはしだいに加速し、ブレイク部分までトラックを推進するのだが、こうしたテクノ~ダンス・ミュージック的な身体性が強く感じられるのが、今回の『sandplay』の特徴だろう。ブレイクビーツは少しBPMを落として3曲目の「do not ascend」にも現われ、「sandplay」にはチョップ/リワインドされて挿入される。そして、そのあと、じわじわとした横ノリのグルーヴのなかで「Yeah! Woo!」という「Think」からのサンプル――ジャングル/ドラムンベースを決定づけるあの声――が入ることで、この肉感的な印象はさらに強くなる。

こうした要素に加え、ヴォーカルや、toulavi自身の演奏するエレキ・ギター的な音色など、生身に直結したサウンドが増えているのも気になるところだ。強く加工されたヴォーカルは「sandplay」の後半に現われたあと、「forget about me」のなかではビートを断ち切って現われ、「do not ascend」では少し低く、囁くような声で鳴らされる。ブリアルが自らの楽曲におけるヴォーカル・サンプルについて語った「天使の声」、あるいは「半分少年で半分少女」の声という言葉を連想させるその声は、なにやらアニソンなどをもとにしている(あるいはtoulavi自身が歌っている?)ようだが、聞き取れそうで聞き取れないままトラックの上をただよう。また、「sandplay」や「forget about me」では、終盤にラフな質感のギターが挿入されて聴き手の意表を突く。特に「sandplay」では、わりと長尺の“ギターソロ”パートがあり、これまでのエレクトロニカ的な音楽性からはやや異例に思える。ライヴを見るとこのギター・サウンドはシンセのピッチベンド機能を利用して出されているようで、このEPの前に発表された「invalid token」という楽曲で現われ、そこから引き続いて本作でも試されているようだ。前記したヴォーカルの使用と併せ、これも作り手の身体やエモーションを感じさせる部分といえる。

ダンス・ミュージック的な身体性に加え、ヴォイスサンプルや生ギター……。こうしたそれまでにはあまりなかった要素を新たに取り込み、無理のない形で咀嚼したのがこの『sandplay』という作品ではないだろうか。ブレイクビーツや90年代のダンス/レイヴ・カルチャーからの引用については音楽的なトレンドとなっている感もあるためそこに呼応したとも思えるが、そもそもtoulaviは小学生のころに(!)ケミカル・ブラザーズを聴いて電子音楽に興味を持ったとのことで、そう考えるとこれは一種の「ルーツ回帰」といえるのかもしれない。ともかく『sandplay』には新鮮な驚きがあり、これからどのようにtoulaviが自らの音楽を拡張していくのかさらに楽しみになった。(吸い雲)


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