USポストハードコア〜エモ・シーンへUKからの刺客
活動拠点としている都市は情報が少なく明らかでないが、UKのバンド、UNIVERSITYはポストハードコア〜エモに影響を受けたサウンドを聴かせる、Zak(guitar/vocals)、Ewan(bass/synths)、Joel(drums)、Eddie(Xbox 360)による4人組。Xbox? そう、《So Young Magazine》や《God Is The TV》の記事によると、Eddieはライヴ中、他のバンド・メンバーが激情的な演奏を聴かせているステージ上でひとり悠長にビデオ・ゲームをプレイしているのだという。ハッピー・マンデーズのベズがそうであったように、音楽的貢献のないメンバーのライヴにおける役割は、そのバンドが持っているムードやヴァイブスを聴き手に共有することだと思う。オフィシャルYouTubeチャンネルにDiscordのリンクを貼っているように、彼らはオンライン・ゲームへの愛着と同じように、音楽へのモチベーションも自室での娯楽や仲間内でのふざけ合いに似たものなのだろう。
しかしリリース音源やライヴ映像での彼らの演奏は、ベッドルームでの個人的な楽しみというよりは、もっと身体的で躍動感あるものだ。ファースト・シングル「Notre Dame Made Out Of Flesh」は16分の乱打を多用したドラミングが力強い。また『Bleach』期のニルヴァーナを彷彿とさせるセカンド・シングル「Egypt Tune」もまた、正確にテンポを掴んだスティックによる6カウントが耳を惹くが、ギターとベースがユニゾンしたリフは砂嵐やブルドーザーのように轟音ノイズを撒き散らしながら推し迫る。「King Size Slim」のエモからの影響をのぞかせるアルペジオによるイントロや「History of Iron Maiden pt. 2」のヘヴィーなベース・リフは、ノイズにまみれながらもそれぞれの存在感を身体性をともなって放っている。このあたりの音の分離や混沌と平穏のバランス感には、プロデューサーのKwes Darkoの手腕が一役買っているのだろうか(彼はダブステップ出身のプロデューサーで、スロウタイの全てのアルバムに関わっている)。
ライヴ映像を観てみると、「Egypt Tune」では長尺なインストゥルメンタル・セクションの中でリズムを崩したり余白を増やしたりなど、もともと展開の多い楽曲の中でさらにマスロック的で変則なアレンジを加えている。しかしアンサンブルは少しも揺らぐことなく進み続け、バンドの基礎体力の高さを伺わせる。BEST TRACKS OF THE MONTHでも指摘したような「僕と君」あるいは「いま、ここ」的リリックは、同種のバンドがそうであるようにかなぐり捨てるようなシャウトで吐かれる。そんな様子でありながら、ストイシズムゆえの息苦しさやエモーショナルゆえの暑苦しさはなく、むしろ彼らのそつのないアドリブやアイコンタクトからは爽やかささえ感じるのだ。
彼らの音楽には時折フガジやアンワウンド、アット・ザ・ドライヴインといった先達からの影響が覗くことがある(メンバー自身が作成したプレイリストでは、スロッビング・グリッスル、バソリー、ブラー、ニッキー・ミナージュなどジャンルを問わない幅広い嗜好を公開しており興味深い)。だがUNIVERSITYの音楽と類似性を指摘できそうなのは、どちらかと言えばロチェスターヒルズのドッグレッグ(Dogleg)や、ボストンのFiddleheadといった近年のバンドだ。つまり、エモポップもスクリーモも確立しきった後の世界で、改めて基本に立ち返り自身らの思うストレートな表現を試みてきたバンドたち。90〜2000年代のオリジナル世代と現行の若手バンド群との間にどのような違いがあるかはうまく指摘できないが、UNIVERSITYにはこうした2010年代末以降のポストハードコア〜エモの総決算的な感覚があるのだ。オソ・オソ、ドッグレッグ、ポートレイアル・オブ・ギルト、Fiddlehead、ターンスタイルといったバンドがぽつぽつと出現しては、それぞれ捨て鉢なパンクの良作を残している(インディー・ロック逆境とされる中で《Stereogum》と《BlooklynVegan》は彼らの作品を地道に正当に評価していた印象がある)。そうやっていくつもの伏線をばら撒いてきたUSアンダーグラウンド・シーンに対して、ふとUKで浮かび上がった結晶がUNIVERSITYだと言えようか。今のところはリスナーはUKおよびオランダ、ベルギーとヨーロッパが中心のようだが、アメリカでも広く聴かれてほしい。凛として時雨に端を発するポストハードコア寄りの2000年代オルタナの影響が、未だに暗く陰を落とし続ける日本でも聴かれてほしい。(髙橋翔哉)
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