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bar italia: The Twits

2023 / Matador / Beat
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《Matador》契約後のバー・イタリアにおける、懐かしさやポップネスなどについて

12 December 2023 | By Shoya Takahashi

バー・イタリアは進歩していない。2020年のファースト・アルバム『Quarrel』で、まるでスタジオでのサウンドテストを素材としたコラージュに、無理くり爆音のドラムを重ね録りしていたような、朴訥とした様は変わっていない。《Matador》契約後の前作『Tracey Denim』の《Pitchfork》評では、ザ・キュアーやスロウダイヴなどとのサウンドの近似性と、バー・イタリアのトリプル・ヴォーカルの独自性を挙げた上で、「無神経なレコードコレクター・ロック」として批判的な見解が示されていた。前作から半年を待たずにリリースされた新作『The Twits』は、47分間。先述の評にみられた安易な文脈化を避けるように、テイストにばらつきのある楽曲群をどさっと放り込んだような13曲は、雑多さや冗長さも感じられる。こうした雑多さは、バー・イタリアがファースト『Quarrel』とセカンド『Bedhead』(2021年)をリリースした《World Music》主宰、ディーン・ブラント周辺シーンや、ブラント自身のいくつかのプロジェクト(Babyfather、Bo Khat Eternal Troof Family Band)にも共通して言えるだろう。

一方で今回も、90年代インディーとの比較を誘発するように、いくつものエッセンスが散りばめられている。バー・イタリアは最近まで媒体にほぼ露出しておらず、さらにはNINA以外のメンバーは名前も明かされていなかったそう。そうしたかれらの打ち出す匿名性と、どこか既視感ある音楽が合わさると、SAULTやヴェイパーウェイヴ〜チルウェイヴとも通ずるような、“知っているのに知らない”ような、蠱惑的な魅力をまとうことをわたしたちは知っている。だけどバー・イタリアのレヴューで言及されるような数多のリファレンス(80年代~90年代インディー、ディーン・ブラントやMica Levi周辺アクト)を聴きあさってみても、わたしはかれらの魅力の正体を掴むことは決してできなかった。それどころか、かれらは歴史や文脈の海に、膨大な数の役者の群れの中に、さらにその正体をくらましてしまった。

これらの比較、検証によるアプローチは、かれらの音楽に踏み入るには最適でない。バー・イタリアの音楽は論理的に考えるには退屈で、感覚的に受け取るにはおもしろいからだ。とりわけ各々がシンガー/ソングライター/プロデューサーを務めるかれら3人のような、個人間の有機的な相互作用が顕著にあらわれるバンドの場合は、論理では語れない“魔力”のようなものが確かに宿ると思っている。

特に、シガレッツ・アフター・セックスやラナ・デル・レイの前例を見るように、気怠いムードや、80年代とか90年代といった敢えて時代と紐づいたプロダクションに、“普遍的ないい曲”が合わさった音楽は、これからもわたしたちの耳を離さないだろう。確かにプロダクションにはスラッカー・ロック〜ポストパンクらしい粗さが残りつつも、その奥から立ち上るメロディーラインのキャッチーさには、目をみはるものがある。かれらが作ろうとしているのはキャッチーな曲であり、“普遍的ないい曲”なのだ。不思議で実験的な印象のファースト・アルバム『Quarrel』を作っていたころに比べると、《Matador》移籍を通して、かれらは耳ざわりのいい音楽を作るようになった。だがそれはセルアウトなどではない。実は元々ポップな音楽性を志向していたが、機材や技術の関係でヘタウマになってしまっていただけ。というのが、バー・イタリアのキャリア変遷における「ポップ化」の謎ときである。

前置きのつもりだったが長くなってしまったため、最後に本作における個々の楽曲にも、いま一度向き合っておきたい。まず1曲目「my little tony」から。この楽曲の冒頭、ビッグマフ系と思われるファズ・ギターがかき鳴らされた瞬間、本作『The Twits』の主題は提出されてしまっている。前作との変化を、実は取り立てて指摘できない今作ではあるのだが、全体としてファズ・ギターやリヴァーブの多用など、シューゲイザーへの接近がみてとれる。なにしろタイトルからして“my little tony”である。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインへの引っ掛けがあるかは微妙なところだが、揺らぎや不協和音のあるギターに、ブレイクビーツ感も聴き取れるドラムは、このアルバムのドラッギーで刹那的なオープニングを飾っている。

2曲目「Real house wibes (desperate house vibes)」は引き続き歪んだギターにリヴァーブ処理が印象的だが、どこか金属的な響きにも聴こえるこのギターは、バー・イタリアのキャリアを振り返っても前例がない。そのあたりは、Marta Salogniがミキシングを前作に引き続いて務めたことによる、バンドとの関係性のほぐれなどの影響があるのだろうか。5曲目「calm down with me」は、2000年代レディオヘッドを思わせるオルタナティヴ・ロック。Sam FentonとNINAのふたりがバトンを回すように歌う抒情的なメロディーは、かれらの代名詞とも言えるものだ。

こうして最終曲「bibs」に至るまで、各々の鼻唄を乗り継いでいくように、人懐っこいメロディーはSam Fenton、NINA、そしてJezmi Tarikによってリレーされていく。本作のレコーディングは、前作『Tracey Denim』のリリースより前に、スペインのマヨルカ島にあるホームスタジオで完了していたとのこと。それくらいのラフさで、仲間内で缶詰になって、自分たちのやりたい音楽をやる。結果として特に前作は成功を収めた印象があるが、それに左右されないどこか浮世を離れたようなかれらのアティチュードは、活動初期から一貫している。そんなところにわたしのようなリスナーは、またどうにも惹かれてしまうのである。(髙橋翔哉)

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