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なるぎれ: Nerds Ruined Girls Legislation

2024 / なるぎれ
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夏の日、残像

17 December 2024 | By Yasuyuki Ono

思わず唸った。ローファイ・サーフ、90’sエモ・リバイバル、アンダーグラウンド/DIYパンク、ベッドルーム・ポップといった、この10年における“インディー”の幸福な瞬間をかっさらい、00年代に国内で展開したオルタナティヴ/ギター・ロックへと接続したような、この“なるぎれ”なるバンドの大胆かつ甘美なサウンドは激しく心を動かした。

2021年に東北大学の軽音楽部にて結成されたという4人組バンド、“なるぎれ”はこれまでに1枚のEPをリリースしており、本作がファースト・フル・アルバムとなる。薄氷のようなクリーン・トーン・ギターと、ザクザクと刻まれる歪んだギターが絡み合うアルバム・オープナー「インストール」、叫び声を上げながら縦横無尽に動き回るギター・ワークが印象的なタイトル・ナンバー「NRGL」が放つジュヴナイルな空気感がこのバンドの大きな特徴だろう。《KiliKiliVilla》や《I Hate Smoke Records》が先導した10年代DIYパンクの衝動を引き継いだようなファスト・パンク・チューン「retal」も出色。そのうえで、バンド・サウンドよりも遠方に配置されたヴォーカル録音も非常に印象的で、作品全体を通した淡い世界観はその薄く、なびくような歌声によって担保されている部分も大きい。

アルバム・コンセプトは「深夜アニメの第一話」ということで、バンドがルーツとしても挙げる『FLCL』の影響もあるのだろうけれど、アマチュアリズムを感じるヘタウマなアニメ・アートワークは、BUMP OF CHICKENの大衆化を助けた00年代インターネット・カルチャーの大きな要素でもあるFLASHアニメの雰囲気を醸す。さらに、アルバムには収録されていないが、ヴォーカルにボーカロイド、蒼姫ラピスを迎えた「Never Knows Best」のMVがニコニコ動画で多くのリスナーを集めているように、自らのボカロPへのリスペクトも忘れていない。なるぎれの音楽の背景にある、アニメ〜インターネット・カルチャー〜インディー/バンド・ミュージックがフラットに並び互いに影響を与え合う光景は極めて現代的だ。インターネットが急速に普及し、可能性と危うさが混在していた00年代のインターネット空間に充満していた空気感を引き継いでいるのだとも思う。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONが「ソラニン」もしくは「転がる岩、君に朝が降る」で、どこまでも続く停滞した日常を、体にしみ込んだ諦念と僅かな、本当に僅かな希望とともに、咽び泣くようなオルタナティヴ・ギターに乗せて歌った時代から、もう長い時間が経った。バブル崩壊以降、行く先の見えないデフレと経済不況の中で若者たちがたどり着いた郊外生活の憂鬱と諦めかけた夢のかけらを救いあげたそれらの歌と比べ、なるぎれの歌は未来を信じているように聴こえる。僅かかもしれないけれど。そこに優劣があるわけでない。ただ、若草のように萌え、瑞々しく光を反射するエレクトリック・ギターの煌めきと、沈思するメランコリックなメロディーの重なりから生まれるロック・ミュージックにある希望と未来の感覚を、今は無条件に肯定し、信じたい。(尾野泰幸)

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