Review

Helena Deland: Goodnight Summerland

2023 / Chivi Chivi
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言語が途切れたところから音楽が始まる
──ヘレナ・デランドが生む雄弁な気配

19 November 2023 | By Kenji Komai

同じモントリオールのメン・アイ・トラストにフィーチャーされ本格的な音源デビューを果たし、「Free The Frail」(2019年)で共演したJPEGMAFIAからは「天才だ」と絶賛を受け、今年に入ってからもクレア・ラウジー(claire rousay)とのシングル「Deceiver」「Sigh In My Ear」を立て続けに発表。Ouriとのプロジェクト、Hildegardではエクスペリメンタルなエレクトロニック・トラックと戯れる──ヘレナ・デランドは、引く手あまたのコラボレーターとしてだけでなく、2020年のファースト・アルバム『Someone New』により、ソロ・アーティストとしての評価も確固たるものにした。



セカンド・アルバム『Goodnight Summerland』の楽曲の多くは、母親のマリアが2021年の夏に亡くなったことを契機に書かれ、Ouriが手掛けた先行シングル「Swimmer」を除き、シンガー・ソングライター/プロデューサーのサム・エヴィアン(Sam Evian)とともにニューヨークのキャッツキルにある《Flying Cloud Recordings》にてレコーディングが行われている。ビック・シーフ『Dragon New Warm Mountain I Believe In You』(2022年)の録音が行われたことで知名度を上げたスタジオだが、デランドは『Someone New』制作時にビッグ・シーフ『U.F.O.F.』(2019年)に触発されたことを告白しており、その流れによる選択であったことは想像に難くない。ミニマルな楽器の鳴りを求めた彼女の要望に応え、弾き語り、あるいはバンド・メンバーであるギターのアレクサンドル・ラリン(Alexandre Larin)、ドラムのフランシス・ルドゥ(Francis Ledoux)らを迎えてのセッションは豊かなメロディラインを的確にサポートしている。デランドのモダンなシンセ・ポップに内在していたフォークの要素を顕在化させた、エヴィアンとのコラボレーションの成果と言えるだろう。

アルバムのオープニングを飾るインストゥルメンタル「Moon Pith」と同じ旋律がエンディング「Strawberry Moon」で現れるアルバム全体を通して、喪失が根底にあるものの、メランコリーにのめりこんでない、不思議な客観性のようなものが漂っている。アップリフティングなグルーヴを持つ「Spring Bug」、ヴァシュティ・バニアンを思わせるブリティッシュ・トラッド「Bright Green Vibrant Gray」「Drawbridge」、ロマンティックな旋律とバンドのアンサンブルが溶け合う「The Animals」と、誰にも汚されていない澄み切った冬の朝のようなアトモスフィアが心地よい。

この社会で女性として男性の視線を受け生きることの不安を率直に明かした『Someone New』に対し、母親の死を受け入れていく過程で完成した今作において彼女は、想像上も含む自然に目を向ける(アルバム・タイトルにもなった両親が住んでいた地方都市サマーランドの記憶を彼女はほとんど持ち合わせていなかったという)。そして、「私の声なんてどうでもいい/何を言えばいいのか/必要なものを求めることができるかどうか/ただあなたと話したい」(「Who I Sound Like」)と、直接伝えたかったけれど伝えられなかったこんがらがった気持ちを隠さず、言いよどむことをためらわない。「言語が途切れたところから音楽が始まる」と彼女はプレスのなかで形容しているけれど、それは同時に言語の限界を知ることで、あらためてことばの可能性を確認したという意味も含まれているのではないだろうか。言葉を重ねた上で立ち上がってくるもうひとつの感情を信じること。シンプルだけど深みのあるプロダクションにより生み出された、雄弁な気配に耳を澄ませてもらいたいアルバムだ。(駒井憲嗣)




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