Review

DIIV: Frog In Boiling Water

2024 / fantasy
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私たちの日常と地続きの音楽

04 June 2024 | By Nana Yoshizawa

シューゲイザー・シーンは第4波に入っていると語るのはダイヴのフロントマン、ザカリー・コール・スミスだ。そして自分たちは第4波とは異なる文脈を追っていた、第3波のバンドだという自負がある。だからとは言わないが、ザカリーは今作の《Pitchfork》のレヴューについて、とある声明を出した。自身が薬物中毒を克服した今も、バンドや作品がそうした個人的な闇の側面で語られることへの抵抗だった。

2010年代のシューゲイザー・シーンで名の挙がるNYブルックリン出身のバンド、ダイヴ。陰鬱なディストーションの効いたギター・サウンド、ノイ!やカンの影響を感じさせるミニマルなアルペジオ、その反響はドリーム・ポップの陶酔をも含んでいる。そして、率直に感情を綴りながらもどこか不確かな歌詞。こうしたアンビバレントな作風は、ザカリーが影響を受けたカート・コバーンを重ねる瞬間でもある。いくつもの文脈を引き継ぎつつ、今作はこれまでで最も孤立を感じる。『Frog In Boiling Water』という比喩されたタイトルから、政治的な考えを表現した前作『Deceiver』(2019年)よりさらに踏み込んだアルバムなのだろうと思っていたが、ダイヴがこれほど民主主義に自覚的なバンドであることに、正直驚いた。

資本主義と進化するIT化に搾取される、アーティストの嘆きや怒りが伝わってくる「In Amber」で幕をあけ、いつのまにか開いた格差社会を日常から描写する「Brown Paper Bag」など歌詞を読んでいくと、アルバムを通して私たちの日常と何ら変わりのないことが書かれている。挑戦的なのは、歌詞だけではない。なかでも「Somber The Drums」の切迫するコード進行、プリミティヴなリズムは崩壊しかけたバンドの結束を見ているようで、今作のピークだと思う。続く「Little Birds」から「Soul-net」とプログレッシヴ・ロックを彷彿とさせるアルバムの統一された流れも、深淵に落ちるような感覚になった。今作は絶望や落胆を歌っているが、ギター・サウンドの隙間から一寸の光や祈りを感じさせる、エフェクターのかすかな揺らぎは健在だ。

ザカリーが《Pitchfork》に対して声明を出した冒頭の話に戻ると、私は様々な視点の音楽レヴューがあったほうがいいと思ってる。でも、作品に対するリスペクトを感じられないのは好きじゃない。パーソナリティと作品は切り離せないのがほとんどかもしれない。加えて、自分はまだ名の知られていない音楽ライターだともよくわかっている。だからって、思ってもないことは書けない。昨今は批評について考える機会が増えてきたし、同時にSNSを見て首を傾げることも増えた。こうだろうと同一視を訴えるポスト、ビュワー数を集めるために作られた言葉と消費スピード、粘着性のあるわりに脈絡のないアルゴリズムには違和感を感じている。とはいえ、いくらモヤモヤしても、消費のサイクルは勢いよく生まれ続ける。そして、自分はいつもの生活に戻っていく繰り返しだ。だからこそ現代の格差問題を取り上げ、弱者そしてアーティストが資本主義によって苦悩する現状を炙り出した、ダイヴの『Frog In Boiling Water』は意義ある記録だと感じずにはいられない。たしかに現代は暗いトンネルのなかにいて、闇を感じることばかりだ。それでも真っ直ぐな視点からサウンドを鳴らす作品が生まれてくることは、光でもあると思う。こうした作品を聴くたびに、音楽や人の持つ、潜在的な力を感じずにはいられないからだ。あくまで様々な解釈の一つを、ここに加えておこう。(吉澤奈々)

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