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The 1975: Being Funny In A Foreign Language

2022 / Dirty Hit
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The 1975の変わらない音楽性と共鳴する相愛性

23 December 2022 | By Nana Yoshizawa

ヴォーカルのマシュー・ヒーリーはデビュー・アルバム『The 1975』(2013年)を3つの単語で表すとしたら〈Apocalyptic〉〈Teenage〉〈Romance〉であると挙げている。そして、バンドがビッグになってからも、セルフタイトル・アルバムたるファーストを支える3つのキーワードはおそらく特別で変わらないはずだ。加えて、ビートニク文学、80年代風の音作りをソングライティングに乗せる特徴を持ち合わせている。 5作目『Being Funny In A Foreign Language』(邦題:外国語での言葉遊び)はThe 1975の音楽性が変わらないことを随所に感じ取れる作品かもしれない。

だが今作は、新しく50年代のロックやジャズのフィーリングを確かに織り交ぜている。

まずデビュー当時から一貫して変わらないのは〈Romance〉について綴られる歌詞だ。『The 1975』からドラッグに溺れる「Chocolate」は〈Apocalyptic〉そのものと言えるだろう。破滅的な若者のラブソングは、危ういほどストレートで聴くものに擬似的な共感を生んできた。今作で言えば、性に固執する男性を主人公にした「Looking For Somebody(To Love)」、過去の恋人に苦しい心境を伝える「Oh Caroline」など、無防備なまでに愛を欲している。過激な歌詞に見えるけれど、愛されたい欲望や哀しさが伝わってくるのだから不思議だ。そこへ80年代風のキャッチーなシンセ、カッティング・ギターに軸を置いたファンクなグルーヴが加わり、R&Bやソウル、ポップスへの共鳴を体現するのが彼らだ。

それでも「Looking For Somebody(To Love)」のクラップと発生するリズムは、スウィングに近いものを感じた。少しもたついて入るギターとシンセのリズムは跳ねているし、長い拍を特徴とするベースのレイドバックもスウィングの躍動を持っている。ほかにも、「Wintering」の乾いた軽快なドラム、歯切れよく連打するピアノから、ジャズの要素を思わずにはいられなかった。前作『Notes on a Conditional Form』(邦題:仮定形に関する注釈/2020年)について彼ら自身、“長くなりすぎた”と述べていることから今作は削ぎ落としつつ、表現の幅をソングライティングに求めたのが感じ取れる。ただ、混沌とした歌詞や多彩な楽器演奏をもって皮肉めいた表現をするのだから、なんともThe 1975らしい。

加えて、変化を感じたのはマシューの歌唱スタイルがフラットになったことだ。起伏のアップダウンは少なくなり、前作から「People」のような極端な表現も見当たらない。諦めにも似た歌声は穏やかで、ジャズシンガーを連想させた。歌声に伴って、これまでの打ち込みや電子音を用いた楽曲は少なくなったのだろうか。それとも、バイオリンなどの弦楽器を取り入れたことによる響きの相性だろうか。どちらを先に考えても、ストリングスの明瞭な響きと柔らかな歌声はメロウで心地いいものだ。甘く切ないヴォーカルが乗る「All I Need To Hear」、チェット・ベイカーのような脱力した歌声の「About You」まで、アルバムを通して一人のヴォーカリストはいい意味で円熟した印象を受ける。

自己内省をしがちなヴォーカリストは、SNSの炎上発言を歌詞になぞらえたり、LGBTQの権利を発信する。マシューの言動は、50年代の反抗的と揶揄される時代にブームを造り上げた〈Teenage〉と重なる部分も多いだろう。バンドが大きくなっても彼らの音楽性は変わらない軸を持ち、真実を歌詞へと反映させる。デビュー当時から変わらないThe 1975の姿勢だ。そしてスムーズに聴こえる今作の底には、多様性の交わる50年代のロック、ジャズの要素が流れている。The 1975の示し方からすれば何ら自然なはずだろう。(吉澤奈々)


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The 1975
『Notes on a Conditional Form』
http://turntokyo.com/reviews/the1975-notes-on-a-conditional-form/

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