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Ab-Soul: Herbert

2022 / Top Dawg Entertainment
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今度こそ、祝福を

21 February 2023 | By Sho Okuda

「Do Better」のミュージック・ビデオで、アブ・ソウルはビルの屋上から飛び降りた。これは2012年に交際していたAlori Johがコンプトンのラジオ塔から身を投げたことに由来する描写なのかと思いきや、Charlamagne Tha Godによるインタヴューで、なんと本人が50フィートの高さの高架交差路から飛び降りていたことが明かされた。彼自身は「自殺を試みた」という言い方を好まないが、ヴェイプに依存したことで(本人談)希死念慮を抱くようになり、その行動に至ったと振り返る。その経験をきっかけに、故Alori Johの置かれていた状況を初めて理解できた、とも彼は語る。

それだけ衝撃的なエピソードを知ると、その出来事が今回のアルバムにどう影響したか気になるというものだ。しかし、ひととおり聴いてみると、それは本作に影響を与えた重要な出来事でありこそすれ、太い幹の役割を果たしているようには感じられない。実際にソウル自身も、コンセプトやテーマなどなく制作に臨み、自らの声を楽器として使うことを意識したと話している。曰く、全てをコントロールしようとする代わりに、プロデューサーやエンジニアといった制作陣を信頼し、質問しながら制作を進めたのだとか。

そんな本作のリリックに着目していて気になる点の一つが、世代に関する言及が目立つことである。AOLダイヤル(彼は「ミレニアム世代には分かりっこない」と言うが、ミレニアム世代こそがAOLダイヤルをよく知る世代だ。まぁ、そこはご愛嬌)やCDプレイヤーがリリックに登場する。サウンド面では、ソウルが最もアクティヴだった2010年代前半を思わせるものが目立つ。例えば1曲目「MESSAGE IN A BOTTLE」におけるビートチェンジとエモーショナルなリリックはドレイク『Nothing Was The Same』(2013年)の「Tuscan Leather」あたりを想起させる。ソウルの最高傑作と名高いのが『Control System』(2012年)だが、同作収録の「Bohemian Grove」に似た空洞感のある「NO REPORT CARD」しかり、インタールード的な「A Rebellion」を思わせる「THE WILD SIDE」しかり、同時期に収録された未公開楽曲だと言われても納得してしまいそうな雰囲気をたたえている。

さて、先述のソウルが飛び降りた件に話を戻すと、自分が想像していた以上の人々が彼のもとに駆けつけてくれたことで、彼は自分がいかに恵まれているかに気づけたのだそうだ。また、「MESSAGE IN A BOTTLE」に収録されている祖母からのボイスメッセージについて尋ねられると、ケンドリック・ラマー「ELEMENT.」の“B*tch, all my grandmas dead”というリリックを引用しつつ「俺の祖母はまだ生きていることに感謝している」と話す。これらを踏まえると、ソウローは今回の制作の過程で、信頼するプロデューサーやエンジニアと言葉を交わすことで、あるいはリリックで自分の世代を象徴する物事に言及することで、またあるいはジェネイ・アイコやビッグ・ショーンやSiRといった同世代のアーティストと〈同窓会〉を開くことで、自らが歩んできた道を振り返りつつ整理し、持てるものを確認する作業をしていたのではないだろうか。そうした作業の中にあっては、「GANG’NEM」のアウトロに亡き親友=Doe Burgerの声が収められるのも、「FALLACY」のアウトロにソウルを称賛するSZAの声が収められるのも、必然だったのだろう。

そういった意味で最も今作らしいのが、これまた2010年代前半っぽさ(ウィズ・カリファ「Roll Up」あたりを思わせる電子音使い)のある「POSITIVE VIBES ONLY」なのではないか。正直なところ、巧みなワードプレイに定評のあるアブ・ソウルの口から、ポジティブで単純な言葉ばかりが並べられることに違和感を抱いてしまう自分がいる。前述のCharlamagne Tha Godとの対話を観て、自身の抱える問題を正確に把握できていないように見えるソウルを心配したファンもいるだろう。けれども、 “Fake it till you make it”(成功するまではそのフリをしろ)という言葉があるように、強がるのも時には悪くないのかもしれない。飛び降りて負傷した脚を引きずりながらも、彼は「これが自分の道」とばかりに、ラップで歩みを進めようとするだけの覚悟を有している(「GOTTA RAP」)。ならば、そんな彼に対して我々ファンがすべきことは「祝福」一択だ。そう、今の彼は、思い悩むには恵まれすぎている(too blessed to be so stressed)のだから。(奧田翔)


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