水が元の場所に戻ろうとするように、
本来の自分に戻るジャミーラ・ウッズの旅、
『Water Made Us』
ロング・インタヴュー
自由な詩の感性を見事に歌に融合させるシカゴ出身のシンガー・ソングライター、ジャミーラ・ウッズが、前作『LEGACY! LEGACY!』(2019年)から4年ぶり、3作目となるニュー・アルバム『Water Made Us』をリリースした。インタヴュー中も時折、こちらに向かって真っすぐ目を見ずに話すことがあり、その内向的な性格が伝わってくるジャミーラ。そんな彼女を180度変えてしまったのが、詩との出会いであり、詩や歌を人前で披露することで自分の「声」を手に入れ、自信を手に入れていったという。『Water Made Us』の中で、彼女はよりパーソナルな恋愛関係や人の愛し方、彼女の心の仕組みを世界と共有している。
自己愛や地元シカゴへの想い、豊かな少女時代、黒人としての抵抗を語ったデビュー作『HEAVN』(2017年)、彼女にインスピレーションを与えた有色人種の英雄たちを通して自身を語った『LEGACY! LEGASCY!』を経て、さらに詩人として、アーティストとして、そして女性として大きく成長したジャミーラが、「成長点」と呼ぶ『Water Made Us』で聴かせてくれる世界観に迫る。
(インタヴュー・文/塚田桂子)
Interview with Jamila Woods
──素晴らしいニュー・アルバム『Water Made Us』のリリース、おめでとうございます! そしてお誕生日、おめでとうございます!(彼女は10月3日生まれのてんびん座)わたしが今まであなたの音楽を聴いてきた中でも、特に『HEAVN』の「Holy」には、まさに命を救われた思いです。特に「わたしは自分であるだけで神聖な存在~今朝、自分を愛する心構えで目を覚ました」のところとか。だからまず、この曲を作ってくれたことにお礼を言いたかったんです。ありがとう! 「Holy」は意識的に人の精神を高めたい、力づけたいという想いで作ったのですか? それとも、純粋にあなのた自己愛を表現した結果なのでしょうか?
Jamila Woods(以下、J):とても優しい言葉を、ありがとう。あの曲はとても辛い別れを経験した後に書いたのを覚えてる。歌っていていい気分になれる曲、気持ちが上がる曲を書こうと思っていたの。そういう意味で、あの曲はまさに自分のために実用的な理由で書いた曲。でも素晴らしい詩のメンター(指導者)が、いつもライティングについてこう教えてくれたの。自分についてより具体的に書けば書くほど、人の心に共鳴するものだって。だからわたしはいつも、その法則に従って書くようにしている。
──詩人としてのバックグラウンドは、あなたの音楽に非常に力強いインパクトを与えていますよね。あなたのリリックはとても詩的で、まるで川のように流れているというか。詩はいつ、どのように始めたのですか?
J:高校生の時にブログで詩を書き始めたの。シカゴにある放課後の講習を受けていたんだけど、アートをやることで報酬を払ってくれる上に、指導もしてくれる初心者プログラムっていうのがあって。そこで分かったの、わたしは詩を書くだけじゃなくて、パフォーマンスすることが大好きなんだって。そこにはオープンマイク(筆者注:詩、歌、ラップ、コメディ、楽器演奏などのパフォーマンスを披露するイベント)があったから。わたしは高校時代、周りの人たちより物静かで内向的な性格だったから、まわりの環境をあまり心地よく感じていなかった。でも詩をパフォーマンスする空間では、わたしの声はとても力強いものなんだと実感した。わたしが詩を朗読すると、みんな静まり返ってわたしの一語一句にじっと耳を傾けている。とてもいい気分だったわ。わたしにとって、とても自然なコミュニケーション方法だと感じた。それ以来ずっと、詩を優先させてきた。大学を選ぶときも、その街にオープンマイクがあるかどうかを調べたくらい(笑)。だから詩は、わたしがアーティストとして進む道に確実に大きなインパクトを与えたわ。
──教会の聖歌隊で歌っていた頃から、詩を人前で朗読し始め、ミュージシャンになるまで、どのような移り変わりがありましたか?
J:聖歌隊と詩は同時進行でやっていたんだけど、詩を書くことで自分の声に自信が持てるようになったの。聖歌隊ではソロはほどんとなくて、バックコーラスの人だったから(笑)。自分のために曲を書くようになってからは、自分の声を他の人たちの声と比べなくなって、わたしは力不足だとは感じなくなった。自分のために自分で書いた曲を歌うには完璧な声だと思えるようになった。だから詩は、シンガーとしての自分の声に自信を与えてくれた。その後大学に行って、アカペラ・グループやカヴァー・バンドで、もっと詩と歌に力を入れるようになったの。
大学で出会ったある友達が、卒業した時に東海岸から車でシカゴのわたしの家に立ち寄って、「俺とバンドやらないか? やらないんなら、このままLAまで運転し続けるから」って言うから、「うん、いいよ、一緒にバンドやろう!」って答えたの。そんな風にわたしたちはバンドを始めて、2枚アルバムを作った。最終的に彼はLAに引っ越してしまったんだけど、「まだこれからも続けたい!」と思って作ったのが、『HEAVN』だった。
──中西部出身のアーティストやプロデューサーの中には、LAかNYのいずれかに引っ越した人が結構多い印象があります。でもあなたは、今も故郷のシカゴに住み続けていますよね。『HEAVN』の中でも、シカゴで過ごした子供時代や経験について描かれています。あなたにとってシカゴとは?
J:シカゴはわたしの心の故郷であり、家族が住むところ。だからいろんな意味で、わたしのインスピレーションのルーツなんだと思う。家族やわたしの血筋について考えたり、わたしの性格や、住民のほとんどがマイノリティであるサイスサイド・シカゴで育ったことについて考えたり。ほんの少し外部から見てみるというか、そこに属していない者の視点で見てみる方法も、わたしの世界観にインパクトを与えた。多くのアーティストや、特にジェームズ・ボールドウィン(小説家、劇作家、公民権運動家)のような人は、そういう経験をしてきている。物事について明瞭に書くために、第三者の視点を持っていたの。だからシカゴは、いろんな意味でわたしにインパクトを与えてきたし、多くのコラボレイターを紹介してくれたところでもある。わたしの3枚のアルバムだけでなく、その前からコラボしてきたピーター・コットンテールやニコ・シーガル、サバのような人たちをね。そんなとても創造的な人たちがいるコミュニティがある街にいれることに、感謝しているわ。
──あなたや、ノーネーム、前述のサバ、スミノ、ミック・ジェンキンズ、チャンス・ザ・ラッパー、オープン・マイク・イーグルのようなシカゴに所縁のあるアーティストには、詩に傾倒してきた背景がありますよね。シカゴのポエトリーリーディングやオープンマイクのコミュニティはどんな雰囲気なのか、教えていただけますか?
J:ティーンエイジャーの頃に行っていたところは、専門分野の垣根を超えた人たちというか、多くの異なる分野に関わっている人たちが多かった。彼らは詩人なんだけど、ビートメイカーでもあったり。ビートをプレイしたり、踊ったり、歌ったり。シカゴでは通常、バーで詩を朗読したりパフォーマンスをする多くのイベントには、21歳以上じゃないと参加できないの。だからわたしが行っていたオープンマイクは、高校生や、高校生以上21歳未満の人たちが多くて、異なる創造的エネルギーのるつぼのような、とってもクールなところだった。わたしはそこで詩を朗読することもあれば、バンドと一緒に歌を歌うこともあったし、他のアーティストにインスピレーションを受けたり、他の人を見て、「すっごいクール!自分もやってみたい!」というモチベーションやアイディアをもらえるところが、わたしにとって素晴らしい体験だった。
──あなたはヤング・シカゴ・オーサーズ(シカゴでアート、教育、メンターシップ[助言・指導]を通して若者たちの声を高めていく組織)で、指導者、教育者としても務めてきました。最近のインタヴューで、いずれ若いアーティストを育てるレコード会社やワークショップを開きたいとコメントされていましたよね。音楽のキャリアに加えて、若い人たちを指導し続けること、地元に奉仕することは、なぜあなたにとって重要なのでしょうか?
J:わたしにとって非常に重要なことだと感じてる。わたしは人生を通して、生徒やメンター(助言者)の指導を受けている人たちと、メンターシップの関係を持ち続けていきたい。それはレコード会社を通してかもしれないし、施設や組織を通してかもしれないけれど、そこに来る人たちにとって、とても役立つ場所にしたい。わたし自身、そういう関係で常に非常に多くのことを学んできたし、単にわたしが物事を教えたり共有したりっていう一方通行じゃなくて、わたしが幸運にもメンターをさせてもらってる人たちと常に相互交流できる、相利共生的な関係だと感じてるわ。
──新作の話題に移りましょうか。あなたはこのアルバムに『Water Made Us』というタイトルを付けています。トニ・モリスンはかつて、「すべての水は完璧な記憶を持っていて、絶えず元の場所に戻ろうとしている。ライターもそういうもの」と発言していて、あなたは本作の「Good News」という曲の中で、「よい知らせは、水は絶えず元の場所に流れて戻る/よい知らせは、水がわたしたちを作っている」と語っています。『Water Made Us』は、トニ・モリスンの言葉に影響を受けたアイディアなのでしょうか?
J:わたしの頭の中では、常にものすごい数のトニ・モリスンの作品が流れているの。意識的にいつも彼女のことを考えているわけじゃないんだけど、そのリリックを書いた後に振り返ってみたら、「ああ、彼女のあのアイディアを参照してたんだ!」って気づいた。ライターっていうのは、自分たちの記憶や経験をさかのぼって、そこに知恵や意味を見いだそうとする。そう考えたときに、このアルバムを制作するプロセス全体で……このアルバムでは恋愛関係や、わたしの人の愛し方、わたしの心の仕組みについてじっくり考えているんだけど……そこに意味を生み出して、言葉で表そうとしていたんだと思う。
──個人的に「Good News」という曲は、「恋愛でどんなに傷ついたとしても、人は本来の自分を覚えているから、最終的には本来の自分、本当の自己に戻ることができるし、きっと大丈夫」という感じかなと解釈しました。あなたの言葉で、この曲の意味合いについて語っていただけますか?
J:まさにそうなの! 今まで聞いた中でそれがベストな解釈よ!(笑)以前読んだ何かの文献について考えていたんだけど、人はみな赤ちゃんとして生まれたときに、自分に対する充足感、幸福感があって、人生や自分に満足している。「ああ、自分の鳴き声は周りにどう聞こえてるんだろう!?」って、自分の鳴き声に不安を感じて生まれてはこないでしょう?(笑)ただ、幸福で。水が元の場所に戻ろうとするように、わたしたちが人生でどんなにもがき苦しみ、トラウマを経験しようとも、コントロールしよう、そこからくる感情を抑えようする気持ちを解放すれば、道は開ける。少なくともわたしは自分の経験を通して、抗わず身をまかせることで、より本来の自分、本当の自己に戻ることができると感じている。自分はまったく成長してないってことじゃなくて、常に自分の根っこにあるコアの部分に戻れるってことね。そのアイディアにはとっても力づけられるし、心が落ち着くの。だからこの曲では、マントラ(無意識に何度も口にする信念)のようにこのアイディアを自分に思い出させたかった。
──『Water Made Us』のアルバム・カヴァーの写真を撮影するために、あなたはシカゴで1週間半集中的に、深い水に潜る授業を受けたそうですね。どんな体験でしたか?
J:授業は素晴らしかったわ。とある先生のプライヴェート・レッスンがメインだったんだけど、もうすごく熱心な人で(笑)。「わたしはただ、水の中に入りたいだけなんだけど……」って説明しても、彼女は「OK!準備はわたしたちに任せて!!!」って感じですごく献身的で、さらに水深の深いところに入るグループクラスを受けるための資格を与えてくれた。授業では深い水に飛び込むんだけど、わたしには子供の頃にプールで受けたトラウマがいっぱいあって。プール・パーティで泳げないわたしを救命士が救ってくれなかったりとかね。だからものすごく怖かったんだけど、飛び込んだ後には勝利の喜びを感じたわ。だから撮影の頃までには十分自信が持てるようになっていたの、撮影は授業で入った水ほど深くはなかったから。撮影自体は、自分の体とうまく調和できていると感じた。アルバムが物語っているように、感情に身をまかせるというレッスンもあったから、水の中で肉体的にそう感じることができた。あまり激しく動き回ろうとすると速度を落とせないけれど、リラックスすれば大分楽に水がわたしを支えてくれる。このアルバムでも同じように感じることができた。わたしには、できるだけ多くの曲を書いて絞り込もう、っていう大きな計画があったの。結局はそうはいかなかったんだけど、予想していなかった他のやり方でうまくいったの。
Album Cover──この世には無数のラヴ・ソングが存在して、惚れた腫れた、愛してる、恋しい、大嫌い、などという言葉が溢れています。でもあなたはこのアルバムで、いろんなアングルや視点を通して、愛や恋愛関係におけるさまざまな表現を見せてくれました。あなたは、自身の感情や視点を、とても複雑、かつ美しい手法で言葉に表しています。制作パートナー(共同エグゼクティヴ・プロデューサー)であるマクレニーと、どのような曲作りのプロセスを踏んだのでしょうか?
J:そう言ってくれてありがとう。素晴らしいプロセスだったわ。マクレニーとわたしはとてもうまく連携して仕事ができるの。ふたりともチャート上ではおとめ座エネルギーが多いから、とても細部に気を配るし、A地点からB地点にちゃんと辿り着きたい質で(笑)。だからふたりでアルバムを作るプロセスに「これだ!」という瞬間が訪れたのは、わたしが記入したジャーナル(筆者注:ダイアリーが日々の出来事や体験を記す日記であるのに対し、ジャーナルは思考や見解、アイディアを記録する個人的で私的なノート)を持ち込んだときだった。
わたしが経験する恋愛関係の段階、誰かにすごく激しく熱を上げている始めのステージから、相手について気に入らない一面を見つけてしまったり、口論、別れに至るまで、わたしが経験するすべての事柄について、「君がそういうサイクルを体験してる感覚をリスナーに与えるアルバムを形作ったらどうだろう?」って彼が言ってくれたの。それがふたりで制作していく中で、どの曲を入れていくべきか決めるとてもいい指針になって、たくさんの異なるジャンルの曲や異なるサウンドの曲であっても、まとまりを持たせることができたの。
──ジャーナルっておっしゃいましたが、音楽制作に限らず、日々の生活を送る上で、ジャーナルを綴ることはあなたにとってどんな助けになっていますか?
J:わたしはジャーナルを綴ることが大好き。朝起きると真っ先にジャーナルを書くようにしているわ。ジュリア・キャメロンっていう著者の『The Artist’s Way』(邦題:『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』)っていう本があって、彼女は、紙の上で瞑想をするかのように、毎日「モーニングページ」を書きなさい、そうすることで頭の中の汚れをきれいにして、創造をする明確なチャネル(思考の筋道)が持てるようになる、と語っている。それはわたしにとって非常に重要な活動なの。また彼女は、書き終わったらその紙を捨てなさい、と言っている。わたしは捨てたことないけどね。自分の川を再びさかのぼって、わたしがどんなことを考えていたか、感じていたかを思い出したいし、自分がどれだけ成長したか、それとも成長してないか(笑)っていう気づきが欲しいから。だからジャーナルは、自分がいい気分であり続けるためにとても重要な要素なの。自分自身のためでもあるし、創造活動の一部でもあるから。
──わたしはこのインタヴューの前に、リリックをじっくり味わいながら、あなたの新作を聴き込んだのですが、その経験に思いがけずとても癒されたんですよね。おそらくそれは、あなたが自身のもろさ、弱さを、残忍なほど正直に共有してくれたから、そしてわたしたちの多くが共感できる内容だからじゃないかな、と思うんです。これらの曲を作るプロセスは、あなたにも何らかの癒しの効果を与えましたか?
J:もちろん! 間違いないわね。マクレニーがここにいたら、同じことを言うと思うわ(笑)。ふたりの会話の一部にもセラピー効果があったと思う。わたしたちはお互いに対してとてもオープンだから、お互いの恋愛関係でどんなことを経験しているのかを共有していたし。このアルバムの何曲かは何年も前に経験したことなんだけど、何度も書いてきたことでも、毎回違ったものができあがる。エネルギーや曲の波動が変わってくるの。「あんたなんか嫌い! あれは酷かったわ!」って叫ぶような曲もあったしね。っていうのも、アルバムを書くっていうことは、単にアルバムだけで終わらないのよ。アルバムがあって、ヴィデオがあって、ツアーもあるから、曲は自分の体に長い間生き続ける。だから振動の低い曲や、気分が悪くなる曲、いい気分になれないような曲には、一切自分の体の中に留まって欲しくなかった。だからわたしは意図的に、当初深く感じていた気持ちよりは、もう少し加工された感のある曲にしたかった。だから、OK、確かにこの人はわたしを傷つけたけど、じゃあ、わたしはどうしていたの? なぜその関係に留まったの? 何が興味深くて魅かれたの? 理由は? と問いかけてみたの。そういう風にすることで、自分の経験についてさらに深く振り返らせてくれたり、彼らに共感を持てる手段を与えてくれた。そうすることで気分がよくなれるし、より満ち足りた気持ちになり、より健全に感じられるから。
──「Tiny Garden」という曲のミュージック・ヴィデオであなたがダンスしたり自己表現する様子は、喜びで溢れていますよね! この曲であなたは、「氷山のような冷たい心、でも内面を見て」、「蝶や花火じゃなくて、小さな庭園になるの、わたしは毎日栄養(水)を与えていく」と歌っています。庭園と恋愛関係を繋げるというアイディアは、どのように思いついたのですか?
J:子供がいて離婚したばかりの人と付き合っていたことがあって、彼にとっては移行期だった。彼にこう言ったのを覚えてる。「わたしはあなたを愛していて、あなたはわたしを愛していてるのは分かってる。でも、今はこの愛を植える場所がない、植える土がない」って。さっきそのことについて振り返っていたの。この曲を書く前に、わたしは普段の会話でそのメタファー(隠喩)をよく使っていたから。わたしにとってはごく自然なメタファーなんだと思う。っていうのも、愛っていうのは大半は自分で選択できるものでしょう、何かに積極的に水を与えることを選んだり。わたしが今まで付き合ってきた人たちの多くは、「こーんなに君のことを愛してる!(と言って、両手を大きく広げて見せる)、花火のようにビッグに君を愛してる、君のことこーんなに愛してる(大きな♥の絵文字)。君はどうなの!? 分からないよ」って言うの。わたしは、「あなたのことを深く愛してる。でも表現の仕方が違うの。それはテキスト(携帯メール)の返事に表れるし、あなたの電話にはいつも出ることもそう」って応える。だからわたしはそれを伝える言語を見つけて、コミュニケーションを取りたかった。わたしが自分を愛する方法とは違うから、あの人はわたしを愛してない、って思ってしまうのは簡単だけど、だからって彼らはわたしを愛してないわけじゃない。愛っていうのは、そういう異なる言語やアプローチを理解することでもあると思う。
──あなたは「let the cards fall」で、カードで占う詩人のカリスタ・フランクリンに向かって、「どうやったら自分を信じられるのか、どんな時に恋愛関係に留まるべきか、努力し続けるべきか……それとも留まるべきじゃない、うまくいってない時にどうやったら手放せるかを知りたい……」と伝えています。すごくリアルで、胸に響きました。恋愛をしていれば、誰もが自分に問いかける質問ですよね。自身の弱さ、もろさを世界にさらけ出すって、どんな気持ちなんでしょうか?
J:3月にアルバムを(レーベルに)提出したとき、間違いなくパニクった瞬間があったわ。「うわー……わたし何をしでかしちゃったの?」って感じで(笑)。でもそれ以来、リスニング・セッションで小人数の人たちに共有する機会があった。特に資格を与えてもらわずに自分自身にすごく正直になるって、何かとても強力なことだと思う。あなたが最初に触れた「Holy」にしたって、わたしにとってはとても個人的な曲で、きっとまた違った表現方法での弱さ、もろさなんだと思う。『LEGACY! LEGACY!』の「EARTHA」や「FRIDA」、「SONIA」にしたって、わたしの過去の恋愛関係や、わたしが経験してきたことについての歌なんだけど、それほど自伝的な内容としては構成されてなくて、むしろ彼女たちの作品にインスピレーションを受けた内容で、とても個人的ではあるんだけど、盾で守られているというか。でも『Water Made Us』にはそれが一切なくて、わたしが一人称で語っている。わたしにとってこのアルバムは、構成を考えたりせずに、こういうストーリーを語れるようになる成長点なんだと感じてる。
──あなたは「Send A Dove」で、ニッキ・ジョヴァンニ(詩人、作家、活動家、教育者)とジェイムズ・ボールドウィンの会話「The very least of you」からサンプリングしています。そこでニッキは、「一体、なんでわたしが真実を気にしなくちゃいけないのよ? あなたがそこにいることが大事なの」、「ごまかしてよ」と言い、あなたはこの曲で「それでもわたしに嘘をついて」と言います。あなたにとって、恋愛関係における真実と嘘は何を象徴しているのでしょうか。
J:ニッキ・ジョヴァンニの定義の仕方には衝撃を受けたわ。わたしのセラピストも似たようなことを言っていたと思う。自分のパートナーに対する、友達に対してでもいいんだけど、振る舞い方について。あなたに嫌なことがあったとして、その嫌な一日を持ち込んで相手に投げつけるとする。でも代わりに、まずジャーナルを書いたり(笑)、ジャーナルを書く時間がなければ、「ねえ、夕飯美味しそうだね」って言ってみたり。それは必ずしも嘘ではないんだけど、頭で考えてることをすべて言わない、っていう。その考えは加工されてないから、相手にとっていい気分にはなれないものかもしれないから。恋愛関係にある人なら誰もが取り組むべきことは、どれだけ自分自身をなだめるかに対して、どれだけ相手に頼るかってこと。あなたが体験している辛いことを共有するのが悪いってわけじゃないんだけど、他の人だって何か辛いことを体験しているかもしれないと意識すること。お互いへの話し方を気にかけましょう、ってこと。
「Sending a Dove」っていうのは、「洪水がやってきたけれど、神が鳩を送ってくれたから洪水が止まる」っていう、聖書の物語(ノアの方舟)を参照しているの。だから、「わたしに洪水を起こさないで(あなたの感情で溢れさせないで)」(笑)、「ここに留まりましょう」、「より乾いた土地で、お互いに話せる場所を探しましょう」、っていう発想なの。
──「Wreckage Room」は、わたしがどれだけこのアルバムが好きか、あらためて気づかせてくれる曲のひとつです。あなたはこの曲でリスナーを、いうなれば水の中、無意識の世界のような、どこか深いところへ誘います。それにこのピアノがもう、深い! そしてコントロールの効かないものについて語っています。時間が心の傷を癒してくれることは誰もが知るところだと思いますが、その真っただ中にいる者にとっては、行き詰まりを感じてしまうものですよね。この曲について、説明していただけますか?
J:ええ、あなたのその説明の仕方がとても好き。っていうのも、自分が見た夢の中から、曲にしたいものについてジャーナルを書いていたから。確か、「別れの下に潜む空間」か、「深い悲しみの下にある空間」、とかっていう題名だったと思うんだけど、わたしはとても悲しいときに、自分の中の地下室に向かうの。自分を再び取り戻すためのプロセスのようなもので。それについて書こうと思っていた曲があって、あるプロデューサーに相談したの、わたしは哀悼歌を書きたいって。葬送歌みたいなものね。自分の内面にある空間に向かうように、深い哀しみを感じたかった。そう、だからこの曲は時間について多く語っているし、癒しを循環させる感覚を象徴したくて、繰り返しているリリックも多い。完全に癒されたわけじゃないんだけど、別れを迎える度に、たとえ少しずつでも、よりうまく癒していけるようにという希望を持って。
それから最後のリリックは、以前受けた「心の整理」に関するワークショップにインスピレーションを受けたの。相手に対して必ずしも心の整理はできないけれど、何が起こったかというストーリーを語ることによって、自分に対して心の整理をすることはできる。いつも、「ああ、とても特別な時間を過ごした、あの一番大切な人を失ってしまった」と語る必要はなくて、同じストーリーでも、いろんな語り方がある。そして自分には常にその力がある。
──「I Miss All My Exes」で、あなたはすべての元カレが恋しいと語っています。一見ネガティヴになりがちなことを、こんなに素敵に追憶しているのを、正直あまり聴いたことがありません。最後にあなたは、「どうしてわたしは、いつも必要以上に(恋愛関係に)長く留まってしまうんだろう、わたしは彼らのうち誰からも去ったことはない。本当に。“どこか新しいところに行っただけ”」と語っています。正直、驚きました。この視点について、詳しく述べていただけませんか?
J:ありがとう。友達のひとりと、「昔の恋人がみな恋しい」っていうアイディアについて話していたら、その友達が、「わたしの昔の恋人、みーんな恋しい!」って叫んだの。びっくりしたわ。そしてすぐにこの詩を書きたい! と思ったの。ひとつには、このアルバムに「Still」という曲があるから。ある昔の恋人に関する、いつまでも消えない記憶にある種のフラストレーションを感じているという内容で。その一方で、わたしはまさに昔の恋人を全員恋しいと感じてる。まあ、ひとりを抜かしてね。彼らのポジティヴで懐かしい記憶が残っている。傷ついた心が癒えて十分な空間と距離ができると、彼らがわたしに与えてくれたもの、一緒に過ごした時間に感謝できるようになるし、その記憶はわたしの中に残っている。とりとめのない事柄でいつも特定の人を思い出す。それにはあまりフラストレーションは感じないどころか、そういうレヴェルでお互いにインパクトを与え合えるってことが、とても心地よくて。相手側も同じように心地よく感じてくれてたらいいなと思うけど(苦笑)。心地よさではないとしても、それがお互いにインパクトを与えたという証拠だから。
──楽しくてとても魅力的な「Boomerang」のミュージック・ヴィデオを観ていると、あなたが今まで見せたことのないような、あなたの新しい一面を見せてくれているような気がします。このヴィデオの制作は、あなたにとってどんな経験になりましたか?
J:わたしの友達で、よくコラボする《VAM STUDIO》のヴィンスとジョーダンが考え出したヴィデオなの。わたしたちはファーサイドの「Drop」という、すべての映像が逆回転で流れるヴィデオにインスピレーションを受けて、「“アレ”がやりたい!」ってことになって。振付、バーレスク(風刺劇)、テーマを用意して、マジック・ショウをやるシカゴのマジック・ラウンジで撮影したんだけど、とてもクールな設定だったわ。でもリリックを聴いて完全に逆さに覚えて、振り付けを学んで逆さに覚えるという過程があった。だから肉体的にも精神的にも挑戦的なプロセスだったの(笑)。あなたが言っていたように、わたしの異なる面、いたずら好きで陽気な、官能的な面を引き出してくれた。わたしはバーレスク(風刺劇)が大好き。ポーチョップ(Po’Chop)というバーレスク・アーティストがいて、わたしの友達であり、振り付けコーチなんだけど、この撮影を通して体に身に付いたことを大いに楽しんだ。「Tiny Garden」でやったダンスも楽しんだわ。わたしのゴールのひとつは、このアルバムで撮影したヴィデオを、もっと自分の体に身に付けること。だからこのヴィデオもとてもいい訓練になったわ。
──あなたのブラウン大学時代の親友で、詩人、作家のファティーマ・アスガル(Fatimah Asghar)が「the best thing」で語っている言葉は、非常に深いですよね。彼女はあなたに、「確かにあなたは今、悲しい。でもさ、これって実は最高の出来事かもしれないんだよ? この状況を切り抜けるまでは分からないかもしれないけどさ」と。でもね、その真っただ中にいる人にとってみれば、そんなの受け入れられないアドバイスでもありますよね。なぜ、このアルバムに彼女の言葉を入れたかったのでしょうか?
J:そう、ファティ。わたしは本当にひどい別れを経験したばかりで、ファティはスーツケースの荷造りをしていて、バックでスーツケースのジッパーを閉める音が聞こえる。彼女はもう行かなくちゃいけなかったんだけど、わたしの気持ちを楽にしたくて、とてもやさしい言葉をかけてくれた。わたしはこう言ったの。「あなたの言葉を録音してもいい? あなたはもう行かなくちゃいけないし、あなたの言葉をまた後で聞きたいから。だって今のわたしは悲しすぎて、理解しきれないから。でもこれをまた聞く必要があるのは分かってる」、ってね。そして彼女の言葉を録音したの。まさにあなたが言ったように、その瞬間は聞くのが辛いかもしれないけれど、今振り返ってみれば、真実だった。だからとても力強いリマインダー(思い出させるための物・人)だと思うし、アルバムを編集したりミックスしながら聴いていたら、わたしの人生で常に起こっている、また異なる状況にも当てはめることができると気づいたの。だからその知恵にとても感謝しているわ。
──あなたは「Headfirst」で愛や恋愛関係について語っているのだと思いますが、究極の自己愛ソングでもありますよね、わたしの間違いでなければ。
J:そうなの!
──あなたは、「うまくいく人に出会うよ、と言う人がいれば、向こう見ずなほどに自分を愛すべきだ、と言う人もいる」と歌っています。わたしもこの年になっても、正直、自分を愛するって難しいと感じることがあるし、しかもあなたは、「“向こう見ずなほどに”自分を愛すべきだ」、と。あなたにとって、自己愛がいかに重要か、共有していただけますか?
J:ええ。わたしにとって自分を愛することは、とても重要なこと。わたしが相手とどう関わっているかの、いい測定基準になる。この曲では嫉妬について、それがどう芽を出すかについて話している。それはもっと自分に愛を注ぎ込まなければならないという信号なんだと思うの。だから「Headfirst」は、アルバムで起こっているあらゆることと、これから始まる何か新しいことの頂点なんだと思う。この曲を書いていたときに、あらゆるレトリック(美辞麗句)を耳にした。「他の誰かを愛する前に、まずは自分を愛しなさい」とか、「運命のひと、ソウルメイトを見つけることが大事」とか、「絶対に存在するから、“その人”を探しなさい」とかね。これらの話しがこんなに矛盾していると、どれか一方だけが正しいと思ってしまう。でもそれは違う。常に両方か、またはそれ以上だから。だからわたしは、正しい答えなんてない、いかに自分が感じていることに耳を傾けるか、いかに自分にとって相応しいと感じることに一瞬一瞬耳を傾けられるか、ってことを伝えようとしていたの。自分に耳を傾けられる唯一の方法は、自分との時間を過ごすこと。自分との時間を過ごすこと、自分の内なる知恵や内なる思考、感情に耳を傾ける時間を作ることは、自己愛の現れだと思う。
──江本勝(えもと・まさる)という日本人が出版した、『The Message from Water: Love Thyself』(邦題:『水からの伝言 v.3 自分を愛するということ』)っていう本を知ってますか?
J:聞いたことないわね。
──彼は水に、愛、平和、戦争、ヘイトなどのいろんな言葉を見せて、それを凍らせて写真を撮るという、幅広い実験を行ったんです。
J:あああ、そのアイディア聞いたことあるわ! その本は知らないけど。読まなくちゃ!
──ポジティヴな言葉を見せた水は美しい結晶になり、ネガティヴな言葉を見せた水は悲しそうな変な結晶になったんですね。そうやって彼は、水にも確実に意識があることを証明したんです。あなたの『Water Made Us』と彼の『The Message from Water』の、興味深い類似性に好奇心をそそられたんですよね。だって人間の体って70%は水でできているでしょ? この比較についてどう思いますか?
J:えー、気に入ったわ! ハマっちゃった! もっと学びたい! わたしが出会ったとある星占い師が言っていたんだけど、ベッドの横にコップ1杯の水を置いて、質問や、わたしが苦労していたことについてとか、夢の中で見つけたいことを聞けば、先祖が夢の中で答えてくれるんだって。しばらく試してみたんだけど、とても力強い体験だった。だから水に意識があるというのは、まったく同意見よ。
──あなたは2007年に教会の聖歌隊と一緒に、そして2018年に『HEAVN』のツアーで日本を訪れてパフォーマンスをしていますよね。日本での体験はどうでしたか?
J:素晴らしかったわ、両方とも。最近訪れたときは、コンサート会場で、とてもよく世話をしてもらったことを覚えてる。暖かい料理をいただく前に手を拭くための暖かいタオルを手渡されたり、会場の美しく飾られたトイレとか……バンドのみんなと「わたしたち、どこにいるんだ?!」って感じで、アーティストが王や女王のように扱われる惑星に来たような気分で、素晴らしかったわ。
オーディエンスはすごくよく注意を払っていて、彼らの沈黙度はほとんど非現実的っていうか、神経に触るほどっていうか。だから最初わたしは、「わたし何か悪いことした?」って感じだったけど、彼らはただ、じっくり聴いていただけだったの。その後、みんなにサインをして挨拶をするプロセスがすごく合理化されていて、みんな名前が書かれた張り紙を持っていて、すごく早く終わったの。すごく効率的だと思ったわ。日本での体験は、10点満点中10点よ!
──最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
J:どうもありがとう! わたしが日本に行っていないときにも愛を感じるわ。ソーシャルメディアでもそれは伝わってくる。日本盤のCDを作ることができるときは、いつも感謝しているし、ボーナス・トラックを入れたりしているの。日本に行った時に、わたしの音楽を聴きたいと思ってくれることに感謝しているわ。まったく異なる環境でわたしの音楽を共有するために、日本に行ける機会を作ってもらえるんだもの。わたしが実際に日本に行っているときも、行ってないときも、わたしの音楽を聴きたいという意思がとても感じられるから。ありがとう。
<了>
Text By Keiko Tsukada
Jamila Woods
『Water Made Us』
LABEL : Jagjaguwar / Big Nothing
RELEASE DATE
2023.10.13(デジタル)
2023.10.18(国内フィジカル)
2023.10.27(海外フィジカル)
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Tower Records / HMV / Disk Union
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