INTERVIEWS : 11 May 2019

Jamila Woods

Legacy, It's Myself ~ Jamila Woods Talks About New Work "Legacy! Legacy!, Where Is The Pride, Whereabouts Of Identity

By Nami Igusa

INTERVIEWS : 11 May 2019

Jamila Woods

Legacy, It's Myself ~ Jamila Woods Talks About New Work "Legacy! Legacy!, Where Is The Pride, Whereabouts Of Identity

By Nami Igusa

レガシー、それは私そのもの ~ジャミーラ・ウッズが語る新作『レガシー!レガシー!』と、誇りの在り処、アイデンティティのゆくえ

レガシー、それは自分自身だ。ジャミーラはインタビューでこう語ってくれた。「『この人は誰だろう? 私と同じ所から出てきて、世界を変えるような素晴らしい業績を残したこの人は?』と。それが私の自信になり、自意識へとつながった」と。シカゴが誇る随一の知性=ジャミーラ・ウッズ。約3年ぶりとなる彼女の待望のセカンド・アルバム『レガシー!レガシー!』は、収録楽曲それぞれに過去の偉人の名がつけられ、またその内容自体も彼らにインスパイアされたものとなっている。つまり今作は、ジャミーラが影響を受けてきた音楽や文学がどう自分自身と結びついているのかを楽曲やポエムに落とし込むことで、自らのアイデンティティを深くとらえ直した作品なのだ。シングル曲でもあった「ZORA」のMVでは、公民権運動期に再評価された20世紀初頭の作家 / 民俗学者であるゾラ・ニール・ハーストンへのオマージュを表現し、黒人文学を多数収めたというシカゴのシカゴのギャラリー / コミュニティーセンターでのライブを披露。先人の歴史こそが彼女に、力と自信、誇りを与えていることを雄弁に物語っていた。

と同時に、実はこの楽曲は「自身のアイデンティティをある枠に押し込めようとすることを拒絶することについて」歌われているのだという。またインタビューでは「“黒人らしさを作り上げる決まった要素”がセットリストみたいにあるわけじゃない。それは常に広がるものだし、私自身、自分のブラックネスとは何なのかを今も発見してる最中」だとも語ってくれている。当然ながら、今作もまた前作収録の「VRY BLK」や「Blk Girl Soldier」に通じる、黒人女性を肯定するというテーマは引き継いでいる。けれど実際、彼女は“黒人女性”という大枠だけで自身や他人を捉えているわけではないのだ。黒人の、そしてシカゴの歴史を、自らを支える脚として自覚しながらも、そこから自分だけのアイデンティティを広げていくこと、それは人によって違うということーー。彼女にとって重要なのは、そんな個々の人間の内面そのもの、いわば、その人間を構成している歴史と可能性なのだろう。

アルバム冒頭とラストを飾るのは、ベティ・デイヴィスにインスパイアされた「BETTY」。その中の〈I am not your typical girl〉というラインは、奔放な音楽性とパフォーマンスで典型的な女性像を打ち破ったベティ・デイヴィスと、今作とがクロスするような、象徴的なリリックだ。そんな今作の制作過程や、彼女が得た自信と誇りの源、そして彼女の言う“アイデンティティの多様性”の意味について、ジャミーラ本人が余すことなく語ってくれたインタビューをたっぷりとお届けしよう。(取材・文 / 井草七海 通訳/ 丸山京子)

Interview with Jamila Woods

ーー今作『レガシー!レガシー!』の楽曲にはあなたに影響を与えた偉人からインスパイアされた曲名がつけられていて、タイトルや詩の内容に対応するように1曲1曲の音楽的な振り幅も様々ですね。アルバムの制作にあたってこうしたコンセプトを持ったのはいつ、どういったきっかけでしたか?

ジャミーラ・ウッズ(以下、J): 前作『ヘヴン』のツアーを終えて、何か面白い曲のアイディアはないかなと模索していた時、ごく自然な流れの中で、ニッキ・ジョヴァンニのポエム『Ego Trippin’』(1972年)のカバーを作ったのがきっかけよ。普段からYMC(注:Young Chicago Autors=アートを通じた自己実現をサポートするシカゴの青少年団体。ジャミーラはYCAの講師の仕事もしている)の生徒たちにも、“既存のポエムをカバーする”という課題を出すことがあるので、それを自分でもやってみたの、曲でね。曲作りに行き詰まった時は、そんな風にアイディアのきっかけになりそうなテーマを自らに課すことが多いの。次にできたのが、「MUDDY」よ。「MUDDY」はマディ・ウォーターズのことを書いたポエム、それと彼のインタヴューからインスピレーションを得たの。

ーー確かに「GIOVANNI」のコーラス部分の〈There must be the reason why〉というラインは、ニッキ・ジョヴァンニの『Ego Tripping’』の副題から (“there may be a reason why”) 、ですね。「MUDDY」はマディ・ウォーターズの音楽というよりはポエムが元だったと。アーティストの名前のついた曲が続けて出来た、というのが契機だったわけですね。

J:そう。その時点で「このアイディアをどこまで発展させられるかやってみよう」と決めたの。その視点から、私のアート、世の中に対する見方にインスピレーションを与えてくれた作家、思想家、アーティストを思い浮かべ、リストを作り、曲を書き始めた。つまり、これは彼らのレンズを通して語る私自身の自伝、自画像的な曲ってことね。

ーーなるほど。そうした偉人たちからインスピレーションを得たポエムは、そこからどうやって曲という形に落とし込まれていったのでしょう?

J:曲を書く作業は「どれだけの違う書き方でその人に敬意を払えるか?」と考える過程でもあった。それぞれの曲は必ずしも“その人自身”に関する曲”、というわけではなくて “いかに彼らの英知を私の人生に取り入れたかに思いを巡らせ反映させる”ことだったから。つまり彼らの精神やエネルギーを招き入れながらも、それを私自身の経験に基づかせる、ということよ。元々私のソングライティングのアプローチ方法には、ポエトリーの感覚が強いのよ。ポエトリーの世界では「これはソニア・サンチェス風の詩」とか「これはグウェンドリン・ブルックス風の詩」というように”何かに倣って書く”というのが一般的。そのポエムを書くひらめきを誰にもらったかを明確にし、敬意を払う。このアルバムもまさにそれと同じね。

ーー確かに今作の楽曲のリリックはどれも曲によって雰囲気が違っている、と感じていたのですが、それはそういったポエムの書き方を用いているから、そしてそこに今のあなた自身が投影されているから、なのですね。

J:そう、あくまでもこれらは自分自身に関する曲たち。ただ、“彼らの”レンズを通すこと、それがむしろストーリーを語る上での焦点となったの。制約にもなったけどね。でも、パーソナルなアルバムだという点では他のやり方で作ったアルバムと何ら変わらない。ここ数年で私は大きく変化したわ。20代後半の自分がそこで学んだことや感じていたこと、シンガーとしての声(Voice)だけでなく、一人の黒人女性としての考え(Voice)にさらに自信を持つようになった。それらを映し出したアルバムなの。

ーーなるほど、例えば「BASQUIAT」だったらウォール・ペインティングをイメージさせるリリックがあったりというように、今作の楽曲はあなたが“彼ら”を演じているようでいつつも、実はあなた自身のことを歌っている、という作品になっていますね。ちなみに、これまで今作からは3本のMVを発表されていて(注:このインタビュー後に「BALDWIN」のリリックビデオが公開になり、現状は4本のビデオが発表されている)、どれも違った演出がされていて非常に面白かったのですが、これらのMVにも同様にそれぞれテーマを持たせたということですよね?

J:そう! コンセプトは私が考えて、監督は《VAM》のヴィンセント・マーテルと一緒に行ったの。ヒントになった『Ego Trippin’』が誇張法や大袈裟な言葉をあえて使い、黒人女性を讃え、励ましていたように、意図的にMVでもいろんなモノのサイズ感で遊んでみたり(注:大きなクシやヘアワックスなど)、コミュニティの家族や友人たちのインタヴュー映像を用いたの。

ーー「GIOVANNI」の最初に出てくるのがあなたのおばあさん、最後がお母さんですね。ヴィンセント・マーテルは前作の「Holy」や「LSD」のMVも撮っている監督ですが、彼とはそもそもどうやって知り合ったのですか?

J:「EARTHA」のMVの監督も務めた親友のファティマ・アスガーを介してよ。ファティマが脚本を書いたウェブ・シリーズ“Brown Girls”の映像制作をしてたのが《VAM》で、私は音楽を手がけていた。それで私から依頼した、というわけ。

ーー《VAM》やヴィンセントがあなたにとってユニークで興味深いところはどんなところでしょう?

J:ヴィンセントが創設した《VAM》を率いるのはクィアーでカラードの人間達で、彼らは意図を持った空間を作り上げている。そこは安心できる空間であり、学びの空間であり、指導し、助言し合う場。「GIOVANNI」の時、最初は黒人女性が監督すべきだと思って、サム・ベイリーを考えてたんだけど、彼女はLAに引越してしまっていたの。「じゃあ君がやれば?」とヴィンセントに言われ「やったことがないから一人じゃ不安。一緒にやって!」と頼んだのよ。初めて監督をやる上で、《VAM》の学びの空間とヴィンセントの力があったことはとても助かったわ。 

ーー「ZORA」のMVについても教えてもらえますか? ライブで演奏される「ZORA」は音源以上に開放感があって驚きましたし、あのシカゴの図書館(注:シカゴのギャラリー / コミュニティーセンター《The Stony Island Arts Bank》のこと)に収められている蔵書をバックに歌う、あなたの堂々としたパフォーマンスもとても印象的でした。先人の積み重ねてきた歴史こそがあなたに力を与えていることを象徴しているパフォーマンスですよね。

J:ええ、「ZORA」はファティマのコンセプトから生まれたもので、演奏しているのは今のツアー・バンドよ。アルバムだけではライブの様子がわからないと思うので、ライブ風ビデオにしたらクールじゃないかな、と思って。撮影を行ったシカゴの図書館は黒人文学や昔の《Jet》や《Ebony》などの雑誌を保管している。(楽曲タイトルになっている)ゾラ・ニール・ハーストン自身、黒人文化や口述歴史に熱心だったから、ぜひあそこで撮影したかったの。これからまだ他にもMVは作っていく予定よ。1本は私が、もう1本はヴィンセントが監督することで決まっているの。というか、アルバム全曲のMVを作る予定なの。

ーーそうなんですね、それは楽しみです! また楽曲制作の話に戻りますが、今作の楽曲は、具体的にどういうプロセスや手法で、あなたの中にあるアイディアを形にしていったのでしょう。何曲かを例に挙げて教えてもらえますか?

J:そうね、「BALDWIN」はジェイムス・ボールドウィンにインスパイアされた曲だけど、今回のアルバムを作ろうと思うずっと前に、その原型は書けていたのよ。彼のエッセイの〈The Fire Next Time〉の中の〈Letter To My Nephew〉が大好きなのだけど、その中で彼は甥っ子への手紙という形を借り「白人の権威構造や多くの白人種が黒人を自分達よりも劣っていると見なすのは、そう信じることでしか自分達の優位性が保てない彼らの恐怖心の表れだ、つまり彼らにはハンディキャップがあるのだ。黒人はそんな彼らを理解し、愛をもって受け入ればならない」と説いている。それを読んだ時、私は「それを黒人に望むのはあまりではないか」と衝撃を覚えた。そんな私の葛藤や心情を描いた曲なの。

ーーなるほど、単に彼について書いたのではなくて、彼の言葉に葛藤する自分を描いているのですね。ちなみにこの「BALDWIN」は、Slot-AというシカゴのDJ / プロデューサーがプロデュースを手掛けていますよね。この曲では、Slot-Aとの仕事はどう進めたのですか?

J:Slot-Aにこの曲を聴かせて「すごく気に入ってるんだけどベーシックすぎて何かが足りない」と話したら「ヒップホップのラップ・バトルみたいに考えてみれば?」と言ってくれたの。彼は「曲が白人に対して一方的に書かれているけど、ラップ・バトルでは、対戦相手をただ打ち負かすのではなくて、相手を好きなくらいでないと本当の意味で勝てないんだ」と指摘したわけ。それをきっかけに、多面的に見直し、相手の気持ちになるのがどういうことかと考えて、曲を書き直した。プロデューサーと私で話をしながら曲を作っていった今回のプロセスの良い一例よ。

ーー楽曲の制作過程自体が、公民権運動の時代を生きたボールドウィンの視点を、まだまだ人種の分断が残る現代のアメリカに写し取って、置き換えたようなプロセスになっているのですね。

J:ええ、それから「SUN RA」はSlot-Aと二人でインストゥルメンタルのトラックを異世界的、宇宙的なサウンドを念頭に作り上げたものね。彼は“土星の出身”であり“宇宙に生まれた”わけだけど、ここシカゴに住み、パワフルな音楽を作り出した。それは私にとっても、一人のアフロ・アメリカンとして「自分はどこから来たのか」という自論をこれほど明確に示せる人間がいたのか、と衝撃を受けた。アフロ・フューチャリズムという観点でも、「私は宇宙の出身。だからどこへでも戻れる、どこへでも行ける」という考え方はとてもクールだな、と感じたのよ。

ーーとても面白いです! 時間があれば、全曲の話を聞きたいくらいですが…それは無理なので、代わりに一つお聞きします。今作のモチーフに選んだ人たち全員に共通し、あなたが共感する精神は何でしょう?

J: 今回、曲を作る上で彼らの古いインタヴュー映像をたくさん見たの。全員分じゃないけど、アーサ・キットやマディ・ウォーターズ、バスキア、サン・ラなどね。気付いたのは、インタビューという枠の中で、どれほど彼らが自然体で、くつろいで、自分自身を表現しているかという点。大抵インタビューアーは白人男性で、そのミュージシャンのことも音楽も何も知らないことは質問からも明白なのだけど、そんな状況にも見事に対応し、自らの場を切り開き、音楽を語っている彼らからは、自信と落ち着きしか感じられなくて。私もこうでありたいと共感したわ。

ーーなるほど、それは、彼らが他者から自分がどのように見られるかということと闘って自分に正しい誇りを持っているからこその振る舞いなのかもしれませんね。それは、確かに今作のあなたから感じ取れる自信と誇りにも通じている部分があるように感じます。

ーーところで、今作のサウンド・プロダクションは前作に比べるとかなりエレクトロニックな側面が強くなっていますね。その背景には先ほどから名前が出ている、Slot-Aの存在が大きいと思えます。彼との出会いについて教えてもらえますか?

J:以前にも彼がDJをしてる時に会ってたらしいのだけど、そのことは私覚えてなくて(笑)。でも、彼が作ったビートを送ってくれてて、私はそれがすごく気に入ってた。それで「GIOVANNI」「FRIDA」「MILES」の3曲が書けた時点で「一緒にやらない?」と声をかけたのよ。

ーー「GIOVANNI」はエレクトリックな太いベースラインが強調されたドープな仕上がりになっていて、これまでのあなたの楽曲のソウルフルでオーガニックなニュアンスのサウンドとはだいぶ違っていて驚きました。でもあなた自身、ハウス・ミュージック、ドリル、ジューク/フットワークといったエレクトニック・ミュージックの生誕地であるシカゴにいるからには、そういうシーンにも影響を受けてきたのですよね?

J: ええ、当然いろんな音楽を聴いてはきた。けど、若い頃は両親のコレクションを聴いてたから、ソウル、モータウン、ポップス系の方が多かったわ。今回、アルバム一枚を通じて聴こえる音があるのは、「MUDDY」と「EARTHA」以外は、Slot-Aがプロデュースしたからよ。『ヘヴン』(2016年)は複数のプロデューサーと一緒に作ったアルバムだったけど、それに比べると今回の方がフォーカスが定まったサウンドになったんだと思うわ。

"私は黒人だけど、“黒人らしさを作り上げる決まった要素”がセットリストみたいにあるわけじゃない。誰もそれを枠に押し込めることは出来ないの。"

ーー前作『ヘヴン』ではあなたのシカゴへの想いや、シカゴで今起きている現実についてのステイトメントを表現する楽曲が多かったのに比べ、今作ではよりあなた自身の内面とルーツを掘り下げ、結果として、あなたと同じ黒人女性だけでなく、この作品を聞く全ての人を内側から鼓舞し、セルフ・エスティームを与えるものになっていると感じました。それはあなたの意図したことでしたか?

J:ええ。セルフ・エスティーム、それと自信ね。祖先はもちろんのことながら、シカゴにも黒人のコミュニティにも、大勢の先人アーティスト達がいた。彼ら、彼女らの強さや功績を知り、発見し、自分のものとして受け止めることで、その後を生きる私たちも大きな自信を得られる。「この人は誰だろう? 私と同じ所から出てきて、世界を変えるような素晴らしい業績を残したこの人は?」と。それが私の自信になり、自意識へとつながった。そんな風にたくさんのインスピレーションと高揚感をもらいながらのアルバム作りだったわ。それは今も続いてる。

ーー今も続いている、というと、最近でも何か同じように感じる出来事があったりしましたか?

J:先日、写真撮影を行なったの。なんとその通りの向かいは、アルバム・タイトルのインスピレーションになった詩を書いた詩人マーガレット・バロウズの家だったの! そこにいる間はずっとラングストン・ヒューズやナット・キング・コールのことが頭に浮かんでいた。私の家から車で10分の近さに、そんな歴史が詰まった場所があるなんて、ってね。黒人の歴史やサウスサイドのこととか、今も学ぶことだらけよ。今回取り上げた先人達のことを、私は高校や大学で教わったわけじゃなかった。たまたま「この博物館に行ってみては?」と教えられ、そこで知る、ということばかり。シカゴについては、今回のアルバムの表立ったテーマではなかったかもしれないけど、黒人の歴史にとって重要な出来事の多くがシカゴで起きていることを考えると、今作もまたシカゴへのオマージュでもあるのよ。

ーーええ、そうやって自分と同じバックグランドを持つような人々が行ってきたこと、積み上げてきた歴史こそが、自分の自信をかたちづくる…そういうあなたの内側に満たされた豊かなと誇りこそが今作のテーマだと感じさせられます。ただ一般的には、女性は長くとらわれてきたその社会的な役割の影響もあって、セルフ・エスティームが低い傾向にあると言われることがあります。YCAでポエトリーを教え、普段若い人たちと接しているあなたの目から見て、正しくセルフ・エスティームを持つことに困難を感じる若い女性はまだ多いと感じますか?

J:少なくとも私が若かった頃は「自分を愛そう」とか「自分を認める」ということを口にする人はあまりいなかった。でも今は、そういうことが頻繁に語られるようになった。時代の変化を感じているわ。若い人といて感じるのは、“本当の自分”はやはり大切だけど、一方で“こういう人間にならなきゃいけない”というプレッシャーがないことよ。

ーーそれはどういう意味でしょうか?

J:私も若い時は、“私には黒人らしさが足りないのではないか?”とよく思わされたの。そもそもそれをどう定義づければいいのかもわからなかった。例えば、詩人になりたいと言うと「あなたのやってるのはスポークンワード。それは詩じゃない」と言われる。何をやっても誰かに「それは正しいやり方じゃない」と言われてしまう。若いということは、つまりその意見に耳を貸す価値がない、という周囲の見方があるから。でも実際には若い人達だってたくさんのアイディアを持ってて、だから私は彼らと一緒に何かをするのが大好き。私たちには“教えこまれた、捨てねばならない先入観”がたくさんある。若い人たちが表現できる場をちゃんと与えてあげて一緒に過ごせば、本当は彼らには言いたいことがいっぱいあって、それは大人よりもフィルターのかかっていない意見なのだとわかるわ。

ーー「ZORA」を発表された時に「皆多様性をうちに孕んでおり、常に変化している。(中略)ステレオタイプや思い込みから自由になることについての曲である」とあなたが述べていたのを読みましたが、その“多様性”こそが今おっしゃられたことなのでしょうか?

J:その通り。アイデンティティはいくらでも広げられるんだ、ということを理解すべきよね。私は黒人だけど、だからといって“黒人らしさを作り上げる決まった要素”がセットリストみたいにあるわけじゃない。それは常に広がるものだし、私自身、自分のブラックネスとは何なのかを今も発見してる最中。誰もそれを枠に押し込めることは出来ないの。

ーーそうした個々の人間が内に孕む多様性と向き合うことを尊重する視点は、あなたの美学と信念そのもののように感じます。ただ例えば、最近では、#MeTooムーヴメントが女性たちにもたらした大きな功績もある一方で、フェミニズム=男性を告発し、貶めること、といった誤った印象や認識を持つ人も少なくありません。一方で、あなたの作品は厳しい現実に怒りを表現しながらも、聴き手への慈愛に溢れるものです。そうした必ずしも声を荒げて糾弾するのではない方法を、あなたは自覚的に指向されているのでしょうか?

J:とても面白いわね。それってちょっとだけ「BASQUIAT」のテーマに似ているかも。

ーーああ、たしかに「BASQUIAT」のリリックはまさに〈they wanna see me angry〉という反語的な一文から始まりますね!

J:そう。私は特定のグループの人々のことだけを語りたくないの。特に黒人女性。#MeTooも元々は黒人女性タラナ・バークがスタートしたムーヴメントだった。怒りをいっぱい抱え、大声で糾弾することが、穏やかで近づきやすい方法で話すことほど効果がない、正しくない、とは決して思わない。けれど黒人女性はいつも”怒っている”というステレオタイプなイメージがある。でも歴史を紐解けば、そんな黒人女性の怒り、というか強い感情が、たくさんのムーヴメントを引き起こす”種”になってきた。例えば、エメット・ティルの母親の「柩を閉めずに開けておく」という強い意志のように(注:1955年にシカゴの黒人少年エメット・ティルが白人男性に惨殺された事件のこと。広がり始めていた公民権運動を大きく前進させた事件である)。

ーーええ、あなた自身、自分の声(Voice)に自信が持てるようになったと先ほども語ってくださったように、今おっしゃったことはあなたの作品の中で強い意志として結実していますよね。

J:そう、でも実は私は昔から、シャイで物静かで声が小さい、と言われてきて「話を聞いてもらうためにはもっと大きな声で話さなきゃ!」と自分でも思ったことがある。でもそうするとまるで怒鳴ってるみたいで。話し声だけでなく、歌声も、生まれながら小さい方だけど、それがオーセンティックな自分、ということよ。静かな声で話すほうが、声を荒げるより有効だと思うどころか、何度も「もっと大きな声、存在感のある自分だったらどれだけよいだろう!」と思ったこともあるわ。でも知るべきは自分の中にある“強さ”と”弱さ”であり、他人の”怒り”や大きな声”を咎めることではない。私にも当然怒りはある。他人の怒りとは見た目は違うかもしれないけど。

ーーよくわかります。では最後に、もし今作を誰か他のアーティストのレコード、もしくは文学や詩集の隣に並べていいと言われたら、誰を選びますか?

J:ニッキ・ジョヴァンニの詩集、ベティ・デイヴィスのアルバム『They Say I’m Different』、バスキアのドキュメンタリー映画『Radiant Child』、ジェイムス・ボールドウィン〈FIre Next Time〉などかしら。他にもいっぱいあるわよ!

■Jamila Woods Official Site
http://www.jamila-woods.com/

■BIG NOTHING HP内アーティスト情報
http://bignothing.net/jamilawoods.html

Text By Nami Igusa

Interpretation By Kyoko Maruyama


Jamila Woods

LEGACY! LEGACY!

LABEL : BIG NOTHING / ウルトラ・ヴァイヴ / Jagujaguwar
RELEASE DATE : 2019.05.10

■amazon商品ページはこちら


MORE FEATURES

  • FEATURES : 21 May 2019

    Flying Lotus

    Flamagra、それはフライング・ロータスが歴史を把捉しながら描く新たな音楽の設計図

    By Tetsuya Sakamoto

    これまでフライング・ロータスことスティーヴン・エリソンは、ビート・ミュージック、エレクトロニック・ミュージック、ジャズ、ヒップホップ、ファンクを自由に撹拌し、自在に往来しながら、エクレクティックでフレ

  • INTERVIEWS : 17 May 2019

    The National

    人はまっさらで生まれ、喜びや挫折を浴びて育ち、強く気高く終える
    ザ・ナショナル最高傑作『I Am Easy To Find』ここに誕生!

    By Shino Okamura

    モノクロのポートレートとしてアルバム・カヴァーに写る女性は女優のアリシア・ヴィキャンデル。と知って、とっさに『光をくれた人』(2016年公開)の熱演を思い出した人は、筆者以外にもいるだろうか。昨年公開

  • INTERVIEWS : 16 May 2019

    The National

    世界に誇る最強バンドであるために
    アーロン・デスナーが語るザ・ナショナルが無敵の理由

    By Shino Okamura

    このインタビューは2年前、2017年9月に発表された通算7枚目のスタジオ・アルバム『Sleep Well Beast』のリリースに際して筆者が行ったものだ。相手はアーロン・デスナー。このバンドの音楽面

  • MAP OF THE K-POP : 15 May 2019

    Jannabi

    BTSやBLACKPINKとも肩を並べる人気バンドが聴かせる、現代に寄り添うレトロ・ポップ

    By Daichi Yamamoto

    「K-POP」という言葉は私たちに何をイメージさせるだろう。北米や北欧のソングライターとタッグを組んだ激しいダンス・ミュージック?歌や踊りを何年も鍛え上げる厳しい訓練生活やオーディションといったアイド

  • INTERVIEWS : 13 May 2019

    空間現代

    遠回りをした方が得られる感動もある~ アメリカ・ツアーも大好評だった空間現代、初の海外リリース作であり7年ぶりのオリジナル・アルバム『Palm』を語る

    By Shinpei Horita

    ニュー・アルバム『Palm』は、空間現代にとって実に7年ぶりとなる単独名義でのスタジオ録音作品であり、初の海外リリース作品である。しかし彼らはその間、沈黙を貫いていた訳ではない。言うまでもなく、201

  • INTERVIEWS : 12 May 2019

    三宅唱 x Hi’Spec x OMSB

    三宅唱 x Hi’Spec x OMSBが語る、共に過ごす日々が紡ぐ、尊敬と信頼のクリエイティブ~映画『きみの鳥はうたえる』Blu-ray&DVD発売記念インタビュー

    By Daiki Takaku

    ヒップホップの曲作りの過程を収めたドキュメンタリー『COCKPIT(2014年)』でも既にその音楽への熱を迸らせていた映画監督・三宅唱。そしてその出演者でもあり今や神奈川県は相模原を代表するヒップホッ

  • FEATURES : 08 May 2019

    OMSB&Hi'Spec

    永遠に続くと思ったあの日々が蘇る一夜〜映画『きみの鳥はうたえる』Blu-ray&DVD発売記念パーティー × EBISU BATICA 8周年記念興行イベントレポート

    By Daiki Takaku

    4月25日木曜日に恵比寿《BATICA》で行われた、映画『きみの鳥はうたえる』Blu-ray&DVD発売記念パーティー × EBISU BATICA 8周年記念興行。映画のワンシーンを再現す

  • BRINGING THE PAST TO THE FUTURE : 08 May 2019

    Joe Tossini and Friends

    純粋経験としてのポップス~「アウトサイダー・ミュージック」のその先へ

    By Yuji Shibasaki

    これは、著名なミュージシャンによる記念碑的作品でもなく、歴史に名を残す堂々たる名盤でもない。日常の中で音楽を奏でてきたオーディナリー・パーソンによる音の記録だ。一人の若者がミュージシャンとしてヒロイッ