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誰がつくったかわからない音が好き──ロンドンのツーリストが語る、不確定な記憶についての新作『Memory Morning』と、経験と向き合うヒント

23 May 2024 | By Haruka Sato

ロンドン在住で、今年でキャリア11年目となるツーリストことウィリアム・フィリップス。サム・スミス「Stay With Me」(2014年)の作曲者のひとりとしてグラミーを受賞したこともあるが、あくまでひとつの通過点であり、シングルやリミックスを含めて自身のカタログを毎年積み重ね続けている。

そのカタログは、自身やリスナーの感情の扱いとサウンドのテクスチャを探究してきた過程と言えるだろう。ニューアルバム『Memory Morning』では、エレクトロニックなサウンドとピアノを始めとしたアコースティックなサウンドのバランス、ノイズやフィールド・レコーディングとフレーズの調和などに変化があり、夢に現れる穏やかな島のような気配が満ちている。

パーソナリティが垣間見える素直でチャーミングなやりとりで、映画『aftersun』(2022年)からの影響や、“disoriented”という感覚、これまでにYu Su、ソフィア・クルテシス、冥丁、メアリー・ラティモアなどが参加したアルバムのReworksについて、また、サンプリングやコラージュ、フィールド・レコーディングなど制作の手法に対する考えについても話してくれた。

(質問・文/佐藤遥 通訳/安江幸子 協力/岡村詩野)

Interview with William Phillips(Tourist)

──あなたの音楽を、どこか遠くにつれていってくれる音楽として聴いていました。なので、「『Memory Morning』は、頻繁に訪れ、行くたびに新しい小さな発見がある場所であってほしい」という今回のコンセプトは、個人的にはこれまでの作品に共通するものだとも感じました。書いていくうちに形になったアルバムで、どこから手をつけたものか、まったく手掛かりはないとも読みましたが、今作のこのコンセプトはどのように形作られていったのでしょうか?

William Phillips(以下、W):このアルバムは探索(exploration)に深く根差した作品だと思うんだ。アルバム制作のプロセスの中で、アルバムの意味を見いだしていった。色んなものを実験してみて、その中からピックアップしていった感じだね。ある意味魚釣りにちょっと似ている(笑)。じっと座って待って待って待ち続けて、何かが起こると、「そうか、これはここでうまくいくな」と思う。それから別のものにトライしてみる。そんな感じで、大いに探索できる場だったんだ。今にしてみれば、現実から切り離されようとしているときの「中間のフィーリング」が特に楽しかったね。何かから逃避しようとしている感覚、困惑している感覚…あの、夢みたいな感じがする記憶の感覚。それらはみんな、言葉ではうまく伝わらないものなんだ。感じていることは自覚していてもね。

僕は「起きたら夢だった」みたいに感じられるものを作りたかったんだ。何かから逃避できるようなものをね。アルバムの曲を書いていくうちに、その意義がどんどんクリアになっていった。

思えばファースト・アルバムのときは、僕は女の子と別れたばかりだったから、失恋アルバムを作りたかったんだよね(笑)。

──えっ(笑)。

W:そこがスタートポイントで、そこから入っていった。でも今回は自分が感じているあらゆる「中間のフィーリング」のコラージュを作りたかったんだ。…コラージュって日本語で何て言うの?

──「コラージュ」です(笑)。

W:そうか(笑)。まあ、そういうフィーリングを表現したかったんだ。何かディープなもの。シューゲイズに少し似ているね。シューゲイズはアルバムの中で大きなインスピレーションになっているんだ。すごく中間な感じがして、自分が身を委ねたくなるような感じ。常に歌詞がある訳でもない。僕の好きなバンドのひとつがスロウダイヴなんだけど、彼らのやっていることのスピリットが大好きなんだ。最近だったらビーチ・ハウスが彼らに相当するんじゃないかな。

──そうですね。

W:ビーチ・ハウスは僕のオールタイム・フェイヴァリットのひとつなんだ。僕は自分のことを「ダンス・ミュージック版のビーチ・ハウス」だと思うようにしている(笑)。そういう発見が『Memory Morning』の大きな肝だったと思うね。このアルバムを説明するときにはescapism(現実逃避、空想、白日夢)という言葉をよく使っているよ。

岡村(TURN):実は《TURN》は動画チャンネルを持っていて、去年スロウダイヴが《フジロックフェスティバル》に出たときに話をしたんです。今そのリンクをチャットで送りましたので、ぜひウィリアムに見てもらいたいです。

W:ありがとう! 見てみるよ!

──実際の出来事に基づいて楽曲を制作されることが多く、また、フィールド・レコーディングも個人的に意味があるものを使っていたと読みました。今回はイマジネーションから生まれたアルバムですが、これまでもよく使われていた鳥の鳴き声や、印象的な水の流れる音(「Ithaca」)、木々が揺れているようなノイズ(「Lifted Out」)などはどのような経緯でつかうことに決めたのでしょうか?

W:自然の音ほど美しいものはないと思っているんだ。音楽がここ(顔の前辺りに腕を上げる)だったら、自然はこの辺なんだ(頭の上まで手を持っていく)。音楽よりも無限に美しいよ。この世の歌(song of the world)だからね。そして僕は…その美しさを盗んでいるんだ!(笑) 自由だし、安上がりだからね(笑)。これ(ICレコーダーのようなものを手に取って)で何でも録音できるんだ。うちの庭は結構ステキで…そっちに見えるかどうかわからないけど。

──見えますよ。

W:僕は庭にいるのが大好きなんだ。森の近くに住んでいるしね。

僕が録音した音は僕の人間関係と関係がある訳じゃなくて、僕の人生と関係があるんだ。僕は森の近くに住んでいるから、よく森に入って鳥たちを観察している。もう35歳だから、25歳みたいに酒を飲んでいる訳じゃないんだ(笑)。今は森の中で鳥たちの歌声に耳を澄ませている(笑)。それから去年休暇をスペインで過ごしていたときには大きな採石場に行ったんだけど、その真ん中に美しい自然保護区があるんだ。「Ithaca」ではそこで録った音を使っている。その採石場の名前が「Lithica」(リサカに近い発音)だったんだよね。でも僕がスペルを間違えて登録してしまって、それであのタイトルになったんだ(笑)。Ithacaはギリシャの島とニューヨーク州に地名があるよ。「Ithaca」の冒頭で聞こえてくるのは、その採石場で録った音なんだ。小川があったからね。実に美しい音だと思ったよ。自然の音を録る人は多いと思うけど、僕も世の中にあるあらゆる音が大好きなんだ。ブリアルは大きなインスピレーションだったと思う。彼は都会の音をサンプリングしたんだよね。交通の音、ライター…僕はその真逆だと思う(笑)。僕がサンプリングするのは海、鳥…といった感じで(彼とは)違うからね。

──『Inside Out』までは、シンセにやさしく塗りつぶされている印象の楽曲が多かったように思います。今作では、以前より隙間があるように感じます。また、これまで以上に音の処理が丁寧でそれぞれにニュアンスが目立っているようにも感じます。機材のボリュームは『Inside Out』制作時と同様とのことですが、なにか変化や意識したことはありましたか?

W:今回のアルバムは、他人の音楽のサンプリングに委ねたところが大きかった気がする。例えば「A Little Bit Further」はマーク・フライの歌と音源を大々的にサンプリングしているけど、『Inside Out』のときはあまりそういうことをしなかったんだ。『Inside Out』のときはもっと断片的だった。でも今回は1曲全体を、ギターや歌も含めて使ったんだ。というのも、小さな断片よりも共感しやすいんじゃないかと思ってね。それに、自分が今までやっていなかったことのように感じたし。それでそうしたんだ。僕はいつも自分にとって新しく感じられることをやりたい。何しろ飽きやすいからね(笑)。

『Memory Morning』ではもっとひとつの線の上でサンプリングをやっていたんだ。ありのままに受け容れて、そこに変化をつける。何百万といった断片に細かく刻むんじゃなくて。それも昔やっていたことだし、好きだけどね。でも飽きてしまった。いい指摘だね。興味深い質問だったよ。…僕はものごとの文脈を作り変えるのが好きなんだ。採り上げたものを破壊して、意味を変えて、違う文脈に置くというのがね。絵を入れる額を替えるのにちょっと似ているんだ。額を替えると絵全体の雰囲気が変わるよね。

──なるほど。面白い。

それもあって今回のアルバムはニュアンスが際立っているのかもしれませんね。ドラムのムードにも変化があったと感じました。「Siren」や「Ithaca」は、やや生音感が強くておおらかなケミカル・ブラザーズといったようなビートに聞こえました。

W:(笑)

──そのビートが、アルバム全体に推進力があるのにどこか優雅な雰囲気をつくっていると思います。ピアノの音が目立つようになったとも感じたのですが、エレクトロニックなサウンドと、そうではないサウンドのバランスは意識的に変化させたのでしょうか?

W:いい質問だね。今言ってくれたことは僕がやろうとしていたことだから、僕にとっては褒め言葉だよ。1曲目の「Lifted Out」なんかはバンドみたいに聞こえるよね。エレクトロニック・ミュージシャンが作っているような音には聞こえない。スクエアプッシャーやAmon Tobinみたいには聞こえないんだ。ほとんどバンドみたいな感じ。で、僕はそういうのが大好きなんだ。エレクトロニックでありながら、必ずしもエレクトロニックに聞こえる訳でもない。バンドにも聞こえるし、ツーピースにも、ドラムキットとギターの組み合わせにも聞こえる。僕がそういうのが大好きなのは、誰が作ったかわかりにくいからなんだ。「これはバンドなのか?1人なのか?ベッドルームで作ったのか?スタジオで作ったのか?」とわからない音が好きだね。ああいうフィーリングを、エレクトロニックだけ、アコースティックだけにしないで作るのが好きなんだ。でないと退屈になることがあるからね。推し進めて実験しないと。そうすると、エレクトロニックだけやアコースティックだけのときより音が壮大になるんだ。そういう音をぶつけ合うと面白いものができる。

──ちなみにその感覚って、自分の世代もある程度影響していると思いますか? それともあなた個人の感覚だと自分で思っていますか。

W:どうだろう? わからないなぁ。僕だけかも?(笑) 僕の大好きなアーティストたちは、フォー・テットもジョン・ホプキンスも、いつも自分たちの好きなことをやっている。他人の世界には迎合しないで、好きなようにやっている。例えばカリブーの音楽はバンドでもあり得るし、1人でもあり得るよね。僕が最もインスパイアされるのは、観衆を「無視」できる人たちなんだ。自分たち自身に心からフォーカスして、自分らしくいることに人生を費やす。そういう人たちの方により興味を惹かれるね。自分がシーンの一部にあまりなったことがないのもきっとそれで……エゴが大きすぎるんだろうな(笑)。わからないけど。ほら、世の中にはハウス・ミュージックへのサービスとしてハウス・ミュージックを作っている人たちがいるよね。等身大よりも音楽の存在が大きくて、ほとんどハウス・ミュージックに雇われているような感じ。その発展のためにね。素晴らしいことだと思うよ。ただ、僕は自分の音楽の運命を自分でコントロールしたいから、自分の大好きなものからピックアップしてやりたいものを選ぶんだ。単にスタイルが違うだけだよ。僕のやり方が好きじゃない人たちもいる。そういう人たちは僕が搾取的だとか、何にもコミットしないやつだと思っているけど、問題は僕があらゆるものにインスピレーションを受けているということなんだ。インスピレーションの元がひとつだけっていうのはあり得ない。それが世代的なものなのか僕個人のものなのかはわからないけど、僕はいつだってすべてのものが好きだったんだよね。どんな音楽も好きだから、あらゆる音楽の要素を自分の音楽に取り入れたい。それは…強みでもあり弱みでもあると思うけどね。どちらかはわからないや(笑)。

──(笑)

W:自分のやっていることすべてをシーンに存在させたい人もいる。そういう人たちはすべてにカテゴリーが欲しいんだよね。それは、そうすることが役に立つからなんだ。「これはこれ、あれはあれ」みたいな感じにね。それは確かにいいことだ。でも時には、異なるものをギュッとひとつにしないといけないこともある。僕はそれをやっているんだ。

──映画『aftersun』にも影響を受けていると聞きました。この映画の重要なポイントのひとつは、現在とすでに過去となったビデオの中の時間を行き来し、解釈し直そうとすることで生じる気づきや感情だと思います。『Memory Morning』を通して何度か聴くと、1曲目の「Lifted Out」と、最後のタイトル・トラックが似ているように聞こえました。一方向だけではない時間の流れをこのアルバムにも感じ、わたしにはそこが映画との共通点に思えました。そのあたりはどの程度自覚的なのでしょうか。

W:君はまったく正しいよ! 僕があの映画が大好きなのは、人間の今実際に起こっている物事に対する判断がいつでも正しい訳じゃないってことを反映しているからなんだ。僕たちの経験は、感情や記憶に彩られているものだけど、僕たちは間違って記憶したり、忘れてしまったりする。夢の中で想像力を働かせたり、特定の方向に事が進むことを想定したりするけど、実際は違った方向に行ったりね。

あの映画には本当にインスピレーションを受けたよ。記憶についての映画は他にもたくさんあると思うけど、その時の感情にあれほどリンクしていたものはなかった。そのすべてが彼女の頭の中に影響していたんだ。「本当にそうだったのか?何が起こったんだ?」という大きな疑問があってね。そしてあの「中間のフィーリング」が僕にとってはものすごく美しく感じられた。人間の存在を見事に要約していたからね。本当は何が自分たちに起こっているのか、振り返るまでは決して理解できないんだ。そして完全に間違って記憶してしまうことが多い。しかも僕たちは決して起こりやしないことまで考えてしまうこともあるんだ。僕にとってはあの女の子の心の中の世界がとても興味深かったね。

だからあの曲は「Lifted Out」(釣り出される)というんだ。その人の経験(の世界)から本人を釣りだしてあげたいからね。夢や記憶の世界から現実逃避の世界へと釣り出してあげたいんだ。このアルバムは説明するのがとても難しいけど、自分の中ではどんな感じなのか具体的にわかっているというのが面白いんだ(笑)。

──面白い…。

W:『aftersun』のサウンドトラックもすごく美しいんだ。オリバー・コーツが作ったやつでね。あれを聴いて大泣きしたよ。本当に美しくて、今でも衝撃を感じるんだ。すごくメロディックでね。チェロの弦の1本1本が、次から次へと色んな思いに繋がっていく感じだった。サウンドが思いや記憶のメタファーのようになれるんだとわかったよ。本当に大きなインスピレーションを受けたね。そこからまる1枚アルバムを作ったんだ。座って映画を見ていたけど、終わってもずっと座ったまま思いを巡らせていたよ。素晴らしい経験だった。誰かが作ったものがものすごく強く心に訴えかけてくるというのは、人間の体験として本当に素晴らしいことだよ。

──たとえば「Valentine」は、わたしにとっては開放感や勇ましい気持ち、少々の不安などを同時にもたらす楽曲です。『Memory Morning』に関してSNSに投稿された文章にあった、“disorient” という単語に通ずる状態なのかもしれません。抱く感情が複合的であるほど、その感情やそれをもたらしたものに注意が向くようにも思います。“disorient”という状態はあなたにとって、どのようなイメージなのでしょうか?

W:そうだなぁ、僕がやりたかったのは、disoriented but enjoyable(見当識を失わせつつも楽しめる)ものを作ることだったんだと思うね。ただdisorientedだけだと不快だから、楽しみながらdisorientedできるものにしたいと。ジェットコースターが人気なのもそれがあるからだと思うんだよね。自分でコントロールできなくても誰かがコントロールしてくれるから大丈夫だってわかっているし。釣りあげられて翻弄される、あの「さらわれた」感が快感なんだ。うちの娘も、僕が抱き上げて放り上げると喜ぶんだよね。

──(笑)

W:わかるよね? 危ないってわかっているけど、ダディがやっているから安全だともわかっているんだ。そんな感じの、enjoyably disoriented(楽しめる程度に見当識を失う)なものを作るのが狙いだったね。「うわぁ、今のは奇妙だったけど、何とか切り抜けられたし良かったな」と思ってもらえるようなもの。夢みたいなものだよ!(笑) 僕はただハッピーとか悲しいとかパーティー気分とか、そういうのには興味を感じない。すべてのものには層があると思うからね。お互い押し付け合わせないと。

好きなプロデューサーがいて、彼の音楽は美しいのと同時にヘンなんだ。そういうのが大好きなんだよね。ただ美しいだけじゃなくて、ちょっと奇妙だったりミステリアスだったり。そういうのの方が興味深いね。ジョン・ホプキンスの音楽はものすごく美しいけど、時としてものすごくアグレッシヴになる。だから大好きなんだ。僕もenjoyably disorientedなアーティストでいようとしているよ。

──『Memory Morning』を含め、これまでの作品でも多幸感やノスタルジアなど複数の感情を同時に喚起したいという思いが込められていたり、Reworksとして他人に楽曲を再構成してもらうことを好んでいる様子などから、ご自身やご自身の音楽を媒体として扱っているような印象を受けました。Touristという匿名性が高いアーティスト名はそういった側面と相性が良いように思えます。アーティスト名の匿名性の高さと、ご自身の活動や姿勢についてなにか関連する部分があると考えたことはありますか?

W:そうだね…僕には、人々に伝えたい世界観があるんだと思う。僕の物の見方や聴き方は、他の人が気に入ってくれるかもしれないものだと思っている。そんな僕の観点を表現するような音楽を作りたいんだ。

「私は自分のためだけに音楽を作っています」と言う人は多い。それは真実だろうけど、もし自分のためだけに音楽を作っていたら、決して外には出さないと思うんだよね。リリースなんてしないよ。する必要なんてないよね? 何が欲しい訳?金?みたいなさ(笑)。僕が音楽を作るのは、人間とは何かについて自分なりに考えた内容の表現なんだ。そして他の人たちがそれを聞いてくれることを願っている。その人たちが僕の音楽にインスパイアされて、自分の音楽を作るようになったらいいよね。ハッピーな気持ちだろうと悲しい気持ちだろうと何だろうと、人間の持っているもので一番大切なのはコミュニケーションだと思う。ごらんのとおり僕はおしゃべりだけど(笑)、話すよりも音楽を通じてコミュニケーションすることが好きなんだ。それは自分が子供の頃聴いた他の人の音楽が僕に訴えかけてきて、僕に生きている実感を与えてくれたから。人間らしい気分にもなれたし、作り手たちに思いを馳せることができるようにもなった。15歳のころザ・キュアーを聴いたとき思ったからね。どうして赤の他人が、僕の知らない人が、僕を泣かすことができるんだろう?マジックじゃないか!と思ったんだ。バッハの音楽を聴いてどうしてこんなに感じることができるんだろう? 信じられないくらいに。音楽は人間の最高の発明だよ。だからこそ僕は音楽をやっている。音楽こそが、自分の好きなように自己表現させてくれる手段なんだ。

──最後に『Memory Morning』のアートワークについてです。アートワークは、移動中の飛行機からの景色にも見えますし、窓からの景色のようにも見えます。また晴れた昼間の空と雲だと思っていたのですが、色違いのポスターを観ると、様々な天気や時間帯が想像できますし、雲ではなく山のようにも見えます。図形の組み合わせのようでありながら、画面からわかる若干の濃淡は手書きであることを思わせ、描く過程を想像させますし、記号的でだからこそ手作業による揺れのような部分がより浮かび上がるような気もします。実際には、どのようなイメージでつくりあげたものなのでしょうか?

W:実は『aftersun』を見てから、デザイナーの友だちと話していたら、まったく違うタイプのアートワークを50点見せてくれたんだ。写真もあれば落書きもあったし、タイプされた文字もあった。その中であれを見せられて、「あぁ、これだ」と思った。「これこそ僕がこのアルバムに求める姿だ」ってね。その絵を選んでから、その絵に向けて曲を作ったんだ。

──アートワークが先だったんですね!

W:『aftersun』を見た後だけどね。『aftersun』は僕にとって記憶のフィーリングが強かったから、よし、記憶についてのアルバムを作ろうと思った。それにしっくりくるアートワークにしようとね。そしてあの絵に出会ったとき、自分にとってものすごく特徴的だと思った。しかもすごくリアルに見えると同時にリアルに見えない。さらに、見たことがありそうな絵でありながら、実際は見たことがない絵だった。すぐ親しみを持てるけど馴染みはない。あと、僕はアンディ・ウォーホルの作品みたいに、ポップ・アートが色を替えていくのが好きなんだよね。そうすることによって多彩な意味が生まれるし、ただ1枚の絵よりも存在が大きくなる。夢や記憶みたいに色んなヴァージョンがあるんだ。大好きなアートワークだよ。

──サード・アルバム『Wild』、前作『Inside Out』では、Reworksとしてリミックス音源をEPでリリースされています。リミックスを依頼しているアーティストは、どの方もご自身がお好きなアーティストだと思いますが、それ以外にどんな視点で依頼をされていますか? また、『Memory Morning』でもReworksのEPが準備されているのであれば、とても楽しみです。

W:大好きな人たちを選んでいるよ。ただ、ルールがある訳じゃないから、かなり違うタイプのアーティストたちを選ぶことが多いね。一貫性がなくてもいいというか、違うサウンドになるのが好きだね。あと、小さな(知名度の低めな)アーティストを選ぶのが好きなんだ。彼らの音楽をたくさんの人に聴いてもらえるきっかけになるからね。例えばメアリー・ラティモアとか、日本人のアーティスト。メイテイって発音でいいのかな?

──はい。冥丁。メイテイです。

W:そう、彼もね。

このアルバムもリミックスを何曲か作ってあるよ。

──うわぁ、そうなんですね!

W:まだ誰かは明かせないけどね(にっこり)。すごくいいのがあるよ。

あ、ひとりだけ教えてあげるよ。彼は日本で結構ビッグなんじゃないかな? ゴールド・パンダって言うんだけど。

日本に長い間住んでいたけど(注:川崎に住んでいた)、《Ghostly International》というレーベルと契約しているんだ。彼とは一緒に新しいEPも作って、もうすぐ出るよ。すごくいいし、楽しいよ。僕はあまり楽しい音楽を作らないけど(笑)すごく楽しい音楽なんだ。

──ゴールド・パンダは日本人じゃなくて、ロンドンのエレクトロニック系のミュージシャンですよね?

W:そう、日本人じゃないよ。でも日本で結構人気があると思う。実は近くに住んでいるんだ。

──ええ、日本でとても人気がありますよ。

W:だよね? 彼がリミックスをやってくれて、一緒にEPも作ったんだ。

──彼は去年の夏、《サマーソニック》で来日していましたね。

W:そうそう。憶えているよ。

<了>


Text By Haruka Sato

Interpretation By Sachiko Yasue


Tourist

『Memory Morning』

LABEL : Monday
RELEASE DATE : 2024.4.19
Apple Music

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