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《The Notable Artist of 2023》
#8

Tems


今最もアルバムを期待されているナイジェリアの若手筆頭

31 January 2023 | By tt / The Notable Artist of 2023

WizkidやBurna Boy、Fireboy DMLといったシーンの中核を成すアーティストが相次いで新作をリリース、AsakeやRemaといった若手の台頭も著しかった2022年は、ナイジェリアのアーティストが更なる飛躍を果たした年と言っても過言ではないだろう。同年3月に《Billboard》と《Afro Nation》が共同でU.S. Afrobeats Songsのチャートを設立したことは、その勢いを感じさせる出来事であり、ジャンルに特化したチャートとして可視化されて広まったことで、とりわけ北米圏での人気に拍車がかかったように思う。そんな中で、いま最も次のアクションを期待されている1人がナイジェリアのラゴス出身のシンガーソングライター、Temsだろう。

2019年リリースのシングル「Try Me」のヒットで既にブレイクの兆しを見せていたTemsの名を一躍世に知らしめたのは、Wizkidと共演した2021年の「Essence」と同曲のジャスティン・ビーバーを迎えたリミックスの大ヒットだ。更には、この1年余りでドレイクを皮切りにフューチャー、ビヨンセといった北米のビッグ・アクトに立て続けにフィーチャーされたこともブレイクの大きな契機となったと言えるだろう。英国では「BBC Sound Of 2022」に選出、U.S. Afrobeats Songsチャートでは2020年リリースのEP『For Broken Ears』から「Free Mind」が首位を獲得し、(チャートで競合する強力なアーティストの絶対数が少ないとはいえ)同時に複数曲がチャートのTOP10にランクインしている。

そんなTemsの2022年に最も印象に残っているのは、映画『Black Panther:Wakanda Forever』での、ボブ・マーリー「No Woman No Cry」のカヴァーだ。言わずと知れたMCU『Black Panther』の続編にあたる本作では、前作に引き続き劇中曲と同映画のインスパイア曲をコンパイルしたアルバムがリリースされている。前回の参加メンバーがケンドリック・ラマーを筆頭に北米のラッパーやシンガーが中心であったのに対し、今作はリアーナの新曲2曲(その中の1曲「Lift Me Up」にはTemsが制作に参加している)やFoudequshやVivir Quintanaといったメキシコのアーティストの参加といったトピックはありつつも、アフリカ勢、特にBurna BoyやFireboy DMLをはじめとしたナイジェリアのアーティストの参加が目を引く。その中でも、上述の「No Woman No Cry」カヴァー内の“Everything’s gonna be alright”の箇所が徐々にケンドリック・ラマー「Alright」へと変化していく印象的な使われ方をしている映画のトレーラーは、Temsのさらなるブレイクを予感させるとともに、2022年のナイジェリア勢の北米での躍進の象徴的な出来事としてインパクトを与えたようにも思える(余談ではあるが『Black Panther:Wakanda Forever』のアフリカ・プレミアはTemsの出身であるナイジェリアのラゴスで開催されている)。

総選挙が行われ、大統領が交代するナイジェリアの国家自体もまた、2023年は変化の年である。既に様々な現地のアーティストが楽曲などでアクションを起こしており、今年はより政治やカルチャーに国外からも注目が集まるのは間違いないだろう。自身のTwitterアカウントで明かしているように、Temsは2023年に待望のデビュー・アルバムのリリースを予定している。どれほど世相を反映した作品になるかは推測の域を出ないが、間違いなく今年のナイジェリア勢における重要なアルバムの位置を占めると同時に、グローバル規模で更なる注目を集める契機となるだろう。そして、現在のRemaの大ブレイクが象徴するように、アフロビーツの世界では今後も続々とスターが現れることと思うが、Temsを媒介にして出自である“Alté(オルテ)”のシーン全体にも改めて注目が集まれば、ナイジェリアの音楽シーンのまた違った側面がグローバルな広がりを見せて、面白いことになるのではないだろうか(その意味では、今年リリース予定のR&B~オルタナティヴ・シンガー、Lady Donliの新作にも期待したい)。(tt)

Text By ttThe Notable Artist of 2023


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