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《The Notable Artist of 2023》
#1

Kali Malone


新たな「変容」を抱えて

21 January 2023 | By The Notable Artist of 2023 / yorosz

USコロラド生まれ、2012年にスウェーデンに移住し、2010年代の後半に音楽活動を本格化させたカリ・マローンは、近年のドローン・ミュージックにおいて最先鋭の作曲家と目される存在となっている。

2015~2016年にかけて、シューゲイザー・バンドのSwap Babiesとしての活動や、Maria W Hornと共同でのレーベル(およびコンサート・シリーズである)《XKatedral》の設立、そしてそこからのソロ/コラボレーション作品のリリースで頭角を現した彼女は、以降も《Hallow Ground》や《Ascetic House》など先鋭的なレーベルからコンスタントにリリースを重ね、2019年に《iDEAL Recordings》からリリースしたCD3枚組に及ぶ大作『The Sacrificial Code』でより広く注目を集めることとなった。



この作品は(ホールや教会などに設置された)異なる3つのパイプ・オルガンの演奏を収めた作曲作品集であり、スウェーデン移住後に学んだオルガン調律の経験が反映された豊穣なサウンドが捉えられていることに加え、そのカノン的構造からもたらされる迷路の巡回路にはまり込むかのごとき時間感覚の変容[1] が、多くのドローン・ミュージックが提示する時間の在り方を相対化するかのような示唆に富むものであったため、筆者にとっても忘れ難い一作となっている。本作は彼女のそれまでの作品がリーチしていたドローンやアンビエント、実験的な電子音楽などはもちろん、クラシカルなチェンバー・ミュージックや現代的な作曲作品という文脈でも評価され、多くのメディアにも取り上げられたため、記憶に残っている方も多いのではないだろうか。

続いて、フランスのGRMからの委託によりアクースモニウムでの演奏を念頭に着手され、2022年に《Portraits GRM》より発表された『Living Torch』では、彼女はARP 2500やトロンボーン、バスクラリネットなどを用い、オルガン作品での経験を踏まえたうえで電子音響音楽の作曲家としての手腕の進化を鮮やかに印象付けた。




そして2023年、早々にも1月20日に彼女の新しい作品『Does Spring Hide Its Joy』がリリースされる。

本稿執筆時点で既に1曲が先行公開されている

本作は彼女が親しい友人でもあるというStephen O’Malley、Lucy Railtonと結成したスモール・アンサンブルによる初作品で、パイプオルガンの調律や作曲の経験を踏まえ、純正律と音の干渉が描くうなりのパターンを焦点とし、O’MalleyとRailtonによるユニークなギターとチェロの演奏を念頭に作曲されている。

『Does Spring Hide Its Joy』は既にライブでも演じられており、更にインスタレーション作品、Nika Milanoを迎えてのビデオ作品としても展開されるとのこと

制作時期は2020年の3~5月。bandcampで公開されている詳細によると本作には正にこの時期のコロナ禍によって自身に(そしておそらくは世界中の多くの人にも)起こった時間に対する認識の変容が反映されているという。『The Sacrificial Code』において既に印象深い時間の認識を提示した彼女だけに、本作がどのような「変容」をもたらしてくれるのかは(それは意識すれば逃げてしまうような脆いものかもしれないが)気になるところだ。

また、この制作時期は昨年発表の『Living Torch』(2020〜2021年にかけて制作)と重複するものでもあるため、そちらとパラレルな一作として楽器編成や楽曲構造などを比較しながら聴取するのも一興かもしれない。

付け加えて、カリ・マローンの自身の関心を先鋭化/追求していくような活動と合わせて、彼女と共に《XKatedral》を設立したMaria W. Horn、そしてその両者と共にHästköttskandalenというバンドで活動していたエレン・アークブロ[2] 、Marta Forsbergというそれぞれに個性的な作曲家たちの多彩な活動にも注目いただきたい。ともにスウェーデンを拠点としている彼女らは2010年代の後半からミニマル/ドローン〜アンビエントの感覚を携えながら電子音楽とチェンバー・ミュージックを自在に行き来する作風で頭角を現したが、2022年にはMaria W. Hornがスウェーデンの民族音楽に焦点を当てたヴァイオリニスト/シンガー/作曲家であるサラ・パークマンと組みフォーク・ミュージックとミニマル/スペクトル音楽との融合を試みた『Funeral Folk』を、エレン・アークブロがピアニストのヨハン・グレイデンと組み全編でヴォーカルを披露した『I get along without you very well』を、そしてMarta Forsbergはこちらもスウェーデン出身のアーティストであるKajsa Magnarssonと共に楽器演奏/エレクトロニクス/サンプル音声が入り乱れるショート・ピース集『Kompisitioner』をリリースと、それぞれに新境地といえる動向を見せており、関心の領域をそれぞれがそれぞれに拡大し掘り下げていることを伺わせた。今年(でなくとも今後)彼女らから新たなアナウンスがあれば、そこにはまた新たな冒険や深化が反映されていることだろう。(よろすず)





[1] 筆者によるレビュー参照 (https://note.com/yorosz/n/nfe8a71c68f52

[2] ちなみにカリ・マローンがスウェーデンに移住するきっかけはエレン・アークブロとの出会いだったそうだ。
https://re-imagine-europe.eu/resources_item/sensitive-states-of-perception-kali-malone-in-conversation-with-francois-bonnet/

Text By The Notable Artist of 2023yorosz


【The Notable Artist of 2023】

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