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《The Notable Artist of 2023》
#5

Full Body 2


混濁したノイズと甘美なメロディが生む異形の美

ロールプレイングゲームが舞台とする近未来そのままのビジュアルが広がり、シンセとギターが醸すうっそうたるノイズの遠い向こうから、甘い旋律が聞こえてくる。Full Body 2が描く世界はユーフォリックではあるのだが、どこか荒涼としていて、ささくれ立った感情を呼び起こす。

ギター/ヴォーカル/シンセ/アディショナル・プロダクションのディラン・ベイジー、ベース/ヴォーカルのキャシディ・ローズ・ハモンド、ドラムのジャック・チャファーからなるスリーピースは、NothingからKnifeplayまで、この10年で多くのシューゲイズ・アクトを生んできたペンシルベニアを拠点に活動。

ギターあるいはシンセサイザーのリフと儚げな歌のバランスが生む浮遊感は、すぐさまマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのそれを想起するだろう。実際、彼らが前身バンドFull Bodyから名前を変え、2020年5月、SoundCloudで最初に公開したのは、 「You Made Me Realise」の(ほぼ)原曲に忠実なカヴァーだ。

しかし彼らは単なるシューゲイザーのフォロワーに留まることはなかった。『demo 01』(2020年11月)『demo 02』(2022年11月)という2作のシングルにおいて、過剰なまでにグリッターな音の壁にトランスやドラムンベース、ブレイクコアのリズム、デジタルグリッチを大幅に導入。リリックにおいても「これはただの夢に違いない / 私から引き離される / エクスタシー」(「mirror spirit」)と、物語を紡ぐというより、言葉の断片をつなぎ合わせることで、おぼろげな画を見せようとしている。「fifty heaven」のミュージック・ヴィデオは、マスクをしたメンバーが夜の街を徘徊する姿とスケートボーディングのシーケンスが絡み合う内容で、甘美なメロディの陰にある不穏さは、新型コロナウィルス禍の世界の鬱屈を反映しているかのようだ。

2022年5月にリリースされたコンピレーション『May Day Music』収録の 「blu.brilliance.v1」 ではオートチューンを導入。(『キングダム ハーツII』北米版主題歌である)宇多田ヒカル「sanctuary」のカヴァーや、マーチャンダイズでのソニックやクロノアの引用など、ゲーム及びゲーム音楽からの影響も隠さない多様な指向は、They Are Gutting A Body Of Water やBlue SmileyといったフィラデルフィアのバンドのほかCoaltar of the deepersや『サイレントヒル2』のサントラに至るまでコンパイルした、フロントマンのベイジーによるSpotifyのプレイリストからも窺い知ることができる。

ともにエレクトロニック・ミュージック・コレクティブ《DX Legacy》のメンバーであるThey Are Gutting ABody Of Waterとはスプリット『EPCOT』を2021年11月に発表。フィラデルフィアと共通するシーンを持つと言われるピッツバーグのfeeble little horseには、デビュー作『HAYDEN』の《SADDLE CREEK》からのリ・リリースにあたりボーナス・トラックとして「Termites」にリミックスを提供し、原曲のBPMをぐっと落として異様なサイケデリアを現出させている(こうしたバンドの繋がりは北米のシューゲイズ・シーンを追った《Stereogum》の論考 「The New Wave Of American Shoegaze」 にも詳しい)。

Full Body 2が興味深いのは、《The Rave Theory》や《Casiodome》といったヴァーチャルフェスでアクティブにミックスを発信し、HexDなどビットクラッシュの手法を用いた音像と親和性を持ちながらも、ストリーミング用のライヴセットで明らかなように、あくまでバンド然としたたたずまいを保っていることだ。

実に横断的に音楽性の拡張を続けるそのスタンスは、コロナ禍の真っ只中で産声をあげたバンドとしてのサバイブの方法であり必然だったのかもしれないが、ともかく、混濁したカラフルなノイズの靄により時空がねじ曲がった感覚を覚える、異形の美と言えるサウンドは、ネット上の匿名的なエレクトロニック・ダンス・ミュージックの海とDIYインディー・ギターのノイズとの境界で漂っている。(駒井憲嗣)

Text By Kenji KomaiThe Notable Artist of 2023


【The Notable Artist of 2023】

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