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【未来は懐かしい】Vol.20
「辺境」を退けるモダンなアフリカン・ディスコの魅力

17 June 2021 | By Yuji Shibasaki

東京を拠点に活動するディスコ・プロデューサーT-GROOVEの監修による、秀逸なアフリカン・ディスコ・コンピレーションが登場した。これまで、レア・グルーヴ視点で編まれたアフロ・ミュージックのコンピレーション・アルバムというと、どうしても「いなたさ」や「ローカル感」にフォーカスしたものが多く見られたわけだが、本作はそうした前例たちとは趣を異にしている。

アフリカ音楽とディスコ、というと、まず思い浮かぶのが、昨年コロナウイルスによって惜しくも逝去したカメルーン出身の大スター、Manu Dibangoであり、彼の大ヒット曲「Soul Makossa」(1972年)だろう。その後のディスコ興隆のルーツとしても重要な同曲は、もともとフランスのローカル・レーベルからリリースされていたものだ(後に大手Atlanticがライセンス発売し、世界的なヒットに結びついた)。当時からフランスには、カメルーンをはじめアフリカからの移民が多く住み、故郷の文化を現地(西欧)文化と習合させた新たな表現が生まれていた。そうしたミュージシャンたちは、当然ヨーロッパのレーベルと契約を結び、当地で録音を行う例が多かった。「ソウル・マコッサ」の誕生も、まさしくそんな流れの象徴的な出来事だったわけだ。

  本作『Love African Soul: T-Groove Presents African Modern Disco 1975-1980』に収められているのも、移民ミュージシャンたちがヨーロッパのローカル・レーベルへ吹き込んだ楽曲が主となる。Manu Dibangoと同じカメルーン出身者も多く、やはりそのほとんどがフランス産のものだ(その理由のひとつに、パリとロンドンを拠点とするアフリカ音楽専門レーベル〈Africa Seven〉のライセンス音源を中心にセレクトされているから、といのもあるだろう)。同時期のアフリカ現地の録音環境に比べると、ヨーロッパのスタジオは設備的なアドバンテージもあり、録音やミックスのクオリティからして、おのずと洗練の度は高くなる。また、音楽的にもヨーロッパのシーンに順応するような「アクのない」ものが多く、かなりストレートに当時のディスコ・ムーヴメントから影響を受けている様子がわかる(使用される原語も英語が主だ)。あるいは逆に、一種の「セルフ・オリエンタリズム」的な戦略というべきか、記号的にアフロ・ミュージック要素を取り入れているような楽曲もある。このあたりの音楽要素の相克ぶりと独特の緊張感こそが、西欧産のアフリカン・ディスコならではの魅力だろう。

……ともあれ、そのような理屈めいたことは脇に置いて、ここに収められた音楽はどれも猛烈にカッコよく、刺激的だ。カメルーン出身のJo Bisso「Love Somebody Part 1」からして、爽快さ全開。チャーミングな歌パートに始まり、ファンキー極まりない後半へ流れ込んでいく怒涛の展開が聴きものだ。イギリスを拠点に活動したバンド、Osibisaのメンバーとしても活動歴のあるナイジェリアのシンガー、Jake Solloによる②「Father Time, Mother Nature」や⑥「My Best Friends Girl」の弾けるようなポップさも良い塩梅。The Monstersの⑧「Funny Saga」のように、本場ユーロ・ディスコ風味とアフロ的要素が融合した曲も面白い。方や、Pasteur Lappeの⑨「More Sekele Movement (Papa Ni Mama)」のように、パーカッシブでミニマルな要素を押し出し、アフリカン・アイデンティティを高らかに知らしめる曲もある。全アーティスト中、最も知名度が高いであろう南アフリカ出身の「ママ・アフリカ」ことMiriam Makebaのレア曲⑮「「Toyota Fantasy」の収録も嬉しい。タイトルから察しがつく通り、1980年頃、アフリカでのみ配布されたトヨタ自動車によるキャンペーン・ソングだという。スターレットとカローラが立ち並ぶジャケット(最高!)は、本コンピレーションのカバーアートにも転用されている。洗練とローカル感が混じり合ったトラックが、トヨタ製品を称賛するリリックと不思議なマッチングを聴かせる。

全編にわたって、極めてバラエティに富んだクオリティの高い曲が並び、ディスコ・ファン/アフリカ音楽ファンにとどまらない幅広いリスナーにおすすめしたい好コンピレーションとなっている。いわゆる「ワールド・ミュージック」系ファンの関心から漏れることで本格的な発掘の遅れてきた「洗練された」(=「非本場産」)アフリカ音楽。こうした素晴らしい音源が今後もどんどんと日の目を見ることを願う。オリエンタリズム的視点に貫かれた「辺境志向」が取りこぼしてきたポップ・ミュージックの多様さに、今こそ耳を傾けるべきだ。(柴崎祐二)

Text By Yuji Shibasaki


Various Artists

『Love African Soul: T-Groove Presents African Modern Disco 1975-1980』



2021年 / AFRICA SEVEN/OCTAVE-LAB


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Tower Records / Amazon / HMV / disk union


柴崎祐二リイシュー連載【未来は懐かしい】
アーカイヴ記事

http://turntokyo.com/?s=BRINGING+THE+PAST+TO+THE+FUTURE&post_type%5B0%5D=reviews&post_type%5B1%5D=features&lang=jp

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