キャメロン・ピクトンがblack midi休止、新プロジェクト始動を経て語る──ただふざけることには興味がない、でもすべての曲にジョークを入れる
2019年、UK/アイルランドのインディー・シーンにうねりが見えはじめていたくらいのころ、ブラック・ミディは突如として姿をあらわした。フライング・ロータスが2014年の『You’re Dead!』以降に追求したミニマム=マキシマムの概念がきみょうに同居する、ノー・ウェイブからアヴァンプログまでを横断するそのアンサンブルは、蠱惑的な引力をもっていた。やがてひとりのメンバーが脱退し(そのマット・クワスニエフスキー=ケルヴィンは今年、この世を去った)、3枚の傑作をのこしてバンドは活動を休止する。その複雑な技巧と修羅場めいた混沌を恋しく思うリスナーは少なくなかった。
しかしメンバーたちは、すでにそれぞれの方角へ活動を進めている。ギタリストのジョーディー・グリープはブラジル音楽の影響を色濃く帯びたフュージョン・ロック作品『The New Sound』を発表。ドラマーのモーガン・シンプソンは、ナラ・シネフロやリトル・シムズなど多くの作品クレジットに名前を刻んでいる。そして最後に、ブラック・ミディではやや控えめなところがあったベーシスト、キャメロン・ピクトンの番がきた。キャメロンは楽器をアコースティック・ギターに持ち替え、マイ・ニュー・バンド・ビリーヴという覚えにくい名前のプロジェクトを立ち上げた。この名前についてキャメロン自身は、ダサいし、直球すぎるし、自意識過剰なのではないかと感じることがあるという。マイ・ニュー・バンド・ビリーヴはライブを重ねながら、プログレッシブ・ロックとフュージョンの迫力にフォークの音響をかけあわせた2枚のシングル「Lecture 25」と「Numerology」を発表し、リスナーの耳をまずざわめかせた。
だがデビュー・アルバム『My New Band Believe』は、その2曲(いずれも本作には収録されていない)とは異なる話法で表現をおこなっている。もっとメロディアスで、小さな声の積み重ねが大きな物語のダイナミズムを生むような音楽。ブラック・ミディへの語りにおいてまだ照らされていなかった要素に光を当て、それを高倍率のレンズで拡大するようなアルバムである。今回のインタビューでは、現在のフォークへの視座、ロンドンという都市から受けとるもの、そしてリリシズムにおけるユーモアについて、キャメロン・ピクトンに話を聞いた。読みながら、かれの新しいバンド、マイ・ニュー・バンド・ビリーヴの音楽に聴覚を凝らしてほしい。
(質問作成・文/髙橋翔哉 通訳/青木絵美)
Interview with My New Band Believe (Cameron Picton)
──先立ってアルバム未収録の2曲のシングル「Lecture 25」と「Numerology」がリリースされていましたね。これによって日本でも、マイ・ニュー・バンド・ビリーヴへのリスナーの期待はとても高まりました。アルバムはこの2曲とは雰囲気が異なっていて、どちらかというとアルバムのほうが表現欲の根源に近い感じがします。シングルからアルバムを出すなかで、どんなストーリーを作ろうとしていましたか?
Cameron Picton(以下、C):シングルは、アルバムとは少し違う方向性で録音していて、もう少しせわしないというかよりロック的な楽曲だった。今回のアルバムはそもそもロックのアルバムにしないという一つのアイデアがあったから、「Numerology」はアルバムと同じ時期に書いた曲だけど、アルバムに入れることは考えていなかった。実際に録音したのもアルバムを完成させたあとだったんだ。でもかなり良い曲に仕上がったから、そのままハードドライブに置いておくよりは、リードシングルとして出したほうがいいと思ったんだ。タイミング的にもインパクトがあるからね。アルバム自体は、個別のシングルを切り出すというよりは、36分間の一つの長い作品として聴いたときにより良く機能するものだと思っている。
──「Numerology」は、日本から松丸契さんがサックスで参加していますね。彼は日本でも多くのジャンルにまたがって活動しているミュージシャンです。松丸さんがセッションに参加することになった経緯を教えていただけますか?
C:彼のほうから「ロンドンに行くんだけど、会わない?」って感じで連絡をくれたんだ。もともとDos Monosでの活動や、UKツアーで一緒に回ったこともあって知り合いだったしね。それで会うことになって、ちょうどそのときスタジオに入る予定もあった。で、僕とSeth Evansで、「Numerology」のセクションにはソロみたいなものが必要だよねって話していて、じゃあ彼にやってもらおうという流れになった。実際に一緒に作業したのは1時間くらいで、そのあと僕は帰らなきゃいけなかったんだけど、彼はSethとパブに行って、そのまま夜まで遊んでいたみたい。だから、久しぶりに会ってみんなで一緒にいたという感じだね。
──ブラック・ミディでも、「Diamond Stuff」や「Still」といったあなたがフロントに立つ楽曲には、アコースティックな響きを活かした作品がありました。フォークに目覚めたのはいつごろのことですか?
C:ティーンエイジャーのころにエレクトリックギターを学んで、そういうギターのために書かれた音楽を弾くようになったんだけど……ただ、バート・ヤンシュ(Bert Jansch)やジョン・レンボーン(John Renbourn)がやっていた音楽のスタイルとか、あのギターの弾き方に触れたときのほうが、エレクトリックギターよりもずっと刺激的に感じられたんだと思う。
──マイ・ニュー・バンド・ビリーヴは高度な演奏技術をもつグループという印象が強いですが、その一方であなたは、飾り気のない美しいメロディも大切にしていると思います。テクニカルな能力や技巧がこれほど重要な音楽で、すぐれたメロディを届けるために必要なものは何だと思いますか?
C:今作の曲を書いているときに、自分のなかで満たしたい基準が3つくらいあった。そのうちの一つは、ギターのパートを、弾いていても聴いていても面白いものにすること。それと同時に、バンドが担ういろいろな役割、リズムとか独立したベースラインとかハーモニーとかをできるだけカバーすること。ただ単にコードをストロークするだけ、という感じにはしたくなかった。それから、毎回違う解釈ができて、自分でも飽きないと思える歌詞にしたいし、メロディも予想外の方向に進んでいくものにしたかった。レコーディングではむしろシンプルな形にしておくことで、ライブではそのメロディをもっと発展させたり探ったりする自由が生まれると思っている。
──フォークというジャンルには近年、USのミュージシャンを中心に、アンビエント的な質感をもつアーティストも増えていますよね。マイ・ニュー・バンド・ビリーヴはむしろその逆で、パーカッシブなギターやサウンドデザインの複雑さが魅力だと思います。あなたはソングライターとしてはもちろん、プレイヤーとしても非常に個性的だと思います。プレイヤー、ボーカリストとして、自分自身の強みはどこにあると思っていますか?
C:北米のそういう例と違って聴こえるというのは、まさに自分がやろうとしていたことだから、そう言ってもらえるのは嬉しいよ。2022年から2023年くらいにかけて、そのジャンルの音楽でよく耳にするようなサウンドや歌詞の傾向があって、それに対してあまり魅力を感じなかったし、違うことをやりたかった。みんながやっているやり方をなぞるんじゃなくて、この手の音楽の別の可能性を提示したかったんだ。実際、このレコードを作り始めてから、USでもシンガーソングライターやフォーク寄りの作品で、同じようにそれまでの流れを拒否するような良い作品がいくつか出てきたと思う。僕はミュージシャンとしては、つねにメロディックなものを弾こうとしているし、そういうところが自分の特徴なのかもしれない。どの曲であっても、その曲にとって一番いい形で貢献することを考えているけど、やっぱり自分はメロディのあるラインを弾くのが好きなんだと思う。
──「Actress」という曲で歌われている、鬱と創造性のせめぎ合いというのは、現代における避けがたい課題の一つだと思います。実際にあなた自身、創作とメンタルヘルスのあいだに葛藤を感じることはありましたか? また、そうした場面にどのように向き合い解決してきましたか?
C:この曲で書こうとしていたのは、いわば多くのひとが経験したり、友人をとおして目にしたりするような、かなり普遍的なことなんだ。何か夢や目標について話しつづけたりすることってよくあるけど、いざそこにたどり着きそうになると、「いや、やっぱり違うかもしれない」と思うことがある。周りからみても理由がわからないし、本人にもわかっていないこともある。それってほとんど神秘的ともいえるようなことで、自分がほんとうに望んでいたものに近づいているのに、それを自分で手放してしまうんだ。ティモシー・シャラメがアカデミー賞を狙っていて、それを自分で台無しにしてしまうみたいな感じだね。
──あなたの歌詞は、不安や恐怖の一側面だけでなくその裏側をも鮮やかに捉えているものだと指摘されています。そうした歌詞の書き方に影響を与えた小説などはありますか? また、音楽においてもっとも好きなリリシストは誰ですか?
C:過去の例として参照しながらアップデートしようとしていたのはジュディ・シル。彼女の歌詞って、かなりユーモラスな部分がある一方で、そこからより深い部分に入っていく感じがある。彼女は宗教的なテーマを扱うことが多くて、それは僕の関心とは少し違うんだけど、ソングライターとしての歌詞は好きだね。あとはジョニ・ミッチェルみたいに、ユーモアがあって少し茶目っ気のある歌詞なんだけど、あるラインがジョークだったとしても次でそれが急にシリアスになったり、逆にシリアルなラインが次でジョークになる、みたいな感覚も好きなんだ。
文学的な影響でいうと、80年代のニューヨークやロサンゼルスの「New Narrative」と呼ばれる作家たちにかなり影響を受けているし、興味もある。「Lecture 25」のシングルから気づくひともいるかもしれないけどデニス・クーパー、それからゲイリー・インディアナ、ロバート・グリュック、アイリーン・マイルズ、ケヴィン・キリアンとか、そういう作家たちだね。これらは僕が、表面的にではなくちゃんと深く読んできた数少ない文学的なムーブメントの一つだと思う。
──「Opposite Teacher」という楽曲タイトルは、Dos Monosの没さんに教えてもらった日本語(=反面教師)からきているそうですね。没さんはアンダーグラウンドのラップ・ミュージックに精通していますが、あなた自身もアンダーグラウンドのラップに関心はありますか?
C:もちろん。大きな流れとして、面白い音楽が水面下で生まれていて、そのなかのいくつかが表に出てきて成功するみたいな動きがあると思う。正直にいうと、自分がティーンエイジャーだったころにプレイボイ・カーティが出てきて、「これは新しい音楽だ」と思ったのを覚えている。それ以前にもいろいろあったと思うけど、自分はまだ少し若かったからね。そういう意味でずっと興味はあったよ。僕自身も楽器を手にしていない状態でも音楽をやってみたかったから、ブラック・ミディでツアーしていたときも、車のなかで一緒にビートを作ったりしていたんだ。
Dos Monosの最初のアルバムは好きだったし、没がいまいろいろなアーティストとやっている活動もすごくいい。コラボレーション的なやり方というか、「とりあえず一緒に曲を作ってみよう」みたいな姿勢は、自分たちのバンドとも少し似ていると思うしね。それに、自分で映像を作っているのもいいと思う。彼のビデオはどれも素晴らしいし、そういう精神性が好きなんだ。
──日本盤ボーナス・トラックには「Miracle of Flight」が収録されていますが、Horse Hospitalなどでのライブ映像を観ると、そのほかにも収録されていない曲がたくさんありますね。一人のリスナーとしてはそれらもぜひ音源で聴いてみたいですが、それらを今後リリースしたり、次のアルバムのアイデアになったりしそうですか?
C:ライブで演奏している曲は、基本的にぜんぶ新曲なんだ。一つだけアルバムの時期に書いた曲もあるけど、そのときはあまり良いと思わなくて録音しなかった。でもちゃんとバンドとしてやる段階になったときに、「とりあえずこれもやってみようか」と思って試してみたんだ。だから、いまやっている曲はぜんぶ新しいものだし、できれば近いうちにスタジオに入って録音する時間と機会を得られたらいいな。
──今回のアルバムには、ことなる背景のさまざまなジャンルの要素が含まれていますね。しかも一曲のなかでジャンルが変わっていくことすらある(笑)。それはきっと、複数の人種と歴史が交差するロンドンという都市に生きるあなただから作りえた音楽だと思うのですが……ロンドンの特異性や、そこに暮らすことで得られるもの、音楽活動に役立つことを感じることはありますか?
C:ロンドンでは、ただ歩いているだけで簡単にまったく違う環境に入りこめる。左に曲がるだけで、まるで別の場所にきたような感覚になることがあるんだ。古い街でもあるし、多くの場合は古いものの上に新しいものが積み重なっている。たとえばシティ・オブ・ロンドンを歩いていると、モルガン・スタンレーの新しいオフィスビルのすぐ足元に、西暦1世紀に作られたローマ時代の壁が残っていたりする。そんなふうにいろいろなものが重なり合って存在するし、火災によってできた境界がいまでも街のなかで意味をもっていたりする。ロンドン大火も、いまでも一つの重要な境界として意識されているしね。
そういうことを音楽に反映しようとしているわけではないけど、環境が切り替わることには慣れていると思うし、今回のアルバムでは意識的に、その切り替わりを曲のなかで感じられるようにしたかった。物理的に環境が変わるような感覚というか。たとえば「Target Practice」の最初のコーラスは、コントロールされたスタジオ録音で、タイトにダブルトラッキングされたギターとか、すべてがしっかり整えられている。でもそこから、友達の寝室で録ったかなりラフなスマホ録音の、自分の歌だけのパートに切り替わる。それからさらにストリングカルテットに移っていくみたいな感じで。特にあの曲では、それぞれのセクションごとに場所や時間、ムードがまったく違うものとして感じられるようにすることを意識したと思う。
──ユーモアについて。ブラック・ミディはユーモラスなバンドでしたが、今回の資料や過去のインタビューを読んでいて、あなた自身がとてもユーモラスだということを確信しました。ただ、ファンはあなたの音楽をもう少しシリアスに受け取っているようにも見えます。一般的に、価値観や思想の異なる相手にはユーモアが通じにくい時代になっていると感じますが、そういうユーモアに関することについてはどう考えますか?
C:できるだけどの曲にも、一つはユーモラスなラインを入れるようにしているんだ。さっき言ったように、シリアスなラインのあとにユーモラスなラインが続いたり、その逆だったりするのが好きなんだ。でも、ふざけたり、ただ滑稽であろうとすることにはあまり興味がない。たとえばプレスリリースとして出した「Numerological Analysic」にもたしかにユーモアやジョークは含まれているけど、ああいう形にするちゃんとした理由があった。いろいろな情報を簡潔にまとめて結びつけるには、あのやり方しかなかったというか。もちろん音楽や曲そのものは真剣に捉えているけど、できるだけ楽しさも持たせたいし、何かシリアスなことを扱うならそれを釣り合わせる軽さも必要と思っている。それは単にバランスをとるためだけじゃなくて、対比によってそれぞれをより強く際立たせるためでもあると思う。
アルバム未収録のシングル。「One Night」の姉妹曲で、アルバムに同梱されるボーナス10インチ盤では「Numerology(One Night)」というタイトルになっている。アルバム本編とはまったく異なるメンバーで録音されたが、「Lecture 25」と同じベーシスト(ジョシュ・フィナーティ)とドラマー(キング・デイヴィッド・アイク=エレチ)を起用している。実際にはほとんど聴いたことがないのに、ジャージー・クラブ/ハウスを演奏しているバンドのようなサウンドを目指したもの。また同時に、118弦ギター1本の音でもある。(My New Band Believe 曲解説より)
──2022年の《Rate Your Music》でのインタビューで、チャーリーxcxの『Pop 2』や『CRASH』に言及していて意外でした。彼女はその後さらに大きなステージへ進みましたが、いまの彼女の立ち位置や音楽をどのように捉えていますか?
C:彼女のなかでは『Pop 2』が一番好きだと思う。特に「Track 10」はいいよね。『CRASH』はそこまで好きじゃないんだけど(笑)、サイン入りCDを持っているんだ。もちろん好きな曲はいくつかあるけど、やっぱり『Pop 2』が一番好きだね。『BRAT』は良かったし、リリースされたときはかなり楽しみにしていた。というのも、あれは彼女の音楽のなかで一番面白い部分に、完全に振り切っている感じがしたから。自分みたいなリスナーがずっと感じていた「彼女の何が一番エキサイティングなのか」という部分にしっかり踏み込んでいるというか。彼女ってほんとうに面白いアーティストだと思う。
いろんなひとと一緒にやってみて、その瞬間ごとにしっかりコミットするみたいな姿勢というか、あまり細かくしすぎないところも興味深いよね。『Pop 2』の前の『Number 1 Angel』はほぼ1週間くらいで作られていて、ひとがどんどんスタジオに出入りしてそのまま曲を作っている。サウンドもかなりラフで未完成だけどそこが魅力的だと思うし、ソングライティングもかなり即興的でその場で生まれている。フィーチャリングもとにかくそのとき呼べるひとをどんどん呼んで、たとえばcupcakKeを呼んだり、みたいなやり方で作っていく。その制作スタイル自体がエキサイティングで、ポップとしての完成度は高いけど、その裏にある姿勢が自由で「とりあえずやってみよう」という感じがあるんだよね。それって自分がいまやろうとしていることにも似ているんだよね。
<了>
Text By Shoya Takahashi
Interpretation By Emi Aoki
My New Band Believe
『My New Band Believe』
LABEL : BEAT RECORDS / Routh Trade
RELEASE DATE : 2026.4.10
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「ザッパのまあまあな作品群をなんとか聴くことができれば、彼の最高傑作を聴いたときに真の価値がわかると思う」
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【REVIEW】
black midi『Schlagenheim』
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