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映画『PLASTIC』
幻のロック・バンドの曲に彩られた
コロナ時代のボーイ・ミーツ・ガール

22 July 2023 | By Yasuo Murao

70年代に日本から現れて、サイケデリックでスペイシーなロックンロールで海外で高い評価を得たバンド、エクスネ・ケディ。しかし、彼らは忽然と姿を消して忘れ去られてしまう。そんな幻のバンドに再び脚光を当てたのが、井手健介と母船のアルバム『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists』(2020年)だった。デヴィッド・ボウイが生み出したジギー・スターダストのようにエクスネ・ケディは井出が生み出した架空の存在、と説明するのもヤボだろう。グラマラスなファンタジーで退屈な現実を弄ぶのがロックの楽しさなのだから。そして、『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists』にインスパイアされて一本の映画が生まれた。『PLASTIC』はエクスネ・ケディが消えてから半世紀後、名古屋で出会った2人の若者の物語だ。

2018年.名古屋の高校に通うイブキは、大好きなエクスネ・ケディの曲「イエデン」をiPodで聴きながら自転車を飛ばしていた。そこにシンクロするように聴こえてきた別の「イエデン」。目の前には路上でギターを弾く青年、ジュンがいた。東京から名古屋に引っ越して来たジュンもまたエクスネ・ケディが大好きで、ミュージシャンになることを夢見ていた。2人はエクスネ・ケディの歌に引き寄せられるようにして出会う。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

本作の脚本・監督を務めたのは、『大和(カリフォルニア)』(2016年)、『TOURISM』(2017年)、『VIDEOPHOBIA』(2019年)を通じて、海外の映画祭やメディアで高い評価を得てきた宮崎大祐。ジュン役に藤江琢磨、イブキ役に小川あんと注目の若手を主役に配する一方で、小泉今日子、鈴木慶一、とよた真帆、尾野真千子など個性的な顔ぶれが脇を固める。お互いにエクスネ・ケディのファンだということを知って、喫茶店で何時間も話し込むジュンとイブキ。ジュンが転校したのがイブキの通う学校だったこともあり、急接近した2人の間に恋心が芽生えていく。これまで宮崎の作品を観てきた者なら、この学園ドラマのような展開に驚かされるだろう。

でも、そんななかに印象的なイメージが挟み込まれるのが宮崎らしいところ。例えば、2人が出会う場所に佇む廃屋。あるいは、ジュンがイブキとラインでやり取りしているシーンで映し出される蔦が絡まった巨大な高架の廃墟。キラキラしたラヴストーリーの舞台としては風変わりで、まるで人類が滅びた地球に、恋人たちの幽霊が漂っているようだ。これまでも宮崎は郊外を異世界のように描いてきたが、本作でもロケーションにこだわって独自の世界を作り上げている。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

そして、宮崎監督らしさがさらに滲み出てくるのが映画の後半だ。ジュンとイブキが初めてキスをした後、まるで針飛びをしたように時間が飛んで、次のシーンではすっかり関係が冷え切った2人の姿が描かれる。ジュンは音楽の夢を捨てきれず、高校を中退。そんな子供っぽいジュンに愛想が尽きたイブキは東京の大学へ進学する。そして、才能があるのに埋もれていくジュンと、東京でアカ抜けてDJと同棲をするようになるイブキの生活が平行して描かれていく。

2人が恋に落ちる前半の夢見心地のスウィートさに対して、後半はリアルでビター。映画のタッチは大きく変化するが、物語が針飛びした時に世の中で起こっているのがパンデミックだ。映画に登場する人物のマスク姿がそれを物語っている。パンデミックで世界が大きな変化を迎える頃、イブキは急速に大人になり、ジュンは大人になりきれずに取り残されて、ソーシャル・ディスタンスのように2人の間に溝が生まれる。本作にはパンデミック期に宮崎が感じたことが反映されているしく、映画の後半、ジュンやイブキが感じているぼんやりした孤独や不安はパンデミックの日々を思い出させる。ガルシア・マルケスの小説「コレラ時代の愛」をもじるなら、本作は「コロナ時代のボーイ・ミーツ・ガール」だ。そんななか、地理的にも精神的にも離ればなれになった2人を結びつける最後の絆がエクスネ・ケディの歌だ。2人は偶然、エクスネ・ケディが再結成ライヴを行うことを知って心が揺れ動く。

宮崎は『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists』が大好きで、本作の企画を立ち上げた。そして、歌詞の内容や曲調を吟味して、井出と相談しながら使用する曲を決めたという。劇中歌として、ラジオから流れている曲として、登場人物が口ずさむ歌として、様々な形でエクスネ・ケディの曲が映画に登場する。なかでも印象的なのは、イブキとジュンが深夜のドライヴをしている時、山中で突然現れた謎のバンドが歌う「ぼくの灯台」だ。それが現実なのか幻覚なのかわからない曖昧さは、エクスネ・ケディというバンドの在り方に通じるところがある。

また本作は、DJ BAKU、NORIKIYO、GEZANなど様々なアーティストの曲を使用して音楽にこだわってきた宮崎が、初めてロックを題材にした映画という点でも興味深い。劇中にはジュンとイブキが友人たちと部室で「ロックごっこ」をする微笑ましいシーンがある。彼らはデヴィッド・ボウイやT・レックスのレコードのジャケットのコスプレをするが、グラム・ロックはエクスネ・ケディのサウンドのエッセンスであり、宮崎もグラム・ロックが大好きだという。エクスネ・ケディの音楽に耳を澄ましているジュンとイブキの姿を見ていると、ボウイの「スターマン」を思い出さずにはいられない。スターマンは空から音楽を発信して子供たちを踊らせるが、本作のエクスネ・ケディはスターマン的存在だ。まるで空の上にいるように最後まで姿を見せず、ジュンとイブキは彼らの音楽を受信して無邪気に踊る。また、本作のサントラを担当したのは、本作のために井手が結成したPLASTIC KEDY BAND(もちろん、元ネタはPLASTIC ONO BAND)。エクスネ・ケディの作品に関わっているサウンド・プロデューサーの石原洋、エンジニアの中村宗一郎も映画に参加していて音響も素晴らしく、ギターの響かせ方ひとつにもこだわりを感じさせた。

©2023 Nagoya University of Arts and Sciences

違う人生を歩んでいたジュンとイブキが、それぞれエクスネ・ケディの再結成ライヴに向かうのが本作のクライマックスだ。果たして2人は再会できるのか。そして、パンデミックで自粛していたライヴが再開し、再び街に音楽が流れ始めた時に2人は、私たちは以前と同じように音楽を聴くことができるのか。人生が移ろいゆくなか、かつて胸を時ときめかせた音楽を再び受信できるのかと、映画が様々な問いを投げかけているようでもある。

そういえば、本作の公開直前、エクスネ・ケディのライヴを東京で見た。目の前で女の子がうっとりとした表情を浮かべて踊っていて、間違いなく彼女の眼差しの先にエクスネ・ケディは実在した。一枚のアルバムから生まれた映画。まるで妄想の合わせ鏡のような本作は、そこにパンデミックの記憶を刻み込むことでファンタジーとリアルの境界を漂っている。まるでエクスネ・ケディの音楽のように魅力的な曖昧さで観る者を眩惑しながら。(村尾泰郎)

Text By Yasuo Murao


『PLASTIC』

7月14日(金)より名古屋・伏見ミリオン座にて先行公開、
21(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

監督・脚本 : 宮崎大祐
製作 : 名古屋学芸大学
出演 : 小川あん、藤江琢磨、中原ナナ、辻野花、佃典彦、尾野真千子、とよた真帆、鈴木慶一、小泉今日子ほか
配給 : boid、コピアポア・フィルム
記事内画像 : ©2023 Nagoya University of Arts and Sciences
公式サイト


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井手健介と母船 『Contact From Exne Kedy And The Poltergeists(エクスネ・ケディと騒がしい幽霊からのコンタクト)』
http://turntokyo.com/reviews/contact-from-exne-kedy-and-the-poltergeists/


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